【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ

文字の大きさ
上 下
81 / 97

81話  再会編 さよなら

しおりを挟む
お母様の体調が良くなったわけではない。
それでもお母様もなんとか頑張ろうと食事の量も少しずつ増えてきた。

わたしも癒しの魔法でお母様の体調を整えて、悪性腫瘍の場所に集中的に魔力を流した。

手強い腫瘍をなんとか少しずつ消去魔法で小さくしていく。
その時お母様はわたしの魔力により体に痛みを感じている。
顔色を変えることなくじっと我慢しているみたい。
かなりの激痛に耐えているのだと思う。
わたしも癒しの魔法を何度もかけながら治療をしてはいるが、一人で同時に二つの魔法をかけるのは難しい。

「リサ様、辛いですね。でもあと少し…頑張りましょう」

「辛くなどないわ、頑張ると約束したでしょう?」
お母様はグッと堪えて、わたしに笑って見せる。

「そうでしたね」

お母様は弱音など吐かない強い人だった。

こんな時なのにお母様との時間が持てることが嬉しいと感じている。
ーーわたしはやはりお母様のことが大切なのだ。だから完治させたらここを早く離れよう。

ーーまたわたしに対して悪い感情を抱かれる前に……
またお母様に捨てられる前に……


ーーーーーー

イルマナ様とお祖父様が屋敷に来られた。

「……よかった……やっと……」
わたしは二人が屋敷に来た瞬間、思わずポロリと弱音を吐いてしまった。

「アイシャ、よく頑張った。ここからはわたし達も一緒に治療をするから一人で頑張らなくていい。辛かっただろう」
お祖父様がわたしを抱きしめて、背中をそっと撫でてくれた。

イルマナ様も「よく頑張ったね」と褒めてくれた。

この領地まで二人が来るのに、かなり無理をして時間を作ってくれたのだと思う。

手紙である程度今の状態を説明していたので、旅の疲れも忘れて二人はすぐにお母様の診察に向かってくれた。
お祖父様は時の魔法、イルマナ様は癒しの魔法を得意としている。

二人で協力すれば思った以上の効果があった。
わたしも一緒に手伝った。

二人はある程度治ったところで、わたしにアドバイスをくれて帰って行った。

「アイシャ、長い間お疲れ様」

お祖父様から労いの言葉をもらった。

「アイシャ、よかったら学校を卒業したらわたしの元でもっと癒しの魔法を勉強しないか?」
イルマナ様から嬉しい誘いを受けた。

「わたしももっと勉強して難しい病気も治せる力が欲しいです」

いつかは一人で頑張りたい。



それからさらに完全にお母様の病気を治すのにひと月ほどの時間を要した。

お母様の顔色はとても良くなって、一人で歩くこともできるようになった。
もう死ぬことはない。

わたしはお母様に挨拶をせずにこの屋敷を出ていくことを決めていた。

「カレン夫人、わたしはそろそろ王都に戻るつもりです」

「……リサには何も言わずに?」

「はい」

「リサを助けてくれてありがとう」
お祖母様が頭を下げた。



使用人に全員部屋から出て行ってもらい二人だけで話すことにした。

「お祖母様、頭をおあげください。お祖母様がお父様とターナをこの屋敷に近づけないでくれていたのでしょう?おかげでわたしは前世のアイシャとして、二人に煩わされないで治療に集中できました。どうぞ二人を呼んであげてください。二人もお母様が心配しているでしょう?」

「………アイシャは……ターナのことを気にしてはいないの?」

わたしはこの屋敷に来てから一度もターナのことを尋ねたりしなかった。
だってもう自分の中で切り離していたから。

「……もうお父様もお母様もターナもわたしにとって……家族ではなくなってしまいました……わたしがいるとせっかく三人で幸せに暮らしているのにまた掻き乱すことになります……」

「貴女も家族なのよ?わたしの大切な孫。そしてハイドの娘、なのに……リサの病気を助けて欲しいと頼って、それで終わりなんて……」

「お母様に生きて欲しかった。だからわたしが出来ることをしたまでです。でも、あの家族に戻ることは出来ません。無理矢理戻ってもまた同じことの繰り返しなのだと思います」


「……ターナは、医療研究所へ行って治験者として数年過ごしたの…ターナが今までしてきたアイシャへの嫌がらせを本人に実体験してもらうことで、少しでも反省して変わってもらえることを期待してね。
でもあの子の心根は残念ながら変わらなかったわ……普段は大人しくていい子なのだけど……姉の貴女にはどうしても素直になれないのか自分がしたことが悪いと感じていないみたい……今はハイドと二人で王都の屋敷で暮らしているわ。
でもね、ターナはもう屋敷の外には出る事はないの。一生あの屋敷で幽閉して暮らすことになるわ」

「……わたしと関わらなければ普通なのに?」

「そう……でもね、アイシャ貴女に何度も会いに行こうとして脱走していたの……ターナは少しずつ狂っていったの……自分は悪くない、悪いのはお姉様だと、暗示を自分にかけて……もう正常ではなくなってるの。屋敷で普段大人しくして過ごしているのに突然暴れ出したりして……」

「……ターナが……」

お祖父様は三人のことをわたしには話そうとしなかった。わたしも敢えて聞こうとしなかった。

「……全く知りませんでした」

「リサもターナもそしてハイドもみんな幸せにはなれなかった……自業自得ね。
アイシャ、貴女は自分の道を行きなさい。もう家族に囚われる必要はないのよ」

わたしはお祖母様に返事をすることができなかった。

このままでいいのだろうか?
ターナを見捨てていいの?

悩みつつわたしは屋敷を後にすることにした。

帰る前に学校に行き、友人達に別れの挨拶をした。

「みんなありがとう。また帰ってきたら会いに来てもいいかな?手紙も書くから…もし王都に来ることがあったらわたしに連絡してね」

みんなと抱き合って別れを惜しんだ。

また必ず会いに来るから……






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。 その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。 そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた── ──はずだった。 目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた! しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。 そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。 もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは? その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー…… 4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。 そして時戻りに隠された秘密とは……

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...