68 / 156
離縁してあげますわ!
【14】
しおりを挟む
「離してください!」
殿下の腕の中からなんとか逃れようと殿下の胸を叩いた。
「アリア、泣くな、泣かないで」
「どうしてそんなに優しい言葉を言うのですか?いつものように馬鹿にしたらいいじゃないですか?離縁された不様なわたしを笑ったらいいじゃないですか?」
「………すまない……アリアは愛していたんだろう?マグレース子爵のことを。笑ったりできないよ」
「愛して……なんかいない。彼はわたしのことなんて愛していなかったもの。公爵に頼まれてわたしと結婚しただけなの。幸せな結婚生活なんてすぐに終わったわ、彼は次々に新しい女性と浮気をしていたもの。わたしのことなんてなんとも思っていなかったの」
「好きでもない女と3年も結婚生活を続けるわけないだろう?」
「殿下、彼はわたしの寝る部屋のベッドに女を連れ込んで抱いたのよ?わたしに見せるために。
それでもそんなことが言えますか?」
「………それでも、君の夫はマグレース子爵は君を愛していたと思う」
「ははは、こんな地味で眼鏡をかけた女を?」
自分で言いながらなんで惨めなんだろう。わたしなんかを誰も好きにならない。
惨めで涙がどんどん溢れた。
………止まらない。
殿下の胸を何度も叩いた。
悔しい。
悲しい。
胸が張り裂けそうなくらい痛い。
だけど殿下に八つ当たりすることではない。
わかっているのに、いつものようにわたしを馬鹿にして揶揄ってくれた方がまだマシだった。
そんな辛そうな顔でわたしを見ないで!
わたしはもっと惨めになる。
同情なんていらないのに……縋りたくなんてないのに……
気がつけば抵抗していたはずの殿下の胸の中に抱きしめられ、泣き続けた。
どれくらい泣いたのだろう。
いつの間にか廊下から空き部屋へと移っていた。
わたしは彼の胸の中で泣き止むまで離してもらえなかった。
「もう……大丈夫です………お見苦しいところをお見せしてすみませんでした」
や、やばい……どれだけ殿下に不敬な発言をしたのかな?
我に返ったわたしは、顔が引き攣っていた。
仕事を辞めないといけない?
ど、どうしよう……離縁して行くところもないのに……これでクビになったら路頭に迷ってしまうわ。
「あの………申し訳ありませんでした」
殿下にこんなに頭を下げたことなんてない。仕事では失敗はしたことがない。書類のダメ出しはいっぱい言われたけど。
学生の時は、学生という枠の中で生きてきたので、発言もある程度自由にできた。
意見を言ったり笑い合ったりしても護衛騎士や側近に咎められることはなかった。
いつも対等で……ちょっと……かなり見下されていたけど、どんなにわたしがぷんぷん怒っても言い合っても殿下はいつも笑ってくれていた。
甘えすぎた。
わたしの顔色は悪かったと思う。
ハッとして青くなっていたと思う。
殿下はそんなわたしを見てなぜか少し寂しそうな顔をした。
「今は、俺は君の友人として接したんだ。上司でも王族でもない」
少し冷たい言い方だった。
「あ………友人?…ですか?」
思わず確認のようにまた聞いてしまった。
「うん、俺は今君を心配する友人だ」
殿下の『俺』と言う言葉を久しぶりに聞いた。
学生の時はよくわたしの前で自分のことを『俺』と言っていた。でもいつの間にか公の場では『僕』になっていたし、わたしの中でもそれが当たり前になっていた。
「アリア、君はいつも眼鏡をかけていて地味だと言うけど、君が眼鏡を外した時みんながどんな反応をするのか知らないだろう?」
「………不細工すぎて驚かれております」
わたしが眼鏡を外すといつも空気が変わる。そんなに不細工なのか……普段眼鏡をかけないと自分の顔はわからない。眼鏡を外すとよく見えないし、まぁそこまで酷い顔だとは思っていないのだけど、周りがシーンとなるくらいだからわたしの美意識はあまり高くはないのだと思う。
眼鏡を外して片眼鏡でたまに自分の顔を見るけど、もう自分でもよくわからない。
「アリアはとても綺麗で可愛い。君の素顔を知っている人達は誰にも見せたくないと思ってしまう。知らない人達は初めて見るとあまりの綺麗さに息を呑むんだよ」
「殿下、いくらわたしが離縁して可哀想だからと言って、そんな嘘までつかなくても大丈夫ですよ?幼い頃から両親にも顔を隠しなさい、人様に見せれる顔ではないと言われていました。
元…夫のハンクスからも眼鏡は絶対外では外すなと念を押されておりました。
誰からもこの素顔を褒められたことなんてありません。殿下だって学生の時わたしに眼鏡は外さない方がいいとアドバイスされましたよね?」
「すまない……傷つけるつもりはなかった。ただ君の素顔を誰にも知られたくはなかった。ご両親だって君のその綺麗さ、可愛さに心配されたのだと思う。人攫いにでもあったら大変なことになるからね」
ーーまるでわたしが本当に綺麗な顔をしているように言う殿下の言葉が信じられなくて苦笑した。
◆ ◆ ◆
いつも読んでいただきありがとうございます。
【裏切られたあなたにもう二度と恋はしない】
久しぶりに辛く切ないお話を始めました。
よろしくお願いします。
殿下の腕の中からなんとか逃れようと殿下の胸を叩いた。
「アリア、泣くな、泣かないで」
「どうしてそんなに優しい言葉を言うのですか?いつものように馬鹿にしたらいいじゃないですか?離縁された不様なわたしを笑ったらいいじゃないですか?」
「………すまない……アリアは愛していたんだろう?マグレース子爵のことを。笑ったりできないよ」
「愛して……なんかいない。彼はわたしのことなんて愛していなかったもの。公爵に頼まれてわたしと結婚しただけなの。幸せな結婚生活なんてすぐに終わったわ、彼は次々に新しい女性と浮気をしていたもの。わたしのことなんてなんとも思っていなかったの」
「好きでもない女と3年も結婚生活を続けるわけないだろう?」
「殿下、彼はわたしの寝る部屋のベッドに女を連れ込んで抱いたのよ?わたしに見せるために。
それでもそんなことが言えますか?」
「………それでも、君の夫はマグレース子爵は君を愛していたと思う」
「ははは、こんな地味で眼鏡をかけた女を?」
自分で言いながらなんで惨めなんだろう。わたしなんかを誰も好きにならない。
惨めで涙がどんどん溢れた。
………止まらない。
殿下の胸を何度も叩いた。
悔しい。
悲しい。
胸が張り裂けそうなくらい痛い。
だけど殿下に八つ当たりすることではない。
わかっているのに、いつものようにわたしを馬鹿にして揶揄ってくれた方がまだマシだった。
そんな辛そうな顔でわたしを見ないで!
