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二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。
【27】
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「セデン、急いでください!」
イリアナが俺に声をかけてくれた。
少しだけ戸惑ったが「わかった!」と返事をしてオーグの後を追った。
昼間だというのに空が暗い。鳥達の鳴き声があまりにも騒がしい。
嫌な予感がする。
小屋の中に入ると幼い頃のままだった。
「………なつかしい」
思わず声が出た。ここで暮らした時間は一年だけだった。それでも、忘れることはできなかった。
毎回俺を忘れたイリアナがニコニコしながら
『初めまして、イリアナと申します』
とスカートをひとつまみしてにこっと挨拶をした。その顔がとても可愛かった。
『一緒に遊ぼう』
俺の言葉に『うん』とはにかみながら笑うイリアナ。
どんなに忘れられてもまた仲良くなる。イリアナが俺を忘れても俺はどんな話をしたのか何をして遊んだのか覚えている。
イリアナが好きなチョコのカップケーキ、イリアナの好きな野苺のある場所、イリアナが好きな探検ごっこ、ここに来てイリアナの幼い頃の姿を思い出す。
もちろんイリアナには俺の記憶なんてあるわけがない。それに巻き戻し前の俺の嫌な記憶だけが残っているだろう。
今回だって会おうともしない俺に不信感しかないだろう。さらに最後はイリアナが信頼していた侍女と抱き合いキスをする姿を見せてしまった。
「セデン、タオルを」
いつの間にか雨に打たれ服が濡れていた。
「あ、ありがとう」
イリアナは何も言わずに俺にタオルを渡すと俺から離れて椅子に座って窓の方へと視線を向けた。
オーグはキッチンから温かいミルクを持ってきて「飲め」と俺のそばにもコップを置いてくれた。
「この雨は……」
俺が言葉を発するとオーグが顔を顰めた。
「マリーンがやって来るぞ、俺の魔法はマリーンには効かない。アレは黒魔法の使い手だ……イリアナ……逃げろ」
「何処へ?オーグが勝てないのに逃げても仕方ない……よ……それに、わたし逃げたくない」
イリアナの目は恐怖よりも怒っているように見えた。
「マリーンは何をするかわからない。アイリーンがお前にしてきたことなんかまだマシな方だ。あの女は狂ってる」
「あら?失礼なことを言うわね?」
突然の声に驚いた。
少しずつ薄くぼやけていた姿がハッキリと現れて……目の前には40歳を過ぎたくらいの目の吊り上がった女性が立っていた。
「マリーン、もう二度と俺の前に姿を見せるなと言ったはずだ」
「そんな約束した覚えはないわ……わたしの娘…アイリーンを拘束して牢にぶち込んでくれた坊ちゃん?イリアナの命が欲しかったら解放するように命令しな」
マリーンと言う魔女は俺を見てニヤッと笑った。
「自分で助け出せばいいじゃないか」
イリアナはマリーンに捕まってはいないし、殺されそうになってなどいない。椅子に座っているし隣でオーグが守っていた。
「ふん、お前がアイリーンにつけた錠はわたしには触れないんだ、わかって言ってるだろう?」
確かにあの魔力を封じる錠はアイリーンやマリーンにとっては弱点でしかない。黒魔術を封じるためのものだ。でもここまで効果があるとは思わなかった。
「だけど城には手が出せないがイリアナ達には簡単に手が出せるんだ」
イリアナとオーグをよく見ると二人がその場所にじっとしているわけではなかった。固まったまま動けずにいた。
「イリアナ?オーグ?」
「……逃げ……て」
イリアナが微かな声で呟いた。
オーグの言う通りアイリーンの黒魔法にオーグは抵抗できずにいた。
ーーくそっ
✴︎✴︎ ✴︎✴︎ ✴︎✴︎
ーーセデン……どうしてここに来たの?
ミーナは?アイリーン様は?
彼に聞きたいことは沢山あるのに驚き声が出なかった。
それでも濡れていた服を拭いてもらうために彼にタオルを渡した。
彼がこの小屋にいる。
なんだか不思議。まだ大きくなってもいない、存在すら感じていないお腹の中の赤ちゃん。
なのにお腹がふわっと一瞬暖かく感じた。
オーグはぶっきらぼうにホットミルクをセデンに差し出した。
3人でミルクを飲み温まっていると、オーグが突然目を見開いた。
「マリーンがやって来るぞ、俺の魔法はマリーンには効かない。アレは黒魔法の使い手だ……イリアナ……逃げろ」
「何処へ?オーグが勝てないのに逃げても仕方ない……よ……それに、わたし逃げたくない」
ここに逃げてきたんだよ?オーグと赤ちゃんと3人で暮らすために。
アイリーン様にも会ったことはないマリーンさんにも腹が立った。
わたしが何をしたと言うの?
