【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ

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54話  ハイド・カイザ編

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「アイシャを捨てるのか?」

「アイシャはカイザ様に託します。リサはもう母親として失格です。アイシャを愛していた筈なのに歪んでしまいました。
わたしも父親として失格です、守ってあげることも助けてあげることもできませんでした」

「アイシャは……お前のような考え方しか出来なければもう元には戻らないだろうな」

「何故ですか?わたし達がいないほうがあの子は幸せではないのですか?」

「アイシャは前世でも親の愛情も家庭の温かさも知らずに亡くなった。そして今世でもリサやターナからの嫌がらせや虐めに苦しんできた。お前がもしアイシャに父親として愛情があるのならアイシャを捨てるのではなくアイシャに愛情を与えてあげるべきではないのか?
ターナやリサがたとえアイシャへの態度を変えることが出来なくてもお前だけはアイシャへ愛情を示してやらなければアイシャが生まれ変わった意味はあるのか?」

「アイシャの生まれ変わった意味?」

「わたしはずっとアイシャの転生の理由を考えていた。あの子が亡くなる時にそばにいたんだ。
わたしとリサは助かるかもしれない命をみすみす死なせてしまった、アイシャは親の愛情も人の優しさも知らずにな。
自分が生きることがいかに周りから必要とされていたか、みんなに大切にされていたか知らずにあの子は死んでいったんだ。
みんながあの子に伝えたかった想いがあの子を転生させたのかもしれないと考えている。
それなのにまた同じ悲しみを背負わせてしまった。わたしこそがアイシャには相応しくない保護者だ」

カイザ様からの言葉にわたしはアイシャのことを思い出していた。

アイシャはいつも笑顔だった。
気づかないうちに家でリサやターナ、使用人に酷い態度を取られていてもわたしは全く気が付かないくらい笑顔で過ごしていた。

それはあの子が周りに気を遣っていたのもあるが、もしかしたら少ししか残っていない家族の愛情を必死で失わないようにしていたのかもしれない。

前世で辛い思いをして亡くなり、今世では記憶がなくても、どこかでずっと家族の愛情を求めていたのかもしれない。
そんなアイシャのことを蔑ろにしてわたしはまたリサとターナのことだけを考えていた。

アイシャには悪いことをした。だから?

アイシャを捨てて三人で過ごす?

アイシャから逃げて家族を奪うのはわたし?

間違った考え方をしていた?

アイシャに悪いから離れようとした。

違う、アイシャの心を取り戻さないと、あの子はもう永遠にこの世界に戻ってこない。

孤独に心の中の奥で眠り続け、いつかはアイシャは消えてなくなるかもしれない。
その時もう一人のアイシャは?

彼女も消えアイシャの体は死んでしまうのか?

わたし達三人がアイシャを殺す?

だめだ、絶対にだめだ。

アイシャは生まれた時体が弱くて必至で看病してリサと二人でずっと見守ってきた可愛い娘だ。
生まれた時は確かにわたし達に全く似ていない娘に驚いたが、あの子を初めて抱いた時、涙が溢れて止まらなかった。
この子はわたしたちの娘なんだ、一生守り続け愛し続けると誓ったんだ。

リサだってずっとアイシャを愛していた。

ただリサはアイシャに対して、あまりにも優秀で美しすぎるアイシャに、我が娘としてではなくて、一人の女性として嫉妬し嫉み羨み、焦がれたのだ。

その気持ちがどんどん歪んでいった。
わたしが気づいた時には遅すぎた。

リサの歪みを少しでも正常に戻しアイシャと向き合わさなければアイシャは救われない。

ターナにも自身が何をしているのか、何が悪いのか時間をかけてでも分からせなければいけない。

わたしが逃げてしまえば、アイシャの心を取り戻せないんだ。

「カイザ様、わたしは二人に向き合います、そしてアイシャを一人にはさせません。わたし達は家族です。
たとえアイシャと共に暮らせなくなっても……アイシャを見捨てることはしません。
間違えておりました。
そしてカイザ様にも二人の祖父として最後までそばにいてあげてください」



わたしは実家の父親に協力を頼み、公爵家の仕事を助けてもらうことにした。

そして少しでも空いた時間を使いリサと対話をすることで、アイシャへの気持ちを態度を、もう一度二人で見直して行くことにした。
リサ自身、アイシャが眠り続けていることで不安定になっているが、母上の厳しい愛情で冷静さを保てるようになってきた。

すぐにアイシャに会わせることは出来ないが、アイシャに対して少しずつ「謝りたい」「ごめんなさい」と言う言葉が出始めた。

まだ先は長いがリサの気持ちが変わっていければと思う。

ターナはなかなか手強い。

自身がされたら……と自分が姉にしたこと、姉が前世でされていたことをターナに夢の中で体験させているが、その時だけ怖がり泣くが、すぐにもとの傲慢な性格に戻ってしまう。

ターナは長い時間がかかるのかもしれない。
あるいはこの子には性格を直すこと自体無理なのかもしれない。
だがここで諦めたらアイシャに謝ることすらしないだろう。
せめて心から謝れなくても少しでも悪かったと反省して謝らせたい。

時間をかけてでも。


◇ ◇ ◇

そしてアイシャはこの国に今いない。

わたし達にアイシャを取り戻す機会はまだ先になりそうだ。



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