28 / 53
アイリスの散歩。
しおりを挟む
わたしは意識が戻ってからも、ニコル様の屋敷に居させてもらっている。
「貴女がここにいたいだけ居てください」
と、ニコルちゃんのお父様であるマーティン様に言っていただいたので、行く宛のないわたしはもう少しだけ甘えさせてもらった。
体のだるさも取れてリハビリを兼ねてお庭を散歩するように、ニコルちゃんに誘われた。
「おねえちゃま、おにわ、あるくとげんきになるのよ。いこう」
「ニコルちゃんはお散歩がしたいのね、わたしもそろそろ歩かないといけないと思っていたの、良かったら手を繋いでもらえるかしら?」
「おてて?」
ニコルちゃんは、にこっと笑うと
「はい!」
と言ってわたしに両手を差し出した。
「うーん、ふたつのお手ては歩きにくいので、一つだけでもいいですか?」
わたしは二つを握って歩いて見せた。
ニコルちゃんはクスクス笑いながら
「ひとつ?わかった」
と言ってわたしとニコルちゃんは手を繋いでお庭を散歩した。
さすがに侯爵邸のお庭は手入れが行き届いていた。
花と花の間が綺麗に整備されて歩きやすい歩道が作られていた。
途中には数種類の薔薇が咲き誇った薔薇園があり、薔薇のアーチが作られていて、とても綺麗だった。
そしてわたしの大好きなハーブ園もある。
なかなか手に入りにくいハーブもありわたしは腰をかがめてずっとハーブや花を見ていた。
ニコルちゃんも真似して一緒に花を見て匂いを嗅ぎ、楽しんだ。
突然後ろから、おずおずと声がかかった。
「あ、あの、アイリス様……」
わたしが振り返るとそこには屈強な使用人がわたしを見て申し訳なさそうに立っていた。
わたしは驚いたが急いで立ち上がり返事をした。
「はい……何かご用意でしょうか?」
「旦那様を助けて頂いたのに、わたしは貴女が変なことをしていると思い、止めようとして貴女に怪我を負わせました。
本当に申し訳ありません。貴女が体調が戻るまで謹慎処分を受けていました。
本当は早く謝罪をしたかったのですが、わたしの顔を見たら嫌な気持ちになると思いできませんでした。
すみませんでした」
大きな体の男性が縮こまるようにぺこぺこ頭を下げる姿は、なんだか可愛らしくてわたしは思わず微笑んでしまった。
「わたしは死にそうな人を助けようとしました。貴方は大切な主を見も知らない人から助けようとしました。ただ、それだけです。
まあ、かなり痛かったので、今度からはもう少し考えて力加減はしたほうがいいと思います」
わたしが笑いながら言うと
「本当にすみません。二度としません」
「えー、二度目はもちろん懲り懲りです」
「おねえちゃんをいじめた、もうちかくにこないで!だめ!」
ニコルちゃんは、ハッと思い出したみたいで、男の人を怒り始めた。
「ニコルちゃん、もう謝ってくれたから大丈夫。ニコルちゃんは優しいのね、守ってくれてありがとう」
わたしはニコルちゃんが必死にわたしを守ってくれる姿が可愛いし嬉しくて、思わずムギュッと抱きしめた。
男の人は頭をぺこぺこ下げながら去って行った。
わたし達はしばらく散歩を続けた。
庭師のおじさんが私たちの姿を見て、
「ニコル様、こちらに遊びに来ていたのですね?」
と話しかけて来た。
わたしがニコルちゃんと手を繋いで歩いているのを見て、
「貴女は?」
と聞かれたので
「初めまして今こちらのお屋敷でお世話になっております。アイリスと申します。
あの……不躾なお願いですが、こちらのハーブや薬草を少し分けてもらえませんか?お礼にわたしもお庭のお手入れをお手伝いしますので」
とお願いをしてみた。
「どうぞ勝手に持っていってください。お客様にお手伝いなんてさせられません」
慌てて断られてしまった。
「わたし……少しだけお庭のお手入れが得意なんです。あそこに枯れかかった木や花がありますよね?あそこのお手入れをぜひさせては貰えないでしょうか?」
「あそこは建物が建ってから日のあたりが悪いのでなかなか育ちにくい場所なんです」
確かに建物の所為で日当たりが悪い。
それに土も湿っているし、木が泣いているみたい。
わたしは木のそばに行くと、そっと木に触れてみた。
もう何年も日に当たらず苦しんでいるみたい。
わたしは木をずっと触り続けた。
「え?ええ?」
枯れかけた木が少しずつ元気になり葉がつき始めた。
わたしはこれ以上はこの木に負担をかけるので、治療をやめた。
「この木はとても苦しんでいます。でも、この木はこの屋敷を土地を守ってきた大切な木です。この木をなんとか守ってあげたい。植え替えることは出来ないでしょうか?」
「わたしの一存では難しいと思います」
「いいよ、する」
下からそんな声が聞こえて来た。
「ニコルちゃん、ありがとう、でもお父様かお祖父様に許可を貰わないと、ね?」
「にこるがいいっていったらいいの!」
ニコルちゃんは「ねえ、だれか!」と、一声かけると、どこに居たのか二人の従者がすぐに来た。
「このきをうごかすの、たくさんひといる」
ニコルちゃんが従者さんに伝えると、侯爵家お抱えの騎士さん達が集まりすぐに土を掘り始めた。
それからはわたしの指示のもと木を日の当たる場所まで移動してくれた。
わたしは木の根が傷まないようにずっとそばで木を触りながら守っていた。
普通ならすぐに木の根が土に馴染まないのに、この木は日に当たり出した途端、沢山の人の前で緑の葉をつけ始めた。
そして青々とした昔の木の姿に戻った。
「なんと木が一日で昔の姿を取り戻した」
庭師のおじさんは驚いて唖然としていた。
みんなもどんどん葉がついていく姿を茫然と見ていた。
わたしは木を触るのをやめて、木に声をかけた。
『もう苦しまなくても大丈夫よ』
「みなさん、木が喜んでくれています、ありがとうございます、この木はこの屋敷を守っている木の一つです。ぜひ大事にしてあげてください」
ニコルちゃんも笑顔で言った。
「にこるがまもってあげるね」
「貴女がここにいたいだけ居てください」
と、ニコルちゃんのお父様であるマーティン様に言っていただいたので、行く宛のないわたしはもう少しだけ甘えさせてもらった。
体のだるさも取れてリハビリを兼ねてお庭を散歩するように、ニコルちゃんに誘われた。
「おねえちゃま、おにわ、あるくとげんきになるのよ。いこう」
「ニコルちゃんはお散歩がしたいのね、わたしもそろそろ歩かないといけないと思っていたの、良かったら手を繋いでもらえるかしら?」
「おてて?」
ニコルちゃんは、にこっと笑うと
「はい!」
と言ってわたしに両手を差し出した。
「うーん、ふたつのお手ては歩きにくいので、一つだけでもいいですか?」
わたしは二つを握って歩いて見せた。
ニコルちゃんはクスクス笑いながら
「ひとつ?わかった」
と言ってわたしとニコルちゃんは手を繋いでお庭を散歩した。
さすがに侯爵邸のお庭は手入れが行き届いていた。
花と花の間が綺麗に整備されて歩きやすい歩道が作られていた。
途中には数種類の薔薇が咲き誇った薔薇園があり、薔薇のアーチが作られていて、とても綺麗だった。
そしてわたしの大好きなハーブ園もある。
なかなか手に入りにくいハーブもありわたしは腰をかがめてずっとハーブや花を見ていた。
ニコルちゃんも真似して一緒に花を見て匂いを嗅ぎ、楽しんだ。
突然後ろから、おずおずと声がかかった。
「あ、あの、アイリス様……」
わたしが振り返るとそこには屈強な使用人がわたしを見て申し訳なさそうに立っていた。
わたしは驚いたが急いで立ち上がり返事をした。
「はい……何かご用意でしょうか?」
「旦那様を助けて頂いたのに、わたしは貴女が変なことをしていると思い、止めようとして貴女に怪我を負わせました。
本当に申し訳ありません。貴女が体調が戻るまで謹慎処分を受けていました。
本当は早く謝罪をしたかったのですが、わたしの顔を見たら嫌な気持ちになると思いできませんでした。
すみませんでした」
大きな体の男性が縮こまるようにぺこぺこ頭を下げる姿は、なんだか可愛らしくてわたしは思わず微笑んでしまった。
「わたしは死にそうな人を助けようとしました。貴方は大切な主を見も知らない人から助けようとしました。ただ、それだけです。
まあ、かなり痛かったので、今度からはもう少し考えて力加減はしたほうがいいと思います」
わたしが笑いながら言うと
「本当にすみません。二度としません」
「えー、二度目はもちろん懲り懲りです」
「おねえちゃんをいじめた、もうちかくにこないで!だめ!」
ニコルちゃんは、ハッと思い出したみたいで、男の人を怒り始めた。
「ニコルちゃん、もう謝ってくれたから大丈夫。ニコルちゃんは優しいのね、守ってくれてありがとう」
わたしはニコルちゃんが必死にわたしを守ってくれる姿が可愛いし嬉しくて、思わずムギュッと抱きしめた。
男の人は頭をぺこぺこ下げながら去って行った。
わたし達はしばらく散歩を続けた。
庭師のおじさんが私たちの姿を見て、
「ニコル様、こちらに遊びに来ていたのですね?」
と話しかけて来た。
わたしがニコルちゃんと手を繋いで歩いているのを見て、
「貴女は?」
と聞かれたので
「初めまして今こちらのお屋敷でお世話になっております。アイリスと申します。
あの……不躾なお願いですが、こちらのハーブや薬草を少し分けてもらえませんか?お礼にわたしもお庭のお手入れをお手伝いしますので」
とお願いをしてみた。
「どうぞ勝手に持っていってください。お客様にお手伝いなんてさせられません」
慌てて断られてしまった。
「わたし……少しだけお庭のお手入れが得意なんです。あそこに枯れかかった木や花がありますよね?あそこのお手入れをぜひさせては貰えないでしょうか?」
「あそこは建物が建ってから日のあたりが悪いのでなかなか育ちにくい場所なんです」
確かに建物の所為で日当たりが悪い。
それに土も湿っているし、木が泣いているみたい。
わたしは木のそばに行くと、そっと木に触れてみた。
もう何年も日に当たらず苦しんでいるみたい。
わたしは木をずっと触り続けた。
「え?ええ?」
枯れかけた木が少しずつ元気になり葉がつき始めた。
わたしはこれ以上はこの木に負担をかけるので、治療をやめた。
「この木はとても苦しんでいます。でも、この木はこの屋敷を土地を守ってきた大切な木です。この木をなんとか守ってあげたい。植え替えることは出来ないでしょうか?」
「わたしの一存では難しいと思います」
「いいよ、する」
下からそんな声が聞こえて来た。
「ニコルちゃん、ありがとう、でもお父様かお祖父様に許可を貰わないと、ね?」
「にこるがいいっていったらいいの!」
ニコルちゃんは「ねえ、だれか!」と、一声かけると、どこに居たのか二人の従者がすぐに来た。
「このきをうごかすの、たくさんひといる」
ニコルちゃんが従者さんに伝えると、侯爵家お抱えの騎士さん達が集まりすぐに土を掘り始めた。
それからはわたしの指示のもと木を日の当たる場所まで移動してくれた。
わたしは木の根が傷まないようにずっとそばで木を触りながら守っていた。
普通ならすぐに木の根が土に馴染まないのに、この木は日に当たり出した途端、沢山の人の前で緑の葉をつけ始めた。
そして青々とした昔の木の姿に戻った。
「なんと木が一日で昔の姿を取り戻した」
庭師のおじさんは驚いて唖然としていた。
みんなもどんどん葉がついていく姿を茫然と見ていた。
わたしは木を触るのをやめて、木に声をかけた。
『もう苦しまなくても大丈夫よ』
「みなさん、木が喜んでくれています、ありがとうございます、この木はこの屋敷を守っている木の一つです。ぜひ大事にしてあげてください」
ニコルちゃんも笑顔で言った。
「にこるがまもってあげるね」
102
お気に入りに追加
5,110
あなたにおすすめの小説
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる