19 / 156
離縁してください
【19】
しおりを挟む
「シルビア……わかったよ……君の意思を尊重するよ……この屋敷は君の名前にしておくからここに住むといい」
「えっ?む、無理です、わたしにはこの屋敷を維持する余裕なんてありません…‥働く場所もこれからどうなるかわからないのに」
「彼らを雇うのは厳しいかもしれない……君に俺の領地の管理をこのままお願いするからその利益をこの屋敷に維持費として使えばいい」
「アレックはどうするの?」
「俺?俺は騎士だ。いくらでも働くところもあるし住むところもある。君に今まで辛い思いをさせたんだ。慰謝料として払わせて欲しい」
ーー簡単だったんだ。わたしが一言離縁して欲しいとお願いすれば良かった。
なのに……王命だからとその言葉に縋っていたのはわたしだったんだ。
彼を好きだった。だから、辛いと言いながらそばにいたかった。
ソニア殿下と二人いつも仲良くいる姿を何度も見て心がズキズキと痛むのに、この屋敷にわたし自身が住んでいたのはそれでもアレックを諦められなかったから。彼が帰ってきてくれるのを待ち続けていたから。
だけどわたしは『離縁して欲しい』と言った。そしてアレックは『わかった』と返事をした。
それが全て………
「アレック……わたし、何もいらない……明日出て行きます」
わたしが離縁して欲しいと言ったのに、まだ未練があるから馬鹿なことを言ったのがいけなかった。
ーー実家に帰ろう。
アレックとの結婚のおかげで実家の借金はほぼなくなった。アレックの実家の侯爵家と王家からの援助で領地も改良されたし、育ちやすい作物の苗を教わった。
品種改良された干ばつに強い麦のおかげで今年は豊作だった。まだまだ安定的ではないけど、少しずつ良い方向へと向かっている。
実家の伯爵家の領地に倣い、他の干ばつに苦しむ領地の人たちもこれから少しずつ変わっていけるかもしれないと希望を持ち始めている。
わたしの結婚も悪いことばかりではなかった。こうしてたくさんの人々の生活が変わっていくきっかけ作りになってくれた。
もうそれだけで満足するしかない。
「どこへ行くんだ?」
「……実家に帰ります……父も母もわたしが帰ってきて領地運営の手伝いをすることを喜んでくれると思います」
ーーうん、驚くかもしれないけど。今は猫の手も借りたいくらい忙しい時期だから……なんだかんだ文句言いながらも受け入れてくれるはずだわ。
「しかし、君は事務官の仕事もあるし……」
「お菓子作りは好きです。仕事ももちろんやりがいがあります。だけど……たくさんの男の人がいる場所で働くのはまだ怖いんです」
ーーあの時の恐怖を克服するのはまだまだもう少し時間がかかりそう。
お菓子作りからと思ったけど……実家で作って届けることもできるし。
王都から少し離れてはいるけど……
それにこの屋敷はアレックのものであってわたしがもらうには立派すぎるし、とても維持できるものではないもの。
「シルビア……その……今まですまなかった……離縁はする。王命での結婚などするべきではなかったんだ」
ーーするべきではなかった……そうだよね?後悔してるのね?
泣いたらダメ。わかっていたことだもの。
あなたがソニア殿下を愛していることは……わたしを守るため……それはソニア殿下を守ることだからだよね?
唇を噛み涙を堪えた。
「えっ?む、無理です、わたしにはこの屋敷を維持する余裕なんてありません…‥働く場所もこれからどうなるかわからないのに」
「彼らを雇うのは厳しいかもしれない……君に俺の領地の管理をこのままお願いするからその利益をこの屋敷に維持費として使えばいい」
「アレックはどうするの?」
「俺?俺は騎士だ。いくらでも働くところもあるし住むところもある。君に今まで辛い思いをさせたんだ。慰謝料として払わせて欲しい」
ーー簡単だったんだ。わたしが一言離縁して欲しいとお願いすれば良かった。
なのに……王命だからとその言葉に縋っていたのはわたしだったんだ。
彼を好きだった。だから、辛いと言いながらそばにいたかった。
ソニア殿下と二人いつも仲良くいる姿を何度も見て心がズキズキと痛むのに、この屋敷にわたし自身が住んでいたのはそれでもアレックを諦められなかったから。彼が帰ってきてくれるのを待ち続けていたから。
だけどわたしは『離縁して欲しい』と言った。そしてアレックは『わかった』と返事をした。
それが全て………
「アレック……わたし、何もいらない……明日出て行きます」
わたしが離縁して欲しいと言ったのに、まだ未練があるから馬鹿なことを言ったのがいけなかった。
ーー実家に帰ろう。
アレックとの結婚のおかげで実家の借金はほぼなくなった。アレックの実家の侯爵家と王家からの援助で領地も改良されたし、育ちやすい作物の苗を教わった。
品種改良された干ばつに強い麦のおかげで今年は豊作だった。まだまだ安定的ではないけど、少しずつ良い方向へと向かっている。
実家の伯爵家の領地に倣い、他の干ばつに苦しむ領地の人たちもこれから少しずつ変わっていけるかもしれないと希望を持ち始めている。
わたしの結婚も悪いことばかりではなかった。こうしてたくさんの人々の生活が変わっていくきっかけ作りになってくれた。
もうそれだけで満足するしかない。
「どこへ行くんだ?」
「……実家に帰ります……父も母もわたしが帰ってきて領地運営の手伝いをすることを喜んでくれると思います」
ーーうん、驚くかもしれないけど。今は猫の手も借りたいくらい忙しい時期だから……なんだかんだ文句言いながらも受け入れてくれるはずだわ。
「しかし、君は事務官の仕事もあるし……」
「お菓子作りは好きです。仕事ももちろんやりがいがあります。だけど……たくさんの男の人がいる場所で働くのはまだ怖いんです」
ーーあの時の恐怖を克服するのはまだまだもう少し時間がかかりそう。
お菓子作りからと思ったけど……実家で作って届けることもできるし。
王都から少し離れてはいるけど……
それにこの屋敷はアレックのものであってわたしがもらうには立派すぎるし、とても維持できるものではないもの。
「シルビア……その……今まですまなかった……離縁はする。王命での結婚などするべきではなかったんだ」
ーーするべきではなかった……そうだよね?後悔してるのね?
泣いたらダメ。わかっていたことだもの。
あなたがソニア殿下を愛していることは……わたしを守るため……それはソニア殿下を守ることだからだよね?
唇を噛み涙を堪えた。
1,513
お気に入りに追加
2,564
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。

【完結】正妃に裏切られて、どんな気持ちですか?
かとるり
恋愛
両国の繁栄のために嫁ぐことになった王女スカーレット。
しかし彼女を待ち受けていたのは王太子ディランからの信じられない言葉だった。
「スカーレット、俺はシェイラを正妃にすることに決めた」
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる