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76話 再会編
しおりを挟む「……わかったわ、ではアイシャ……いえアイシャさん、リサに会っていただけるかしら?」
「もちろんです、カレン夫人」
わたしはお祖母様に優しく微笑んだ。
お祖母様はわたしのことを孫としてきちんとみてくれている。ここにもわたしを家族としてずっと想ってくれた人がいたことがわかって嬉しかった。
そして、お母様に会う時間が近づいてきた。
ーー会いたい? わからない
ーー助けたい? それはもちろん
ーー許せる? わからない
会ってみないと自分でもどうしていいのかわからない。
ドキドキしながらお母様の部屋へ向かう。
お母様の部屋は屋敷の一階の奥にあった。
そこは陽当たりの良い部屋。
部屋の窓からは庭が見える場所。
幼い頃ここに泊まりにくるとお母様とターナと三人で大きなベッドで一緒に眠りについた部屋。
あの頃のわたしは幸せがずっと続くと思っていた。
「おねえちゃま!」と言ってわたしの後ろをついて来るターナ。
わたしが魔法を失敗して、庭が水浸しになるとお母様は「お花が喜んでいるわ」と笑いながら言ってくれた。
大好きなデザートをターナと二人で分け合いながら食べた。
近くの森をみんなでピクニックに行ったり、近くの村を散策したり。
この場所は北の領地で寒さが厳しいと言われる辺境だけど、自然が豊かで素敵な思い出しかない場所。
ターナと喧嘩したり泣いたり、そして思いっきり笑った。
廊下を歩いていると思い出すのは懐かしい楽しい思い出ばかり。
「……………アイシャ?」
「…あっ、すみません」
お祖母様がわたしの顔をじっと見つめて「大丈夫?」と尋ねて
「はい、カレン夫人、大丈夫です」
気を引き締めて扉をノックした。
「どうぞ」
中にいるメイドが返事をして扉を開けてくれた。
そっと中に入ると、意識があるのかわからない状態で青白い顔をしたお母様がベッドに寝かされていた。
思わず駆けつけたくなったけど、ギュッと手を握りしめて心を落ち着かせた。
「リサ様、お加減はいかがですか?」
ベッドのそばに行きお母様の様子を見ながら声をかけたが返事はなかった。
ただわたしを虚な目で見つめるだけだった。
わたしはお母様の手にそっと触れた。
自分の魔力を流してお母様の悪いところを探して行く。
悪性腫瘍は肺のところにあるのか……息が苦しそう。
それに、治療を拒否しているため体力自体も弱っている。
お母様は前世でわたしを助けるためにわざわざバナッシユ国まで来てくれた。
今度はわたしがお母様のために頑張る。
そう、前世のアイシャとして……お礼の気持ちを込めて。
「リサ様、まずは体力をつけましょう。このままでは病気に勝つことはできません」
わたしの声に反応した。
微かに目を開けて、わたしを見た。
「…ア……ャ」
そしてわたしの手を力のない手で微かに握り返した。
そして、首を横に振った。
わたしの魔力を拒絶しているのがわかる。
こんなに体が弱っているのにわたしの魔力を撥ね付ける。
「どうして?わたしは確かに生きることを拒否しました。でもそれはもう生ることが出来ないとわかっていたからです。
でも貴女はまだ治療を出来る状態です。生きることを諦めないでください」
わたしの声が聞こえているのだろう。
お母様は何度も首を振る。
「……わたし……は、アイシャ……を自分…の傲慢…さから…見捨て……た」
「だから死ぬのですか?そんなことをして眠り続けるアイシャは喜ぶのですか?自分の親を自分のせいで死なせて喜んでくれるのですか?
貴女の罪は生きて後悔しても辛くてもアイシャに向き合って行くことではないのですか?」
ーーお母様、わたしは死んで欲しいなんて想っていないの。
「……生きて…向き…合……う?」
お祖母様が背後で啜り泣いているのがわかる。
わたしはお母様に酷いことをしているのだろうか。娘として向き合わず、別の人としてしか向き合えていない。
生きてもわたしに拒絶される日々を、辛い日々を生きろとわたしは言っている。
それが正解なのか……
……わからない。
それでも、今はわたしの魔力を受け入れて欲しい。
わたしはお母様の手を握り、また少しずつ魔力を流す。
先程の抵抗が嘘のようにお母様の体はわたしの魔力を受け入れてくれた。
青白い顔に少しだけ血の気が戻ってきた。
一気に癒しの魔法を流せばその反動で逆に体に負担がかかる。
わたしはお母様が今晩ゆっくり寝ることが出来る程度の回復だけに留めた。
「リサ様、明日は朝食を少しだけでも食べてください。食べ物の栄養も大事です、明日また顔を出しますね」
わたしはそれだけ言うと扉を開けて部屋を出ようとした。
「ミケラン?」
扉からいきなり入ってきたミケランはお母様のベッドに上がるとお母様の布団に潜り込んだ。
お母様はさっきより意識がハッキリしていて「ミ…ケラン?」と言うと、ミケランを撫でた。
「久し……ぶり…ね、あなた…も元…気だっ……た?」
お母様は少しだけ微笑んだ気がした。
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