【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ

文字の大きさ
上 下
95 / 97

番外編  イルーダ王国編

しおりを挟む
この国で暮らしだして数ヶ月が経った。
全く知り合いがいなかった生活から今はご近所さんとも仲良くなった。

隣の家にはまだ小さな女の子と赤ちゃんがいるご夫婦。
頼まれて二人の子供の面倒を見ることもある。
小さな子どもに縁などなかったわたしが今ではオムツもかえられるし、ミルクも作って飲ませてあげることができる。
女の子は3歳でアリスちゃん、とっても可愛い女の子でお話も上手。
「アイシャちゃん、おままごとしよう?」
そう言ってわたしがお母さん役をして、赤ちゃんのバードくんがそのまま赤ちゃん役、アリスちゃんはお姉さん役で毎回おままごとが始まる。

「ママ、きょうもパパはおしごと?」
「ママがさびしがってかわいそうだからずっといっしょにいてあげる」
「バードがないているわ、ママはいそがしいからアリスがおむつかえるね?」
「ママ、おなかすいた、ごはんたべたいわ」
「もう、ママがしっかりしないからバードがねむらないわ、バードねてちょうだい、うるさいわ」

など次から次へと出てくるセリフにわたしは笑いを堪えながら、アリスちゃんとおままごとをした。
わたしの人生でこんな穏やかで楽しい日々を送れるなんて思わなかった。

そして、近所にはおじいちゃん夫婦も住んでいて、その二人はたまに夕方から遊びに来て、一緒に食事をすることもある。

「アイシャちゃん、パイを焼いたのよ」
「これね、たくさん野菜が採れたから持ってきたわ」
家庭菜園をしているおばあちゃんがたくさん野菜が採れるとおすそ分けを持ってやってくる。

料理もまだまだレパートリーが少ないわたしのためにシチューを作ってくれたり、パンの焼き方を教えてくれたりと、色々と世話を焼いてくれる。

ご近所さんのおかげでわたしは昼間一人でいても寂しくない。
誰かしら声をかけてくれていつも賑やかに暮らしている。
キリアン様は、昼間は仕事で出掛けてしまう。彼の仕事は、お医者様。

癒しの魔法と医療技術で人々の病気を治している。
わたしもキリアン様に教えてもらい、週に2日ほどは教会で医者に診てもらえない貧しい人の病気を治療させてもらっている。

ある日家に帰ろうとした時、家から慌てて女の子を抱えた女性とぶつかってしまった。

その女性がアリスちゃんのお母さんでリズさんだった。
「ごめんなさい、急いでいて。怪我はなかった?」

リズさんは青い顔をしてぐったりしているアリスちゃんを抱えて震えていた。

「その女の子はどうしたんですか?」

「突然ぐったりして、呼吸がおかしいんです」

「わたし、癒しの魔法が使えます。家の中に入ってもいいですか?」
わたしは無理やり家の中に入って、アリスちゃんの診察をした。

「間違えて何か口に入れたのではないですか?」

「……あ、まさか」

リズさんがキッチンへ行くと、戻ってきて震えていた。

「コップに入れていた、除草剤を間違えて飲んでしまったかも…少し量が減っています」

除草剤……子どもにとっては一口でも毒になってしまう。わたしはすぐに口に指を入れて吐かせた。

アリスちゃんはゴホゴホと苦しそうに胃の中のものを吐いた。
そしてたくさんの水を飲ませてまた吐かせた。

ある程度したところで、ぐったりしているアリスちゃんにわたしは癒しの魔法をかけた。

すると、穏やかな顔になって眠りについた。

「たぶんもう大丈夫だと思います。わたしは隣の家に住んでいるアイシャと言います。いつでもいいのでまた体調が急変したら声をかけてください」

「ありがとうございます、お隣に引っ越してきたのは知っていました。挨拶もしていなくてすみません。本当に助かりました」

「いいえ、お隣の方は子どもが生まれて実家に帰っていると聞いていたんです。これからよろしくお願いします」

そんなことがあって、わたしはリズさんと仲良くなってアリスちゃんと友達になった。

近所のおじいちゃん夫婦は、わたしが昼間夕食の準備でパンを焼こうとしていた時に、

「あーーー!」
と、叫んでいると、

「大丈夫?」
と慌ててわたしの家の前を通りがかったおじいちゃん夫婦がわたしの家に突然入ってきたのがキッカケだった。

わたしはパンをまる焦げにして、家の中から焦げた匂いとオーブンを開けて出てきた煙が充満していた。さらにわたしの叫び声に二人が驚いて入ってきた。

わたしの炭になったパンの残骸を見ておばあちゃんは大笑いをしていた。
おじいちゃんは呆気に取られていた。

それからおばあちゃんがパンの焼き方を丁寧に教えてくれた。
いろんなパンの焼き方を教えてくれていつの間にか仲良くなり、一緒に食事を摂ることも増えた。
キリアン様はわたしが近所の人と仲良くなったことをとても喜んでくれた。

