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二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。
【5】
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「失礼いたします」
仕事に集中していたらいつの間にか外は暗くなっていた。
部屋に入ってきたのはセデンの側近のレンだった。
「何か御用かしら?」
レンはいつも見下した目でわたしを見る。だからわたしも彼には一切笑顔を向けない。
ーーやはり相変わらずだわ。
「セデン様からの伝言でございます」
ーーセデン?ふうん、彼がわたしに?
「訊くわ、どうぞ話してちょうだい」
「明日の朝食はご一緒に摂れないそうです」
「わかったわ」
ーーそんなことのために?態々?違うわよね⁈わたしの様子を窺いにきただけよね?
今日の昼間の出来事を聞いて確認しにきただけだわ。
チラチラ様子を窺う彼の目が不快だった。
「用がないなら出て行ってくださらない?」
「申し訳ございません」
チッと舌打ちするのが見えた。
レンの太々しい態度。
以前のわたしならビクビクして彼の顔色を窺っていた。でも今世ではもう好きにすると決めたの。レンなんて怖くないわ。王妃はまだムリだけど……
わたしは彼を無視して、テーブルに置かれた本を手に取ってページを捲り始めた。
「あなたの侍女、大丈夫ですか?」
いきなりの言葉に驚いた。
「えっ?ミーナが何処にいるか知っているの?」
ずっとミーナが気になっていた。いつもなら何度も部屋に顔を出しに来るのに。
「……彼女は魔獣騒動で騎士達が怪我をして治療のため人手が足りなくて今もまだ仕事をしています」
「ミーナが?どうして?」
「あなたのお気に入りの侍女ですから、あなたを気に入らない者が態と彼女を働かせているんですよ」
「………そう、わかったわ。わたしの食事を抜くだけならまだしもミーナにまで……」
持っていた本を思わず落としてしまった。
「食事を抜くとは?」
「あなたもいつもわたしと殿下との食事の時間を無しにしているでしょう?おかげでわたしはまともに食事をさせてもらえないの。ミーナがいつもなんとか食事を手配してくれていたの。
わたしへの嫌がらせだけなら許せるけど、ミーナにまで……許さないわ」
わたしはレンを押し退けてミーナがいるであろう怪我人を収容している診療所へと向かった。
まだ魔力は回復していない。明日になれば……そう思っていた。
診療所に入るとたくさんの人たちがまだ働いていた。でもそれはここで働く人たち。ある意味当たり前。
ミーナは違う。
わたしはミーナを探した。
すると必死で汚れたシーツを洗っているミーナを見つけた。
「ミーナ?」
振り返ったミーナはニコリと笑い返す。
「イリアナ様?」
「どうしてここにいるの?」
「あっ……」
口籠るミーナ。
そこにやってきたのはわたしをいつも小馬鹿にしていた診療所の責任者のコザック。
40歳を過ぎていて細目でいつもわたしをジトっと嫌らしい目で見る。
癒しの力があまり使えないからと鼻で笑い、一応王女だったわたしなのに完全に馬鹿にされていた。
「イリアナ妃、彼女はあなたが途中で仕事を放ってしまったので代わりにここで働いているんですよ」
「ミーナは診療所のスタッフではないわ。それにわたしは自分がやれることはやったつもりよ?残りは明日するわ」
「はっ?今日少しいつもより活躍したからと言って何を強気で?まともに今まで癒しの力などなかったくせに。それとも出し惜しみをしていたんですか?みんながいる前だから今日は派手に力を使ったんですか?
力があるならもっと早くから出せばいいものを」
軽蔑したかのような言葉……ううん、わたしが突然力をつかえたことを、おかしいと思っているんだ。
さっきのレンも疑っていた。
わたしだって……突然こんなに力が使えて驚いているもの。
「わたしだって……わからないの。なぜか今までほんの僅かだった魔力が強く感じたの。どうしてかなんて説明できないしわからない……だけどわたしなりに毎回頑張ってきているわ」
「無能な出来損ないのくせに、いまさら威張りやがって」
「わたしは確かに出来損ない……だわ。だけど、わたしなりに頑張ってる、それにミーナを巻き込むのはやめてちょうだい」
「イリアナ様……いいんです。好きで仕事をしているんですから。ただお食事はされましたか?他の侍女に頼んでおいたのですが」
ーー全く何も届いていないわ。
でもミーナには心配かけたくない。
「ミーナ、もうそろそろ部屋に帰りましょう。ここの仕事はここで働く人たちがやればいいの。人員は足りているはずよ、コザック?セデンに尋ねてみましょうか?」
「ミーナ、もういいです。さっさとお帰りください」
「連れて帰るわ、行きましょうミーナ」
「………はい」
ミーナは青白い顔をしていた。ずっと働かされていたのね。
わたしはミーナの頬にそっと触れた。
「ダメです、わたしは平気です。イリアナ様こそお疲れなんです。無理はしないでください」
「ミーナ、ごめんなさい。わたしがもっとこの国で力を持てていたらあなたに心配も迷惑もかけなくてすむのにね」
ミーナに癒しの魔法をかけて部屋に戻りゆっくり休むように伝えた。
わたしも部屋に戻るとテーブルにパンとサラダが置かれていた。
ーーレン?まさかね。
毒でも入っていないかしら?
この城でわたしに対して優しい人なんてほんのひと握りの人しかいない。
人を疑い、人を信じることができない日々。
この城という檻の中、なんとか逃げ出す方法を考えながら目の前にあるパンに手を出すことが怖くて、結局何も食べずに寝ることにした。
ミーナが持ってきてくれる物以外、ここでは口にしない。セデンとの食事の時はまともな物を出されるので安心だけど。それ以外は怖くて食べられない。
何度か毒が入っていたから。
わたしはお腹が空いたまま眠ることにした。
仕事に集中していたらいつの間にか外は暗くなっていた。
部屋に入ってきたのはセデンの側近のレンだった。
「何か御用かしら?」
レンはいつも見下した目でわたしを見る。だからわたしも彼には一切笑顔を向けない。
ーーやはり相変わらずだわ。
「セデン様からの伝言でございます」
ーーセデン?ふうん、彼がわたしに?
「訊くわ、どうぞ話してちょうだい」
「明日の朝食はご一緒に摂れないそうです」
「わかったわ」
ーーそんなことのために?態々?違うわよね⁈わたしの様子を窺いにきただけよね?
今日の昼間の出来事を聞いて確認しにきただけだわ。
チラチラ様子を窺う彼の目が不快だった。
「用がないなら出て行ってくださらない?」
「申し訳ございません」
チッと舌打ちするのが見えた。
レンの太々しい態度。
以前のわたしならビクビクして彼の顔色を窺っていた。でも今世ではもう好きにすると決めたの。レンなんて怖くないわ。王妃はまだムリだけど……
わたしは彼を無視して、テーブルに置かれた本を手に取ってページを捲り始めた。
「あなたの侍女、大丈夫ですか?」
いきなりの言葉に驚いた。
「えっ?ミーナが何処にいるか知っているの?」
ずっとミーナが気になっていた。いつもなら何度も部屋に顔を出しに来るのに。
「……彼女は魔獣騒動で騎士達が怪我をして治療のため人手が足りなくて今もまだ仕事をしています」
「ミーナが?どうして?」
「あなたのお気に入りの侍女ですから、あなたを気に入らない者が態と彼女を働かせているんですよ」
「………そう、わかったわ。わたしの食事を抜くだけならまだしもミーナにまで……」
持っていた本を思わず落としてしまった。
「食事を抜くとは?」
「あなたもいつもわたしと殿下との食事の時間を無しにしているでしょう?おかげでわたしはまともに食事をさせてもらえないの。ミーナがいつもなんとか食事を手配してくれていたの。
わたしへの嫌がらせだけなら許せるけど、ミーナにまで……許さないわ」
わたしはレンを押し退けてミーナがいるであろう怪我人を収容している診療所へと向かった。
まだ魔力は回復していない。明日になれば……そう思っていた。
診療所に入るとたくさんの人たちがまだ働いていた。でもそれはここで働く人たち。ある意味当たり前。
ミーナは違う。
わたしはミーナを探した。
すると必死で汚れたシーツを洗っているミーナを見つけた。
「ミーナ?」
振り返ったミーナはニコリと笑い返す。
「イリアナ様?」
「どうしてここにいるの?」
「あっ……」
口籠るミーナ。
そこにやってきたのはわたしをいつも小馬鹿にしていた診療所の責任者のコザック。
40歳を過ぎていて細目でいつもわたしをジトっと嫌らしい目で見る。
癒しの力があまり使えないからと鼻で笑い、一応王女だったわたしなのに完全に馬鹿にされていた。
「イリアナ妃、彼女はあなたが途中で仕事を放ってしまったので代わりにここで働いているんですよ」
「ミーナは診療所のスタッフではないわ。それにわたしは自分がやれることはやったつもりよ?残りは明日するわ」
「はっ?今日少しいつもより活躍したからと言って何を強気で?まともに今まで癒しの力などなかったくせに。それとも出し惜しみをしていたんですか?みんながいる前だから今日は派手に力を使ったんですか?
力があるならもっと早くから出せばいいものを」
軽蔑したかのような言葉……ううん、わたしが突然力をつかえたことを、おかしいと思っているんだ。
さっきのレンも疑っていた。
わたしだって……突然こんなに力が使えて驚いているもの。
「わたしだって……わからないの。なぜか今までほんの僅かだった魔力が強く感じたの。どうしてかなんて説明できないしわからない……だけどわたしなりに毎回頑張ってきているわ」
「無能な出来損ないのくせに、いまさら威張りやがって」
「わたしは確かに出来損ない……だわ。だけど、わたしなりに頑張ってる、それにミーナを巻き込むのはやめてちょうだい」
「イリアナ様……いいんです。好きで仕事をしているんですから。ただお食事はされましたか?他の侍女に頼んでおいたのですが」
ーー全く何も届いていないわ。
でもミーナには心配かけたくない。
「ミーナ、もうそろそろ部屋に帰りましょう。ここの仕事はここで働く人たちがやればいいの。人員は足りているはずよ、コザック?セデンに尋ねてみましょうか?」
「ミーナ、もういいです。さっさとお帰りください」
「連れて帰るわ、行きましょうミーナ」
「………はい」
ミーナは青白い顔をしていた。ずっと働かされていたのね。
わたしはミーナの頬にそっと触れた。
「ダメです、わたしは平気です。イリアナ様こそお疲れなんです。無理はしないでください」
「ミーナ、ごめんなさい。わたしがもっとこの国で力を持てていたらあなたに心配も迷惑もかけなくてすむのにね」
ミーナに癒しの魔法をかけて部屋に戻りゆっくり休むように伝えた。
わたしも部屋に戻るとテーブルにパンとサラダが置かれていた。
ーーレン?まさかね。
毒でも入っていないかしら?
この城でわたしに対して優しい人なんてほんのひと握りの人しかいない。
人を疑い、人を信じることができない日々。
この城という檻の中、なんとか逃げ出す方法を考えながら目の前にあるパンに手を出すことが怖くて、結局何も食べずに寝ることにした。
ミーナが持ってきてくれる物以外、ここでは口にしない。セデンとの食事の時はまともな物を出されるので安心だけど。それ以外は怖くて食べられない。
何度か毒が入っていたから。
わたしはお腹が空いたまま眠ることにした。
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