「マリーンは何をするかわからない。アイリーンがお前にしてきたことなんかまだマシな方だ。あの女は狂ってる」
◆ ◆ ◆
な、なんとか熱が下がりました。咳が今度は……
皆様夏風邪にはお気をつけください。😱
そしてお待たせいたしました。少しずつ更新していきたいと思います。
宜しくお願いします。
イリアナが俺に声をかけてくれた。
少しだけ戸惑ったが「わかった!」と返事をしてオーグの後を追った。
昼間だというのに空が暗い。鳥達の鳴き声があまりにも騒がしい。
嫌な予感がする。
小屋の中に入ると幼い頃のままだった。
「………なつかしい」
思わず声が出た。ここで暮らした時間は一年だけだった。それでも、忘れることはできなかった。
毎回俺を忘れたイリアナがニコニコしながら
『初めまして、イリアナと申します』
とスカートをひとつまみしてにこっと挨拶をした。その顔がとても可愛かった。
『一緒に遊ぼう』
俺の言葉に『うん』とはにかみながら笑うイリアナ。
どんなに忘れられてもまた仲良くなる。イリアナが俺を忘れても俺はどんな話をしたのか何をして遊んだのか覚えている。
イリアナが好きなチョコのカップケーキ、イリアナの好きな野苺のある場所、イリアナが好きな探検ごっこ、ここに来てイリアナの幼い頃の姿を思い出す。
もちろんイリアナには俺の記憶なんてあるわけがない。それに巻き戻し前の俺の嫌な記憶だけが残っているだろう。
今回だって会おうともしない俺に不信感しかないだろう。さらに最後はイリアナが信頼していた侍女と抱き合いキスをする姿を見せてしまった。
「セデン、タオルを」
いつの間にか雨に打たれ服が濡れていた。
「あ、ありがとう」
イリアナは何も言わずに俺にタオルを渡すと俺から離れて椅子に座って窓の方へと視線を向けた。
オーグはキッチンから温かいミルクを持ってきて「飲め」と俺のそばにもコップを置いてくれた。
「この雨は……」
俺が言葉を発するとオーグが顔を顰めた。
「マリーンがやって来るぞ、俺の魔法はマリーンには効かない。アレは黒魔法の使い手だ……イリアナ……逃げろ」
「何処へ?オーグが勝てないのに逃げても仕方ない……よ……それに、わたし逃げたくない」
イリアナの目は恐怖よりも怒っているように見えた。
「マリーンは何をするかわからない。アイリーンがお前にしてきたことなんかまだマシな方だ。あの女は狂ってる」
「あら?失礼なことを言うわね?」
突然の声に驚いた。
少しずつ薄くぼやけていた姿がハッキリと現れて……目の前には40歳を過ぎたくらいの目の吊り上がった女性が立っていた。
「マリーン、もう二度と俺の前に姿を見せるなと言ったはずだ」
「そんな約束した覚えはないわ……わたしの娘…アイリーンを拘束して牢にぶち込んでくれた坊ちゃん?イリアナの命が欲しかったら解放するように命令しな」
マリーンと言う魔女は俺を見てニヤッと笑った。
「自分で助け出せばいいじゃないか」
イリアナはマリーンに捕まってはいないし、殺されそうになってなどいない。椅子に座っているし隣でオーグが守っていた。
「ふん、お前がアイリーンにつけた錠はわたしには触れないんだ、わかって言ってるだろう?」
確かにあの魔力を封じる錠はアイリーンやマリーンにとっては弱点でしかない。黒魔術を封じるためのものだ。でもここまで効果があるとは思わなかった。
「だけど城には手が出せないがイリアナ達には簡単に手が出せるんだ」
イリアナとオーグをよく見ると二人がその場所にじっとしているわけではなかった。固まったまま動けずにいた。
「イリアナ?オーグ?」
「……逃げ……て」
イリアナが微かな声で呟いた。
オーグの言う通りアイリーンの黒魔法にオーグは抵抗できずにいた。
ーーくそっ
✴︎✴︎ ✴︎✴︎ ✴︎✴︎
ーーセデン……どうしてここに来たの?
ミーナは?アイリーン様は?
彼に聞きたいことは沢山あるのに驚き声が出なかった。
それでも濡れていた服を拭いてもらうために彼にタオルを渡した。
彼がこの小屋にいる。
なんだか不思議。まだ大きくなってもいない、存在すら感じていないお腹の中の赤ちゃん。
なのにお腹がふわっと一瞬暖かく感じた。
オーグはぶっきらぼうにホットミルクをセデンに差し出した。
3人でミルクを飲み温まっていると、オーグが突然目を見開いた。
「マリーンがやって来るぞ、俺の魔法はマリーンには効かない。アレは黒魔法の使い手だ……イリアナ……逃げろ」
「何処へ?オーグが勝てないのに逃げても仕方ない……よ……それに、わたし逃げたくない」
ここに逃げてきたんだよ?オーグと赤ちゃんと3人で暮らすために。
アイリーン様にも会ったことはないマリーンさんにも腹が立った。
わたしが何をしたと言うの?
「マリーンは何をするかわからない。アイリーンがお前にしてきたことなんかまだマシな方だ。あの女は狂ってる」
◆ ◆ ◆
な、なんとか熱が下がりました。咳が今度は……
皆様夏風邪にはお気をつけください。😱
そしてお待たせいたしました。少しずつ更新していきたいと思います。
宜しくお願いします。
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