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離縁してあげますわ!
【14】
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「離してください!」
殿下の腕の中からなんとか逃れようと殿下の胸を叩いた。
「アリア、泣くな、泣かないで」
「どうしてそんなに優しい言葉を言うのですか?いつものように馬鹿にしたらいいじゃないですか?離縁された不様なわたしを笑ったらいいじゃないですか?」
「………すまない……アリアは愛していたんだろう?マグレース子爵のことを。笑ったりできないよ」
「愛して……なんかいない。彼はわたしのことなんて愛していなかったもの。公爵に頼まれてわたしと結婚しただけなの。幸せな結婚生活なんてすぐに終わったわ、彼は次々に新しい女性と浮気をしていたもの。わたしのことなんてなんとも思っていなかったの」
「好きでもない女と3年も結婚生活を続けるわけないだろう?」
「殿下、彼はわたしの寝る部屋のベッドに女を連れ込んで抱いたのよ?わたしに見せるために。
それでもそんなことが言えますか?」
「………それでも、君の夫はマグレース子爵は君を愛していたと思う」
「ははは、こんな地味で眼鏡をかけた女を?」
自分で言いながらなんで惨めなんだろう。わたしなんかを誰も好きにならない。
惨めで涙がどんどん溢れた。
………止まらない。
殿下の胸を何度も叩いた。
悔しい。
悲しい。
胸が張り裂けそうなくらい痛い。
だけど殿下に八つ当たりすることではない。
わかっているのに、いつものようにわたしを馬鹿にして揶揄ってくれた方がまだマシだった。
そんな辛そうな顔でわたしを見ないで!
わたしはもっと惨めになる。
同情なんていらないのに……縋りたくなんてないのに……
気がつけば抵抗していたはずの殿下の胸の中に抱きしめられ、泣き続けた。
どれくらい泣いたのだろう。
いつの間にか廊下から空き部屋へと移っていた。
わたしは彼の胸の中で泣き止むまで離してもらえなかった。
「もう……大丈夫です………お見苦しいところをお見せしてすみませんでした」
や、やばい……どれだけ殿下に不敬な発言をしたのかな?
我に返ったわたしは、顔が引き攣っていた。
仕事を辞めないといけない?
ど、どうしよう……離縁して行くところもないのに……これでクビになったら路頭に迷ってしまうわ。
「あの………申し訳ありませんでした」
殿下にこんなに頭を下げたことなんてない。仕事では失敗はしたことがない。書類のダメ出しはいっぱい言われたけど。
学生の時は、学生という枠の中で生きてきたので、発言もある程度自由にできた。
意見を言ったり笑い合ったりしても護衛騎士や側近に咎められることはなかった。
いつも対等で……ちょっと……かなり見下されていたけど、どんなにわたしがぷんぷん怒っても言い合っても殿下はいつも笑ってくれていた。
甘えすぎた。
わたしの顔色は悪かったと思う。
ハッとして青くなっていたと思う。
殿下はそんなわたしを見てなぜか少し寂しそうな顔をした。
「今は、俺は君の友人として接したんだ。上司でも王族でもない」
少し冷たい言い方だった。
「あ………友人?…ですか?」
思わず確認のようにまた聞いてしまった。
「うん、俺は今君を心配する友人だ」
殿下の『俺』と言う言葉を久しぶりに聞いた。
学生の時はよくわたしの前で自分のことを『俺』と言っていた。でもいつの間にか公の場では『僕』になっていたし、わたしの中でもそれが当たり前になっていた。
「アリア、君はいつも眼鏡をかけていて地味だと言うけど、君が眼鏡を外した時みんながどんな反応をするのか知らないだろう?」
「………不細工すぎて驚かれております」
わたしが眼鏡を外すといつも空気が変わる。そんなに不細工なのか……普段眼鏡をかけないと自分の顔はわからない。眼鏡を外すとよく見えないし、まぁそこまで酷い顔だとは思っていないのだけど、周りがシーンとなるくらいだからわたしの美意識はあまり高くはないのだと思う。
眼鏡を外して片眼鏡でたまに自分の顔を見るけど、もう自分でもよくわからない。
「アリアはとても綺麗で可愛い。君の素顔を知っている人達は誰にも見せたくないと思ってしまう。知らない人達は初めて見るとあまりの綺麗さに息を呑むんだよ」
「殿下、いくらわたしが離縁して可哀想だからと言って、そんな嘘までつかなくても大丈夫ですよ?幼い頃から両親にも顔を隠しなさい、人様に見せれる顔ではないと言われていました。
元…夫のハンクスからも眼鏡は絶対外では外すなと念を押されておりました。
誰からもこの素顔を褒められたことなんてありません。殿下だって学生の時わたしに眼鏡は外さない方がいいとアドバイスされましたよね?」
「すまない……傷つけるつもりはなかった。ただ君の素顔を誰にも知られたくはなかった。ご両親だって君のその綺麗さ、可愛さに心配されたのだと思う。人攫いにでもあったら大変なことになるからね」
ーーまるでわたしが本当に綺麗な顔をしているように言う殿下の言葉が信じられなくて苦笑した。
◆ ◆ ◆
いつも読んでいただきありがとうございます。
【裏切られたあなたにもう二度と恋はしない】
久しぶりに辛く切ないお話を始めました。
よろしくお願いします。
殿下の腕の中からなんとか逃れようと殿下の胸を叩いた。
「アリア、泣くな、泣かないで」
「どうしてそんなに優しい言葉を言うのですか?いつものように馬鹿にしたらいいじゃないですか?離縁された不様なわたしを笑ったらいいじゃないですか?」
「………すまない……アリアは愛していたんだろう?マグレース子爵のことを。笑ったりできないよ」
「愛して……なんかいない。彼はわたしのことなんて愛していなかったもの。公爵に頼まれてわたしと結婚しただけなの。幸せな結婚生活なんてすぐに終わったわ、彼は次々に新しい女性と浮気をしていたもの。わたしのことなんてなんとも思っていなかったの」
「好きでもない女と3年も結婚生活を続けるわけないだろう?」
「殿下、彼はわたしの寝る部屋のベッドに女を連れ込んで抱いたのよ?わたしに見せるために。
それでもそんなことが言えますか?」
「………それでも、君の夫はマグレース子爵は君を愛していたと思う」
「ははは、こんな地味で眼鏡をかけた女を?」
自分で言いながらなんで惨めなんだろう。わたしなんかを誰も好きにならない。
惨めで涙がどんどん溢れた。
………止まらない。
殿下の胸を何度も叩いた。
悔しい。
悲しい。
胸が張り裂けそうなくらい痛い。
だけど殿下に八つ当たりすることではない。
わかっているのに、いつものようにわたしを馬鹿にして揶揄ってくれた方がまだマシだった。
そんな辛そうな顔でわたしを見ないで!
