29 / 156
二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。
【7】
しおりを挟む
治療が一通り終わり、「ふーっ」とため息をついた。
「お疲れ様でした」
レンは帰らずにずっとわたしを観察していたらしい。
無視していたので彼の存在など気にも留めなかったのに。
ーーまだいたのね。
ついでだからレンに向かって話しかけた。
「王妃様にいつもの仕事をさせていただきたいのですが?」
「僕は王妃様のことはわからないけど、うーん、でも、あそこに王妃様の護衛がいるから聞いてみたら?」
「わかったわ」
確かにわたしを見張るように王妃の護衛騎士が立っていた。
「今日の仕事を今からしてもよろしいかしら?」
「どうぞ」
無愛想な返事に苦笑しながらも王妃の部屋へと向かった。
騎士に案内され、通い慣れた王妃の部屋へと入る。
のんびりと豪華なソファに優雅に座る王妃。
「さっさとしなさい」
威圧的にわたしにそう言うと、汚らしいものでも見るかのようにわたしを見た。
手を顔に翳して柔らかい魔力をそっと流す。
癒しの力が彼女の肌を生き返らせる。
終わった瞬間、「もういいわ、目障りだから出てお行き!」と振り払われた。
ーーはあ、この国はこんな王妃でよく成り立っているわ。
セデンの顔を思い出した。
ーー今日もお会いしていないわね。
巻き戻ってからまだ会っていない。会った時わたしは彼に対してどう感じるのだろう。
今はもう愛情なんてない……そう思っているのに、もし、まだ優しくされたら……彼への恋心が戻ってくるのかしら?
今はあの辛い日々の思い出しか心に残っていない。アイリーン妃とセデンの仲睦まじい姿、わたしを嘲笑う姿しか思い出せない。
自分の部屋に戻り、いつものように机に積まれた仕事を始めた。
今日もまた寝る時間が遅くなりそう。
ねぇオーグ、リンデの森へ行きたいわ。
またオーグが作るきのこのシチューを食べたい。
オーグの家の2階の窓から見える夜の星々をゆっくりと眺めていたい。
オーグの少し音がハズレた歌を聴きたい。
オーグの笑い声を聴きたい。
わたしの頭を優しく撫でて欲しい。
リンデの森はこの国からどれくらいかかるのだろう。わたしはこの城から出たことがない。
リンデの森はマルワ国から外れた場所にある。
ジョワンナ国からリンデの森までどれくらいの距離があるのか、どのくらい時間がかかるのか。歩いていけるのか。
ねぇ、オーグ。せっかく時が戻ったのだからあなたにもう一度会いたい。
なんとか今日の仕事を終わらせてぐったりと机に顔を埋めた。
「ああ、今日も逃げ出せなかった……」
とりあえず書庫へ行こう。
廊下を出て書庫へと向かった。
指をパチンと軽く鳴らせば仄かな光が現れた。
「何処にあるのかしら?」
探すのは地図。ただ広い書庫、何処にあるのか探すだけで数日かかりそうだわ。
黙々と本の背表紙を確認していく。
「あー、ない……」
「何がないの?」
「えっ?」恐る恐る振り返ると……
「マルセル殿下……」
ーーやばい、やばい、な、なんて言えばいいの?
「あ、あの、マルワ国の地図を……懐かしくて……ゆっくりと地図を見ながら思い出に耽って過ごしたいなって……」
しどろもどろになりながらもなんとか言い訳を言えた。
「ふうん、あなたにとってマルワ国が懐かしく感じるんだ?」
「いい思い出はないわ……それでも、あの景色を思い出すわ、子供達の笑い声や城で話をする人たちの笑顔、それに窓から見える景色もこことは違うもの。もちろん着る服だって違うわ」
「へぇ、君はいつも笑わないし俯いてばかりだったのに……魔力が強くなってから自信が出てきたのかな?顔つきが変わったよね?」
「わからないわ……何処にいてもわたしは必要とされない無能な人間だから……
でも、少しでいいから、自分の気持ちに素直になりたい……」
ーー自由になりたいの。
「今のあなたは、僕は好きだよ?」
「あ、……ありがとう⁈」
マルセル殿下の言葉になんだかドキドキした。本気で好きだと言われたわけではない。ただ……少し認めてもらえた気がした。
無能な妃ではなく、イリアナとして。
「お疲れ様でした」
レンは帰らずにずっとわたしを観察していたらしい。
無視していたので彼の存在など気にも留めなかったのに。
ーーまだいたのね。
ついでだからレンに向かって話しかけた。
「王妃様にいつもの仕事をさせていただきたいのですが?」
「僕は王妃様のことはわからないけど、うーん、でも、あそこに王妃様の護衛がいるから聞いてみたら?」
「わかったわ」
確かにわたしを見張るように王妃の護衛騎士が立っていた。
「今日の仕事を今からしてもよろしいかしら?」
「どうぞ」
無愛想な返事に苦笑しながらも王妃の部屋へと向かった。
騎士に案内され、通い慣れた王妃の部屋へと入る。
のんびりと豪華なソファに優雅に座る王妃。
「さっさとしなさい」
威圧的にわたしにそう言うと、汚らしいものでも見るかのようにわたしを見た。
手を顔に翳して柔らかい魔力をそっと流す。
癒しの力が彼女の肌を生き返らせる。
終わった瞬間、「もういいわ、目障りだから出てお行き!」と振り払われた。
ーーはあ、この国はこんな王妃でよく成り立っているわ。
セデンの顔を思い出した。
ーー今日もお会いしていないわね。
巻き戻ってからまだ会っていない。会った時わたしは彼に対してどう感じるのだろう。
今はもう愛情なんてない……そう思っているのに、もし、まだ優しくされたら……彼への恋心が戻ってくるのかしら?
今はあの辛い日々の思い出しか心に残っていない。アイリーン妃とセデンの仲睦まじい姿、わたしを嘲笑う姿しか思い出せない。
自分の部屋に戻り、いつものように机に積まれた仕事を始めた。
今日もまた寝る時間が遅くなりそう。
ねぇオーグ、リンデの森へ行きたいわ。
またオーグが作るきのこのシチューを食べたい。
オーグの家の2階の窓から見える夜の星々をゆっくりと眺めていたい。
オーグの少し音がハズレた歌を聴きたい。
オーグの笑い声を聴きたい。
わたしの頭を優しく撫でて欲しい。
リンデの森はこの国からどれくらいかかるのだろう。わたしはこの城から出たことがない。
リンデの森はマルワ国から外れた場所にある。
ジョワンナ国からリンデの森までどれくらいの距離があるのか、どのくらい時間がかかるのか。歩いていけるのか。
ねぇ、オーグ。せっかく時が戻ったのだからあなたにもう一度会いたい。
なんとか今日の仕事を終わらせてぐったりと机に顔を埋めた。
「ああ、今日も逃げ出せなかった……」
とりあえず書庫へ行こう。
廊下を出て書庫へと向かった。
指をパチンと軽く鳴らせば仄かな光が現れた。
「何処にあるのかしら?」
探すのは地図。ただ広い書庫、何処にあるのか探すだけで数日かかりそうだわ。
黙々と本の背表紙を確認していく。
「あー、ない……」
「何がないの?」
「えっ?」恐る恐る振り返ると……
「マルセル殿下……」
ーーやばい、やばい、な、なんて言えばいいの?
「あ、あの、マルワ国の地図を……懐かしくて……ゆっくりと地図を見ながら思い出に耽って過ごしたいなって……」
しどろもどろになりながらもなんとか言い訳を言えた。
「ふうん、あなたにとってマルワ国が懐かしく感じるんだ?」
「いい思い出はないわ……それでも、あの景色を思い出すわ、子供達の笑い声や城で話をする人たちの笑顔、それに窓から見える景色もこことは違うもの。もちろん着る服だって違うわ」
「へぇ、君はいつも笑わないし俯いてばかりだったのに……魔力が強くなってから自信が出てきたのかな?顔つきが変わったよね?」
「わからないわ……何処にいてもわたしは必要とされない無能な人間だから……
でも、少しでいいから、自分の気持ちに素直になりたい……」
ーー自由になりたいの。
「今のあなたは、僕は好きだよ?」
「あ、……ありがとう⁈」
マルセル殿下の言葉になんだかドキドキした。本気で好きだと言われたわけではない。ただ……少し認めてもらえた気がした。
無能な妃ではなく、イリアナとして。
1,165
お気に入りに追加
2,631
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約破棄のその先は
フジ
恋愛
好きで好きでたまらなかった人と婚約した。その人と釣り合うために勉強も社交界も頑張った。
でも、それももう限界。その人には私より大切な幼馴染がいるから。
ごめんなさい、一緒に湖にいこうって約束したのに。もうマリー様と3人で過ごすのは辛いの。
ごめんなさい、まだ貴方に借りた本が読めてないの。だってマリー様が好きだから貸してくれたのよね。
私はマリー様の友人以外で貴方に必要とされているのかしら?
貴方と会うときは必ずマリー様ともご一緒。マリー様は好きよ?でも、2人の時間はどこにあるの?それは我が儘って貴方は言うけど…
もう疲れたわ。ごめんなさい。
完結しました
ありがとうございます!
※番外編を少しずつ書いていきます。その人にまつわるエピソードなので長さが統一されていません。もし、この人の過去が気になる!というのがありましたら、感想にお書きください!なるべくその人の話を中心にかかせていただきます!
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木あかり
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる