あなたとの離縁を目指します

たろ

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二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。

【4】

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 ーー頭が痛い……

 目覚めるとなぜかベッドに横たわっていた。

 ーーあっ、そう言えばマルセル殿下に抱きかかえられて……それからーー

 記憶は曖昧だけど…たぶん意識を失ったのね。

「お腹空いた……」
  今日は朝食しか食べていない。

 でも、ミーナが亡くなってからは食べられない時の方が多かった。だからこれもこの体が慣れれば平気だわ。

 テーブルに置かれた水差しからコップに水を注ぎ一口飲む。

「人をいくら助けても、誰も食べ物は与えてくれなかったわ」

 死ぬ前はなけなしの魔力を使い人を助けていた。でも誰も感謝することもなく、誰もわたしのことなんて見てくれていなかった。

 我慢できずにセデンに離縁をお願いしたら、なぜか殺された。

 この城から逃げ出したい。

 だけど、明日はまだ治療を終えていない騎士達のためにもうひと仕事ある。放って逃げ出せばいいのだろう。だけど国のために闘った人達を治してあげられるのに放って逃げ出すことはできない。
 無能な聖女の姉だけど、わたしにも矜持はある。
 逃げ出すならやれることだけはやってから。

 お水を飲み干しソファに座る。

 テーブルに置かれた本を開いた。
 一年前に読んでいた本は、セデンのためにと少しでもこの国のことを知ろうと書庫から取り寄せたこの国の歴史書や財務に関する資料だった。

 前回、もう何度も何度も読んで内容は頭の中に入ってしまった。いまさら本を開いて読む気にすらならない。

 自分の手をじっと見つめた。まだ魔力に余力がある。不思議な感覚……いつも空っぽで心の中まで冷え切っていたあの頃とは違う。

 どんなに辛くても今ならなんとかできる気がする。

「まずは……リンデの森への行き方を調べなきゃ。書庫へ行かないといけないわね」

 立ち上がり扉を開けようとしたら、廊下から大きな声が聞こえてきた。

「イリアナ妃はもう目覚めたのかしら?全く使えないわね?今日はまだ私のところに訪れていないわ!」

 ーーああ、この存在を忘れていたわ。

 エデンの母、王妃様のことを。

 毎日彼女のために癒しの魔法をかけるのがわたしの仕事だったな。

 最後の方は『もうあなたなんか用無しだわ!』と………頬を打たれたことを思い出した。

 わたしは慌ててベッドの中に潜り込んだ。

 前を向く!なんて思ったはずなのに、怖くて会いたくない!

「イリアナ!何のんびり寝ているの?あなたの仕事はまだ終わっていないわよ!」

 入ってきていきなりの罵声。
 うん、要らないと言われる数ヶ月前まで言われ続けた言葉。懐かしくなんてないけど、聴き慣れてしまった言葉と声。

「………あっ……申し訳ありません……すぐに起きます」

「わたくしが態々来てあげたのよ?感謝して頭を床につけなさい!」

 ーーああ、これもよくさせられたわ。

 床に正座して頭を床に擦り付け何度も謝罪の言葉を言い続ける。

 王妃が納得するまでずっと……

 慌てて横になって起きたので頭がくらくらしていた。ベッドから出ようとすると足に力が入らなくて転んだ。

「不様ね?」
 王妃は転んだわたしのそばにあえてきた。

 ーーあ、やられる。

 わたしの体を踏みつけてクスクスと嘲り嗤う。

 ヒールの踵が太ももに食い込む。

 それを周りの侍女や護衛騎士達はニヤニヤと見て笑っている。

 ーーああ、全て昔と変わらない。

 死ぬ前はもう誰もわたしの相手すらしなかった。この頃の方がわたしのことをみんな見て馬鹿にしていたからまだマシだったのかしら?いないものとされることといても酷い目に遭わされること、どちらも地獄でしかない。

 セデンはこの頃わたしが王妃からされていたことを何も知らない。
 王妃は可愛い息子の前では慈悲深い優しい母親でこの国の国母として慕われている姿しか見せていないから。

 何度か蹴られた後わたしは床に頭をつけ謝罪をした。

 そして「さっさとしなさい!」と叱られ王妃に癒しの魔法をかけた。

 彼女は自分が歳を取ることを恐れている。
 少しでも綺麗でいることだけを望んだ。わたしの癒しの魔法がほとんど使えなくなって見捨てられるまで毎日こんな日々が続いた。

 ああ、またこの地獄が始まる。早く逃げ出さなきゃ。

 また決心を新たに彼女に癒しの魔法をかけた。

 そして机の上に次々に置かれた書類の山。

「今日のあなたの仕事よ。いつもより遅れているのだから早く始めなさい」

 王妃は自分の仕事も押し付けてくる。

 今日は久しぶりにゆっくりと横になれたのにな。

 書庫に行くのは諦めて目の前の仕事に手をつけた。

 ミーナが顔を出さない。心配だけど、わたしは仕事に追われていた。

ーーミーナ……


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