44 / 156
二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。
【22】
しおりを挟むイリアナが目の前で矢に撃たれ死んだ。
『離縁しましょう』
彼女の言葉がそれまで灰色に染まっていた景色が、俺の澱んだ心が、スッキリとして周囲が色鮮やかに明るくなった。
そして……
『駄目だ。君とは離縁はしない』
『どうして?愛していないのならわたしを解放してください!』
イリアナの必死な言葉。だけどそれは受け入れられない。
だって………
『僕は……君を……』
俺が最後の言葉を言う前に
『あっ……』
イリアナは胸に矢を射られ心臓を貫かれた。
俺の目の前で死んでいこうとしている。
『イリアナぁ!死ぬな!目を閉じないで、愛しているんだ!ずっと君だけを』
どうして俺はアイリーンに入れ込み現を抜かしたのか。
俺が叫び泣いている横にアイリーンはやって来た。
『ほんと邪魔だったのよね。イリアナ!でも死んじゃうと虐められないから殺したのはわたしではないわ』
アイリーンはニヤッと嗤った。
『俺たちから離れろ!出て行け!』
怒りの感情が湧く。
愛してもいないアイリーンを俺は何度も抱いた。
イリアナの見えるところでも。彼女の目の前でアイリーンに何度愛を囁いただろう。
イリアナに対してどれだけのことをしてきたのか。
思い出すだけで胸が痛くなり吐き気がしてきた。
いっそ死んでしまいたい。
イリアナのいない世界など俺には必要ない。
俺はイリアナの体を抱きかかえてそのままベランダから飛び降りた。
怖い夢を見た。
目覚めるといつもの部屋にいた。
重たい体をなんとか起こしてベッドの壁に体を委ね膝を抱えてボーッとしていた。
ーー今は『いつ』なんだろう……
時間が巻き戻ったことはすぐ理解した。
ベランダを飛び降りた時、オーグが俺の頭の中で叫んだ。
『セデン、時間を巻き戻す!だがお前を許したわけではない!イリアナにはもう近づくな!次はイリアナを幸せにしてやりたいんだ』
愛する妻と過ごしていた部屋にはもう行くことはない。
俺はイリアナとは別の部屋で過ごすことにした。
もう彼女と接触することが怖かった。
(また不幸にしてしまう)
政略結婚だった。
イリアナが暮らすマルワ国は小さな国。
援助と引き換えにイリアナはジョワンナ国に嫁いだ。
マルワ国の王女として生まれ、わずかばかりの癒しの力を我が国が欲しがった。聖女と言われるほどの力はない。ほんの少し魔力がありほんの少し治癒力があるだけ。
そんなイリアナを欲した王がマルワ国に金銭援助を申し入れ彼女は身売りされた。
多分イリアナはそう思っているだろう。
本当は俺が彼女を欲して妻にと迎えたのに。
マルワ国ではイリアナは虐げられていた。俺がただ妻にと彼女を望めば妹のマルチナをと挿げ替えられてしまう可能性が強かった。
聖女と名高いマルチナ嬢。
美しく聡明で国民に愛されている王女。
ジョワンナ国は大国で弱小のマルワ国にとっては喉から手が出るほど俺の妃の立場を欲していた。
だから金銭的援助をする代わりに従わせイリアナを人質代わりに妻として迎えることを提案した。
イリアナの厄介払いになるし、大切なマルチナ嬢を人質にしないで済むと喜んでマルワ国は差し出した。
嫁いでからのイリアナは何も知らされていないため怯える日々が続いた。だからできるだけそばに寄り添いいろんなことを教えた。
やっと笑顔も出始め、なんとかジョワンナ国で暮らしていけるかもしれないと自信がつき始めた頃、俺は何故か妃としてアイリーン様を第二妃として迎えた。
それからの俺はイリアナのことなど忘れたかのようにアイリーンの元に通うようになった。
今ならそれがおかしいと言うことがわかる。だけど巻き戻しの前は、アイリーンを見ると何も考えられなくなりイリアナをみると見下してしまう。
側近のレンを呼んだ。
「イリアナは?」
「多分部屋で大人しくしていると思いますが?」
ーーこの頃は……アイリーンがまだ嫁いできていないはず……なのにイリアナは嫁いできてからずっとこの城の中でも冷遇された。
俺がそばにいればそれなりに周りも対応するのだが俺のいない時は酷いものだった。
なんとかしようと動いたがイリアナから離れると彼女への愛情が薄れてしまう。共に食事をするようにして、その時だけはイリアナを愛していることを感じる。
そして少し時間が経つとイリアナへの愛情が薄れる。そんな繰り返しの生活からアイリーンが妻になるとイリアナのことを鬱陶しく感じ、イリアナが悲しむ姿をほくそ笑む自分がいた。
1,223
お気に入りに追加
2,631
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約破棄のその先は
フジ
恋愛
好きで好きでたまらなかった人と婚約した。その人と釣り合うために勉強も社交界も頑張った。
でも、それももう限界。その人には私より大切な幼馴染がいるから。
ごめんなさい、一緒に湖にいこうって約束したのに。もうマリー様と3人で過ごすのは辛いの。
ごめんなさい、まだ貴方に借りた本が読めてないの。だってマリー様が好きだから貸してくれたのよね。
私はマリー様の友人以外で貴方に必要とされているのかしら?
貴方と会うときは必ずマリー様ともご一緒。マリー様は好きよ?でも、2人の時間はどこにあるの?それは我が儘って貴方は言うけど…
もう疲れたわ。ごめんなさい。
完結しました
ありがとうございます!
※番外編を少しずつ書いていきます。その人にまつわるエピソードなので長さが統一されていません。もし、この人の過去が気になる!というのがありましたら、感想にお書きください!なるべくその人の話を中心にかかせていただきます!
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木あかり
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる