75 / 156
離縁してあげますわ!
【21】
しおりを挟む
やっと決心がついた。
殿下のこと?ううん、彼のことは二の次。
今のところわたしのこれからについて。
実はハンクスの屋敷を買うことにした。
ハンクスからは離縁の時に屋敷を譲ると言われていた。もともと彼はあまり屋敷に帰ってきていなくてほとんどわたしが住んでいるような状態が続いていた。
ハンクスはわたしと顔を合わせないようにしていた。もちろんわたしも彼とはすれ違うことを望んでいた。
顔を合わせても会話すらなかったし。
離縁の時は寮もあるしハンクスにとっても屋敷がなくなるのは困るだろうからと断っていた。
だけど、三年も住んでしまうと寮は借りてはいてもあそこが我が家みたいなものだった。三人は使用人だけどわたしにとっては本当の家族のようなものだった。
離れてみて今回特にそう感じてしまった。
実はハンクスが捕まって少しして彼から手紙が届いていた。
あの屋敷をわたしに譲ると。
だけど一度は断ったし、ハンクス自身ももう公爵家で働くことはできなくなる。
少しだけ田舎のほうに領地はあるとはいえ、子爵の地位もこのままではどうなるかわからない。
両親と共に領地で贅沢さえしなければ暮らしていけるとは思う。だけどこの王都にある小さいとは言え屋敷は贅沢で維持にもお金がかかるので手放すことになる。
だったらわたしが買おう。貰うのではなくて。
そう思った。そうすれば三人をそのまま雇うこともできる。
だからギャザからの手紙が来た時、顔を出しに行くことにした。
もちろんわたし自身がギャザやスレンに対して恐怖を感じたなら、屋敷は買ってもあそこには住まないつもりでいた。
そのまま寮暮らしをして、寮で仕事をするのもいいかもなんて思っていた。
もちろん打ち合わせなどで王城へも出勤することもあるけど、まだ心が落ち着くまでは寮での仕事の許可は下りていた。
これは殿下の力添えもあるけど、今まで頑張ってきたわたし自身の信用でもある。それでも怖くて外に出られない日々が続き、辞めようかとも何度も思った。
そんなマイナスの気持ちが全て前向きになったのはやっぱり三人がわたしを迎え入れてくれたから。そして、寮のおばちゃんやみんながわたしを見守ってくれたから。
なかなかハンクスとは会えない。まだ取り調べが続いているらしい。だけどハンクス自身が罪を犯していないことは証明された、よかった。
今は牢ではなく、人と接触できないように、別の個室にいて外部との接触は遮断されているらしい。
一応手紙を書けばハンクスに手渡してはもらえる。ただし検閲をしてからなので返事が返ってくるのも遅くなってしまう。
それでも何度かのやり取りでわたしが屋敷を買うことの了承を得た。
彼もこれから仕事が領地運営になるので少しでも手元にお金は残しておいたほうがいい。
わたしもハンクスと結婚していたおかげで給料のほとんどが貯蓄に回っていたので、それなりに大金を持っていた。
仕事が趣味だったおかげでお金に苦労しなくて済んでよかった。
実家の男爵家に帰る予定は全くない。特に仲が悪いわけではない。
ただ、一度嫁に行った娘が帰る場所はないだけ。兄は嫁をもらい子供も生まれ、わたしがいる場所はない。
わたしの部屋はもう子供部屋になっているし、客間に居座るのも嫌だし、肩身の狭い思いをしながら暮らすのだけは嫌だった。
取り調べも終わり公爵家を辞めてハンクスが領地へと向かう。
わたしは久しぶりに彼に会った。
「ハンクス……あのときは助けてくれてありがとう」
「いや、すぐに助けられなくてすまなかった。
………ずっと謝らなければいけないと思っていたのに……顔を見たらつい癖で目を逸らしてしまう……」
かなり窶れて体もかなり細いし顔色も悪い。
