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37話 夢の中② ……会いたい
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わたしはもうこれ以上前世の記憶なんか思い出したくなかった。
なのにもう一人のアイシャがわたしに必死で訴えかける。
『お願い、思い出して!』
何を思い出すの?
使用人からの暴力?
両親から放置されたこと?
会うこともない婚約者?
ずっと会っていないお兄様?
王子妃教育での日々?
心臓病になってからの苦しみ?
思い出すのは辛いことばかりなのに、どうして前世のもう一人のアイシャはわたしに話しかけてくるの?
突然新しい夢を見始めた。
『おねぇたん、これ、よむのぉ』
『わかったわ、キリアン君はお馬さんのお話が好きなのね』
『あーい』
あ……夢の中で何度か出てきた小さな男な子……
今度は何?
ーわたしが苦しんでいる姿が見えたー
みんなの前では普通にしているけど本当は胸が苦しくて横になっていないといけない事が増えている。でもキリアン君の笑顔を見ると心がほんわかしてきて苦しみも和らぐから不思議。
『ほぉん、よむ』
キリアン君のお昼寝の時間は二人でベッドに入りキリアン君お気に入り絵本をいつも読んでいる。
キリアン君はいつもわたしの横で楽しそうに本を目で追ってとても可愛い。
今日はすぐに寝たのでわたしは起きてサラ様のお手伝いをしようと思って部屋を出た。
『サラ様、何かお手伝いはありませんか?』
『そうね……此処でゆっくりお茶を飲むのがお手伝いかしら?』
『え?お茶?』
『貴女はゆっくり休むことも覚えなきゃ駄目よ。ずっと動いていたから体が悲鳴をあげるのよ』
『悲鳴……』
『そうよ、まずはゆっくり体力を戻していきましょう』
優しい人達……辛いだけの人生だったんじゃないの?
この人達は誰?
ーーあ、また場面が変わったーー
小さな男の子がわたしが寝ているベッドによじ登ってきたので驚いていると、にっこり笑ってわたしを抱きしめて『だっこぉ』と言われた。
わたしが固まっていると
『おねぇたん、いいこいいこ』
と言って頭をなでなでしてくれた。
その小さな手が温かくて何故かわからないけど涙が出た。
涙が止まらなくて泣いていると、
『なきゃないの、いいこでぇしょ』
と、さらになでなでしてくれた。
『あ、ありがとう』
わたしはこんな居心地の良い場所も温かい手も知らなかった。
どうしていいのかわからなくて泣き続けていると
『キリアン、入っては駄目って言ったでしょう』
と言いながらエマ様が部屋に入ってきた。
小さな男の子になでなでされながら泣き続けるわたしを見てエマ様が笑い出した。
『あら?キリアンったらまだ2歳なのにもう女の子を泣かせているのね』
『ちぃがう、いいこいいこしてたのぉ』
『いい子いい子してあげてたんだ。じゃあ、いい子は今からご飯を食べようね』
『あい!たぁべるゅ』
『アイシャ様も少しでいいから食べましょう。寝込んでからまだ食事を摂っていませんから少しずつ胃を慣らしていきましょうね』
『ありがとうございます』
キリアン君はわたしと手を繋ぐと
『こぉっち』
と言ってテーブルまで連れて行ってくれて
『ここぉね』
と、椅子を指差して教えてくれた。
『ありがとう、キリアン君』
『あーい』
わたしは小さな男の子と話すのは初めてだったけど、とっても優しくてとっても可愛くてもうたまらなくてムギュッとしたくなった。
そしたらキリアン君が『だぁっこぉ』と言ってわたしの膝に来たので抱えてあげるとわたしの体にムギュッとして抱っこされた。
『キリアン、それじゃあご飯は食べられないわ、下りて自分の椅子に座るの』
『やっあ!きれぇなおねえたんとしゅわるの』
『何も食べさせないわよ』
『やっあ!たべぇるゅ』
キリアン君は急いで自分の椅子に座るとわたしを見てにっこり笑ってくれた。
『紹介するわね、2歳のキリアン、わたしの可愛い息子よ』
『きぃりあん!』
と言ってペコっと頭を下げた。
わたしはとても心の中がほわっと温かくなってきた。
この小さな男の子、エマ様、サラ様……何度もわたしの夢に出てきた人達。
そして怖い夢に出てきた優しいお医者様は、ゴードン様……
霧がかかっていた頭の中が少しずつ晴れてきたのがわかる。
