あなたとの離縁を目指します

たろ

文字の大きさ
上 下
49 / 153
二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。

【27】

しおりを挟む
「セデン、急いでください!」

 イリアナが俺に声をかけてくれた。
 少しだけ戸惑ったが「わかった!」と返事をしてオーグの後を追った。

 昼間だというのに空が暗い。鳥達の鳴き声があまりにも騒がしい。

 嫌な予感がする。




 小屋の中に入ると幼い頃のままだった。

「………なつかしい」
 思わず声が出た。ここで暮らした時間は一年だけだった。それでも、忘れることはできなかった。

 毎回俺を忘れたイリアナがニコニコしながら
『初めまして、イリアナと申します』
 とスカートをひとつまみしてにこっと挨拶をした。その顔がとても可愛かった。

『一緒に遊ぼう』
 俺の言葉に『うん』とはにかみながら笑うイリアナ。

 どんなに忘れられてもまた仲良くなる。イリアナが俺を忘れても俺はどんな話をしたのか何をして遊んだのか覚えている。

 イリアナが好きなチョコのカップケーキ、イリアナの好きな野苺のある場所、イリアナが好きな探検ごっこ、ここに来てイリアナの幼い頃の姿を思い出す。

 もちろんイリアナには俺の記憶なんてあるわけがない。それに巻き戻し前の俺の嫌な記憶だけが残っているだろう。

 今回だって会おうともしない俺に不信感しかないだろう。さらに最後はイリアナが信頼していた侍女と抱き合いキスをする姿を見せてしまった。

「セデン、タオルを」
 いつの間にか雨に打たれ服が濡れていた。

「あ、ありがとう」
 イリアナは何も言わずに俺にタオルを渡すと俺から離れて椅子に座って窓の方へと視線を向けた。

 オーグはキッチンから温かいミルクを持ってきて「飲め」と俺のそばにもコップを置いてくれた。

「この雨は……」
 俺が言葉を発するとオーグが顔を顰めた。

「マリーンがやって来るぞ、俺の魔法はマリーンには効かない。アレは黒魔法の使い手だ……イリアナ……逃げろ」

「何処へ?オーグが勝てないのに逃げても仕方ない……よ……それに、わたし逃げたくない」

 イリアナの目は恐怖よりも怒っているように見えた。

「マリーンは何をするかわからない。アイリーンがお前にしてきたことなんかまだマシな方だ。あの女は狂ってる」



「あら?失礼なことを言うわね?」

 突然の声に驚いた。
 少しずつ薄くぼやけていた姿がハッキリと現れて……目の前には40歳を過ぎたくらいの目の吊り上がった女性が立っていた。

「マリーン、もう二度と俺の前に姿を見せるなと言ったはずだ」

「そんな約束した覚えはないわ……わたしの娘…アイリーンを拘束して牢にぶち込んでくれた坊ちゃん?イリアナの命が欲しかったら解放するように命令しな」

 マリーンと言う魔女は俺を見てニヤッと笑った。

「自分で助け出せばいいじゃないか」

 イリアナはマリーンに捕まってはいないし、殺されそうになってなどいない。椅子に座っているし隣でオーグが守っていた。

「ふん、お前がアイリーンにつけた錠はわたしには触れないんだ、わかって言ってるだろう?」

 確かにあの魔力を封じる錠はアイリーンやマリーンにとっては弱点でしかない。黒魔術を封じるためのものだ。でもここまで効果があるとは思わなかった。

「だけど城には手が出せないがイリアナ達には簡単に手が出せるんだ」

 イリアナとオーグをよく見ると二人がその場所にじっとしているわけではなかった。固まったまま動けずにいた。

「イリアナ?オーグ?」

「……逃げ……て」

 イリアナが微かな声で呟いた。

 オーグの言う通りアイリーンの黒魔法にオーグは抵抗できずにいた。

 ーーくそっ












 ✴︎✴︎ ✴︎✴︎ ✴︎✴︎



 ーーセデン……どうしてここに来たの?

 ミーナは?アイリーン様は?

 彼に聞きたいことは沢山あるのに驚き声が出なかった。

 それでも濡れていた服を拭いてもらうために彼にタオルを渡した。

 彼がこの小屋にいる。

 なんだか不思議。まだ大きくなってもいない、存在すら感じていないお腹の中の赤ちゃん。

 なのにお腹がふわっと一瞬暖かく感じた。

 オーグはぶっきらぼうにホットミルクをセデンに差し出した。

 3人でミルクを飲み温まっていると、オーグが突然目を見開いた。

「マリーンがやって来るぞ、俺の魔法はマリーンには効かない。アレは黒魔法の使い手だ……イリアナ……逃げろ」

「何処へ?オーグが勝てないのに逃げても仕方ない……よ……それに、わたし逃げたくない」

 ここに逃げてきたんだよ?オーグと赤ちゃんと3人で暮らすために。
 アイリーン様にも会ったことはないマリーンさんにも腹が立った。

 わたしが何をしたと言うの?

「マリーンは何をするかわからない。アイリーンがお前にしてきたことなんかまだマシな方だ。あの女は狂ってる」










 ◆ ◆ ◆

 な、なんとか熱が下がりました。咳が今度は……

皆様夏風邪にはお気をつけください。😱

そしてお待たせいたしました。少しずつ更新していきたいと思います。

宜しくお願いします。


しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。

あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。 願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。 王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。 わあああぁ  人々の歓声が上がる。そして王は言った。 「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」 誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。 「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」 彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈 
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

愛は見えないものだから

豆狸
恋愛
愛は見えないものです。本当のことはだれにもわかりません。 わかりませんが……私が殿下に愛されていないのは確かだと思うのです。

〖完結〗ご存知ないようですが、父ではなく私が侯爵です。

藍川みいな
恋愛
タイトル変更しました。 「モニカ、すまない。俺は、本物の愛を知ってしまったんだ! だから、君とは結婚出来ない!」 十七歳の誕生日、七年間婚約をしていたルーファス様に婚約を破棄されてしまった。本物の愛の相手とは、義姉のサンドラ。サンドラは、私の全てを奪っていった。 父は私を見ようともせず、義母には理不尽に殴られる。 食事は日が経って固くなったパン一つ。そんな生活が、三年間続いていた。 父はただの侯爵代理だということを、義母もサンドラも気付いていない。あと一年で、私は正式な侯爵となる。 その時、あなた達は後悔することになる。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...