「ハンクス、しっかりしなさい!あなたはいつも輝いていたわ。わたしはそんなあなたを好きだった、憧れていたの。まぁ最後の方は女癖が悪いし浮気はするし、最悪だったけど……でもそれは仕方がなかったのかもしれないわ。わたしに魅力がなかったのだもの」
「違う……俺が弱かったんだ。君を騙して結婚した………最初のうちは公爵に頼まれて君と結婚して自分勝手な俺は達成感に満足していた。
でも真面目で……頑張り屋で….屋敷でもギャザ達に慕われて、騙している俺は……気持ちが耐えられなくなったんだ。公爵にはいろいろ情報を聞き出せと言われた……でも君は口が固いし俺自身もだんだん嫌になって……それならいっそ君に嫌われたほうがいいと思ったんだ。
そうすれば公爵も諦めるし、君への罪悪感も減る……俺は目の前のことから逃げて……ずるい奴だった」
「だから浮気?……最低ね」
「自分でもそう思う……」
ーーもう離縁しているから今更責めても仕方ない……
「次に愛した人には真剣に向き合って……」
「……そうだな…」
「もう会うことはないと思う」
「いろいろすまなかった……そしてギャザ達をよろしく頼む……」
ハンクスはそして乗合馬車に乗り領地へと向かった。
とても小さな領地。領民と共に汗水流さなければやってはいけない、そんな場所。
初めて愛した人。だから幸せになってほしい。
殿下のこと?ううん、彼のことは二の次。
今のところわたしのこれからについて。
実はハンクスの屋敷を買うことにした。
ハンクスからは離縁の時に屋敷を譲ると言われていた。もともと彼はあまり屋敷に帰ってきていなくてほとんどわたしが住んでいるような状態が続いていた。
ハンクスはわたしと顔を合わせないようにしていた。もちろんわたしも彼とはすれ違うことを望んでいた。
顔を合わせても会話すらなかったし。
離縁の時は寮もあるしハンクスにとっても屋敷がなくなるのは困るだろうからと断っていた。
だけど、三年も住んでしまうと寮は借りてはいてもあそこが我が家みたいなものだった。三人は使用人だけどわたしにとっては本当の家族のようなものだった。
離れてみて今回特にそう感じてしまった。
実はハンクスが捕まって少しして彼から手紙が届いていた。
あの屋敷をわたしに譲ると。
だけど一度は断ったし、ハンクス自身ももう公爵家で働くことはできなくなる。
少しだけ田舎のほうに領地はあるとはいえ、子爵の地位もこのままではどうなるかわからない。
両親と共に領地で贅沢さえしなければ暮らしていけるとは思う。だけどこの王都にある小さいとは言え屋敷は贅沢で維持にもお金がかかるので手放すことになる。
だったらわたしが買おう。貰うのではなくて。
そう思った。そうすれば三人をそのまま雇うこともできる。
だからギャザからの手紙が来た時、顔を出しに行くことにした。
もちろんわたし自身がギャザやスレンに対して恐怖を感じたなら、屋敷は買ってもあそこには住まないつもりでいた。
そのまま寮暮らしをして、寮で仕事をするのもいいかもなんて思っていた。
もちろん打ち合わせなどで王城へも出勤することもあるけど、まだ心が落ち着くまでは寮での仕事の許可は下りていた。
これは殿下の力添えもあるけど、今まで頑張ってきたわたし自身の信用でもある。それでも怖くて外に出られない日々が続き、辞めようかとも何度も思った。
そんなマイナスの気持ちが全て前向きになったのはやっぱり三人がわたしを迎え入れてくれたから。そして、寮のおばちゃんやみんながわたしを見守ってくれたから。
なかなかハンクスとは会えない。まだ取り調べが続いているらしい。だけどハンクス自身が罪を犯していないことは証明された、よかった。
今は牢ではなく、人と接触できないように、別の個室にいて外部との接触は遮断されているらしい。
一応手紙を書けばハンクスに手渡してはもらえる。ただし検閲をしてからなので返事が返ってくるのも遅くなってしまう。
それでも何度かのやり取りでわたしが屋敷を買うことの了承を得た。
彼もこれから仕事が領地運営になるので少しでも手元にお金は残しておいたほうがいい。
わたしもハンクスと結婚していたおかげで給料のほとんどが貯蓄に回っていたので、それなりに大金を持っていた。
仕事が趣味だったおかげでお金に苦労しなくて済んでよかった。
実家の男爵家に帰る予定は全くない。特に仲が悪いわけではない。
ただ、一度嫁に行った娘が帰る場所はないだけ。兄は嫁をもらい子供も生まれ、わたしがいる場所はない。
わたしの部屋はもう子供部屋になっているし、客間に居座るのも嫌だし、肩身の狭い思いをしながら暮らすのだけは嫌だった。
取り調べも終わり公爵家を辞めてハンクスが領地へと向かう。
わたしは久しぶりに彼に会った。
「ハンクス……あのときは助けてくれてありがとう」
「いや、すぐに助けられなくてすまなかった。
………ずっと謝らなければいけないと思っていたのに……顔を見たらつい癖で目を逸らしてしまう……」
かなり窶れて体もかなり細いし顔色も悪い。
「ハンクス、しっかりしなさい!あなたはいつも輝いていたわ。わたしはそんなあなたを好きだった、憧れていたの。まぁ最後の方は女癖が悪いし浮気はするし、最悪だったけど……でもそれは仕方がなかったのかもしれないわ。わたしに魅力がなかったのだもの」
「違う……俺が弱かったんだ。君を騙して結婚した………最初のうちは公爵に頼まれて君と結婚して自分勝手な俺は達成感に満足していた。
でも真面目で……頑張り屋で….屋敷でもギャザ達に慕われて、騙している俺は……気持ちが耐えられなくなったんだ。公爵にはいろいろ情報を聞き出せと言われた……でも君は口が固いし俺自身もだんだん嫌になって……それならいっそ君に嫌われたほうがいいと思ったんだ。
そうすれば公爵も諦めるし、君への罪悪感も減る……俺は目の前のことから逃げて……ずるい奴だった」
「だから浮気?……最低ね」
「自分でもそう思う……」
ーーもう離縁しているから今更責めても仕方ない……
「次に愛した人には真剣に向き合って……」
「……そうだな…」
「もう会うことはないと思う」
「いろいろすまなかった……そしてギャザ達をよろしく頼む……」
ハンクスはそして乗合馬車に乗り領地へと向かった。
とても小さな領地。領民と共に汗水流さなければやってはいけない、そんな場所。
初めて愛した人。だから幸せになってほしい。
1,114
お気に入りに追加
2,631
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約破棄のその先は
フジ
恋愛
好きで好きでたまらなかった人と婚約した。その人と釣り合うために勉強も社交界も頑張った。
でも、それももう限界。その人には私より大切な幼馴染がいるから。
ごめんなさい、一緒に湖にいこうって約束したのに。もうマリー様と3人で過ごすのは辛いの。
ごめんなさい、まだ貴方に借りた本が読めてないの。だってマリー様が好きだから貸してくれたのよね。
私はマリー様の友人以外で貴方に必要とされているのかしら?
貴方と会うときは必ずマリー様ともご一緒。マリー様は好きよ?でも、2人の時間はどこにあるの?それは我が儘って貴方は言うけど…
もう疲れたわ。ごめんなさい。
完結しました
ありがとうございます!
※番外編を少しずつ書いていきます。その人にまつわるエピソードなので長さが統一されていません。もし、この人の過去が気になる!というのがありましたら、感想にお書きください!なるべくその人の話を中心にかかせていただきます!
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木あかり
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる