【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ

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51話  カイザ編

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アイシャを王宮へ連れて行くことにした。

まだ前のアイシャのままだ。

「初めまして、エレン夫人。本日はよろしくお願いいたします」
アイシャは柔かにエレン夫人に挨拶をした。

「こちらこそ今日はよろしくお願いします。遅れているお勉強が少しでも追いつけるように一緒に頑張りましょうね」

エレン夫人は優しい微笑みでアイシャを見つめた。

「ターナ、この前はすまなかったな。もうアイシャとは楽しく話せるように魔法を解いておいたから、今日は殿下とターナとアイシャ、三人で仲良く勉強をするんだぞ」

「お祖父様ありがとうございます」

わたしはエレン夫人に三人のことをお願いして部屋を出ていった。

その場にはもちろん影が数人隠れている。
そして逐一わたしに報告をすることになっていた。

アイシャに危険があれば、三人には死なない程度に攻撃を与えてもいいと許可は出した。

まあ、そこまではないと思ってはいるが。

エレン夫人の尻尾さえ捕まえれば。



◇ ◇ ◇

「アイシャ様は転生されていると伺いました」

エレン夫人が話しかけた。

「はい、そうです」

「どうしてお亡くなりになってしまったのですか?」

「……それは……」
アイシャが返事に困っていると横からターナが話し出した。

「お姉様はどうせ悪いことでもしたのか嫌われて死んでしまったのでは?だから今世でも嫌われているのよ」

「……ターナ……」

アイシャは悲しそうにターナを見たが何も言い返さなかった。

「アイシャはいつも都合が悪くなると何も答えなくなるんだ、だからついイライラしてしまうんだ」
殿下もアイシャを見て、意地悪く言い出した。

「殿下……」

「なんだよ!今更傷ついた顔されても、困るんだ!お前のせいで僕は父上に外出禁止令を出されて学園にも通わせてもらえないんだ!お前にちょっと本をぶつけたくらいでお前が入院なんてするから!大袈裟なんだよ!」

「そうよ、お姉様は何度もわざとらしく倒れてみんなの気を引こうとするのよ」

二人の辛辣な物言いに腹が立ちながらも我慢するしかなかった。

そんな二人を見てエレン夫人は

「お二人とも言いたいことがあるのは仕方がないと思います。でもアイシャ様は前世でお辛い人生を歩まれたのではないですか?」

優しくアイシャに話しかけた。

アイシャは下を向いて何も言わずにいた。

「ほんとアイシャ様は昔から何を言われても反発できない、見ていてイライラさせられる、それも前世のまままの同じ姿で生まれ変わられて……気持ち悪いったらないわ」

エレン夫人はニヤッと笑い、二人に聞こえないように耳元で話しかけていた。

わたしはその話を聞いて、エレン夫人の人格を疑った。
リサも酷いと思ったが、この夫人もまた呆れるほどに人として最低な人間だとしか思えない。

アイシャはこんな中で、前世でも今世でもこの者たちの悪意の中で過ごしてきたのか……

可愛い孫のターナも娘であるリサも甥っ子の息子のクリス殿下も、わたしの中でやはり切り捨てるしかないのか……

そしてそんな中で勉強をしていたアイシャにとうとう酷い言葉を浴びせ始めた。

「あら?こんなこともわからないのですか?お顔だけは美しくても、お勉強もまともに出来ないなんて……殿下、ターナ様、どう思われます?」

三人はアイシャを見てクスクス笑っていた。

アイシャは震えて声も出せずにいた。
そう声も出せないのだ。

殿下はそんなアイシャの肩を小突いた。
アイシャは椅子から落ちて転び、ターナは

「あら?失礼?」
と笑いながらアイシャの頭にお茶をゆっくりとかけた。

それでもアイシャは声を出さなかった。

「お姉様なんて汚らしいの」
ターナはクスクス笑っていた。

殿下は少し青ざめて「やり過ぎでは?」と言い出した。
「何を今さら言ってるんですか?お姉様に本を投げて大怪我をさせたり意地悪なことばかり言って傷つけている殿下がそんなこと言うなんて!」


わたしはもう我慢ができず、三人の部屋に何も知らないふりをして入って行った。

「うん?アイシャどうしたんだ?」
わたしは驚いたフリをしてアイシャのそばに駆け寄った。

「アイシャ様は転んでお茶をこぼされたのです」

殿下とターナはニヤニヤと笑っていた。

エレン夫人はいかにも心配しています、と言った態度でわたしに話す。

「この部屋には数名の影がいたんだが、三人はそれでもアイシャが転んでお茶をこぼしたと言うのか?」

「「「え?」」」
三人はさすがに驚いてお互いの顔を見ていた。

「アイシャ、いや王妃如何でしたか?」

わたしがアイシャの方を見ると、

「なんて情けないの……クリス、貴方はいずれこの国の国王になろうと言うのに……」

「は?アイシャのくせに何言ってるんだ!」

「そ、そうよ、ずっと話さないで黙って俯いていたくせに!」

「お黙りなさい!!」
とても大きな声で、圧のかかった声にターナと殿下はビシッと固まってしまった。

そして……
アイシャの姿から王妃の姿へと変わっていく姿を見てクリス殿下が呟いた。

「は、母上?」

「陛下にクリスの話を聞いた時は信じられませんでした。そして今回、カイザ様から陛下と私にエレン夫人のことも含めて話しを聞いて、私はどうしてもこの目で真実を知りたかったのです。だからアイシャの姿になリました。間違っていて欲しい、ずっと願っておりました」

「わたしは何もしていませんわ、失礼させていただきますわね」
エレン夫人が慌てて部屋から帰ろうとした。

「ごゆっくりしてから行かれてくださいな、まだ時間はたっぷりありますわ」
エレン夫人は逃げるのを諦めて腰掛けた。

「クリスもターナもそこにお座りなさい」
王妃は二人にとても優しく話しかけた。
目は笑っていなかった。
わたしも王妃の後ろに黙って立っていた。

王妃の怒りはこの部屋の全ての者を黙らせた。

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