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継母は僕が守る
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アイリス様はまだ意識を戻さなかった。
旦那様は数日アイリス様のそばにいたが、これ以上仕事を休めないので、別邸を後にした。
ジャンはわたしから部屋を追い出され、居間で過ごした。
旦那様も追い出したかった。
怒鳴りたかった。
でも、旦那様が仕事に戻られる時の姿を見て言うのをやめた。
何度もアイリス様の部屋を振り返り、切なそうに見ていた。
家の玄関を開けて出て行く時に
「アイリスを頼む」
と苦しそうな顔をして頼まれた。
この人は、アイリス様を見捨てている訳ではない。
それだけはわかった。
でも、それでも、許せない。
恋人を優先したこの男をわたしは許せない。
「旦那様に言われなくても、わたし達がお守りいたします」
「リイナ、やめろ」
ジャンが慌ててわたしの言葉を止めようとしたが
「いい、大丈夫だ。リイナ、よろしく頼む」
と言って頭を下げて出て行った。
ジャンはわたしを見て、なんとも言えない顔をして黙って出て行った。
ジャンとの関係は最悪だが、わたしはもうそれでもいいと思った。
娘と変わらないアイリス様。
わたしは彼女が可愛くて可哀想で、守ってあげたい。
我が子でもない隠し子のセルマ様をあんなに大切にされて、自分の物は何も欲しがらないのに、セルマ様とアナの物のだけは、
「必要なものはないかしら?」
「アナは学校に行く服が少ないと思うの。少し買い足しては駄目かしら?」
「セルマ君にお菓子を作ってあげたいの、材料を買ってきて欲しいの」
そう言うとたくさんの高級なチョコレートを買ってくれてみんなに振舞ってくれた。
態とに余るようにクッキーを沢山作り、
「残りは孤児院に届けてもらえるかしら?余物でごめんなさいと言って」
そんなことを言いながら本当は、届けるつもりでたくさん作ったのを知っている。
わたしの優しい優しすぎる可愛いご主人様。
わたしもミナもアナも、そしてセルマ様も、アイリス様の虜になってしまった。
早く目を覚まして、早く治っていつものようにあの優しい笑顔が見たい。
ひと月経っても目を覚さないアイリス様をずっと看病していると、
「リイナ、少しは休め」
と、ジャンが言ってきた。
「別に無理はしていないわ。ただおそばにいるだけよ。偶に体を動かしてあげて体を拭いてあげるだけなの。何もする事がないの、してあげられないの……貴方にはわからないわ!
いつ亡くなるかわからない、目を離して息が止まってしまったらどうするの?
旦那様の所為よ!どうして薬を勝手に持ち出したの?その所為で無理をすることになったの!
あんなに頑張ったのに誰もアイリス様がみんなを助けたことは知らない……この国を救ったのはロバート商会のロバート。
ふざけないで!アイリス様が死ぬ目にあいながら必死で作ったのに!」
わたしがジャンを泣きながら責めていると
「りいな、なかしちゃ、めっ!」
と、セルマ様がジャンの足元で必死にジャンをぽこぽこと叩いた。
「りいな、なかないでぇ。めっ!なの。あっちいけぇ!」
セルマ様はジャンを追い払おうと必死で足元で叫んでくれた。
「セルマ様、わたしはリイナを虐めてはいません」
ジャンはセルマ様に言い訳をしながら部屋を後にした。
セルマ様は
「りいななきゃないで、ね?」
と言って椅子に乗ってわたしにいい子いい子をして頭を撫でてくれた。
小さくて柔らかくて温かな手のぬくもりが、わたしの凍りついた心を溶かしてくれた。
「セルマ様、ありがとうございます」
「りいな、だいしゅき」
わたしにぎゅっと抱きついたセルマ様。
わたしもセルマ様を抱きしめて言った。
「わたしもセルマ様が大好きです」
二人でアイリス様を見守っていた。
するとセルマ様は突然
「ままとねんね」
と言ってベッドに入ってアイリス様を抱きしめて寝てしまった。
止めないといけないのにあまりにもその姿が可愛くてわたしは二人の寝ている姿を見守ることにした。
二人は親子のように幸せそうに寝ていた。
アイリス様、どうか目覚めてください。
このまま息を引き取るなんてことがありませんように。
それからはセルマ様がアイリス様のベッドで一緒に寝るようになった。
普段はアナと過ごしているセルマ様。
お昼寝や夜寝るときにはアイリス様のベッドに潜り込む。
あれだけうなされたり突然高熱が出たり熱が下がったりするのに、セルマ様がそばにいる時は安定している。
わたしもアイリス様の部屋に簡易ベッドを置いて、近くで見守って寝るようになった。
おかげでわたし自身も睡眠がしっかり取れるようになったのでセルマ様には感謝している。
アイリス様みんなが待っています。
そしてふた月経っても目覚めなかった。
旦那様は数日アイリス様のそばにいたが、これ以上仕事を休めないので、別邸を後にした。
ジャンはわたしから部屋を追い出され、居間で過ごした。
旦那様も追い出したかった。
怒鳴りたかった。
でも、旦那様が仕事に戻られる時の姿を見て言うのをやめた。
何度もアイリス様の部屋を振り返り、切なそうに見ていた。
家の玄関を開けて出て行く時に
「アイリスを頼む」
と苦しそうな顔をして頼まれた。
この人は、アイリス様を見捨てている訳ではない。
それだけはわかった。
でも、それでも、許せない。
恋人を優先したこの男をわたしは許せない。
「旦那様に言われなくても、わたし達がお守りいたします」
「リイナ、やめろ」
ジャンが慌ててわたしの言葉を止めようとしたが
「いい、大丈夫だ。リイナ、よろしく頼む」
と言って頭を下げて出て行った。
ジャンはわたしを見て、なんとも言えない顔をして黙って出て行った。
ジャンとの関係は最悪だが、わたしはもうそれでもいいと思った。
娘と変わらないアイリス様。
わたしは彼女が可愛くて可哀想で、守ってあげたい。
我が子でもない隠し子のセルマ様をあんなに大切にされて、自分の物は何も欲しがらないのに、セルマ様とアナの物のだけは、
「必要なものはないかしら?」
「アナは学校に行く服が少ないと思うの。少し買い足しては駄目かしら?」
「セルマ君にお菓子を作ってあげたいの、材料を買ってきて欲しいの」
そう言うとたくさんの高級なチョコレートを買ってくれてみんなに振舞ってくれた。
態とに余るようにクッキーを沢山作り、
「残りは孤児院に届けてもらえるかしら?余物でごめんなさいと言って」
そんなことを言いながら本当は、届けるつもりでたくさん作ったのを知っている。
わたしの優しい優しすぎる可愛いご主人様。
わたしもミナもアナも、そしてセルマ様も、アイリス様の虜になってしまった。
早く目を覚まして、早く治っていつものようにあの優しい笑顔が見たい。
ひと月経っても目を覚さないアイリス様をずっと看病していると、
「リイナ、少しは休め」
と、ジャンが言ってきた。
「別に無理はしていないわ。ただおそばにいるだけよ。偶に体を動かしてあげて体を拭いてあげるだけなの。何もする事がないの、してあげられないの……貴方にはわからないわ!
いつ亡くなるかわからない、目を離して息が止まってしまったらどうするの?
旦那様の所為よ!どうして薬を勝手に持ち出したの?その所為で無理をすることになったの!
あんなに頑張ったのに誰もアイリス様がみんなを助けたことは知らない……この国を救ったのはロバート商会のロバート。
ふざけないで!アイリス様が死ぬ目にあいながら必死で作ったのに!」
わたしがジャンを泣きながら責めていると
「りいな、なかしちゃ、めっ!」
と、セルマ様がジャンの足元で必死にジャンをぽこぽこと叩いた。
「りいな、なかないでぇ。めっ!なの。あっちいけぇ!」
セルマ様はジャンを追い払おうと必死で足元で叫んでくれた。
「セルマ様、わたしはリイナを虐めてはいません」
ジャンはセルマ様に言い訳をしながら部屋を後にした。
セルマ様は
「りいななきゃないで、ね?」
と言って椅子に乗ってわたしにいい子いい子をして頭を撫でてくれた。
小さくて柔らかくて温かな手のぬくもりが、わたしの凍りついた心を溶かしてくれた。
「セルマ様、ありがとうございます」
「りいな、だいしゅき」
わたしにぎゅっと抱きついたセルマ様。
わたしもセルマ様を抱きしめて言った。
「わたしもセルマ様が大好きです」
二人でアイリス様を見守っていた。
するとセルマ様は突然
「ままとねんね」
と言ってベッドに入ってアイリス様を抱きしめて寝てしまった。
止めないといけないのにあまりにもその姿が可愛くてわたしは二人の寝ている姿を見守ることにした。
二人は親子のように幸せそうに寝ていた。
アイリス様、どうか目覚めてください。
このまま息を引き取るなんてことがありませんように。
それからはセルマ様がアイリス様のベッドで一緒に寝るようになった。
普段はアナと過ごしているセルマ様。
お昼寝や夜寝るときにはアイリス様のベッドに潜り込む。
あれだけうなされたり突然高熱が出たり熱が下がったりするのに、セルマ様がそばにいる時は安定している。
わたしもアイリス様の部屋に簡易ベッドを置いて、近くで見守って寝るようになった。
おかげでわたし自身も睡眠がしっかり取れるようになったのでセルマ様には感謝している。
アイリス様みんなが待っています。
そしてふた月経っても目覚めなかった。
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