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離縁してあげますわ!
【10】
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「さっきは煩くてすまなかった」
彼はわたしの言葉をまるで聞いていなかったかのように『離縁してあげますわ』とわたしが言った言葉を眉すら動かさずにスルーした。
いきなりの彼からの謝罪。
うーん、どう返事をする?一瞬悩んだ。
「わたしには害はなかったから。気にしていないわ」
とりあえず何もなかったかのようにわたしも返事をした。
うん、気にしていない、そう何も気にしてなんかいないもの。
「そうか」
ハンクスはなぜか傷ついた顔をした。
わたしの離縁の言葉は無視したくせに、どうしてこんな言葉に傷つくのかしら?
傷つくのはわたしの方だよね?
「仕事は?」
「うん、やっと落ち着いたわ。今日はお休みを頂いたの、明日からはまた書類の細かいところを手直ししないといけないから忙しくなりそうだわ」
「ジークハルト殿下と仕事を?」
「殿下からの依頼なのは確かね?殿下は財務省の責任者だもの」
そうつい最近殿下は財務省の筆頭になった。事務局長も殿下に従っている。わたしも最近は直接声をかけられる。
まあ、仕事のことだけど。
今回の特別予算を指示されたのも殿下が復興のため動いているのはもちろんだけど財務省の筆頭になって初めての大きな仕事と言うこともあって、彼はかなり張り切っている。
おかげでいつも以上にお尻を叩かれ急かされた。
もちろん領民達のためではあるけど。
「殿下は君との仕事を楽しんでるんじゃないか?」
「はっ?わたしとの仕事?わたしと殿下は仕事でもそんなに関わることはないわ。最近仕事の仕上がりについて聞かれたくらいでそんなに会うこともないし。元々お互い仲が良かったわけではないもの」
うん、殿下とはライバルではあったけど親しい友人ではなかった。
お互い一緒に過ごした記憶もないし、どちらかと言うとわたしが一方的に敵視していた気がする。
「ふうん、俺が聞いた話では、アリアは学生の時、殿下への好意を隠すことはなかったらしいと耳にしているけど?」
「好意?敵意ではなくて?」
「敵意?」
ハンクスは眉を顰めた。わたしの言葉が意外だったようだ。
「わたしにとって殿下は大きな壁だったの。どんなに乗り越えようとしても一度も乗り越えられなかったわ。どんなに努力しても一度も勝てなかった。学生時代常にテストの順位を甘んじて2位で過ごすしかなかったの」
思い出すだけで悔しい。どんなに必死で勉強しても敵うことはなかった。
わたしにとっての大きな壁。周囲がいくら殿下に憧れてもどんなに彼に好意を持ってもわたしにはただのにっくき人だった。
一度くらいは勝ってみたかった。
今なんて完全に彼の下で働くことになってしまって、もう敵視すらできない。
わたしなんかより優秀だと認めるしかない。
わたしが眉根を寄せて渋い顔をしているのをハンクスは不思議そうにみていた。
「それよりもハンクス、わたし達のこれからのことを話さない?」
「ミュエルとは別れた」
「そう……それがいいと思うわ。性欲を近くで発散させるのはあまりお勧めしないわ。ラーダン公爵家はあなたにとって、ううん、このマグレース子爵家にとって忠誠を誓った大切なお方でしょう?その公爵家で問題を起こすようなことは避けるべきだと思うわ」
「君自身は何も思わないのか?」
「どうして?あなたが誰と付き合おうと何をしようととやかく言うつもりはないわ。それは結婚した時に約束をしたのではなかったかしら?」
そう、わたし達は恋愛結婚だった。だからこそお互いに束縛しないように約束した。
それはハンクスの仕事上、早朝や夜中でも急な呼び出しもあるし、当直で屋敷に泊まることも多いし、公爵について領地へと向かえば数ヶ月家を空けることもある。
わたしも仕事を優先することも多く、互いに束縛はしないと約束していた。
まだ彼に愛されていると信じていた頃。彼が仕事上、女性と親しく話すこともあるけど信じて欲しい。
それは仕事だから、変な関係ではないと言っていた。
執事の仕事上、メイドや侍女達とも話すことも多く、共に公爵について行動することも多いと話してくれたし、男爵家の我が家でも執事とメイドを連れて外出することがお父様もあったからそれに関しては理解していた。
だけど、わたしの部屋で……
「ハンクスはわざとわたしの部屋であんなことをしたのよね?」
「…………」
彼は黙っていた。
否定はしないのね?
