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78話 再会編
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明日からはお母様と今までよりも長い時間を一緒に過ごさなければいけない。
気を引き締めて頑張ろう。
朝目覚めると学園に行く支度をして朝食をメリッサとロウトと三人で食べる。
その後、お母様の部屋へ行き、癒しの魔法を流す。
お母様はまだほとんどベッドで横になっていることが多い。
わたしはお母様の手を握り優しく全身に行き渡るようにそっと魔力を流していく。
するとお母様の青白いお顔が少しだけ赤みをさす。
わたしはそれを見て心の中でホッとする。
ーーまだまだ大丈夫、お母様は生きれるのだと。
そしてわたしは
「ではリサ様、学校がありますのでまた夕方に伺いますね」
いつものセリフを言う。
「アイシャ、ありがとう」
お母様はわたしにその一言だけを毎回言う。
その時お母様はわたしの方に顔を向けない。
ーー何を考えているのだろう、わたしを捨てたことを後悔していると聞いた。でも今のわたしはお母様にとってバナッシユ国にいた前世のアイシャ。
この人にはもう娘のアイシャは存在しないのだ。
そして学園では貴族はもちろん平民の子達とも一緒に勉強をした。
王立学園のように貴族を中心とした子ども達が通う学園に比べて、北の領地の方が貴族と平民の垣根が少なく感じる。
魔力の強い平民はこの領地では高い地位の職業に就ける。
特にこの学校で優秀な成績を収めた者は、皆北の領地を政務する仕事についている。
それは、お父様が改革して、優秀な者をもっと採用することでこの辺境の土地でも皆が幸せに暮らせるようにと考えたから……らしい。
貴族もさほど多くはないし、平民の多い土地だからこそ平民と共に暮らしているのだろう。
わたしが転校した時は、この北の領地の領主の娘なので、みんなから警戒されて話しかけてもらえなかった。
出来るだけみんなに挨拶したり、わからないことは自分から聞いたりしていたら、少しずつみんなの固い表情も和らいで話してくれるようになった。
「アイシャ様って貴族らしくないのね」
「話しやすい人でホッとしたわ」
「領主様が優しい人だから娘のアイシャ様も優しいのね」
お父様のことを褒めてくれる。
そう、お父様はとても優しい。
その優しさがわたしには残酷だった。
お父様はわたしが家族の誰にも似ていないからすごく気を遣って、なんとか親子になろうとしてくれたのだと今になったらわかる。
ーー『どうして君がいると家族の輪が壊れてしまうんだ?』ーー
何度も繰り返されるお父様の最後の言葉。
この言葉がわたしを苦しめる。
わたしはこの家族の中に入ってはいけない存在。
それでも今お母様の近くに居ないといけない。
この胸の苦しさはどうすればいいのだろう。
お母様がわたしを見つめる目が何故か怖くて目を逸らしてしまう。正面から見ることができない。
優しいお祖母様にも他人として接していて心苦しい。
わたしはやはりここにいると不協和音が生じるだけの存在なのだろう。
早くお母様を治して立ち去らなければ。
「………アイシャ様?」
「…………あ……ご、ごめん。考え事をしてたみたい」
「珍しいですね、みんな待ってますよ、早く食堂に行きましょう」
学校で仲良くなったクラスメイト達。
みんな気さくに話しかけてくれるようになった。
休みの日にはみんなで街に出掛けてカフェに行ったり買い物をして楽しんだりしている。
初めて、お友達の家にお泊まりした時は、メリッサとロウトが青い顔をしていた。
この街だから出来ること。
貴族が多く住む王都では犯罪率が高く、護衛がついていないで外を歩くこともましてや平民の家に泊まることもあり得ない。
わたしは、みんなが大好きになっていた。
恋の話は、物語のようで楽しい。
政略結婚や貴族同士の確執、腹の探り合いなんてここにはない。
貴族社会では、子ども達ですらしっかり貴族の上下関係ができている。
誰とでも仲良くなることはあり得ないし、少しでも弱みを見せれば付け込まれてしまう。
わたしにとってお祖母様の屋敷は気が抜けない場所。
学校と部屋の中だけはわたしらしくいられる。
