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90話
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卒業式が終わると、すぐにバナッシユ国へと向かうことになった。
荷物はもう向こうへ届けられている。
お祖父様との別れは、とても寂しくかった。
「お祖父様、今までありがとうございました。わたしが幸せに暮らせたのはお祖父様がわたしを守ってくださったからです。どうかお体を大事にお過ごしください」
「アイシャ、行こうか」
お父様がわたしの横で優しく微笑んだ。
「カイザ様、アイシャをお預かりいたします。アイシャと過ごす時間をもらえたこと感謝しております」
「お祖父様行ってきます!」
わたしはお父様とキリアン様と馬車に乗った。
メリッサとロウト、猫のミケランは別の馬車に乗り込んで後ろから付いてくる。
馬車の中から外を見続けた。
しばらくはこの国に帰ることはない。
そう思うと、二人との会話をすることも忘れて外を見てしまう。
ーーあ、手を振ってくれている。
わたしが今日バナッシユ国へ向かうことを知っている市井の町の人が手を振ってくれた。
わたしはターナを治療するため、技術を上げようとたくさんの病気の人を治療した。
おかげで街へ出掛けるとみんなから気軽に笑顔を向けてもらえるようになった。
両親の愛を得ようと必死で頑張った時よりも、両親の愛を諦めた今が幸せなんて、もし10歳の頃の自分に会えるなら教えてあげたい。
『もう頑張らなくていいんだよ、貴女の周りには貴女を愛してくれる人はたくさんいるの』
でもあんな辛い思いをしたから今のわたしがあるのかもしれない。
わたしは窓を開けて知った顔の人達に手を振り返した。
「アイシャ、知り合い?」
「はい、わたしが治療をした人達です」
「みんな君のおかげで元気になったんだね」
「少しでも役に立てたなら嬉しいです」
「俺たちの仕事は大変だし必ず治せる訳ではないから悔しい時や辛い時もあるけど、治った人の笑顔をみるとまた頑張ろうと思うんだ」
「はい、まだまだ未熟ですが頑張ろうと思います…えっ?」
「どうした?」
お父様がわたしの驚いた顔に気がついて窓の外を見た。
「……お父様、お母様、ターナ………」
三人が人々の中に紛れてわたしに手を振っていた。
その前を通り過ぎて
「馬車を止めよう」と、お父様が言った。
「ううん、そのまま行きます。三人は見送りに来てくれたのでしょう。でももうわたし達は家族ではありません」
わたしはお祖父様の籍に入っているので、お父様の公爵家からは籍を抜いている。
三人で幸せに暮らしてほしい。
そのためにわたしはこの家族から離れたのだから。
「馬車を止めて!」
御者にキリアン様が言った。
「アイシャ、そんな顔をした君をバナッシユ国へ連れていけない」
「え?何故?」
「気がついていないの?はい、ハンカチ」
わたしはハンカチを受け取りキョトンとした。
「涙が出てるよ、三人にさよならしておいで」
そう言うと馬車の扉を開けてわたしを降ろしてくれた。
止まった馬車にお父様とお母様とターナが走ってくるのがわかった。
わたしも気づいたら駆けていた。
「……アイシャ」
お母様がわたしの前に立ち止まると頭を下げた。
「今までごめんなさい。貴女を辛い目に合わせて……今さら母親面なんて出来ないし言い訳をするつもりもないわ………どうか幸せになってください」
震える声でお母様が話すのをわたしは返事をすることなく聞いていた。
返事をしたくないのではなくて、ただ声が出なかった。
まさかお母様がわたしに頭を下げるなんて思ってもみなかった。
いつも気高くて自信に満ち溢れていたお母様がこんな優しい表情でわたしを見てくれるなんて思わなかった。
「アイシャ、体に気をつけて。父親らしいことも出来ない不甲斐ない父親だった。君の幸せを願っているよ」
「…………お姉様、ごめんなさい……わたしを助けてくれてありがとう」
傲慢で人を見下していた頃のターナの姿はどこにもなかった。
目の前にいるターナは、幼い頃わたしにかまって欲しくて必死でいい子でいようとした可愛かったターナを思い出させた。
そうだった。
ターナはわたしの後を必死でついてきていたんだった。
あの頃はまだ我儘も言わずに「お姉ちゃま」と言ってわたしの真似ばかりしていたのよね。
ターナの元気な姿を最後に見れてよかった。
お母様も歩くことができるようになってよかった。
「二人とも元気になってよかったです」
「貴女のおかげよ、アイシャ。……貴女を愛していたの、でもそれ以上に貴女の全てが羨ましかった……わたしは貴女に嫉妬していたわ、ごめんなさい」
「リサ様、ハイド様、ターナ様、お世話になりました。わたしは今幸せです」
ーーたぶんお母様はわたしが前世のアイシャではないことをわかっている。
それでも最後までわたしは娘のアイシャではなく前世のアイシャとして別れることにした。
「どうぞお身体を大切にしてお過ごしください。ターナ様も今度は間違えないように過ごしてください。……ではわたしは行きますね」
馬車の前で立って待ってくれているお父様とキリアン様に向かって歩き出した。
もう三人に振り返ることはしなかった。
三人がどんな顔をしているのかわからない。
でも過去を振り返ることはない。
わたしは前をみて進んでいきたい。
荷物はもう向こうへ届けられている。
お祖父様との別れは、とても寂しくかった。
「お祖父様、今までありがとうございました。わたしが幸せに暮らせたのはお祖父様がわたしを守ってくださったからです。どうかお体を大事にお過ごしください」
「アイシャ、行こうか」
お父様がわたしの横で優しく微笑んだ。
「カイザ様、アイシャをお預かりいたします。アイシャと過ごす時間をもらえたこと感謝しております」
「お祖父様行ってきます!」
わたしはお父様とキリアン様と馬車に乗った。
メリッサとロウト、猫のミケランは別の馬車に乗り込んで後ろから付いてくる。
馬車の中から外を見続けた。
しばらくはこの国に帰ることはない。
そう思うと、二人との会話をすることも忘れて外を見てしまう。
ーーあ、手を振ってくれている。
わたしが今日バナッシユ国へ向かうことを知っている市井の町の人が手を振ってくれた。
わたしはターナを治療するため、技術を上げようとたくさんの病気の人を治療した。
おかげで街へ出掛けるとみんなから気軽に笑顔を向けてもらえるようになった。
両親の愛を得ようと必死で頑張った時よりも、両親の愛を諦めた今が幸せなんて、もし10歳の頃の自分に会えるなら教えてあげたい。
『もう頑張らなくていいんだよ、貴女の周りには貴女を愛してくれる人はたくさんいるの』
でもあんな辛い思いをしたから今のわたしがあるのかもしれない。
わたしは窓を開けて知った顔の人達に手を振り返した。
「アイシャ、知り合い?」
「はい、わたしが治療をした人達です」
「みんな君のおかげで元気になったんだね」
「少しでも役に立てたなら嬉しいです」
「俺たちの仕事は大変だし必ず治せる訳ではないから悔しい時や辛い時もあるけど、治った人の笑顔をみるとまた頑張ろうと思うんだ」
「はい、まだまだ未熟ですが頑張ろうと思います…えっ?」
「どうした?」
お父様がわたしの驚いた顔に気がついて窓の外を見た。
「……お父様、お母様、ターナ………」
三人が人々の中に紛れてわたしに手を振っていた。
その前を通り過ぎて
「馬車を止めよう」と、お父様が言った。
「ううん、そのまま行きます。三人は見送りに来てくれたのでしょう。でももうわたし達は家族ではありません」
わたしはお祖父様の籍に入っているので、お父様の公爵家からは籍を抜いている。
三人で幸せに暮らしてほしい。
そのためにわたしはこの家族から離れたのだから。
「馬車を止めて!」
御者にキリアン様が言った。
「アイシャ、そんな顔をした君をバナッシユ国へ連れていけない」
「え?何故?」
「気がついていないの?はい、ハンカチ」
わたしはハンカチを受け取りキョトンとした。
「涙が出てるよ、三人にさよならしておいで」
そう言うと馬車の扉を開けてわたしを降ろしてくれた。
止まった馬車にお父様とお母様とターナが走ってくるのがわかった。
わたしも気づいたら駆けていた。
「……アイシャ」
お母様がわたしの前に立ち止まると頭を下げた。
「今までごめんなさい。貴女を辛い目に合わせて……今さら母親面なんて出来ないし言い訳をするつもりもないわ………どうか幸せになってください」
震える声でお母様が話すのをわたしは返事をすることなく聞いていた。
返事をしたくないのではなくて、ただ声が出なかった。
まさかお母様がわたしに頭を下げるなんて思ってもみなかった。
いつも気高くて自信に満ち溢れていたお母様がこんな優しい表情でわたしを見てくれるなんて思わなかった。
「アイシャ、体に気をつけて。父親らしいことも出来ない不甲斐ない父親だった。君の幸せを願っているよ」
「…………お姉様、ごめんなさい……わたしを助けてくれてありがとう」
傲慢で人を見下していた頃のターナの姿はどこにもなかった。
目の前にいるターナは、幼い頃わたしにかまって欲しくて必死でいい子でいようとした可愛かったターナを思い出させた。
そうだった。
ターナはわたしの後を必死でついてきていたんだった。
あの頃はまだ我儘も言わずに「お姉ちゃま」と言ってわたしの真似ばかりしていたのよね。
ターナの元気な姿を最後に見れてよかった。
お母様も歩くことができるようになってよかった。
「二人とも元気になってよかったです」
「貴女のおかげよ、アイシャ。……貴女を愛していたの、でもそれ以上に貴女の全てが羨ましかった……わたしは貴女に嫉妬していたわ、ごめんなさい」
「リサ様、ハイド様、ターナ様、お世話になりました。わたしは今幸せです」
ーーたぶんお母様はわたしが前世のアイシャではないことをわかっている。
それでも最後までわたしは娘のアイシャではなく前世のアイシャとして別れることにした。
「どうぞお身体を大切にしてお過ごしください。ターナ様も今度は間違えないように過ごしてください。……ではわたしは行きますね」
馬車の前で立って待ってくれているお父様とキリアン様に向かって歩き出した。
もう三人に振り返ることはしなかった。
三人がどんな顔をしているのかわからない。
でも過去を振り返ることはない。
わたしは前をみて進んでいきたい。
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