わたしは辛いだけの人生ではなかった。
素敵な人たちに囲まれて生きたのだ。
ーーそして……ーー
ドアが開いたと思ったらその隙間からキリアン君が入ってきた。
『おねぇたん、おねぇたん、だぁっこぉ』
先生とエマ様と殿下は、そっと部屋の中を覗き込んだ。
そこにわたしはいた。
ベッドに静かに寝ていた。
『ア、アイシャ様』
エマ様が小さな声で話しかけた。
『………………』
わたしは全く反応しなかった。
エマ様はキリアン君を抱っこして静かにわたしの様子を伺っていた。
ゴードン様とエリック殿下は静かに部屋に入って行くとそこにはリサ様とカイザ様がいた。
『アイシャを見つけるのが遅かったな。まさかこんなチビちゃんが先に見つけるとは思っていなかったよ』
『二人が何故アイシャ嬢をここに寝かせているんだ?どう言う事なんだ?』
ゴードン様は二人を睨みつけながら聞いた。
『四日前の朝、公園で倒れているのを拾ったんだ。死にかけていたからね。『癒し』の魔法で今は命を繋いでいる所だ。ハウザー様に伝えなかったのは彼女に生きる意思がないからだ』
カイザ様に続き、リサ様も話を続けた。
『この子は死を受け入れているわ。手術を受ける意思はないの。楽にさせてあげるのも優しさだと思うわ』
『死なせろと言うのか?』
ゴードン様は苦しげに言った。
『わたし達の魔法は生きる事を望まない人には効かないわ。もし手術が成功してもまた病魔を呼び込んでもっと苦しい思いをして死ぬことになるの。ハウザー様もご存知でしょう?』
『アイシャはやはり死を受け入れているのか?』
『本人は生きる事より死ぬ事を望んでいたわ、もう昨日から意識はないの、今は眠り続けているだけでいつ心臓が止まってもおかしくないの。
ルビラ王国へ連れて行くのはほとんど無理よ、本人に生きる意思が有ればわたしの『癒し』も効くけど今はほとんど弾いてしまって、少しだけ何とか効いている状態なの』
エリック殿下もエマ様もただ呆然と話を聞いていた。
まさかそこまで悪くなっているとは思っていなかった。
四日前までは明るい顔で一緒に過ごしていた。
そんなに悪化しているなんて気づきもしなかった。
『アイシャちゃんは貴方達に体が辛い事が分からないようにしていたんだと思うわ』
『アイシャはそんなに悪い状態だったのか……』
エリック殿下は手紙と人からの話しか聞いていなかった。
探し出せば手術をして治るものだとばかり思っていた。いや、助かると思い込もうとしていた。
なのに現実のわたしはほとんど死んでいる状態に近かった。
『アイシャ……』
『貴方がエリック殿下ですね?』
『そうです』
『そして貴女がエマ様、チビちゃんがキリアン君……今からドアを開けて入ってくるのが……』
と、リサ様が言うと
『ウィリアム様ね』
ドアを開けてお父様が入って来た。
『アイシャ………』
お父様は宿の近くを探していて、わたしが見つかったと言う知らせを聞いて急いでやってきた。
わたしは思っている以上に痩せていて顔色も悪かった。
死んだように眠っているわたしを見て、周りの人を見回した。
『アイシャはどうなっているんです?まだ今なら助ける事が出来るんですよね?叔父上!』
誰も返事をしなかった。
ーーまた、場面が変わったーー
『おねぇたん、だっこぉ』
『キリアン、こんな時に抱っこは駄目なのよ。お姉ちゃんは寝ているでしょう』
『キリアンはアイシャちゃんのそばにいたいのね』
リサ様は笑顔でキリアン君をエマ様から受け取るとわたしのベッドの横に座らせた。
『おねぇたん、いいこいいこ』
キリアン君はわたしの頭を撫でながらずっとそばにくっついていた。
わたしはキリアン君がそばに来たのがわかるのか少し顔の筋肉が動いたような気がした。
わたしにとってキリアン君は初めて出来た友達で一番心が許せる子だった。
時々苦しそうにしていた呼吸も今は静かに穏やかになっていた。
『おねぇたん、ねんね、ね』
キリアン君はわたしの頬にそっと触れるとわたしは笑顔になったような気がした。
そしてわたしはそのままキリアン君のそばで眠るように息を引きとった。
『おねぇたん、ねんね、ちた』
キリアン君はわたしを苦しみから解放してくれた。
最後にみんなに見守られてもう一人のアイシャは少しだけ幸せそうな顔をしていた………………
なのにもう一人のアイシャがわたしに必死で訴えかける。
『お願い、思い出して!』
何を思い出すの?
使用人からの暴力?
両親から放置されたこと?
会うこともない婚約者?
ずっと会っていないお兄様?
王子妃教育での日々?
心臓病になってからの苦しみ?
思い出すのは辛いことばかりなのに、どうして前世のもう一人のアイシャはわたしに話しかけてくるの?
突然新しい夢を見始めた。
『おねぇたん、これ、よむのぉ』
『わかったわ、キリアン君はお馬さんのお話が好きなのね』
『あーい』
あ……夢の中で何度か出てきた小さな男な子……
今度は何?
ーわたしが苦しんでいる姿が見えたー
みんなの前では普通にしているけど本当は胸が苦しくて横になっていないといけない事が増えている。でもキリアン君の笑顔を見ると心がほんわかしてきて苦しみも和らぐから不思議。
『ほぉん、よむ』
キリアン君のお昼寝の時間は二人でベッドに入りキリアン君お気に入り絵本をいつも読んでいる。
キリアン君はいつもわたしの横で楽しそうに本を目で追ってとても可愛い。
今日はすぐに寝たのでわたしは起きてサラ様のお手伝いをしようと思って部屋を出た。
『サラ様、何かお手伝いはありませんか?』
『そうね……此処でゆっくりお茶を飲むのがお手伝いかしら?』
『え?お茶?』
『貴女はゆっくり休むことも覚えなきゃ駄目よ。ずっと動いていたから体が悲鳴をあげるのよ』
『悲鳴……』
『そうよ、まずはゆっくり体力を戻していきましょう』
優しい人達……辛いだけの人生だったんじゃないの?
この人達は誰?
ーーあ、また場面が変わったーー
小さな男の子がわたしが寝ているベッドによじ登ってきたので驚いていると、にっこり笑ってわたしを抱きしめて『だっこぉ』と言われた。
わたしが固まっていると
『おねぇたん、いいこいいこ』
と言って頭をなでなでしてくれた。
その小さな手が温かくて何故かわからないけど涙が出た。
涙が止まらなくて泣いていると、
『なきゃないの、いいこでぇしょ』
と、さらになでなでしてくれた。
『あ、ありがとう』
わたしはこんな居心地の良い場所も温かい手も知らなかった。
どうしていいのかわからなくて泣き続けていると
『キリアン、入っては駄目って言ったでしょう』
と言いながらエマ様が部屋に入ってきた。
小さな男の子になでなでされながら泣き続けるわたしを見てエマ様が笑い出した。
『あら?キリアンったらまだ2歳なのにもう女の子を泣かせているのね』
『ちぃがう、いいこいいこしてたのぉ』
『いい子いい子してあげてたんだ。じゃあ、いい子は今からご飯を食べようね』
『あい!たぁべるゅ』
『アイシャ様も少しでいいから食べましょう。寝込んでからまだ食事を摂っていませんから少しずつ胃を慣らしていきましょうね』
『ありがとうございます』
キリアン君はわたしと手を繋ぐと
『こぉっち』
と言ってテーブルまで連れて行ってくれて
『ここぉね』
と、椅子を指差して教えてくれた。
『ありがとう、キリアン君』
『あーい』
わたしは小さな男の子と話すのは初めてだったけど、とっても優しくてとっても可愛くてもうたまらなくてムギュッとしたくなった。
そしたらキリアン君が『だぁっこぉ』と言ってわたしの膝に来たので抱えてあげるとわたしの体にムギュッとして抱っこされた。
『キリアン、それじゃあご飯は食べられないわ、下りて自分の椅子に座るの』
『やっあ!きれぇなおねえたんとしゅわるの』
『何も食べさせないわよ』
『やっあ!たべぇるゅ』
キリアン君は急いで自分の椅子に座るとわたしを見てにっこり笑ってくれた。
『紹介するわね、2歳のキリアン、わたしの可愛い息子よ』
『きぃりあん!』
と言ってペコっと頭を下げた。
わたしはとても心の中がほわっと温かくなってきた。
この小さな男の子、エマ様、サラ様……何度もわたしの夢に出てきた人達。
そして怖い夢に出てきた優しいお医者様は、ゴードン様……
霧がかかっていた頭の中が少しずつ晴れてきたのがわかる。
わたしは辛いだけの人生ではなかった。
素敵な人たちに囲まれて生きたのだ。
ーーそして……ーー
ドアが開いたと思ったらその隙間からキリアン君が入ってきた。
『おねぇたん、おねぇたん、だぁっこぉ』
