【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ

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58話

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「アイシャ、アイシャ、君が転生したことはカイザ様に聞いて知っていた。しかし会えるとは思っていなかった。いや、わたしには会う資格がないと思っていたんだ。すまなかった」

あの威厳がありいつも怖い顔をしたお父様が泣き出した。

「お祖父様?どうして泣くの?」
男の子はわたしをキッと睨んで怒り出した。

「お祖父様は病気なんだ!」

ーーお父様はこの子に愛されているのね。
わたしは胸がズキンと痛んだ。

この男の子がこんなにお父様に懐いていると言うことは、お父様はこの男の子を大切に思っていると言うこと。

ーーわたしだってお父様に愛されたかった。

「……わたしは、別に責めたくて来たわけではないの。ただお会いしたかっただけなの。貴方はルイズお兄様の子どもかしら?」

「僕のお父様を知っているの?」

「うん、知っているわ」

「僕の名前はケビン・ベイカー。お祖父様のお見舞いに来ただけなんだね?」

わたしに確認を取るように聞いてきたケビン君にわたしはしっかりとコクンと頷いた。

「そう、お見舞いに来ただけなの……ケビン君には信じてもらえないかもしれないけど、わたしはアイシャ。この屋敷で産まれて育ったアイシャの生まれ変わりなの。今のアイシャちゃんは眠りについていて、わたしは貴方のお祖父様の娘でお父様の妹のアイシャなの。信じてもらえないと思うけど」

ケビン君は頭を横に傾げて??悩んでいた。

わたしの言っている意味なんて理解できるわけがないのに……

「わかった!アイシャはアイシャなんだね?」

「う、ううん?そ、そっかな。うん、そうだと思う」
わたしもよくわからないけどケビン君が納得してくれたのでとりあえずホッとした。

「お父様、黙って亡くなってしまってごめんなさい。わたしは自分だけがずっと不幸だと思っていました。誰もわたしのことなんか必要としていない、誰にも愛されていないと思っていました。とても苦しくて辛くて、だから死ぬ時くらいはもう誰にも気を使いたくなくて、黙って一人で死のうと思っていました。
リサ様とカイザ様に助けていただいて二人が看取ってくれたと思っていました。
キリアン君が教えてくれました。わたしを必死に探してくれていたこと、最後わたしをみんなが看取ってくれたこと。
それを聞いて嬉しかったです、わたしはみんなに嫌われてはいなかったんだと転生して初めて知りました」

「悪いのはわたしだ。仕事ばかりして報告書を鵜呑みにして自分の目で確かめもしなかった。会おうとすらしなかった。辛い思いをさせてすまなかった、アイシャに死ぬ前に会えた、もう十分だ」

「お祖父様、死ぬなんて言っちゃやだ!」
ケビン君がお父様の手を握って涙をポロポロ流していた。

わたしもやっと会えたのに死んでほしくない。

お父様の反対の手を握った。

「お父様、わたしはアイシャでいる間にお話をしたいです、わたしがアイシャでいられるのはあと少し。もうすぐアイシャちゃんは……必ず目覚めてくれるはずだから……だから、死ぬなんて言わないで!お願い、生きてください」

ーーああ、みんなはわたしに対してこんな気持ちだったんだ。
生きて欲しい。
死なないで。

……なのにわたしは生きることを諦めた。
死に抗おうとしなかった。

みんなにこんな苦しい思いをさせたのね。
アイシャちゃん、貴女もわたしと同じ道を辿るの?
お願い、お父様もアイシャちゃんも生きて!

わたしはお父様の手を握りしめて祈った。

『お願い、お父様を助けて!』

不思議なことが起こった。

お父様の周りがふわっと、とても温かい空気に包まれた。
そしてその暖かな空気がお父様の体に入っていった。

ケビン君もミーゼさんも呆然とその様子を見ていた。

わたしはどうしていいのかわからなくてひたすらお父様の手を握りしめていた。

すると、扉からキリアン君が入ってきた。

「アイシャの癒しの魔法だ……君はアイシャお姉ちゃん?それともアイシャ?」

「わたしは……まだアイシャお姉ちゃんのままなの…キリアン君ごめんね。でもアイシャちゃんが眠りから目覚めるかもしれない。よくわからないけど中で何か動いているのがわかるの、アイシャちゃんが目覚めてくれるかもしれないわ」

キリアン君の瞳が潤んでいた。
このままアイシャちゃんが目覚めなければアイシャちゃんもこの体も死んでしまうだろう。
わたしの意識が持つのはもう残り少ない。

それは何故か自分でも不思議なのだが感じる。

わたしの意識がなくなるのが先か、アイシャちゃんが目覚めるのが先か。

お父様は癒しの魔法のおかげなのか、青白く息苦しそうにしていたのに、今は顔色も良くなって落ち着いた寝息を立てている。

「お父様、よかった……生きてください。わたしの分まで」

「お姉ちゃんは僕のお父様に会わないの?」
ケビン君の一言でお兄様にもお会いできることになった。






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