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離縁してあげますわ!
【16】
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「ああ、用事があるから声をかけたんだ」
そう言うと周りにいた執事のハンクスや侍従に目配せした。
すると近くにあった空き部屋を見つけて、
「ここで話をしよう」と言ってわたしについてくるようにと顎を動かした。
「………仕事中です」
わたしは恐怖のあまり声が上擦ってしまった。それに気がついた公爵はニヤッと嗤った。
気持ち悪いと、鳥肌が全身に。
ゾワゾワしてついて行くことを拒否する。
「たかが補佐官が、仕事中だからと公爵であるわたしの申し出を断るのか?」
「……わたしは常に重要な仕事をしております。わたしが席を外せば仕事は滞ってしまいます。急ぎ戻らなければなりません」
本当は休憩中で今から昼食に行くつもりなんだけど、休憩とり損ねてかなり遅い時間なのでバレないはず。
「ほぉ、君は部下に信用されていないんだな」
えっ?何を言い出すの?
「そんなことはありません」
悔しいけど、自分がいないと仕事にならないと言ったのはわたし。
「わたしは公爵として重要な仕事ばかりしているが下の者を信用して任せているし、わたしのことを信頼して皆ついてきてくれている」
「若輩者のわたしですが皆に信用されるように現在頑張っているところです。ですのでどうかわたしなどに構わず他の優秀なお方とお話しされた方がよろしいかと」
ーーわたしなんかに構うな!
そう言ったのに公爵は
「ハンクスのことだ。君の元夫で君の初恋だったかな?」
ニヤニヤと嗤うのを止めようとしない。舐め回すようにまたわたしを見た。
幼い頃記憶がなくなったけど、気を失った後この男はどうなったのかしら?
わたしは廊下で助けられたんだと思う。この男は?
この男と部屋に入るなんて危険でしかない。
何を言われるのか。
何をされるのか。
わたしに興味を抱き、わたしをうまく操ろうとしてハンクスと結婚までさせた男。
ハンクスと離縁してもまだこの男はわたしに絡みついてくるの?
わたしがイタズラしようとした少女とは知らないで?
廊下をふと見回すと数人の人がわたし達から視線を逸らして避けるように歩いていた。
公爵はあまり評判が良くない。彼に関わり合いたくないと思っている人たちが多いことがよくわかる。
ハンクスを愛してしまったわたしはそんなことすら気が付かなかった。ううん、見えていなかった。
彼の企みも彼に愛情なんてなかったことも。
結局断りきれなくて無理やり部屋に連れて行かれた。
扉の隙間は少し開いていた。
それを見てホッと胸を撫で下ろした。
「あの、お話とは?」
今この部屋には公爵と侍従の三人しかいない。
ハンクス達は「荷物を取りに行ってくれ」と公爵が言ってどこかへ行ってしまった。
二人っきり?
一瞬嫌な予感がしたけど、侍従が一人残ったので少しホッとした。それでもあの幼い頃の記憶が蘇っているわたしとしてはとても嫌な気分。
すぐ逃げ出せるように扉の近くにいた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ?思い出したようだね?君が幼いころわたしと二人っきりになったことを」
「えっ?」
大きく目を見開き驚いているわたし。
恐怖で体がカタカタと震える。
「ハンクスにしっかり開発させたその身体をそろそろわたしが堪能する時じゃないかな?」
ーーな、な、何を言っているの?
わたしは扉に少しずつ近づいた。
「や、やっ、近づかないで、大きな声を出しますよ?」
「出してみろ!もうこの王城では働けないぞ!公爵であるわたしに逆らうことはできない。それに大きな声を出せばうちの侍従に襲われたと言うのでわたしにはなんの咎もない」
「そんな嘘誰も信じないわ」
わたしは首を横に振った。
「公爵であるわたしの言葉は嘘でも全て真実になるんだ」
ガチャッ。
廊下側から扉を閉められた。
公爵がわたしの眼鏡を外した。
「相変わらず綺麗な顔をしているな。ハンクスが夢中になるはずだ」
ニヤけた顔がわたしに近づいてきて、公爵の気持ち悪い息が顔にかかった。
そう言うと周りにいた執事のハンクスや侍従に目配せした。
すると近くにあった空き部屋を見つけて、
「ここで話をしよう」と言ってわたしについてくるようにと顎を動かした。
「………仕事中です」
わたしは恐怖のあまり声が上擦ってしまった。それに気がついた公爵はニヤッと嗤った。
気持ち悪いと、鳥肌が全身に。
ゾワゾワしてついて行くことを拒否する。
「たかが補佐官が、仕事中だからと公爵であるわたしの申し出を断るのか?」
「……わたしは常に重要な仕事をしております。わたしが席を外せば仕事は滞ってしまいます。急ぎ戻らなければなりません」
本当は休憩中で今から昼食に行くつもりなんだけど、休憩とり損ねてかなり遅い時間なのでバレないはず。
「ほぉ、君は部下に信用されていないんだな」
えっ?何を言い出すの?
「そんなことはありません」
悔しいけど、自分がいないと仕事にならないと言ったのはわたし。
「わたしは公爵として重要な仕事ばかりしているが下の者を信用して任せているし、わたしのことを信頼して皆ついてきてくれている」
「若輩者のわたしですが皆に信用されるように現在頑張っているところです。ですのでどうかわたしなどに構わず他の優秀なお方とお話しされた方がよろしいかと」
ーーわたしなんかに構うな!
そう言ったのに公爵は
「ハンクスのことだ。君の元夫で君の初恋だったかな?」
ニヤニヤと嗤うのを止めようとしない。舐め回すようにまたわたしを見た。
幼い頃記憶がなくなったけど、気を失った後この男はどうなったのかしら?
わたしは廊下で助けられたんだと思う。この男は?
この男と部屋に入るなんて危険でしかない。
何を言われるのか。
何をされるのか。
わたしに興味を抱き、わたしをうまく操ろうとしてハンクスと結婚までさせた男。
ハンクスと離縁してもまだこの男はわたしに絡みついてくるの?
わたしがイタズラしようとした少女とは知らないで?
廊下をふと見回すと数人の人がわたし達から視線を逸らして避けるように歩いていた。
公爵はあまり評判が良くない。彼に関わり合いたくないと思っている人たちが多いことがよくわかる。
ハンクスを愛してしまったわたしはそんなことすら気が付かなかった。ううん、見えていなかった。
彼の企みも彼に愛情なんてなかったことも。
結局断りきれなくて無理やり部屋に連れて行かれた。
扉の隙間は少し開いていた。
それを見てホッと胸を撫で下ろした。
「あの、お話とは?」
今この部屋には公爵と侍従の三人しかいない。
ハンクス達は「荷物を取りに行ってくれ」と公爵が言ってどこかへ行ってしまった。
二人っきり?
一瞬嫌な予感がしたけど、侍従が一人残ったので少しホッとした。それでもあの幼い頃の記憶が蘇っているわたしとしてはとても嫌な気分。
すぐ逃げ出せるように扉の近くにいた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ?思い出したようだね?君が幼いころわたしと二人っきりになったことを」
「えっ?」
大きく目を見開き驚いているわたし。
恐怖で体がカタカタと震える。
「ハンクスにしっかり開発させたその身体をそろそろわたしが堪能する時じゃないかな?」
ーーな、な、何を言っているの?
わたしは扉に少しずつ近づいた。
「や、やっ、近づかないで、大きな声を出しますよ?」
「出してみろ!もうこの王城では働けないぞ!公爵であるわたしに逆らうことはできない。それに大きな声を出せばうちの侍従に襲われたと言うのでわたしにはなんの咎もない」
「そんな嘘誰も信じないわ」
わたしは首を横に振った。
「公爵であるわたしの言葉は嘘でも全て真実になるんだ」
ガチャッ。
廊下側から扉を閉められた。
公爵がわたしの眼鏡を外した。
「相変わらず綺麗な顔をしているな。ハンクスが夢中になるはずだ」
ニヤけた顔がわたしに近づいてきて、公爵の気持ち悪い息が顔にかかった。
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