【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ

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番外編  それぞれの今

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 アイシャがキリアン殿と結婚したと聞いたのは、アイシャがバナッシユ国へ行ってから3年後だった。

義父のカイザ様は二人の結婚式に呼ばれた。
わたし達三人は、連絡すらなかった。

 わかっていた、わたし達が失ったものがどんなにかけがえのない娘だったのか……その大事な娘を手放してしまった。

アイシャのことをわたしもリサも愛していた。

可愛くて大切な娘だった……はず。
 いつから間違えたのか……アイシャが笑わなくなった、笑顔は作り物なのにそれすら気が付かなかった。

 リサとターナがアイシャにとっていた酷い態度にすら気が付かないダメな父親。
 転生した娘をどう扱えばいいのかわからなくなっていた。いつもアイシャはわたしたち三人から距離を取っていた。
 初めは気がつかない程度、少しずつ距離は開いていく。
 気がついた時にはもうどうしようもなくなっていた。
リサは無意識にいや最後は意識的にアイシャを虐げていた。
 ターナはわたし達親の前ではとてもいい子なのにアイシャに対してはかなり酷い態度をとっていた。

 リサは大病を患い、死に近づいていた。アイシャへの自責の念なのか、本人は死を受け入れていた。でも、わたしはずるい人間だった。アイシャにリサを助けて欲しいと頼んだ。優しいアイシャはそれを受け入れてわざわざ遠くまで駆けつけてリサを助けてくれた。
 あれだけ治療を拒んでいたリサもアイシャだけは受け入れた。リサはアイシャのそばに要られたことが幸せだったようだ。
 アイシャが治療が終わり帰ってしまった後、アイシャが使っていた部屋に移った。そしてリサは泣き続けていた。もう二度とこの手でアイシャを抱きしめてあげることも話しかけることも出来ない。
 自分がやってしまった事が今になって返ってきた。どんなに後悔してももう戻らない。


 そしてターナもまたアイシャが助けてくれた。黒魔法で闇にのまれておかしくなっていたターナ。
 アイシャに意地悪をして屋敷から追い出したのはターナのせいでもあった。それでもターナを必死で助けてくれた。自分の魔力が底をつきアイシャ自身も危なかったのに……
  
 わたしは結局何も出来なかった。アイシャにお礼を言うことも出来ずにいた。


 そして、アイシャは中等部を卒業すると、すぐにキリアン殿の婚約者としてバナッシユ国へ向かうことになった。

 アイシャがこの国を去る日、わたし達は北の領地からこっそり会いに来た。

アイシャはわたし達に気がつき、そばに来た。

わたし達はアイシャへ言葉をかけた。

「……アイシャ」

リサがアイシャの前に立ち止まると頭を下げた。

「今までごめんなさい。貴女を辛い目に合わせて……今さら母親面なんて出来ないし言い訳をするつもりもないわ………どうか幸せになってください」

 震える声でリサは声をかけた。

「アイシャ、体に気をつけて。父親らしいことも出来ない不甲斐ない父親だった。君の幸せを願っているよ」
 アイシャに伝えたいことはたくさんあるのに、そんな事しか言えなかった。

「…………お姉様、ごめんなさい……わたしを助けてくれてありがとう」

 わたし達はそれだけを言うのが精一杯だった。


「リサ様、ハイド様、ターナ様、お世話になりました。わたしは今幸せです」

 アイシャはいつもの作り笑いではなく、本当に幸せそうに微笑んだ。

「どうぞお身体を大切にしてお過ごしください。ターナ様も今度は間違えないように過ごしてください。……ではわたしは行きますね」

 親子の別れとは言えない、他人行儀な別れとなった。わたし達三人は最後の別れだけでも出来たが、心が晴れることはなかった。

 そしてアイシャの花嫁姿を見ることも出来なかい不甲斐ないわたし達はアイシャにそっとプレゼントを贈った。

 ウエディングドレスで使うベールをリサが不器用ながらひと針ひと針縫った。ターナはブーケをどうしても渡したいとバナッシユ国へ渡り、生花でブーケを作りカイザ様に頼んでこっそりと渡してもらった。

 もちろんターナもブーケなど作ったことがない。何度も何度も屋敷で練習してなんとか形になるようになってから、バナッシユ国へ渡り、そこでも何度も作り直したらしい。

 不器用な二人が必死で作ったブーケとベール。さすがにカイザ様は受け取ってアイシャへ渡してくれた。もちろん名前は告げずに。

 聡いアイシャのことだから気づいていたと思う。本当は高価なドレス、宝石、どんなものでも贈ってあげたかった。でもアイシャがそれを喜ばないこともわかっていた。
 ターナはこっそりとアイシャの花嫁姿をみたらしい。気づかれないように遠くから。でもアイシャはターナに気がついていたようだ。

 ターナに向かってアイシャは一礼したそうだ。その時の顔はとても優しい顔をしていた。
 ターナはあふれる涙が止まらなかったと言っていた。

 今リサは北の領地で、貧しい子供達のための魔術教室を開いている。簡単な計算や字を教えたり、きちんとした知識を持って魔法を使いこなせるように無償で教えている。
 ターナはリサの手伝いをしながら北の領地で過ごしている。いずれは婿をとらなければいけない。公爵家を継ぐためにも立派な婿が必要なのだが、我が家の醜聞のためターナの結婚相手を探すのはなかなか難しい。
 アイシャが我が家の娘でなくなったことも、この国を捨てたことも社交界では全て知られている。ターナが闇にのまれていたことだけは噂をされないように緘口令を敷いた。
 それでもターナの評判はあまりにも悪かった。

「お父様、わたしはもういいのです。お姉様に助けていただいたこの命、誰かの役に立って暮らしたいのです。公爵家には誰か親族から養子でももらって跡を継いでもらってください」

 ターナは穏やかに微笑んだ。

 いつもアイシャを虐げ、我儘を言い続けたターナはいなくなった。リサと共に子供達と笑いながら暮らしている。
 二人の命は本当ならもう失っていたはずだ。それをこうやって生を与えてくれたのはアイシャだった。

「ターナがそう言うのなら今から養子を選ぼう」

 そして我が家にまだ10歳の男の子を養子として迎えた。わたしの従兄弟の三番目の息子だった。頭も良いしそこそこの魔力も持っている。
 それに優しい性格で素直なところも気に入った。

「お義父様と呼ばれるのは久しぶりだから照れるね」
 彼にはアイシャやターナには与えることができなかった愛情をきちんと与えよう。
 
 アイシャがいつも笑って楽しそうに魔術の練習をしていた庭にただずむ。何をするわけでもなくただ立っているだけ。

 目を瞑るとアイシャの楽しそうな笑顔が浮かぶ。

「お義父様!」
後ろから義息子が声をかけてきた。

「どうしたのですか?」
心配そうに見上げてくる。

「ここは君の義姉がいつも魔術の練習をしていた場所なんだ」

「懐かしいんですね」

「……そうだね、懐かしい……うん、そうかもしれない」

ここはわたしの戒めの場所。
アイシャの笑顔を失って欲してしまう、そして現実に戻されてしまう、そんな場所だ。

「さあ、一緒に魔術の練習をしよう」

わたしは彼に優しく微笑んだ。








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