「今日のおまかせ定食頼んで正解ね」
「うん、お魚のフライとっても美味しい」
「ねえ、デザートにシュークリーム食べない?」
「えー、これ以上食べたら太るわよ」
「あとで走ったら大丈夫よ」
「そっか、じゃあ、食べたら走る?」
「食べてすぐ走ったら胃がびっくりするんじゃない?」
「えー、でも食べたい」
「「「とりあえず食べよう!」」」
スピナとアリアも大好きだけど、また違う付き合いが出来るみんなも大好きになった。
「アイシャ様、今度そちらのお屋敷に遊びに行きたい」
「わたしも領主様のお屋敷行ってみたい!」
「うーん、お祖母様に聞いてみるわ。お母様が体調が優れないからわたしの部屋だけでいいなら大丈夫だと思う」
「お、俺も行きたい!」
「「はあ?」」
友達二人が隣からいきなり声をかけてきた男子を睨んだ。
「俺、ずっと騎士団の練習を見に行ってみたかったんだ」
「あ!俺も行ってみたい!」
「確かに!この領地を守ってくれる騎士団の人たちかっこいいよね」
わたしにとってはいつも近くにいて当たり前のように鍛錬をしている姿しか知らない。
それに憧れる人たちがいる。
話を聞いて、わたしは後でロウトに聞いてみるからと返事をした。
放課後、帰る時にロウトにそんな話をすると
「男の子って騎士に憧れる時期がありますからね」
と言って、騎士団に話をして聞いてみると言ってくれた。
学校が終わりわたしはお母様の部屋に訪れた。
「リサ様、体調はいかがですか?」
「今日は少し体が楽なの」
珍しくベッドに座って窓の外を見つめていた。
「そうですか、それは良かったです。今日から少しずつ病気の治療をして行こうと思います。もしも、気分が悪くなったり痛みがひどい時は我慢しないで教えてください」
わたしはお母様の手を握り、魔力を流していく。
悪性腫瘍がある場所に行くと、不思議に変な引っ掛かりを感じるのだ。
そしてそこに集中的に癒しの魔法をかける。
優しく、そっと。
イルマナ様に教わった通りに……
少し苦痛で顔を歪めたお母様。
それでも弱音を吐かずに治療に耐えた。
「今日は最初なのでこのくらいにしておきますね、また明日の朝顔を出しますね」
「……いつもありがとう」
私たちの親子の会話は今日も他人同士の会話で終わる。
気を引き締めて頑張ろう。
朝目覚めると学園に行く支度をして朝食をメリッサとロウトと三人で食べる。
その後、お母様の部屋へ行き、癒しの魔法を流す。
お母様はまだほとんどベッドで横になっていることが多い。
わたしはお母様の手を握り優しく全身に行き渡るようにそっと魔力を流していく。
するとお母様の青白いお顔が少しだけ赤みをさす。
わたしはそれを見て心の中でホッとする。
ーーまだまだ大丈夫、お母様は生きれるのだと。
そしてわたしは
「ではリサ様、学校がありますのでまた夕方に伺いますね」
いつものセリフを言う。
「アイシャ、ありがとう」
お母様はわたしにその一言だけを毎回言う。
その時お母様はわたしの方に顔を向けない。
ーー何を考えているのだろう、わたしを捨てたことを後悔していると聞いた。でも今のわたしはお母様にとってバナッシユ国にいた前世のアイシャ。
この人にはもう娘のアイシャは存在しないのだ。
そして学園では貴族はもちろん平民の子達とも一緒に勉強をした。
王立学園のように貴族を中心とした子ども達が通う学園に比べて、北の領地の方が貴族と平民の垣根が少なく感じる。
魔力の強い平民はこの領地では高い地位の職業に就ける。
特にこの学校で優秀な成績を収めた者は、皆北の領地を政務する仕事についている。
それは、お父様が改革して、優秀な者をもっと採用することでこの辺境の土地でも皆が幸せに暮らせるようにと考えたから……らしい。
貴族もさほど多くはないし、平民の多い土地だからこそ平民と共に暮らしているのだろう。
わたしが転校した時は、この北の領地の領主の娘なので、みんなから警戒されて話しかけてもらえなかった。
出来るだけみんなに挨拶したり、わからないことは自分から聞いたりしていたら、少しずつみんなの固い表情も和らいで話してくれるようになった。
「アイシャ様って貴族らしくないのね」
「話しやすい人でホッとしたわ」
「領主様が優しい人だから娘のアイシャ様も優しいのね」
お父様のことを褒めてくれる。
そう、お父様はとても優しい。
その優しさがわたしには残酷だった。
お父様はわたしが家族の誰にも似ていないからすごく気を遣って、なんとか親子になろうとしてくれたのだと今になったらわかる。
ーー『どうして君がいると家族の輪が壊れてしまうんだ?』ーー
何度も繰り返されるお父様の最後の言葉。
この言葉がわたしを苦しめる。
わたしはこの家族の中に入ってはいけない存在。
それでも今お母様の近くに居ないといけない。
この胸の苦しさはどうすればいいのだろう。
お母様がわたしを見つめる目が何故か怖くて目を逸らしてしまう。正面から見ることができない。
優しいお祖母様にも他人として接していて心苦しい。
わたしはやはりここにいると不協和音が生じるだけの存在なのだろう。
早くお母様を治して立ち去らなければ。
「………アイシャ様?」
「…………あ……ご、ごめん。考え事をしてたみたい」
「珍しいですね、みんな待ってますよ、早く食堂に行きましょう」
学校で仲良くなったクラスメイト達。
みんな気さくに話しかけてくれるようになった。
休みの日にはみんなで街に出掛けてカフェに行ったり買い物をして楽しんだりしている。
初めて、お友達の家にお泊まりした時は、メリッサとロウトが青い顔をしていた。
この街だから出来ること。
貴族が多く住む王都では犯罪率が高く、護衛がついていないで外を歩くこともましてや平民の家に泊まることもあり得ない。
わたしは、みんなが大好きになっていた。
恋の話は、物語のようで楽しい。
政略結婚や貴族同士の確執、腹の探り合いなんてここにはない。
貴族社会では、子ども達ですらしっかり貴族の上下関係ができている。
誰とでも仲良くなることはあり得ないし、少しでも弱みを見せれば付け込まれてしまう。
わたしにとってお祖母様の屋敷は気が抜けない場所。
学校と部屋の中だけはわたしらしくいられる。
「今日のおまかせ定食頼んで正解ね」
「うん、お魚のフライとっても美味しい」
「ねえ、デザートにシュークリーム食べない?」
「えー、これ以上食べたら太るわよ」
「あとで走ったら大丈夫よ」
「そっか、じゃあ、食べたら走る?」
「食べてすぐ走ったら胃がびっくりするんじゃない?」
「えー、でも食べたい」
「「「とりあえず食べよう!」」」
スピナとアリアも大好きだけど、また違う付き合いが出来るみんなも大好きになった。
「アイシャ様、今度そちらのお屋敷に遊びに行きたい」
「わたしも領主様のお屋敷行ってみたい!」
「うーん、お祖母様に聞いてみるわ。お母様が体調が優れないからわたしの部屋だけでいいなら大丈夫だと思う」
「お、俺も行きたい!」
「「はあ?」」
友達二人が隣からいきなり声をかけてきた男子を睨んだ。
「俺、ずっと騎士団の練習を見に行ってみたかったんだ」
「あ!俺も行ってみたい!」
「確かに!この領地を守ってくれる騎士団の人たちかっこいいよね」
わたしにとってはいつも近くにいて当たり前のように鍛錬をしている姿しか知らない。
それに憧れる人たちがいる。
話を聞いて、わたしは後でロウトに聞いてみるからと返事をした。
放課後、帰る時にロウトにそんな話をすると
「男の子って騎士に憧れる時期がありますからね」
と言って、騎士団に話をして聞いてみると言ってくれた。
学校が終わりわたしはお母様の部屋に訪れた。
「リサ様、体調はいかがですか?」
「今日は少し体が楽なの」
珍しくベッドに座って窓の外を見つめていた。
「そうですか、それは良かったです。今日から少しずつ病気の治療をして行こうと思います。もしも、気分が悪くなったり痛みがひどい時は我慢しないで教えてください」
わたしはお母様の手を握り、魔力を流していく。
悪性腫瘍がある場所に行くと、不思議に変な引っ掛かりを感じるのだ。
そしてそこに集中的に癒しの魔法をかける。
優しく、そっと。
イルマナ様に教わった通りに……
少し苦痛で顔を歪めたお母様。
それでも弱音を吐かずに治療に耐えた。
「今日は最初なのでこのくらいにしておきますね、また明日の朝顔を出しますね」
「……いつもありがとう」
私たちの親子の会話は今日も他人同士の会話で終わる。
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