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今日は三人でおやすみなさい。ロバート編

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「うん、じゃあこんやはさんにんでねようね」

「ああ、そうだな……っえ?……」

「やくそくだよ!」

「いや、え?それはやめておこう」

「どうして?さんにんでねたらだめ?」

シュンとなったセルマにダメだと言えなくて、俺はまずいと思いながら家に帰ってきた。


セルマは家に帰りアイリスに駆け寄り

「まま、きょうはさんにんでねようね」
と嬉しそうに話しかけた。

「ええ、わかったわ」
アイリスは笑顔で答えた。

「ちょ、ちょっと待て!アイリス、セルマが今なんて言ったかちゃんと聞いたのか?」

「え?セルマ君といつものように二人で寝るんですよね?それが何か?」

「はあー、やっぱり」
俺が頭を抱えていると

「まま、さんにんだよ!お父さまもいっしょ!」

キョトンとして意味がわからないアイリスはしばらく黙って考えていた。

「……………っえ?………え?」

「セルマ、ママと二人で寝たらいいだろう」

「きょうはさんにんでいいってふたりともいったぁ!」

俺は確かに釣られて言ってしまった。
そしてアイリスも同じ……。

お互い顔を見合わせて

「嘘は駄目ですよね?」

「大人が嘘をつくのは駄目なのか?」

そしてセルマがリイナに手を洗って着替えをしてもらっている間に、アイリスと話をした。

「とりあえずセルマが寝てしまうまで、アイリス我慢してくれ」

(俺も我慢するから)
これはアイリスには言えない。

やばい、まだ子供だと思っていたアイリスが18歳になりどんどん綺麗になっていく。

でも彼女は俺に恋愛感情などない。
いずれは離縁していい伴侶を見つけて欲しいと思っている。……うん。

手を出すわけにはいかない。

俺は自分にずっと言い聞かせている。

あのこはまだ子どもだ。

俺にとっては妹のようなものなんだ。

『嘘つき、ロバート!』

『うるさい!俺の心の中を読むな!』

俺がイラッとしているのを見てアイリスが一瞬ビクッとした。





そして夜、寝る前にリイナは俺を見て

「旦那様お分かりですよね?」
と笑顔でその一言を言って二階へ上がって行った。

わかっている、わかっている、そう、アイリスは妹。

俺にとっては妹なんだ。

いや、でも妻なんだ。

夫婦なんだ。

別に添い寝するくらいいいんじゃないか?

男の下心が沸々と湧いてくる。

アイリスは俺を信用しているのか、二人の寝室に入ると

「旦那様は手前でもいいですか?」
と聞かれた。

そして壁際にアイリス真ん中にセルマ、そして手前に俺が寝て、三人で並んで布団に入った。

セルマは嬉しそうで少し興奮していた。

「お父さま、やくそく守ってくれてありがとう」

「うん、約束だからな」

「セルマ君が嬉しそうなのでママも嬉しい」

「お父さま何かおはなしをして」

俺は子どもの頃母親によく聞かされた話をセルマにするとセルマは
「え?すごい!」「それで!」
と、興奮しながら聞いていたが眠たくなったのだろう。

突然声が聞こえなくなったと思ったらそのままスースーと寝息を立てて眠ってしまった。


「旦那様、ありがとうございました。セルマ君も喜んでくれました」

「あー、いや、思わず約束してしまったからな、すまない、俺はそろそろ自分の部屋へ戻るよ」

「…あ、待ってください」

俺は思わずドキッとした。

アイリスと同じベッドにいるだけでも結構ヤバいのに、その「待って」はさらに俺の心を煽ってしまうだろう。

「どうした?」

俺はそんな馬鹿な気持ちを抑えながらアイリスに返事をした。

「旦那様とゆっくりお話をしたかったのです」

「話し?………それは、離縁のことか?」

「そうですね……わたし、旦那様に離縁して好きな人を見つけて再婚するのが幸せだと言われました。
でも好きな人はいません。
ニコルちゃんにネイサン様と結婚したら?と言われましたが、ネイサン様がわたしなど娶ろうと思っている訳がないでしょうし、わたしもそんな風に考えたことなんてありません。
わたしは今のこの生活が幸せです。セルマ君達と暮らしていられることが」

「そうか、だったらここでセルマとずっと暮らすといい」
「ありがとうございます…………わたしは……旦那様のお飾りの妻でこのままいてもいいのですか?」

「君がそうしたいならずっとそれでいいよ」

俺の答えに、アイリスは顔を歪めて何か言いたそうにしていたが、黙ってしまった。

「……アイリス?」

「………………旦那様、わたしはお飾りの妻でいいのですか?
本当の妻にはなれないのですか?
貴方に惹かれているわたしはこの気持ちを我慢してずっとお飾りでいるべきなのだとわかっています。
貴方の近くで過ごせるだけで幸せなんだと思っているのですが……」

俺はアイリスの言葉に驚きを隠せなかった。

「君は好きな人がいない、と言っていたよね?」

「はい、だって貴方と離縁して他に好きな人を探せと言われても貴方に惹かれているのにどうやって他を探せばいいのですか?」

「……それは……」
俺は動揺して上手くアイリスに伝えられなかった。

俺はアイリスに好意を持っている。
頑張り屋で優しい。

何事にも必死で、守ってやりたくなる。

こんな気持ちになるなんて自分でも思っていなかった。いつのまにかアイリスに惹かれて本気になっていた。
だからこそ離縁して早く離れなければと焦ってもいた。
なのに会いたくてついこの家に帰ってしまう。

自分でも矛盾しているのはわかっていた。

離してしまわなければ、そう思いながら離したくないと心の中で葛藤していた。






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