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継母、旦那様に会いたい!

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セルマ君との時間を今はとても大切に過ごすようにした。

離れてしまう。
そう思うと、愛おしくて。

わたしはこの子に寂しさを埋めてもらっていたんだとしみじみ思ってしまう。

わたしがこの子を守っていたのではなくて、この子がわたしを、わたしの壊れそうになっていた心を守ってくれていた。

セルマ君の笑顔が大好きで。
セルマ君との会話が可愛くて。

そして、リイナとミナとアナの三人と過ごすこの家も大好きだった。

お母様が亡くなって、お父様からの拒絶にとても寂しくて悲しくて、本当は泣きたくて、でも心が空っぽで泣けなかった。

旦那様と結婚して、この家に連れてこられて、お母様との思い出の屋敷を離れないといけないことが、もう二度とあの屋敷に足を踏み込むことが出来ないことが、とても辛かった。

そんなわたしに三人はとても良くしてくれた。

三人は旦那様をとても怒ってくれているけど、今のわたしは旦那様に感謝している。

この家に住まわせてくれたこと。

結婚してもうすぐ一年。

旦那様にはまだお会いしていないけど、少し変化はあった。

わたしがセルマ君と寝ている時、たまに寝室に旦那様は顔を出す。

「アイリス、おやすみ」

旦那様はわたしに優しく声をかけてそっと出て行く。

何故知っているのかって?

リイナがいつも次の日の朝、教えてくれる。


何度か起こして欲しいとリイナに頼んだけど、わたしは一度寝るとなかなか起きないらしい。


わたしは旦那様に会いたいと、リイナに連絡を取ってもらえるように伝えた。

決心してから旦那様に会いたいと伝言を頼むまでにひと月以上経ってしまった。

やっぱりセルマ君と離れるのも三人と離れるのも本当は寂しい。

でもセルマ君のためだもの。
継母は、ママなんだから、子どもの気持ちが一番大事。そしてセルマ君の幸せが一番なんだもの。

わたしは一人でもなんとか生きていけそう……な気がする…たぶん。






旦那様が今日我が家にやって来る。

結婚式以来、一年振りの再会。

「リイナ、わたしの服装おかしくないかしら?」

「可愛らしいです」

「ミナ、髪型はどうかしら?」

「いつも以上に手をかけておりますので大丈夫です」

「アナ、わたしの顔って変?」

「とても美しいです」

わたしは一人ソワソワしてジッとしていられなかった。

「アイリス様がそんなに旦那様にお会いしたかったなんて知りませんでした」

「え?わたしがお会いしたかった?………う、うん、そうかも……お会いしたかったのかも」

だって寝ている時に会いにきているらしいのよ?

わたしの可愛くないすっぴんの寝顔を見られているんだもの。

今日こそは綺麗にして、いつもはあんな顔ではないことをわかってもらわないと!

そして………

旦那様が現れた。

「遅れてすまなかった。アイリス、やっと会えた」

(やっと会えた?)
わたしはキョトンとしてしまった。

だってそれって、何か理由でもあって会えなかったとでも言いたいの?

『アイリス……説明させて!』

『ラファ、どうしたの?』
ラファの声はなんだかとても不安そうで悲しそうだった。

『ラファ?お前の名前はラファになったのか?』

わたしは旦那様がラファに話しかけるのを聞いて驚いた。

『ラファの事が分かるのですか?』

『もちろん、俺が君に会いに来れなかったのはラファが原因だからね、俺に会いたいと言ってきたから全て知っているのかと思った』

『ラファ?』
わたしがラファの方を見ると、ラファは溜息を吐いた。

『アイリスの緑の精霊とシリアの癒しの精霊が今は一つになったの。それがラファ。
緑の精霊はずっと弱っていたの。わたしたちは元々一つだったのだけど、その昔二つに分かれた、
でも緑の精霊が弱っていくのを見てもう一度一つに戻ろうとしたけど、アイリスの持っている加護の力が跳ね除けて近くに寄れない。
緑の精霊はなんとか生きようと膜を張って奥に入って出てこないし……仕方なくシリアから離れて守っていたんだけど、もう緑の精霊の生命力はつきそうになっていた。
だから、アイリスの力をギリギリまで削ぎ落として緑の精霊のそばに行きたかった。
手っ取り早くアイリスの力を削ぎ落とす方法がアイリスを悲しみに落とすこと。幸せだと加護の力は減らない。悲しかったり不幸だと早く減るの。
だからアイリスを不幸にしたの……ごめんなさい。
ロバートにはアイリスがこのままでは死ぬと言って脅かしたの』

『わたしが死ぬ?』

『うん、緑の精霊が死ねばアイリスも死ぬわ、緑の精霊を助けるしか方法はなかった。ロバートはアイリスを守る「守り人」だから、アイリスを不幸にして少しでも早く加護の力を削ぎ落とすことに協力させたの』


『アイリスの作った薬を黙って持っていかけたのはラファが頼んだの、アイリスが薬を作り続ければ早く力がなくなるから…』

『でも妖精さんは言ってなかったかしら?』


『精霊さん曰く

ーーーー
『アイリスは、加護の力が枯渇するまで使ってしまったの。それは貴女自身の命も削ってしまったのよ。しばらくじっとして体力と加護の力を元に戻さないといけないの。なくなった貴女の生命力は今わたしがそばにいることで少しずつだけど戻しているわ』

『精霊さんがいなければわたしはどうなるの?』

『とっくに死んでいるわ』
ーーーーー

って、言ってたよね?』

『うん、やばいところまで無理させてしまったの。ごめん、本当のこと言おうと思ったけど……
空っぽにしないと緑の精霊のところまで近づけない、そしたらアイリスが死にそうになるし、わたしあの時は、ほんと、すっごく困った』


『なにが困っただ!無計画すぎる!』
旦那様が精霊に怒っている。

『だって、わたしの片割れが死にかかってるんだもん、なのにアイリスも無理し過ぎて死にかかるし。なんとか緑の精霊と一つになって、ラファはちゃんとアイリスのそばにずっといて、生命力を戻したじゃない!』

『何、開き直ってるんだ!』


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