「アイシャが幸せに笑ってくれているのが俺も嬉しいよ」

わたしは今とても幸せ。
アリスちゃんやバードくんを見ていると、わたしも早く赤ちゃんが欲しいと思うようになった。
でも……キリアン様はわたし達の子供を望んでいないようだった。

はっきりと嫌だとは言わないけどやんわりと話を逸らす。

だからわたしも子どもが欲しいと言えなくて……どうして?と聞きたいけど聞けないでいた。

そんなある日、わたしがアリスちゃんとバードくんとお庭で遊んでいると知らない男の人が我が家を訪ねてきた。

「すみません、キリアン殿の家はこちらだと聞いたのですが」
わたしが子供達と遊んでいたので、驚いた様子だった。
「あ、もしかしてキリアン様のお知り合いですか?この子達はキリアン様の子供ではありませんよ。隣のお家の子供達なんです」

わたしは、男の人に笑顔で話しかけた。
たぶん、キリアン様にこんな大きな子がいるとは思わずに驚いたのだろう。一応言い訳をしたのだけど、男の人はクスッと笑うと

「流石に結婚したばかりなのにこんな大きな子がいたので驚きました。貴女はキリアン殿の奥方かな?」

わたしは慌てて立ってスカートについている汚れを叩いて挨拶をした。

「キリアンの妻のアイシャと申します」

「わたしは……「よかったら中に入りませんか?」

わたしは二人を連れて家に入った。

「どうぞ、座っていてください」

「アイシャちゃん、バードとここであそんでていい?」
アリスちゃんはラグの上に座ってバードくんを相手に遊んでくれた。

わたしはバードくんのミルクを作り、アリスちゃんにはジュースを入れて渡すと、アリスちゃんは慣れたものでバードくんにミルクを飲ませてくれた。

それから、お茶の用意をしてわたしが焼いたクッキーをアリスちゃんにもあげてから、お客様にお出しした。

「ああ、ありがとう」
男性は子供達の姿を見つめてにこりと微笑んでいた。

「子供は可愛いね」

「ふふ、そうですね、キリアン様がお仕事に行っている昼間は二人がわたしの相手をしてくれるんです」

「では、こちらの国に来ても寂しくないんだね」

「はい、ご近所の方達にはとてもお世話になっているんです、それにキリアン様も早く仕事を終わらせて帰ってきてくれます」

「そうか……幸せなんだね」

「はい、わたしはキリアン様にたくさん幸せをもらっています。彼のおかげでわたしはどんなに苦しくても乗り越えることができました」

「君はわたしのことを何も聞かないんだね」

「聞かなくてもわかります。たまにお時間がある時に遊びに来て下さい。キリアン様がいる時にはまだ無理かもしれませんがわたし一人の時ならいつでもお相手できますので」

「わたしが誰かわかっているのかい?」

「キリアン様のお父様ですよね?」

「そうか……名乗らなくてもわかるものなんだね」

「貴方の纏っている魔力がキリアン様と同じなのです。お顔を変えていても纏っている魔力は変えることが出来ません」

「さすが、強い魔力を持ち魔力に愛された娘だね」

「キリアン様や貴方には敵いません」

「君は公爵令嬢だったね、前世も今世も」

「はい」

「だからわたしのことも怖くないのだろうね、さすが王族の血が流れた娘だ」

「全てご存知なのですね」

「自分の息子の嫁だからね、しっかり調べたよ」

「わたしもキリアン様もこの国では平民として細々と暮らしております。この幸せをずっと守って暮らしたい、そう思っています。キリアン様のお義父様、平民としてたまに遊びに来てもらえると嬉しいです」

「………キリアンはわたしがここにくることを良しとしないだろう」

「そうかもしれません、今日来られたこともわかると思います、でもわたしがお義父様にお会いすることを止めることはないと思います」

「わかった、今日は美味しいお菓子とお茶、ご馳走になった、次は何か子供達にお土産を持って会いにこよう」

「ぜひお待ちしております」





ーーー次のお話は、2、3日後になります



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。 その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。 そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた── ──はずだった。 目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた! しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。 そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。 もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは? その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー…… 4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。 そして時戻りに隠された秘密とは……

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...