69 / 156
離縁してあげますわ!
【15】
しおりを挟む
殿下の手を振り払いわたしは泣き腫らしたまま職場に戻り仕事を始めた。
部下たちは誰も声をかけてこない。泣いたことに気がついて気を遣ってくれているみたい。
今日ほど眼鏡があってよかったと思った日はない。ついでにマスクをして完全に怪しい女になってしまっているけど、今は表情を隠して誰にも自分の顔を見られたくない。
瞼は腫れて目は真っ赤に充血しているし、鼻は鼻水をかみすぎて真っ赤になっているし、むくんで顔全体パンパン。
はああ、感情的になりすぎた。
ハンクスとの離縁がこんなに拗らせていたなんて。
殿下に対しても半分八つ当たりで半分は彼が嫌いだから。
完璧でどんなに頑張っても殿下には敵わないわたしは多分色んな意味でこじらせている。
だから殿下の言葉なんて信じない。
それからは殿下が話しかけてきても仕事以外での会話は避けるようになった。
不敬だと殿下がわたしを叱ることもできるようなあからさまな態度。でも殿下は何も言ってこなくなった。
そんなある日、たまたまラーダン公爵と廊下ですれ違った。
公爵は侍従や執事を数人連れて歩いていた。その中にハンクスもいた。
離縁して3ヶ月、彼に会ったのは初めて。
ーー関わりたくない。
そう思い公爵に頭を下げさっさと通り過ぎようとした。
「ハンクスの元嫁、ちょっと話がある」
公爵がわたしをいやらしい目で舐めまわした。
ゾクっと鳥肌がたった。
ーー気持ち悪い。
元々公爵のことは苦手でハンクスとの結婚生活の間、わたし自身は関わり合いたくなくて公爵家のパーティーに呼ばれても仕事が忙しいと極力お断りしていた。
どうしても参加しないといけない時は壁の花になり徹底して目立たないように隠れていた。
元々地味眼鏡にとって目立たないように生きることは得意だった。
そう言えば………この舐め回すようないやらしい目を見て、ずっと忘れていたことを突然思い出した。
ううん、なぜあんな辛い思い出を忘れてしまっていたのだろう。忘れられるはずがないのに。
まだ眼鏡すらかけていない幼い頃……お父様と王城に何かの用事で来ていた時、わたしは迷子になってお父様を探していた。
そして大きな男の人に声をかけられて………
知らない部屋に腕を掴まれ連れて行かれた。
そして、「いい子だから静かにしろ」と頬を叩かれた。
真っ赤に腫れ上がった頬。
恐怖で泣くことも声を出すこともできなくて震えていると、その大きな気持ち悪い大人の男はわたしの胸元に手を……
ほんの少し服の上から触られただけなのに気持ち悪くて吐きそうになった。
「やっ!」
怖くて気持ち悪くて目には涙をいっぱい溜めていた。
部屋には気持ち悪い大人の男の人。
扉はなぜか少しだけ開いていた。
わたしは恐怖で動かない体を『動いて!』と心の中で何度も自分に言い聞かせた。
このままでは……幼いながらに身の危険を感じた。
頭を撫でられ頬を撫でられ、服の上から体を触られ始めた。
「ひっ!!」
声が出た。
「や、やだ!!助けて!誰か!やああああああーーー!!」
生まれて初めてこんな大きな声を出した。
大人の男は、「静かにしろ!」とわたしの頬をまた叩いた。
「いやああああ!!!誰か助けてぇーー!!」
扉に向かいかけ出した。
少し扉が開いていたので、そのまま廊下へと走って出ると、わたしの声を聞いた人たちが駆け寄ってきた。
そしてわたしは安心したのかそのまま気を失った。
そうだ、その後、何も覚えていない。
あの男の人の顔は、この公爵だった。
なぜ忘れていたのか?
恐怖で気を失い、記憶を失った?
目が少し悪かったのも確かだけどそう言えばあの頃から両親から分厚い眼鏡をかけるように言われた。
そんなに目が悪かったわけではないのに。
そしてその眼鏡のせいでもっと視力が落ちてきたような……
「ハンクスの元嫁?聞いているのか?」
ハッと我に返った。
わたしは今どんな顔をしているだろうか?幼い女の子に性的悪戯をしようとしたこの男は、わたしを覚えているのかしら?
知らないのかしら?
公爵だから、捕まらなかったの?
わたしは幼かったし記憶も消えて覚えていないけど、こんなふうに堂々と過ごしていると言うことはこの人は何も罪を問われていないと言うこと?