彼はわたしの言葉をまるで聞いていなかったかのように『離縁してあげますわ』とわたしが言った言葉を眉すら動かさずにスルーした。
いきなりの彼からの謝罪。
うーん、どう返事をする?一瞬悩んだ。
「わたしには害はなかったから。気にしていないわ」
とりあえず何もなかったかのようにわたしも返事をした。
うん、気にしていない、そう何も気にしてなんかいないもの。
「そうか」
ハンクスはなぜか傷ついた顔をした。
わたしの離縁の言葉は無視したくせに、どうしてこんな言葉に傷つくのかしら?
傷つくのはわたしの方だよね?
「仕事は?」
「うん、やっと落ち着いたわ。今日はお休みを頂いたの、明日からはまた書類の細かいところを手直ししないといけないから忙しくなりそうだわ」
「ジークハルト殿下と仕事を?」
「殿下からの依頼なのは確かね?殿下は財務省の責任者だもの」
そうつい最近殿下は財務省の筆頭になった。事務局長も殿下に従っている。わたしも最近は直接声をかけられる。
まあ、仕事のことだけど。
今回の特別予算を指示されたのも殿下が復興のため動いているのはもちろんだけど財務省の筆頭になって初めての大きな仕事と言うこともあって、彼はかなり張り切っている。
おかげでいつも以上にお尻を叩かれ急かされた。
もちろん領民達のためではあるけど。
「殿下は君との仕事を楽しんでるんじゃないか?」
「はっ?わたしとの仕事?わたしと殿下は仕事でもそんなに関わることはないわ。最近仕事の仕上がりについて聞かれたくらいでそんなに会うこともないし。元々お互い仲が良かったわけではないもの」
うん、殿下とはライバルではあったけど親しい友人ではなかった。
お互い一緒に過ごした記憶もないし、どちらかと言うとわたしが一方的に敵視していた気がする。
「ふうん、俺が聞いた話では、アリアは学生の時、殿下への好意を隠すことはなかったらしいと耳にしているけど?」
「好意?敵意ではなくて?」
「敵意?」
ハンクスは眉を顰めた。わたしの言葉が意外だったようだ。
「わたしにとって殿下は大きな壁だったの。どんなに乗り越えようとしても一度も乗り越えられなかったわ。どんなに努力しても一度も勝てなかった。学生時代常にテストの順位を甘んじて2位で過ごすしかなかったの」
思い出すだけで悔しい。どんなに必死で勉強しても敵うことはなかった。
わたしにとっての大きな壁。周囲がいくら殿下に憧れてもどんなに彼に好意を持ってもわたしにはただのにっくき人だった。
一度くらいは勝ってみたかった。
今なんて完全に彼の下で働くことになってしまって、もう敵視すらできない。
わたしなんかより優秀だと認めるしかない。
わたしが眉根を寄せて渋い顔をしているのをハンクスは不思議そうにみていた。
「それよりもハンクス、わたし達のこれからのことを話さない?」
「ミュエルとは別れた」
「そう……それがいいと思うわ。性欲を近くで発散させるのはあまりお勧めしないわ。ラーダン公爵家はあなたにとって、ううん、このマグレース子爵家にとって忠誠を誓った大切なお方でしょう?その公爵家で問題を起こすようなことは避けるべきだと思うわ」
「君自身は何も思わないのか?」
「どうして?あなたが誰と付き合おうと何をしようととやかく言うつもりはないわ。それは結婚した時に約束をしたのではなかったかしら?」
そう、わたし達は恋愛結婚だった。だからこそお互いに束縛しないように約束した。
それはハンクスの仕事上、早朝や夜中でも急な呼び出しもあるし、当直で屋敷に泊まることも多いし、公爵について領地へと向かえば数ヶ月家を空けることもある。
わたしも仕事を優先することも多く、互いに束縛はしないと約束していた。
まだ彼に愛されていると信じていた頃。彼が仕事上、女性と親しく話すこともあるけど信じて欲しい。
それは仕事だから、変な関係ではないと言っていた。
執事の仕事上、メイドや侍女達とも話すことも多く、共に公爵について行動することも多いと話してくれたし、男爵家の我が家でも執事とメイドを連れて外出することがお父様もあったからそれに関しては理解していた。
だけど、わたしの部屋で……
「ハンクスはわざとわたしの部屋であんなことをしたのよね?」
「…………」
彼は黙っていた。
否定はしないのね?
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