【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜  

たろ

文字の大きさ
上 下
38 / 97

38話  もう一人のアイシャ

しおりを挟む
前世のわたしの記憶が次々と頭の中に入ってくる。

辛いこと悲しいこと、14年間の人生が駆け足でわたしの頭の中に入ってきた。

気持ち悪い、頭の中がぐるぐる回って吐き気がした。

なんて辛い人生だったのだろう。

なのに死ぬ数ヶ月だけは、とても幸せだった。

キリアン君、エマ様、サラ様、ジャン様、そしてゴードン様。

素敵な人たちと出会い幸せをもらっていた。

でもわたしは死を選んでいた。

その死を見届けたのが、お祖父様でもあるカイザ様。
お母様でもあるリサ様だった。

わたしは……お母様の子供だけど……転生をして生まれた子で本当の子供ではなかった。

ああ、だからお母様はわたしを見る目が冷たいことがあるんだ。
スッと腑に落ちた。

わたしがいくら努力して三人と仲良くしようと頑張っても他人だったのだ。
お母様……ううん、リサ様のお腹に入ってしまって生まれ変わっただけだったのだ。

お祖父様は、カイザ様だった。

ああ、もうこのまま目覚めることなくわたしはこの夢の世界で過ごそう。

とても温かくて気持ちが穏やかでいられる。

何の苦しみもなく悲しみもなく、無理して笑わなくてもいい。

もう生きている必要はない。

だって死にたいと願い、死んだのだから……

もう頑張らなくていいんだ。

もう一人のアイシャとわたしの記憶が一つになった。


わたしはもう一人のアイシャに話しかける………

『アイシャ……どうして生まれ変わったの?
わたしね、もう疲れたの……この場所でゆっくり過ごしたい……』

もう一人のアイシャはわたしを見つめて悲しそうにしていた。

『アイシャのこと忘れていてごめんね。わたしがアイシャを忘れたらアイシャの存在が消えてしまうわよね。わたしはもう貴女を忘れないわ………一緒にこの夢の中で過ごしましょう……』

もう一人のアイシャは何も答えてくれなかった。

ただ悲しそうにわたしを見つめていた。





◇ ◇ ◇

アイシャ様が意識を失った。
俺は慌ててアイシャ様を抱き抱えてアイシャ様の部屋に連れて行きベッドに寝かせた。

ぐったりしたアイシャ様はびくとも動かない。

「アイシャ!何故目覚めないんだ?」

数時間経っても目覚めないアイシャ様に、カイザ様が真っ青になって「癒し」の魔法をかけた。

でもアイシャ様は、死んだように寝ている。
いや、死にかけているのかもしれない。

体温が下がり、微かに息をしているだけ。

何度もメリッサと俺はアイシャ様の名前を呼んだ。

「アイシャ様!」

だが全く反応しない。

メリッサはアイシャ様のそばを離れようとしなかった。
寝ているアイシャ様の体を拭いて、毎日綺麗に着替えさせた。
そしてアイシャ様が好きな本を読んで聞かせた。

俺は何もしてあげられずアイシャ様に毎日話しかけた。
アイシャ様の小さい頃の思い出や今日の天気。
俺の子供の時の話やヴィズから聞いた学園での出来事。

でもアイシャ様は指一本動かさなかった。

ミケランはそんなアイシャ様の顔をペロペロ舐めて
「ニャーニャー」
と話しかけては反応がないので諦めて寝る、というのを繰り返していた。

そして、意識を取り戻さないまま二週間が過ぎてしまった。

その間、カイド様はリサ様とハイド様に連絡を入れた。

さすがの二人も慌ててアイシャ様に会いにきた。

「アイシャ!起きて!」
リサ様は自ら「癒し」の魔法を何度もかけてくれた。

でもなんの効果もなかった。

ハイド様はどうしてあげることもできずにアイシャ様に優しく話しかけた。

「アイシャ、すまなかった。屋敷で辛い思いをしていたんだね……使用人達から陰で貰い子だと噂されて笑われていたと知ったよ。ターナはことある毎にアイシャを馬鹿にして意地悪なことを言ってたらしいね。辛かったのにいつも笑顔でよく我慢したね」

そう言ってアイシャ様の頭を優しく撫でられていた。

リサ様はハイド様の話を聞いて、横でなんとも言えない顔をしていた。

「……嘘よ、ターナはアイシャを慕っていたはずよ!ターナがそんなことをするはずはないわ。使用人達のことだってわたしはきちんと調べたのよ?」

「ここで君と言い合いをするつもりはない。アイシャを虐げていたのはターナと使用人、それとクリス殿下、最後にリサ、君自身だった。
そして仕事に追われて家のことに無関心だった僕も同罪だ」

「わたしがアイシャを虐げていた?何を言っているの?わたしはアイシャを育ててあげたのよ?不幸にして亡くなったアイシャを愛してあげたのよ?」

「大きな声を出さないでくれ。アイシャに君のそんな酷い言葉を聞かせたくない」

「酷い言葉?何が?わたしはアイシャを大切に育ててあげたの!怒ったこともない、叱ることもない、鞭で叩いたこともないわ!きちんと食事だって与えてあげたわ」

「君のその言葉を今魔法で記録した。君の言った言葉を君がもう一度聞いてごらん」



『酷い言葉?何が?わたしはアイシャを大切に育ててあげたの!怒ったこともない、叱ることもない、鞭で叩いたこともないわ!きちんと食事だって与えてあげたわ』

リサ様は眉間に皺を寄せてイライラとしていた。

「おかしいところなんてないわ」

リサ様はそう言い切った。



この人はわかっていない。

母親なら「してあげる」なんて無意識に言わない。

子どもへの愛情があるなら
「愛してあげた」ではなくて「愛している」のはず。

「育ててあげた」ではなく「育てている」だ。

でもリサ様はアイシャ様のこの姿を見ても心配どころか面倒臭そうに母親をしている。

あー、この人はアイシャ様の母親ではなく仕方がなく母親の役をしているのだ。

俺は後ろで二人の会話を黙って聞きながら悔しさで本当は怒鳴りあげたいのを我慢してなんとかこの場をやり過ごすしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~

Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。 その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。 そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた── ──はずだった。 目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた! しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。 そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。 もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは? その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー…… 4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。 そして時戻りに隠された秘密とは……

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

処理中です...