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56話
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俺は休みの日にいつもの昼食会の後、久しぶりにメイに呼び出された。
メイの足は治っていて、実家から戻り今は仕事に通っている。
街中の喫茶店でメイは待っていた。
「アラン様お久しぶりです」
メイはいつも通り明るかった。
俺は紅茶を頼むと、メイはこの店のチョコレートケーキと紅茶を頼んだ。
「待たせて悪かった。今日はどうした?」
「……ずっと迷惑かけたのにお礼も言えなかったので、きちんと言っておきたかったんです」
「お礼?」
「ええ、元婚約者のことでご心配をおかけしたし……ゆっくりお礼も言えなかったし……恋人のフリをしてなんてバカなことも言ったし…」
「ああ、そんなことも言ってたな」
「アラン様忘れてましたね?」
「だってもうマークのことは解決したしね、メイの体調も落ち着いたから安心してたよ」
メイは怪我をしてしまい実家に帰っていたし、俺も寮を出て新しい生活が始まって、メイのその言葉はもうなかったことになっていた。
「……わたし仕事に戻ったのですが婚約が決まりました。わたしの3歳年上の伯爵家のトールです、お父様にももう21歳になるのだからそろそろ落ち着きなさいと言われて決心しました」
「そうか、おめでとう、よかったな」
メイは少し寂しそうにしながら、窓の外を見た。
「アラン様は寮を出られて今は以前の屋敷で暮らしていると聞きました」
「エイミーに聞いたの?そうなんだ、今は気楽でいいよ、みんな知っている人ばかりだしね」
「わたし……アラン様がイーゼ様に時折見せるあの優しい笑顔に驚いたんですよ?」
俺はメイが何を言い出したのかわからずキョトンとした。
「メイ?俺がイーゼ嬢に優しい笑顔をしているというのか?お前目でも悪くなったのか?」
メイは外を見ていたが俺の顔を見て苦笑した。
「アラン様、応宮内で貴方がイーゼ様と話しているのを見ました。どんなに女性と話していても作り笑いしかしないアラン様がイーゼ様とはとても楽しそうにしています、彼女が去った後、貴方はイーゼ様の後ろ姿を愛おしそうに見ているのをわたしは知っています」
「‥だってわたしも貴方を見ていたから」
彼女は俺に聞こえないくらい小さな声で何かを呟いた。
「俺が愛おしそう?何かの間違いだろう?イーゼ嬢は確かに話しやすいしさっぱりしているし、話していて楽しい。最近はよく屋敷にも遊びに来るから気兼ねなく話せる人だと思っている、でも特別な感情なんてない」
俺は意味のわからないメイの言葉に驚いた。
「そんな大きな声で言い訳してる……そんなアラン様を見たのは初めて……
さあ、わたしはアラン様にお礼が言えたし、そろそろ帰ります」
メイは、俺に笑顔で
「今日はご馳走していただいていいかしら?」
と聞いたので
「もちろんだ、またメイの結婚式には声をかけてくれ、是非お祝いを贈るから」
メイは席を立ち俺の顔を見ずに
「その時はぜひ」
と言って手を振ると帰って行った。
俺はメイから言われた言葉の意味を考えていた。
俺がイーゼ嬢と楽しそう?
ああ、確かに彼女と話すのはいつも楽しい、他の女のように気持ち悪い視線を寄越さないし、香水臭くない。
後ろ姿を愛おしそうに見ている?
ただ、彼女の帰る姿を偶々見送っていただけなのに…
俺は溜息を吐いて紅茶を飲み干して喫茶店を出た。
メイの足は治っていて、実家から戻り今は仕事に通っている。
街中の喫茶店でメイは待っていた。
「アラン様お久しぶりです」
メイはいつも通り明るかった。
俺は紅茶を頼むと、メイはこの店のチョコレートケーキと紅茶を頼んだ。
「待たせて悪かった。今日はどうした?」
「……ずっと迷惑かけたのにお礼も言えなかったので、きちんと言っておきたかったんです」
「お礼?」
「ええ、元婚約者のことでご心配をおかけしたし……ゆっくりお礼も言えなかったし……恋人のフリをしてなんてバカなことも言ったし…」
「ああ、そんなことも言ってたな」
「アラン様忘れてましたね?」
「だってもうマークのことは解決したしね、メイの体調も落ち着いたから安心してたよ」
メイは怪我をしてしまい実家に帰っていたし、俺も寮を出て新しい生活が始まって、メイのその言葉はもうなかったことになっていた。
「……わたし仕事に戻ったのですが婚約が決まりました。わたしの3歳年上の伯爵家のトールです、お父様にももう21歳になるのだからそろそろ落ち着きなさいと言われて決心しました」
「そうか、おめでとう、よかったな」
メイは少し寂しそうにしながら、窓の外を見た。
「アラン様は寮を出られて今は以前の屋敷で暮らしていると聞きました」
「エイミーに聞いたの?そうなんだ、今は気楽でいいよ、みんな知っている人ばかりだしね」
「わたし……アラン様がイーゼ様に時折見せるあの優しい笑顔に驚いたんですよ?」
俺はメイが何を言い出したのかわからずキョトンとした。
「メイ?俺がイーゼ嬢に優しい笑顔をしているというのか?お前目でも悪くなったのか?」
メイは外を見ていたが俺の顔を見て苦笑した。
「アラン様、応宮内で貴方がイーゼ様と話しているのを見ました。どんなに女性と話していても作り笑いしかしないアラン様がイーゼ様とはとても楽しそうにしています、彼女が去った後、貴方はイーゼ様の後ろ姿を愛おしそうに見ているのをわたしは知っています」
「‥だってわたしも貴方を見ていたから」
彼女は俺に聞こえないくらい小さな声で何かを呟いた。
「俺が愛おしそう?何かの間違いだろう?イーゼ嬢は確かに話しやすいしさっぱりしているし、話していて楽しい。最近はよく屋敷にも遊びに来るから気兼ねなく話せる人だと思っている、でも特別な感情なんてない」
俺は意味のわからないメイの言葉に驚いた。
「そんな大きな声で言い訳してる……そんなアラン様を見たのは初めて……
さあ、わたしはアラン様にお礼が言えたし、そろそろ帰ります」
メイは、俺に笑顔で
「今日はご馳走していただいていいかしら?」
と聞いたので
「もちろんだ、またメイの結婚式には声をかけてくれ、是非お祝いを贈るから」
メイは席を立ち俺の顔を見ずに
「その時はぜひ」
と言って手を振ると帰って行った。
俺はメイから言われた言葉の意味を考えていた。
俺がイーゼ嬢と楽しそう?
ああ、確かに彼女と話すのはいつも楽しい、他の女のように気持ち悪い視線を寄越さないし、香水臭くない。
後ろ姿を愛おしそうに見ている?
ただ、彼女の帰る姿を偶々見送っていただけなのに…
俺は溜息を吐いて紅茶を飲み干して喫茶店を出た。
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