わたしはもっと惨めになる。
同情なんていらないのに……縋りたくなんてないのに……
気がつけば抵抗していたはずの殿下の胸の中に抱きしめられ、泣き続けた。
どれくらい泣いたのだろう。
いつの間にか廊下から空き部屋へと移っていた。
わたしは彼の胸の中で泣き止むまで離してもらえなかった。
「もう……大丈夫です………お見苦しいところをお見せしてすみませんでした」
や、やばい……どれだけ殿下に不敬な発言をしたのかな?
我に返ったわたしは、顔が引き攣っていた。
仕事を辞めないといけない?
ど、どうしよう……離縁して行くところもないのに……これでクビになったら路頭に迷ってしまうわ。
「あの………申し訳ありませんでした」
殿下にこんなに頭を下げたことなんてない。仕事では失敗はしたことがない。書類のダメ出しはいっぱい言われたけど。
学生の時は、学生という枠の中で生きてきたので、発言もある程度自由にできた。
意見を言ったり笑い合ったりしても護衛騎士や側近に咎められることはなかった。
いつも対等で……ちょっと……かなり見下されていたけど、どんなにわたしがぷんぷん怒っても言い合っても殿下はいつも笑ってくれていた。
甘えすぎた。
わたしの顔色は悪かったと思う。
ハッとして青くなっていたと思う。
殿下はそんなわたしを見てなぜか少し寂しそうな顔をした。
「今は、俺は君の友人として接したんだ。上司でも王族でもない」
少し冷たい言い方だった。
「あ………友人?…ですか?」
思わず確認のようにまた聞いてしまった。
「うん、俺は今君を心配する友人だ」
殿下の『俺』と言う言葉を久しぶりに聞いた。
学生の時はよくわたしの前で自分のことを『俺』と言っていた。でもいつの間にか公の場では『僕』になっていたし、わたしの中でもそれが当たり前になっていた。
「アリア、君はいつも眼鏡をかけていて地味だと言うけど、君が眼鏡を外した時みんながどんな反応をするのか知らないだろう?」
「………不細工すぎて驚かれております」
わたしが眼鏡を外すといつも空気が変わる。そんなに不細工なのか……普段眼鏡をかけないと自分の顔はわからない。眼鏡を外すとよく見えないし、まぁそこまで酷い顔だとは思っていないのだけど、周りがシーンとなるくらいだからわたしの美意識はあまり高くはないのだと思う。
眼鏡を外して片眼鏡でたまに自分の顔を見るけど、もう自分でもよくわからない。
「アリアはとても綺麗で可愛い。君の素顔を知っている人達は誰にも見せたくないと思ってしまう。知らない人達は初めて見るとあまりの綺麗さに息を呑むんだよ」
「殿下、いくらわたしが離縁して可哀想だからと言って、そんな嘘までつかなくても大丈夫ですよ?幼い頃から両親にも顔を隠しなさい、人様に見せれる顔ではないと言われていました。
元…夫のハンクスからも眼鏡は絶対外では外すなと念を押されておりました。
誰からもこの素顔を褒められたことなんてありません。殿下だって学生の時わたしに眼鏡は外さない方がいいとアドバイスされましたよね?」
「すまない……傷つけるつもりはなかった。ただ君の素顔を誰にも知られたくはなかった。ご両親だって君のその綺麗さ、可愛さに心配されたのだと思う。人攫いにでもあったら大変なことになるからね」
ーーまるでわたしが本当に綺麗な顔をしているように言う殿下の言葉が信じられなくて苦笑した。
◆ ◆ ◆
いつも読んでいただきありがとうございます。
【裏切られたあなたにもう二度と恋はしない】
久しぶりに辛く切ないお話を始めました。
よろしくお願いします。
1,036
お気に入りに追加
2,551
あなたにおすすめの小説
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる