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38話

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メイは、次の日エイミーの迎えで実家の屋敷へ帰って行った。

マークは今取り調べが行われているが、本人は罪を認めず、メイとただ話をしていて足を滑らせ階段から落ちたと主張しているが、周りからの証言が多数あることから、マークは処罰される事は確実だろう。

メイの骨折は完治に数ヶ月かかる。
しばらくは実家で大人しくしているだろうから、心配はないだろう。



今日も陛下の護衛として過ごしている。

陛下は週に1から2回くらいは、余暇の時間に図書館へ行く。

もちろん本好きで読書も目的だが、若い子達の話を聞くのも楽しみらしい。

今日は久しぶりにジンジャー嬢に会って話している。

俺は少し離れた場所で相方とそれぞれ分かれて護衛をしている。

最近はジンジャー嬢に会う事もなかったので安心していたが、今日は何度も目が合う。

俺は陛下を見ているのだが、横にいるジンジャー嬢ももちろん見える。
彼女は俺に何か言いたそうにしているのがわかるのだが、俺は別に話はないし勤務中なので放っておいた。

ジンジャー嬢と関われば団長も嫌だろうし、彼女の母親であるシャノン様とも少しでも関わり合わないようにしたい。

図書館は、昼間は大人達が多いが、3時過ぎから夕方にかけて、若者が増える。

陛下は若者の考えている事、今何を求めているのか、本音を知りたくて、平民に近い服装になり図書館で過ごす。

俺たち護衛は、もちろん陛下を護衛するのだが、図書館の警備員達と混ざり、みんなに陛下のことを気づかれないように護衛をしている。

ジンジャー嬢の視線を無視していたら、陛下が手を振り、ここに来いと呼んだ。

俺は仕方なく陛下のそばに行った。

「何かご用でしょうか?」

「ジンジャー嬢が話したい事があるそうだ」

「かしこまりました、では後日、時間がある時にでも……失礼致します」

俺は面倒なのでまた後日いつかどこかで、時間がある時にと伝えた。

陛下の前から去ろうとすると
「アラン待て、そんなに直ぐ立ち去らなくてもいいだろう。お前は今から休憩だ」

「チッ」
俺が舌打ちすると陛下はジロッと俺を見て

「わたしは帰るから、ではまた後で」
と言って去って行った。





「俺に用とは何でしょう?」

ジンジャー嬢は、俯いて少し何か考え込むように見えた。

「特に話したい事があったわけではないのです」

「でしたら俺は休憩になったので、失礼します」

俺はこの空気が嫌でさっさと詰所に帰ろうと思った。

「……あ、あの……最近わたしのことを……避けてはいませんか?」

面倒くさい。

そんなの当たり前だろう。

団長にあまり関わって欲しくないと言う空気を出されているんだ。

出来るだけ関わらないようにしているんだ。


と、言いたいが、それは言えない。

「特に貴女と関わる用事がありませんのでお会いすることも話すこともないだけです」

俺の言葉に酷く傷ついた顔をした。

「……そうですよね……ごめんなさい。
最近メイ・ボガード様とお付き合いをされていると噂で聞きました。それなのにわたしが話しかけたら駄目でしたね」

「え?メイと俺が付き合っている?」

「はい、メイ・ボガード様が怪我をされてアラン様が血相を変えて会いにいかれたと、皆様が話されていました」

ふと周りの視線を感じた。

俺とジンジャー嬢の話に聞き耳を立てている者が沢山いた。

何だか頭が痛くなってきた。
俺が誰と付き合おうと何をしようとどうでもいいではないか。

さらにジンジャー嬢は話を進めた。

「なのに……アラン様はイーゼ・ジリニア様とお見合いをされたと聞きました」

「俺が二股をかけていると?もし、そうだとしても君には全く関係ないし、俺にそれを聞く必要はないよね?」

俺の中でこの子に対して怒りを覚えた。

この子も俺の周りにいるその辺の女と変わらないんだと思った。

この子には少し親しみを感じていた。

いつも偶然とはいえ助ける事が多く、弱くて泣き虫のくせに何とか頑張ろうとする姿も好ましいと思っていた。

だが、今この子はただのその辺の女に過ぎないのだと思った。

「………す、すみません、気になってしまって……」

ジンジャー嬢は目に涙をためていたがおれは見て見ぬ振りをした。

「失礼する」

俺はこの子に会うことはないだろうと思った。



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