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アイリスの散歩。

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わたしは意識が戻ってからも、ニコル様の屋敷に居させてもらっている。

「貴女がここにいたいだけ居てください」
と、ニコルちゃんのお父様であるマーティン様に言っていただいたので、行く宛のないわたしはもう少しだけ甘えさせてもらった。

体のだるさも取れてリハビリを兼ねてお庭を散歩するように、ニコルちゃんに誘われた。

「おねえちゃま、おにわ、あるくとげんきになるのよ。いこう」

「ニコルちゃんはお散歩がしたいのね、わたしもそろそろ歩かないといけないと思っていたの、良かったら手を繋いでもらえるかしら?」

「おてて?」

ニコルちゃんは、にこっと笑うと

「はい!」
と言ってわたしに両手を差し出した。

「うーん、ふたつのお手ては歩きにくいので、一つだけでもいいですか?」

わたしは二つを握って歩いて見せた。

ニコルちゃんはクスクス笑いながら

「ひとつ?わかった」

と言ってわたしとニコルちゃんは手を繋いでお庭を散歩した。

さすがに侯爵邸のお庭は手入れが行き届いていた。

花と花の間が綺麗に整備されて歩きやすい歩道が作られていた。

途中には数種類の薔薇が咲き誇った薔薇園があり、薔薇のアーチが作られていて、とても綺麗だった。

そしてわたしの大好きなハーブ園もある。

なかなか手に入りにくいハーブもありわたしは腰をかがめてずっとハーブや花を見ていた。

ニコルちゃんも真似して一緒に花を見て匂いを嗅ぎ、楽しんだ。

突然後ろから、おずおずと声がかかった。


「あ、あの、アイリス様……」
わたしが振り返るとそこには屈強な使用人がわたしを見て申し訳なさそうに立っていた。

わたしは驚いたが急いで立ち上がり返事をした。

「はい……何かご用意でしょうか?」


「旦那様を助けて頂いたのに、わたしは貴女が変なことをしていると思い、止めようとして貴女に怪我を負わせました。
本当に申し訳ありません。貴女が体調が戻るまで謹慎処分を受けていました。
本当は早く謝罪をしたかったのですが、わたしの顔を見たら嫌な気持ちになると思いできませんでした。
すみませんでした」

大きな体の男性が縮こまるようにぺこぺこ頭を下げる姿は、なんだか可愛らしくてわたしは思わず微笑んでしまった。

「わたしは死にそうな人を助けようとしました。貴方は大切な主を見も知らない人から助けようとしました。ただ、それだけです。
まあ、かなり痛かったので、今度からはもう少し考えて力加減はしたほうがいいと思います」

わたしが笑いながら言うと

「本当にすみません。二度としません」

「えー、二度目はもちろん懲り懲りです」



「おねえちゃんをいじめた、もうちかくにこないで!だめ!」

ニコルちゃんは、ハッと思い出したみたいで、男の人を怒り始めた。

「ニコルちゃん、もう謝ってくれたから大丈夫。ニコルちゃんは優しいのね、守ってくれてありがとう」

わたしはニコルちゃんが必死にわたしを守ってくれる姿が可愛いし嬉しくて、思わずムギュッと抱きしめた。

男の人は頭をぺこぺこ下げながら去って行った。


わたし達はしばらく散歩を続けた。

庭師のおじさんが私たちの姿を見て、

「ニコル様、こちらに遊びに来ていたのですね?」
と話しかけて来た。


わたしがニコルちゃんと手を繋いで歩いているのを見て、

「貴女は?」
と聞かれたので

「初めまして今こちらのお屋敷でお世話になっております。アイリスと申します。
あの……不躾なお願いですが、こちらのハーブや薬草を少し分けてもらえませんか?お礼にわたしもお庭のお手入れをお手伝いしますので」
とお願いをしてみた。

「どうぞ勝手に持っていってください。お客様にお手伝いなんてさせられません」

慌てて断られてしまった。

「わたし……少しだけお庭のお手入れが得意なんです。あそこに枯れかかった木や花がありますよね?あそこのお手入れをぜひさせては貰えないでしょうか?」

「あそこは建物が建ってから日のあたりが悪いのでなかなか育ちにくい場所なんです」

確かに建物の所為で日当たりが悪い。

それに土も湿っているし、木が泣いているみたい。

わたしは木のそばに行くと、そっと木に触れてみた。

もう何年も日に当たらず苦しんでいるみたい。

わたしは木をずっと触り続けた。

「え?ええ?」

枯れかけた木が少しずつ元気になり葉がつき始めた。

わたしはこれ以上はこの木に負担をかけるので、治療をやめた。

「この木はとても苦しんでいます。でも、この木はこの屋敷を土地を守ってきた大切な木です。この木をなんとか守ってあげたい。植え替えることは出来ないでしょうか?」

「わたしの一存では難しいと思います」

「いいよ、する」

下からそんな声が聞こえて来た。

「ニコルちゃん、ありがとう、でもお父様かお祖父様に許可を貰わないと、ね?」

「にこるがいいっていったらいいの!」

ニコルちゃんは「ねえ、だれか!」と、一声かけると、どこに居たのか二人の従者がすぐに来た。

「このきをうごかすの、たくさんひといる」

ニコルちゃんが従者さんに伝えると、侯爵家お抱えの騎士さん達が集まりすぐに土を掘り始めた。

それからはわたしの指示のもと木を日の当たる場所まで移動してくれた。

わたしは木の根が傷まないようにずっとそばで木を触りながら守っていた。

普通ならすぐに木の根が土に馴染まないのに、この木は日に当たり出した途端、沢山の人の前で緑の葉をつけ始めた。

そして青々とした昔の木の姿に戻った。

「なんと木が一日で昔の姿を取り戻した」
庭師のおじさんは驚いて唖然としていた。

みんなもどんどん葉がついていく姿を茫然と見ていた。

わたしは木を触るのをやめて、木に声をかけた。

『もう苦しまなくても大丈夫よ』

「みなさん、木が喜んでくれています、ありがとうございます、この木はこの屋敷を守っている木の一つです。ぜひ大事にしてあげてください」

ニコルちゃんも笑顔で言った。

「にこるがまもってあげるね」







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