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52話 王妃編
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「クリスもターナもそこにお座りなさい」
わたしは二人にとても優しく話しかけた。
目は笑っていなかった。
カイザ様もわたしの後ろに黙って立っていてくれた。
わたしの怒りはこの部屋の全ての者を黙らせたようだ。
「母上がアイシャに変身できるなんて……」
「出来るわけがないでしょう!カイザ様が貴方達に視覚誤認の魔法をかけたのよ、アイシャに見えていただけ!
色々私に話しかけるから答えられなくて黙っていたら、どれだけアイシャに酷いことを言ってるの」
ターナとクリスは震え上がり真っ青な顔をしていた。
わたしは我が息子がここまで屑だとは思っていなかった。
アイシャを好きで何度も婚約の話を持って行ったが断られて少し意地になっていたのは知っていた。でもまさかこんな事を言う子なんて思ってもみなかった。
さらに自分の姉をここまで卑下して馬鹿にできるターナにも呆れてものが言えなかった。
この二人に対してのお仕置きはとりあえず保留。
先にこのバナッシユ国の元王妃で今は逃亡犯でもあるエレン夫人を拘束するのが先だ。
「貴方達は椅子から降りて、床に座っていなさい‼︎」
わたしは二人に冷たく言い放った。
二人は躊躇いながらもおずおずと黙って床に座った。
それを確認してから、カイザ様と二人でエレン夫人のそばに近づいた。
エレン夫人はさすがに顔色も変えずに堂々としていた。
「王妃は我が息子が残念な子に育ってさぞ悔しいでしょうね」
嘲るように笑うエレン夫人の姿に挑発されないようにわたしは淡々と答えた。
「クリスはこれから再教育が待っております、それで駄目なら……それまでの子だったという事でしょう」
「……は、母上……」
クリスがわたしを悲しそうに見ていた。
わたしは気がつかないフリをしてエレン夫人を睨んだ。
「子ども達がこのような事をしたのは元々の性格もあるので言い訳は致しません。この子達が悪いのでしょう。でもそれを少しでも良い方向へと導くのが大人の仕事でしょう?
私はそれを怠り人任せにしてしまいました。その結果だと思います。でもそれでも、エレン夫人が子ども達にしたことは見逃すわけには参りません」
「どうなさると言うのですか?」
「どうする?そんなの決まっておりますわ、貴女はバナッシユ国の元王妃、そちらに引き渡すまでですわ」
「え?どうしてそれを?」
先程まで余裕のあった顔がどんどん青ざめてきた。
「貴女がバナッシユ国の元王妃だと確証が欲しかったのです。アイシャへの言葉しかと聞きましたわ」
『ほんとアイシャ様は昔から何を言われても反発できない、見ていてイライラさせられる、それも前世のまままの同じ姿で生まれ変わられて……気持ち悪いったらないわ』
「……でしたわね?アイシャが昔のままだと知っているのは我が国ではカイザ様とリサ様だけですわ。話では聞いていても前世のアイシャ様の事を事細かく知っている者はほぼいないのです」
「アイシャの所為でわたくしは王妃の座を追われたのです。そしてあろうことか収容所の鉱山に入れられて過酷な労働をさせられた。全てアイシャの所為です!弱くて何を言われても言い返さない、最後は心臓病で死んでしまった惨めな娘。
誰からも愛されることなく鞭で打たれても怒鳴られても黙って耐えるだけの娘。本当にイライラするわ!
その娘が死んだ時どれだけ胸がスッとしたか……収容所から逃げ出して新しい人生を歩もうとしたらまたあのイライラする娘が目の前に現れた時わたしは運命を感じたの!
今度は私の手を使わずにあの馬鹿な殿下と莫迦な妹を使って虐めてあげようと決めたの!
気持ちいいくらい二人は私の言う事を聞いてくれたわ!」
エレン夫人は悦に入っているのかだんだん興奮し始めた。
そして私に近づいてきた。
「いい加減にしろ!!」
カイザ様は最後まで黙って私の好きにさせてくれる約束だった。
だがエレン夫人が隠し持っていたナイフを見て、エレン夫人の体を捻り上げて床にうつ伏せにした。
「王妃、すまない。手を出させてもらった」
「ふふふ、こちらこそ、カイザ様ありがとうございます。これで王妃殺害未遂でこちらの国でも裁けますわ」
「はあ?私を裁く?ふざけないで!何もしていないわ」
「ナイフを持っていたんだから言い訳は無用よ」
エレン夫人は全く身に覚えがないのは当たり前、エレン夫人の手にナイフを持たせたのはカイザ様だった。
エレン夫人が隠し持っていたナイフに影が気づいていたので、そのナイフをエレン夫人に持たせたのだ。
カイザ様は「時を操る」ことができる大魔法使い。
まあ、ほとんど手術など医療行為以外使うことは出来ない規則になっているので今回は多めにみるつもりよ。
カイザ様の魔法はほとんど人前では使えない禁止された魔法が多い。
だから、大魔法使いと言われていてもどんな方なのか分からない。
今回は色々見せてもらえて私もドキドキさせられたわ。
そしてエレン夫人は拘束されて独房へ連れて行かれた。
これからしばらくはかなり厳しい取調べが続くだろう。バナッシユ国の取調べの方がまだマシだと思うくらい徹底的にこちらの国で調べ上げることになる。
もちろんガイスラー侯爵のことも徹底的に調べ上げてエレン夫人に関与した者達は刑罰を与えるつもりだ。
そして、我が息子のクリスとターナは……
わたしと陛下とカイザ様の三人、そこにハイド様も交えて話し合うことになった。
ハイド様はエレン夫人の良い噂しか知らなかった。
もちろんカイザ様の所為ではあるのだが、かなりのショックを受けていた。
記録玉に映し出されるクリスとターナのあまりにも子どもでも許すことのできない言動に、陛下とハイド様は頭を抱えて落ち込んでいた。
「わたしはこの子達から直接酷い言葉と嫌がらせを受けました」
「母上、ごめんなさい」
クリスは涙を溜めてポロポロと涙を流していた。
ターナは悔しさのあまり唇を噛んで大人達を睨んでいた。クリスよりもかなり根性があるようだ、悪い意味で。
まだクリスの方がなんとか矯正することが出来るかもしれないがターナはしても無駄かもしれない。
でもまだ処分するには早い。
「陛下、この二人の処分はどう致しますか?」
「そうだな……」
「陛下がお決めにならないのならわたしに提案がございます」
「どのような?」
「はい……クリスは辺境伯であるわたしの叔父のところへ遣ろうかと思っております。あそこならこの腐った性格をとことん直してくれると思います。それでも駄目なら魔力だけを永遠に吸い取り続ける地下牢で一生を送らせましょう」
「地下……それはこの国で一番辛い刑罰だぞ」
「もうそれくらいしか使いようがないのなら致し方ありませんわ」
「……母上……」
「もうわたしは貴方の母ではありません、母にあのようなことができる者が息子だとは思えませんわ」
本当は「馬鹿な息子」と言って抱きしめてやりたい。
でもここで甘やかせばこの子は碌な大人にはならない。
わたしはこの子に二度と人を貶めて平気でいる子にはなって欲しくない。
絶望したクリスを見て、「この子をすぐに王宮から追い出しなさい!」
わたしはクリスには振り返らずに侍女に命令した。
「母上!ごめんなさい!」
クリスの泣き叫ぶ声がずっとずっと耳に残って、わたしは蹲り泣き続けた。
そしてわたしも王妃としての仕事をこの日退いた。
わたしの代わりに側妃が、王妃として陛下の横に座ることになる。
わたしはクリスの辛い日々を陰ながら心配しつつ、離宮で静かに過ごすことにした。
いつかクリスが大人になったら……
いや、切り捨てた母を恨むことはあっても、わたしに会いたいなどと思ってはくれないだろう。
でももしもの時は二人で地下牢で過ごしましょう。
クリスがわたしを嫌ってもわたしは貴方の母なのだから。
◇ ◇ ◇
陛下は王妃とクリスをとても愛していた。
子が一人しか出来なかった王妃の代わりに側妃を娶り子を産ませようという動きがあったのは確かだ。
陛下はそれをずっと拒んでいた。
「王妃お前はわたしに愛してもいない女を娶り抱けというのか?」
「わたしは母として貴方の妻として、失格なのです」
「ならばわたしは父として夫として失格だろう?お前にだけ辛い思いをさせて重荷を負わせて、息子を見捨ててわたしは他の女を娶り幸せになれと言うのか?」
「……陛下……」
「わたしも一緒にクリスの成長を見守ろう、そしてそれでも駄目なら一緒に三人で地下で過ごそう、我々の魔力を死ぬまで国のために使ってもらうのも一興だ」
◆ ◆ ◆
ルビラ王国では大罪を犯した犯罪者は、地下牢に入れられて、魔力を永遠に吸い取られ国の守りのために使われている。
魔力を吸い取られた犯罪者は生きる気力を失い、徐々に弱り衰弱死していくことになる。
王妃は我が息子に辛い刑罰をすることも辞さない考えなのだ。
陛下は王妃と共に息子を見守ると何度も伝え続けることになる。
王妃が陛下の愛に気づくのは未だもう少し先の話……
わたしは二人にとても優しく話しかけた。
目は笑っていなかった。
カイザ様もわたしの後ろに黙って立っていてくれた。
わたしの怒りはこの部屋の全ての者を黙らせたようだ。
「母上がアイシャに変身できるなんて……」
「出来るわけがないでしょう!カイザ様が貴方達に視覚誤認の魔法をかけたのよ、アイシャに見えていただけ!
色々私に話しかけるから答えられなくて黙っていたら、どれだけアイシャに酷いことを言ってるの」
ターナとクリスは震え上がり真っ青な顔をしていた。
わたしは我が息子がここまで屑だとは思っていなかった。
アイシャを好きで何度も婚約の話を持って行ったが断られて少し意地になっていたのは知っていた。でもまさかこんな事を言う子なんて思ってもみなかった。
さらに自分の姉をここまで卑下して馬鹿にできるターナにも呆れてものが言えなかった。
この二人に対してのお仕置きはとりあえず保留。
先にこのバナッシユ国の元王妃で今は逃亡犯でもあるエレン夫人を拘束するのが先だ。
「貴方達は椅子から降りて、床に座っていなさい‼︎」
わたしは二人に冷たく言い放った。
二人は躊躇いながらもおずおずと黙って床に座った。
それを確認してから、カイザ様と二人でエレン夫人のそばに近づいた。
エレン夫人はさすがに顔色も変えずに堂々としていた。
「王妃は我が息子が残念な子に育ってさぞ悔しいでしょうね」
嘲るように笑うエレン夫人の姿に挑発されないようにわたしは淡々と答えた。
「クリスはこれから再教育が待っております、それで駄目なら……それまでの子だったという事でしょう」
「……は、母上……」
クリスがわたしを悲しそうに見ていた。
わたしは気がつかないフリをしてエレン夫人を睨んだ。
「子ども達がこのような事をしたのは元々の性格もあるので言い訳は致しません。この子達が悪いのでしょう。でもそれを少しでも良い方向へと導くのが大人の仕事でしょう?
私はそれを怠り人任せにしてしまいました。その結果だと思います。でもそれでも、エレン夫人が子ども達にしたことは見逃すわけには参りません」
「どうなさると言うのですか?」
「どうする?そんなの決まっておりますわ、貴女はバナッシユ国の元王妃、そちらに引き渡すまでですわ」
「え?どうしてそれを?」
先程まで余裕のあった顔がどんどん青ざめてきた。
「貴女がバナッシユ国の元王妃だと確証が欲しかったのです。アイシャへの言葉しかと聞きましたわ」
『ほんとアイシャ様は昔から何を言われても反発できない、見ていてイライラさせられる、それも前世のまままの同じ姿で生まれ変わられて……気持ち悪いったらないわ』
「……でしたわね?アイシャが昔のままだと知っているのは我が国ではカイザ様とリサ様だけですわ。話では聞いていても前世のアイシャ様の事を事細かく知っている者はほぼいないのです」
「アイシャの所為でわたくしは王妃の座を追われたのです。そしてあろうことか収容所の鉱山に入れられて過酷な労働をさせられた。全てアイシャの所為です!弱くて何を言われても言い返さない、最後は心臓病で死んでしまった惨めな娘。
誰からも愛されることなく鞭で打たれても怒鳴られても黙って耐えるだけの娘。本当にイライラするわ!
その娘が死んだ時どれだけ胸がスッとしたか……収容所から逃げ出して新しい人生を歩もうとしたらまたあのイライラする娘が目の前に現れた時わたしは運命を感じたの!
今度は私の手を使わずにあの馬鹿な殿下と莫迦な妹を使って虐めてあげようと決めたの!
気持ちいいくらい二人は私の言う事を聞いてくれたわ!」
エレン夫人は悦に入っているのかだんだん興奮し始めた。
そして私に近づいてきた。
「いい加減にしろ!!」
カイザ様は最後まで黙って私の好きにさせてくれる約束だった。
だがエレン夫人が隠し持っていたナイフを見て、エレン夫人の体を捻り上げて床にうつ伏せにした。
「王妃、すまない。手を出させてもらった」
「ふふふ、こちらこそ、カイザ様ありがとうございます。これで王妃殺害未遂でこちらの国でも裁けますわ」
「はあ?私を裁く?ふざけないで!何もしていないわ」
「ナイフを持っていたんだから言い訳は無用よ」
エレン夫人は全く身に覚えがないのは当たり前、エレン夫人の手にナイフを持たせたのはカイザ様だった。
エレン夫人が隠し持っていたナイフに影が気づいていたので、そのナイフをエレン夫人に持たせたのだ。
カイザ様は「時を操る」ことができる大魔法使い。
まあ、ほとんど手術など医療行為以外使うことは出来ない規則になっているので今回は多めにみるつもりよ。
カイザ様の魔法はほとんど人前では使えない禁止された魔法が多い。
だから、大魔法使いと言われていてもどんな方なのか分からない。
今回は色々見せてもらえて私もドキドキさせられたわ。
そしてエレン夫人は拘束されて独房へ連れて行かれた。
これからしばらくはかなり厳しい取調べが続くだろう。バナッシユ国の取調べの方がまだマシだと思うくらい徹底的にこちらの国で調べ上げることになる。
もちろんガイスラー侯爵のことも徹底的に調べ上げてエレン夫人に関与した者達は刑罰を与えるつもりだ。
そして、我が息子のクリスとターナは……
わたしと陛下とカイザ様の三人、そこにハイド様も交えて話し合うことになった。
ハイド様はエレン夫人の良い噂しか知らなかった。
もちろんカイザ様の所為ではあるのだが、かなりのショックを受けていた。
記録玉に映し出されるクリスとターナのあまりにも子どもでも許すことのできない言動に、陛下とハイド様は頭を抱えて落ち込んでいた。
「わたしはこの子達から直接酷い言葉と嫌がらせを受けました」
「母上、ごめんなさい」
クリスは涙を溜めてポロポロと涙を流していた。
ターナは悔しさのあまり唇を噛んで大人達を睨んでいた。クリスよりもかなり根性があるようだ、悪い意味で。
まだクリスの方がなんとか矯正することが出来るかもしれないがターナはしても無駄かもしれない。
でもまだ処分するには早い。
「陛下、この二人の処分はどう致しますか?」
「そうだな……」
「陛下がお決めにならないのならわたしに提案がございます」
「どのような?」
「はい……クリスは辺境伯であるわたしの叔父のところへ遣ろうかと思っております。あそこならこの腐った性格をとことん直してくれると思います。それでも駄目なら魔力だけを永遠に吸い取り続ける地下牢で一生を送らせましょう」
「地下……それはこの国で一番辛い刑罰だぞ」
「もうそれくらいしか使いようがないのなら致し方ありませんわ」
「……母上……」
「もうわたしは貴方の母ではありません、母にあのようなことができる者が息子だとは思えませんわ」
本当は「馬鹿な息子」と言って抱きしめてやりたい。
でもここで甘やかせばこの子は碌な大人にはならない。
わたしはこの子に二度と人を貶めて平気でいる子にはなって欲しくない。
絶望したクリスを見て、「この子をすぐに王宮から追い出しなさい!」
わたしはクリスには振り返らずに侍女に命令した。
「母上!ごめんなさい!」
クリスの泣き叫ぶ声がずっとずっと耳に残って、わたしは蹲り泣き続けた。
そしてわたしも王妃としての仕事をこの日退いた。
わたしの代わりに側妃が、王妃として陛下の横に座ることになる。
わたしはクリスの辛い日々を陰ながら心配しつつ、離宮で静かに過ごすことにした。
いつかクリスが大人になったら……
いや、切り捨てた母を恨むことはあっても、わたしに会いたいなどと思ってはくれないだろう。
でももしもの時は二人で地下牢で過ごしましょう。
クリスがわたしを嫌ってもわたしは貴方の母なのだから。
◇ ◇ ◇
陛下は王妃とクリスをとても愛していた。
子が一人しか出来なかった王妃の代わりに側妃を娶り子を産ませようという動きがあったのは確かだ。
陛下はそれをずっと拒んでいた。
「王妃お前はわたしに愛してもいない女を娶り抱けというのか?」
「わたしは母として貴方の妻として、失格なのです」
「ならばわたしは父として夫として失格だろう?お前にだけ辛い思いをさせて重荷を負わせて、息子を見捨ててわたしは他の女を娶り幸せになれと言うのか?」
「……陛下……」
「わたしも一緒にクリスの成長を見守ろう、そしてそれでも駄目なら一緒に三人で地下で過ごそう、我々の魔力を死ぬまで国のために使ってもらうのも一興だ」
◆ ◆ ◆
ルビラ王国では大罪を犯した犯罪者は、地下牢に入れられて、魔力を永遠に吸い取られ国の守りのために使われている。
魔力を吸い取られた犯罪者は生きる気力を失い、徐々に弱り衰弱死していくことになる。
王妃は我が息子に辛い刑罰をすることも辞さない考えなのだ。
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