わたしはもっと惨めになる。
同情なんていらないのに……縋りたくなんてないのに……
気がつけば抵抗していたはずの殿下の胸の中に抱きしめられ、泣き続けた。
どれくらい泣いたのだろう。
いつの間にか廊下から空き部屋へと移っていた。
わたしは彼の胸の中で泣き止むまで離してもらえなかった。
「もう……大丈夫です………お見苦しいところをお見せしてすみませんでした」
や、やばい……どれだけ殿下に不敬な発言をしたのかな?
我に返ったわたしは、顔が引き攣っていた。
仕事を辞めないといけない?
ど、どうしよう……離縁して行くところもないのに……これでクビになったら路頭に迷ってしまうわ。
「あの………申し訳ありませんでした」
殿下にこんなに頭を下げたことなんてない。仕事では失敗はしたことがない。書類のダメ出しはいっぱい言われたけど。
学生の時は、学生という枠の中で生きてきたので、発言もある程度自由にできた。
意見を言ったり笑い合ったりしても護衛騎士や側近に咎められることはなかった。
いつも対等で……ちょっと……かなり見下されていたけど、どんなにわたしがぷんぷん怒っても言い合っても殿下はいつも笑ってくれていた。
甘えすぎた。
わたしの顔色は悪かったと思う。
ハッとして青くなっていたと思う。
殿下はそんなわたしを見てなぜか少し寂しそうな顔をした。
「今は、俺は君の友人として接したんだ。上司でも王族でもない」
少し冷たい言い方だった。
「あ………友人?…ですか?」
思わず確認のようにまた聞いてしまった。
「うん、俺は今君を心配する友人だ」
殿下の『俺』と言う言葉を久しぶりに聞いた。
学生の時はよくわたしの前で自分のことを『俺』と言っていた。でもいつの間にか公の場では『僕』になっていたし、わたしの中でもそれが当たり前になっていた。
「アリア、君はいつも眼鏡をかけていて地味だと言うけど、君が眼鏡を外した時みんながどんな反応をするのか知らないだろう?」
「………不細工すぎて驚かれております」
わたしが眼鏡を外すといつも空気が変わる。そんなに不細工なのか……普段眼鏡をかけないと自分の顔はわからない。眼鏡を外すとよく見えないし、まぁそこまで酷い顔だとは思っていないのだけど、周りがシーンとなるくらいだからわたしの美意識はあまり高くはないのだと思う。
眼鏡を外して片眼鏡でたまに自分の顔を見るけど、もう自分でもよくわからない。
「アリアはとても綺麗で可愛い。君の素顔を知っている人達は誰にも見せたくないと思ってしまう。知らない人達は初めて見るとあまりの綺麗さに息を呑むんだよ」
「殿下、いくらわたしが離縁して可哀想だからと言って、そんな嘘までつかなくても大丈夫ですよ?幼い頃から両親にも顔を隠しなさい、人様に見せれる顔ではないと言われていました。
元…夫のハンクスからも眼鏡は絶対外では外すなと念を押されておりました。
誰からもこの素顔を褒められたことなんてありません。殿下だって学生の時わたしに眼鏡は外さない方がいいとアドバイスされましたよね?」
「すまない……傷つけるつもりはなかった。ただ君の素顔を誰にも知られたくはなかった。ご両親だって君のその綺麗さ、可愛さに心配されたのだと思う。人攫いにでもあったら大変なことになるからね」
ーーまるでわたしが本当に綺麗な顔をしているように言う殿下の言葉が信じられなくて苦笑した。
◆ ◆ ◆
いつも読んでいただきありがとうございます。
【裏切られたあなたにもう二度と恋はしない】
久しぶりに辛く切ないお話を始めました。
よろしくお願いします。
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