「公爵様、何か御用でしょうか?」
わたしは眼鏡をかけていてよかったと思った。彼はあの悪戯しようとした女の子がわたしだとは気づいていないようだから。
部下たちは誰も声をかけてこない。泣いたことに気がついて気を遣ってくれているみたい。
今日ほど眼鏡があってよかったと思った日はない。ついでにマスクをして完全に怪しい女になってしまっているけど、今は表情を隠して誰にも自分の顔を見られたくない。
瞼は腫れて目は真っ赤に充血しているし、鼻は鼻水をかみすぎて真っ赤になっているし、むくんで顔全体パンパン。
はああ、感情的になりすぎた。
ハンクスとの離縁がこんなに拗らせていたなんて。
殿下に対しても半分八つ当たりで半分は彼が嫌いだから。
完璧でどんなに頑張っても殿下には敵わないわたしは多分色んな意味でこじらせている。
だから殿下の言葉なんて信じない。
それからは殿下が話しかけてきても仕事以外での会話は避けるようになった。
不敬だと殿下がわたしを叱ることもできるようなあからさまな態度。でも殿下は何も言ってこなくなった。
そんなある日、たまたまラーダン公爵と廊下ですれ違った。
公爵は侍従や執事を数人連れて歩いていた。その中にハンクスもいた。
離縁して3ヶ月、彼に会ったのは初めて。
ーー関わりたくない。
そう思い公爵に頭を下げさっさと通り過ぎようとした。
「ハンクスの元嫁、ちょっと話がある」
公爵がわたしをいやらしい目で舐めまわした。
ゾクっと鳥肌がたった。
ーー気持ち悪い。
元々公爵のことは苦手でハンクスとの結婚生活の間、わたし自身は関わり合いたくなくて公爵家のパーティーに呼ばれても仕事が忙しいと極力お断りしていた。
どうしても参加しないといけない時は壁の花になり徹底して目立たないように隠れていた。
元々地味眼鏡にとって目立たないように生きることは得意だった。
そう言えば………この舐め回すようないやらしい目を見て、ずっと忘れていたことを突然思い出した。
ううん、なぜあんな辛い思い出を忘れてしまっていたのだろう。忘れられるはずがないのに。
まだ眼鏡すらかけていない幼い頃……お父様と王城に何かの用事で来ていた時、わたしは迷子になってお父様を探していた。
そして大きな男の人に声をかけられて………
知らない部屋に腕を掴まれ連れて行かれた。
そして、「いい子だから静かにしろ」と頬を叩かれた。
真っ赤に腫れ上がった頬。
恐怖で泣くことも声を出すこともできなくて震えていると、その大きな気持ち悪い大人の男はわたしの胸元に手を……
ほんの少し服の上から触られただけなのに気持ち悪くて吐きそうになった。
「やっ!」
怖くて気持ち悪くて目には涙をいっぱい溜めていた。
部屋には気持ち悪い大人の男の人。
扉はなぜか少しだけ開いていた。
わたしは恐怖で動かない体を『動いて!』と心の中で何度も自分に言い聞かせた。
このままでは……幼いながらに身の危険を感じた。
頭を撫でられ頬を撫でられ、服の上から体を触られ始めた。
「ひっ!!」
声が出た。
「や、やだ!!助けて!誰か!やああああああーーー!!」
生まれて初めてこんな大きな声を出した。
大人の男は、「静かにしろ!」とわたしの頬をまた叩いた。
「いやああああ!!!誰か助けてぇーー!!」
扉に向かいかけ出した。
少し扉が開いていたので、そのまま廊下へと走って出ると、わたしの声を聞いた人たちが駆け寄ってきた。
そしてわたしは安心したのかそのまま気を失った。
そうだ、その後、何も覚えていない。
あの男の人の顔は、この公爵だった。
なぜ忘れていたのか?
恐怖で気を失い、記憶を失った?
目が少し悪かったのも確かだけどそう言えばあの頃から両親から分厚い眼鏡をかけるように言われた。
そんなに目が悪かったわけではないのに。
そしてその眼鏡のせいでもっと視力が落ちてきたような……
「ハンクスの元嫁?聞いているのか?」
ハッと我に返った。
わたしは今どんな顔をしているだろうか?幼い女の子に性的悪戯をしようとしたこの男は、わたしを覚えているのかしら?
知らないのかしら?
公爵だから、捕まらなかったの?
わたしは幼かったし記憶も消えて覚えていないけど、こんなふうに堂々と過ごしていると言うことはこの人は何も罪を問われていないと言うこと?
「公爵様、何か御用でしょうか?」
わたしは眼鏡をかけていてよかったと思った。彼はあの悪戯しようとした女の子がわたしだとは気づいていないようだから。
1,022
お気に入りに追加
2,564
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。

【完結】正妃に裏切られて、どんな気持ちですか?
かとるり
恋愛
両国の繁栄のために嫁ぐことになった王女スカーレット。
しかし彼女を待ち受けていたのは王太子ディランからの信じられない言葉だった。
「スカーレット、俺はシェイラを正妃にすることに決めた」
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる