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わたしの気持ち
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「旦那様、ありがとうございました。セルマ君も喜んでくれました」
「あー、いや、思わず約束してしまったからな、すまない、俺はそろそろ自分の部屋へ戻るよ」
「…あ、待ってください」
わたしはセルマ君を寝かせつけて、旦那様が部屋から出て行こうとするのを無意識に止めていた。
「どうした?」
旦那様はベッドから出るのをやめてわたしを見た。
「旦那様とゆっくりお話をしたかったのです」
思わず引き留めてしまって、何か言わなければと本当は心の中で焦っていた。
「話し?………それは、離縁のことか?」
そう言われたのでわたしは今思っていることを言うことにした。
だって、旦那様が部屋から出て行くのが何故か寂しく感じたから……
「そうですね……わたし、旦那様に離縁して好きな人を見つけて再婚するのが幸せだと言われました。
でも好きな人はいません。
ニコルちゃんにネイサン様と結婚したら?と言われましたが、ネイサン様がわたしなど娶ろうと思っている訳がないでしょうし、わたしもそんな風に考えたことなんてありません。
わたしは今のこの生活が幸せです。セルマ君達と暮らしていられることが」
そして、旦那様がこの家に帰ってきてくれることも本当は最近いつも心待ちしていた。
でもそれは言ってはいけない……だって旦那様は離縁したがっているのだから。
「そうか、だったらここでセルマとずっと暮らすといい」
「ありがとうございます…………わたしは……旦那様のお飾りの妻でこのままいてもいいのですか?」
「君がそうしたいならずっとそれでいいよ」
“お飾りの妻”………自分で言ってなんだかとっても惨めに感じた。
わたしはお飾りの妻を演じ続けることを選んでいいのかしら?
でもそれは旦那様にとっても好きな人と再婚できないということになる。
「……アイリス?」
「………………旦那様、わたしはお飾りの妻でいいのですか?
本当の妻にはなれないのですか?
貴方に惹かれているわたしはこの気持ちを我慢してずっとお飾りでいるべきなのだとわかっています。
貴方の近くで過ごせるだけで幸せなんだと思っているのですが……」
あ……わたしは思わず自分で思っていないことを口にしてしまった。
いや…違う。わたしはずっと思っていたんだ。
本当の妻になりたいと……お飾りの妻はもう嫌なんだと。
「君は好きな人がいない、と言っていたよね?」
「はい、だって貴方と離縁して他に好きな人を探せと言われても貴方に惹かれているのにどうやって他を探せばいいのですか?」
「……それは……」
わたしは旦那様に惹かれていたんだ。
いつの間にか、いて当たり前になっていて、ずっと一緒だと思いたいのに、彼の優しさでいつでも離縁していいと言われるたびに傷ついていたんだ。
「わたしは貴方に比べたらまだまだ子どもです、妻として見れないかもしれません。
でもわたしは貴方の本当の妻になりたい」
わたしは今初めて自覚した。
旦那様に、いや、ロバート様に恋心を抱いているのだと。
好きなのだと。
「旦那様……いえ、ロバート様。わたしは貴方お慕いしております」
「アイリス……」
旦那様はどう返事をすればいいのか悩んでいる。
そうよね、こんな小娘にそんなこと言われたら困るわよね。
わたしは恥ずかしくなった。
「すみません、もう忘れてください、なかったことにして下さい」
「アイリス、俺は……君に惹かれていた。でも君は若い、今から恋をして幸せにならないといけない、そこに俺は必要ないと思っていた」
「ロバート様?」
本当に?わたしに惹かれていた?
「いい歳をして、今更なんだが、こんな風に人を好きになるとは思わなかったんだ。アイリス、お前が好きだ、愛している」
ロバート様のその言葉にわたしは涙が止まらなかった。
「………わたしも貴方を愛しています」
自覚してしまえばはっきりとわかる。
わたしはルイーズ様がロバート様に会いにきたのが本当はとても嫌だった。
離縁しろと言われて悔しかった。
ニコルちゃんにネイサン様と結婚したらと言われて、胸がズキンと苦しかった。
でもこの気持ちがなんなのかよくわからなかった。
だって旦那様はほとんど会うことがなくて捨て置かれていたから。
だけど、会うたびに次はいつ会えるのかしら?と不思議にまた会いたくなって心待ちにしていた。
そして、今、家に帰ってくることが増えて、帰ってこれない日はとても寂しく感じるようになっていた。
居てくれて当たり前、帰ってきてくれるのも当たり前。
そう、いつのまにか旦那様からロバート様として見るようになっていた。
そしてこの日わたしとロバート様はお互いの気持ちを確かめ合うことができた。
「あー、いや、思わず約束してしまったからな、すまない、俺はそろそろ自分の部屋へ戻るよ」
「…あ、待ってください」
わたしはセルマ君を寝かせつけて、旦那様が部屋から出て行こうとするのを無意識に止めていた。
「どうした?」
旦那様はベッドから出るのをやめてわたしを見た。
「旦那様とゆっくりお話をしたかったのです」
思わず引き留めてしまって、何か言わなければと本当は心の中で焦っていた。
「話し?………それは、離縁のことか?」
そう言われたのでわたしは今思っていることを言うことにした。
だって、旦那様が部屋から出て行くのが何故か寂しく感じたから……
「そうですね……わたし、旦那様に離縁して好きな人を見つけて再婚するのが幸せだと言われました。
でも好きな人はいません。
ニコルちゃんにネイサン様と結婚したら?と言われましたが、ネイサン様がわたしなど娶ろうと思っている訳がないでしょうし、わたしもそんな風に考えたことなんてありません。
わたしは今のこの生活が幸せです。セルマ君達と暮らしていられることが」
そして、旦那様がこの家に帰ってきてくれることも本当は最近いつも心待ちしていた。
でもそれは言ってはいけない……だって旦那様は離縁したがっているのだから。
「そうか、だったらここでセルマとずっと暮らすといい」
「ありがとうございます…………わたしは……旦那様のお飾りの妻でこのままいてもいいのですか?」
「君がそうしたいならずっとそれでいいよ」
“お飾りの妻”………自分で言ってなんだかとっても惨めに感じた。
わたしはお飾りの妻を演じ続けることを選んでいいのかしら?
でもそれは旦那様にとっても好きな人と再婚できないということになる。
「……アイリス?」
「………………旦那様、わたしはお飾りの妻でいいのですか?
本当の妻にはなれないのですか?
貴方に惹かれているわたしはこの気持ちを我慢してずっとお飾りでいるべきなのだとわかっています。
貴方の近くで過ごせるだけで幸せなんだと思っているのですが……」
あ……わたしは思わず自分で思っていないことを口にしてしまった。
いや…違う。わたしはずっと思っていたんだ。
本当の妻になりたいと……お飾りの妻はもう嫌なんだと。
「君は好きな人がいない、と言っていたよね?」
「はい、だって貴方と離縁して他に好きな人を探せと言われても貴方に惹かれているのにどうやって他を探せばいいのですか?」
「……それは……」
わたしは旦那様に惹かれていたんだ。
いつの間にか、いて当たり前になっていて、ずっと一緒だと思いたいのに、彼の優しさでいつでも離縁していいと言われるたびに傷ついていたんだ。
「わたしは貴方に比べたらまだまだ子どもです、妻として見れないかもしれません。
でもわたしは貴方の本当の妻になりたい」
わたしは今初めて自覚した。
旦那様に、いや、ロバート様に恋心を抱いているのだと。
好きなのだと。
「旦那様……いえ、ロバート様。わたしは貴方お慕いしております」
「アイリス……」
旦那様はどう返事をすればいいのか悩んでいる。
そうよね、こんな小娘にそんなこと言われたら困るわよね。
わたしは恥ずかしくなった。
「すみません、もう忘れてください、なかったことにして下さい」
「アイリス、俺は……君に惹かれていた。でも君は若い、今から恋をして幸せにならないといけない、そこに俺は必要ないと思っていた」
「ロバート様?」
本当に?わたしに惹かれていた?
「いい歳をして、今更なんだが、こんな風に人を好きになるとは思わなかったんだ。アイリス、お前が好きだ、愛している」
ロバート様のその言葉にわたしは涙が止まらなかった。
「………わたしも貴方を愛しています」
自覚してしまえばはっきりとわかる。
わたしはルイーズ様がロバート様に会いにきたのが本当はとても嫌だった。
離縁しろと言われて悔しかった。
ニコルちゃんにネイサン様と結婚したらと言われて、胸がズキンと苦しかった。
でもこの気持ちがなんなのかよくわからなかった。
だって旦那様はほとんど会うことがなくて捨て置かれていたから。
だけど、会うたびに次はいつ会えるのかしら?と不思議にまた会いたくなって心待ちにしていた。
そして、今、家に帰ってくることが増えて、帰ってこれない日はとても寂しく感じるようになっていた。
居てくれて当たり前、帰ってきてくれるのも当たり前。
そう、いつのまにか旦那様からロバート様として見るようになっていた。
そしてこの日わたしとロバート様はお互いの気持ちを確かめ合うことができた。
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