先生とエマ様と殿下は、そっと部屋の中を覗き込んだ。
そこにわたしはいた。
ベッドに静かに寝ていた。
『ア、アイシャ様』
エマ様が小さな声で話しかけた。
『………………』
わたしは全く反応しなかった。
エマ様はキリアン君を抱っこして静かにわたしの様子を伺っていた。
ゴードン様とエリック殿下は静かに部屋に入って行くとそこにはリサ様とカイザ様がいた。
『アイシャを見つけるのが遅かったな。まさかこんなチビちゃんが先に見つけるとは思っていなかったよ』
『二人が何故アイシャ嬢をここに寝かせているんだ?どう言う事なんだ?』
ゴードン様は二人を睨みつけながら聞いた。
『四日前の朝、公園で倒れているのを拾ったんだ。死にかけていたからね。『癒し』の魔法で今は命を繋いでいる所だ。ハウザー様に伝えなかったのは彼女に生きる意思がないからだ』
カイザ様に続き、リサ様も話を続けた。
『この子は死を受け入れているわ。手術を受ける意思はないの。楽にさせてあげるのも優しさだと思うわ』
『死なせろと言うのか?』
ゴードン様は苦しげに言った。
『わたし達の魔法は生きる事を望まない人には効かないわ。もし手術が成功してもまた病魔を呼び込んでもっと苦しい思いをして死ぬことになるの。ハウザー様もご存知でしょう?』
『アイシャはやはり死を受け入れているのか?』
『本人は生きる事より死ぬ事を望んでいたわ、もう昨日から意識はないの、今は眠り続けているだけでいつ心臓が止まってもおかしくないの。
ルビラ王国へ連れて行くのはほとんど無理よ、本人に生きる意思が有ればわたしの『癒し』も効くけど今はほとんど弾いてしまって、少しだけ何とか効いている状態なの』
エリック殿下もエマ様もただ呆然と話を聞いていた。
まさかそこまで悪くなっているとは思っていなかった。
四日前までは明るい顔で一緒に過ごしていた。
そんなに悪化しているなんて気づきもしなかった。
『アイシャちゃんは貴方達に体が辛い事が分からないようにしていたんだと思うわ』
『アイシャはそんなに悪い状態だったのか……』
エリック殿下は手紙と人からの話しか聞いていなかった。
探し出せば手術をして治るものだとばかり思っていた。いや、助かると思い込もうとしていた。
なのに現実のわたしはほとんど死んでいる状態に近かった。
『アイシャ……』
『貴方がエリック殿下ですね?』
『そうです』
『そして貴女がエマ様、チビちゃんがキリアン君……今からドアを開けて入ってくるのが……』
と、リサ様が言うと
『ウィリアム様ね』
ドアを開けてお父様が入って来た。
『アイシャ………』
お父様は宿の近くを探していて、わたしが見つかったと言う知らせを聞いて急いでやってきた。
わたしは思っている以上に痩せていて顔色も悪かった。
死んだように眠っているわたしを見て、周りの人を見回した。
『アイシャはどうなっているんです?まだ今なら助ける事が出来るんですよね?叔父上!』
誰も返事をしなかった。
ーーまた、場面が変わったーー
『おねぇたん、だっこぉ』
『キリアン、こんな時に抱っこは駄目なのよ。お姉ちゃんは寝ているでしょう』
『キリアンはアイシャちゃんのそばにいたいのね』
リサ様は笑顔でキリアン君をエマ様から受け取るとわたしのベッドの横に座らせた。
『おねぇたん、いいこいいこ』
キリアン君はわたしの頭を撫でながらずっとそばにくっついていた。
わたしはキリアン君がそばに来たのがわかるのか少し顔の筋肉が動いたような気がした。
わたしにとってキリアン君は初めて出来た友達で一番心が許せる子だった。
時々苦しそうにしていた呼吸も今は静かに穏やかになっていた。
『おねぇたん、ねんね、ね』
キリアン君はわたしの頬にそっと触れるとわたしは笑顔になったような気がした。
そしてわたしはそのままキリアン君のそばで眠るように息を引きとった。
『おねぇたん、ねんね、ちた』
キリアン君はわたしを苦しみから解放してくれた。
最後にみんなに見守られてもう一人のアイシャは少しだけ幸せそうな顔をしていた………………
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