あなたとの離縁を目指します

たろ

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二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。

【7】

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 治療が一通り終わり、「ふーっ」とため息をついた。

「お疲れ様でした」
 レンは帰らずにずっとわたしを観察していたらしい。
 無視していたので彼の存在など気にも留めなかったのに。
 ーーまだいたのね。

 ついでだからレンに向かって話しかけた。

「王妃様にいつもの仕事をさせていただきたいのですが?」

「僕は王妃様のことはわからないけど、うーん、でも、あそこに王妃様の護衛がいるから聞いてみたら?」

「わかったわ」

 確かにわたしを見張るように王妃の護衛騎士が立っていた。

「今日の仕事を今からしてもよろしいかしら?」

「どうぞ」
 無愛想な返事に苦笑しながらも王妃の部屋へと向かった。

 騎士に案内され、通い慣れた王妃の部屋へと入る。


 のんびりと豪華なソファに優雅に座る王妃。

「さっさとしなさい」
 威圧的にわたしにそう言うと、汚らしいものでも見るかのようにわたしを見た。

 手を顔に翳して柔らかい魔力をそっと流す。
 癒しの力が彼女の肌を生き返らせる。

 終わった瞬間、「もういいわ、目障りだから出てお行き!」と振り払われた。

 ーーはあ、この国はこんな王妃でよく成り立っているわ。

 セデンの顔を思い出した。

 ーー今日もお会いしていないわね。

 巻き戻ってからまだ会っていない。会った時わたしは彼に対してどう感じるのだろう。
 今はもう愛情なんてない……そう思っているのに、もし、まだ優しくされたら……彼への恋心が戻ってくるのかしら?

 今はあの辛い日々の思い出しか心に残っていない。アイリーン妃とセデンの仲睦まじい姿、わたしを嘲笑う姿しか思い出せない。

 自分の部屋に戻り、いつものように机に積まれた仕事を始めた。

 今日もまた寝る時間が遅くなりそう。

 ねぇオーグ、リンデの森へ行きたいわ。

 またオーグが作るきのこのシチューを食べたい。
 オーグの家の2階の窓から見える夜の星々をゆっくりと眺めていたい。
 オーグの少し音がハズレた歌を聴きたい。
 オーグの笑い声を聴きたい。
 わたしの頭を優しく撫でて欲しい。

 リンデの森はこの国からどれくらいかかるのだろう。わたしはこの城から出たことがない。

 リンデの森はマルワ国から外れた場所にある。

 ジョワンナ国からリンデの森までどれくらいの距離があるのか、どのくらい時間がかかるのか。歩いていけるのか。

 ねぇ、オーグ。せっかく時が戻ったのだからあなたにもう一度会いたい。

 なんとか今日の仕事を終わらせてぐったりと机に顔を埋めた。

「ああ、今日も逃げ出せなかった……」



 とりあえず書庫へ行こう。

 廊下を出て書庫へと向かった。

 指をパチンと軽く鳴らせば仄かな光が現れた。

「何処にあるのかしら?」

 探すのは地図。ただ広い書庫、何処にあるのか探すだけで数日かかりそうだわ。

 黙々と本の背表紙を確認していく。

「あー、ない……」

「何がないの?」

「えっ?」恐る恐る振り返ると……

「マルセル殿下……」

 ーーやばい、やばい、な、なんて言えばいいの?

「あ、あの、マルワ国の地図を……懐かしくて……ゆっくりと地図を見ながら思い出に耽って過ごしたいなって……」
 しどろもどろになりながらもなんとか言い訳を言えた。

「ふうん、あなたにとってマルワ国が懐かしく感じるんだ?」

「いい思い出はないわ……それでも、あの景色を思い出すわ、子供達の笑い声や城で話をする人たちの笑顔、それに窓から見える景色もこことは違うもの。もちろん着る服だって違うわ」

「へぇ、君はいつも笑わないし俯いてばかりだったのに……魔力が強くなってから自信が出てきたのかな?顔つきが変わったよね?」

「わからないわ……何処にいてもわたしは必要とされない無能な人間だから……
 でも、少しでいいから、自分の気持ちに素直になりたい……」
 ーー自由になりたいの。

「今のあなたは、僕は好きだよ?」

「あ、……ありがとう⁈」

 マルセル殿下の言葉になんだかドキドキした。本気で好きだと言われたわけではない。ただ……少し認めてもらえた気がした。

 無能な妃ではなく、イリアナとして。





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