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離縁してあげますわ!
【21】
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やっと決心がついた。
殿下のこと?ううん、彼のことは二の次。
今のところわたしのこれからについて。
実はハンクスの屋敷を買うことにした。
ハンクスからは離縁の時に屋敷を譲ると言われていた。もともと彼はあまり屋敷に帰ってきていなくてほとんどわたしが住んでいるような状態が続いていた。
ハンクスはわたしと顔を合わせないようにしていた。もちろんわたしも彼とはすれ違うことを望んでいた。
顔を合わせても会話すらなかったし。
離縁の時は寮もあるしハンクスにとっても屋敷がなくなるのは困るだろうからと断っていた。
だけど、三年も住んでしまうと寮は借りてはいてもあそこが我が家みたいなものだった。三人は使用人だけどわたしにとっては本当の家族のようなものだった。
離れてみて今回特にそう感じてしまった。
実はハンクスが捕まって少しして彼から手紙が届いていた。
あの屋敷をわたしに譲ると。
だけど一度は断ったし、ハンクス自身ももう公爵家で働くことはできなくなる。
少しだけ田舎のほうに領地はあるとはいえ、子爵の地位もこのままではどうなるかわからない。
両親と共に領地で贅沢さえしなければ暮らしていけるとは思う。だけどこの王都にある小さいとは言え屋敷は贅沢で維持にもお金がかかるので手放すことになる。
だったらわたしが買おう。貰うのではなくて。
そう思った。そうすれば三人をそのまま雇うこともできる。
だからギャザからの手紙が来た時、顔を出しに行くことにした。
もちろんわたし自身がギャザやスレンに対して恐怖を感じたなら、屋敷は買ってもあそこには住まないつもりでいた。
そのまま寮暮らしをして、寮で仕事をするのもいいかもなんて思っていた。
もちろん打ち合わせなどで王城へも出勤することもあるけど、まだ心が落ち着くまでは寮での仕事の許可は下りていた。
これは殿下の力添えもあるけど、今まで頑張ってきたわたし自身の信用でもある。それでも怖くて外に出られない日々が続き、辞めようかとも何度も思った。
そんなマイナスの気持ちが全て前向きになったのはやっぱり三人がわたしを迎え入れてくれたから。そして、寮のおばちゃんやみんながわたしを見守ってくれたから。
なかなかハンクスとは会えない。まだ取り調べが続いているらしい。だけどハンクス自身が罪を犯していないことは証明された、よかった。
今は牢ではなく、人と接触できないように、別の個室にいて外部との接触は遮断されているらしい。
一応手紙を書けばハンクスに手渡してはもらえる。ただし検閲をしてからなので返事が返ってくるのも遅くなってしまう。
それでも何度かのやり取りでわたしが屋敷を買うことの了承を得た。
彼もこれから仕事が領地運営になるので少しでも手元にお金は残しておいたほうがいい。
わたしもハンクスと結婚していたおかげで給料のほとんどが貯蓄に回っていたので、それなりに大金を持っていた。
仕事が趣味だったおかげでお金に苦労しなくて済んでよかった。
実家の男爵家に帰る予定は全くない。特に仲が悪いわけではない。
ただ、一度嫁に行った娘が帰る場所はないだけ。兄は嫁をもらい子供も生まれ、わたしがいる場所はない。
わたしの部屋はもう子供部屋になっているし、客間に居座るのも嫌だし、肩身の狭い思いをしながら暮らすのだけは嫌だった。
取り調べも終わり公爵家を辞めてハンクスが領地へと向かう。
わたしは久しぶりに彼に会った。
「ハンクス……あのときは助けてくれてありがとう」
「いや、すぐに助けられなくてすまなかった。
………ずっと謝らなければいけないと思っていたのに……顔を見たらつい癖で目を逸らしてしまう……」
かなり窶れて体もかなり細いし顔色も悪い。
「ハンクス、しっかりしなさい!あなたはいつも輝いていたわ。わたしはそんなあなたを好きだった、憧れていたの。まぁ最後の方は女癖が悪いし浮気はするし、最悪だったけど……でもそれは仕方がなかったのかもしれないわ。わたしに魅力がなかったのだもの」
「違う……俺が弱かったんだ。君を騙して結婚した………最初のうちは公爵に頼まれて君と結婚して自分勝手な俺は達成感に満足していた。
でも真面目で……頑張り屋で….屋敷でもギャザ達に慕われて、騙している俺は……気持ちが耐えられなくなったんだ。公爵にはいろいろ情報を聞き出せと言われた……でも君は口が固いし俺自身もだんだん嫌になって……それならいっそ君に嫌われたほうがいいと思ったんだ。
そうすれば公爵も諦めるし、君への罪悪感も減る……俺は目の前のことから逃げて……ずるい奴だった」
「だから浮気?……最低ね」
「自分でもそう思う……」
ーーもう離縁しているから今更責めても仕方ない……
「次に愛した人には真剣に向き合って……」
「……そうだな…」
「もう会うことはないと思う」
「いろいろすまなかった……そしてギャザ達をよろしく頼む……」
ハンクスはそして乗合馬車に乗り領地へと向かった。
とても小さな領地。領民と共に汗水流さなければやってはいけない、そんな場所。
初めて愛した人。だから幸せになってほしい。
殿下のこと?ううん、彼のことは二の次。
今のところわたしのこれからについて。
実はハンクスの屋敷を買うことにした。
ハンクスからは離縁の時に屋敷を譲ると言われていた。もともと彼はあまり屋敷に帰ってきていなくてほとんどわたしが住んでいるような状態が続いていた。
ハンクスはわたしと顔を合わせないようにしていた。もちろんわたしも彼とはすれ違うことを望んでいた。
顔を合わせても会話すらなかったし。
離縁の時は寮もあるしハンクスにとっても屋敷がなくなるのは困るだろうからと断っていた。
だけど、三年も住んでしまうと寮は借りてはいてもあそこが我が家みたいなものだった。三人は使用人だけどわたしにとっては本当の家族のようなものだった。
離れてみて今回特にそう感じてしまった。
実はハンクスが捕まって少しして彼から手紙が届いていた。
あの屋敷をわたしに譲ると。
だけど一度は断ったし、ハンクス自身ももう公爵家で働くことはできなくなる。
少しだけ田舎のほうに領地はあるとはいえ、子爵の地位もこのままではどうなるかわからない。
両親と共に領地で贅沢さえしなければ暮らしていけるとは思う。だけどこの王都にある小さいとは言え屋敷は贅沢で維持にもお金がかかるので手放すことになる。
だったらわたしが買おう。貰うのではなくて。
そう思った。そうすれば三人をそのまま雇うこともできる。
だからギャザからの手紙が来た時、顔を出しに行くことにした。
もちろんわたし自身がギャザやスレンに対して恐怖を感じたなら、屋敷は買ってもあそこには住まないつもりでいた。
そのまま寮暮らしをして、寮で仕事をするのもいいかもなんて思っていた。
もちろん打ち合わせなどで王城へも出勤することもあるけど、まだ心が落ち着くまでは寮での仕事の許可は下りていた。
これは殿下の力添えもあるけど、今まで頑張ってきたわたし自身の信用でもある。それでも怖くて外に出られない日々が続き、辞めようかとも何度も思った。
そんなマイナスの気持ちが全て前向きになったのはやっぱり三人がわたしを迎え入れてくれたから。そして、寮のおばちゃんやみんながわたしを見守ってくれたから。
なかなかハンクスとは会えない。まだ取り調べが続いているらしい。だけどハンクス自身が罪を犯していないことは証明された、よかった。
今は牢ではなく、人と接触できないように、別の個室にいて外部との接触は遮断されているらしい。
一応手紙を書けばハンクスに手渡してはもらえる。ただし検閲をしてからなので返事が返ってくるのも遅くなってしまう。
それでも何度かのやり取りでわたしが屋敷を買うことの了承を得た。
彼もこれから仕事が領地運営になるので少しでも手元にお金は残しておいたほうがいい。
わたしもハンクスと結婚していたおかげで給料のほとんどが貯蓄に回っていたので、それなりに大金を持っていた。
仕事が趣味だったおかげでお金に苦労しなくて済んでよかった。
実家の男爵家に帰る予定は全くない。特に仲が悪いわけではない。
ただ、一度嫁に行った娘が帰る場所はないだけ。兄は嫁をもらい子供も生まれ、わたしがいる場所はない。
わたしの部屋はもう子供部屋になっているし、客間に居座るのも嫌だし、肩身の狭い思いをしながら暮らすのだけは嫌だった。
取り調べも終わり公爵家を辞めてハンクスが領地へと向かう。
わたしは久しぶりに彼に会った。
「ハンクス……あのときは助けてくれてありがとう」
「いや、すぐに助けられなくてすまなかった。
………ずっと謝らなければいけないと思っていたのに……顔を見たらつい癖で目を逸らしてしまう……」
かなり窶れて体もかなり細いし顔色も悪い。
「ハンクス、しっかりしなさい!あなたはいつも輝いていたわ。わたしはそんなあなたを好きだった、憧れていたの。まぁ最後の方は女癖が悪いし浮気はするし、最悪だったけど……でもそれは仕方がなかったのかもしれないわ。わたしに魅力がなかったのだもの」
「違う……俺が弱かったんだ。君を騙して結婚した………最初のうちは公爵に頼まれて君と結婚して自分勝手な俺は達成感に満足していた。
でも真面目で……頑張り屋で….屋敷でもギャザ達に慕われて、騙している俺は……気持ちが耐えられなくなったんだ。公爵にはいろいろ情報を聞き出せと言われた……でも君は口が固いし俺自身もだんだん嫌になって……それならいっそ君に嫌われたほうがいいと思ったんだ。
そうすれば公爵も諦めるし、君への罪悪感も減る……俺は目の前のことから逃げて……ずるい奴だった」
「だから浮気?……最低ね」
「自分でもそう思う……」
ーーもう離縁しているから今更責めても仕方ない……
「次に愛した人には真剣に向き合って……」
「……そうだな…」
「もう会うことはないと思う」
「いろいろすまなかった……そしてギャザ達をよろしく頼む……」
ハンクスはそして乗合馬車に乗り領地へと向かった。
とても小さな領地。領民と共に汗水流さなければやってはいけない、そんな場所。
初めて愛した人。だから幸せになってほしい。
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