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イリーンさん②
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そんな時だった。
わたしが昼食を終えて、部屋へ入ろうとした時、聞こえて来た嫌な会話。
「ほらあの子よ。今、噂の男爵令嬢!あの子が男性に媚びていろんな人と遊んでいるらしいの」
「え?あのピンクゴールドの髪の子?どこが可愛いのかしら?」
「あの子でしょう?あざといと言われているわよね?」
「たしか、執務室のジェニーの彼氏を奪ったらしいわ」
「え?わたしは近衛騎士といい関係になっていると聞いたわ」
「ほんと、尻軽女って嫌ねぇ」
「男爵の娘よね?教養もないから出来るのよ」
「とても貧乏で男に媚びて色々買ってもらっているんじゃないの?」
この人達聞こえるようにセスティ・アイバーンに向かって態とに大きな声で噂をしている。
セスティ・アイバーンは聞こえないフリをして、デスクに座り帳簿を見続けていた。
でも本当は辛いのだろう、後ろ姿が少し小刻みに震えていた。
わたしはセスティ・アイバーンを助ける気なんてないのに、何故か勝手に口が動いてしまった。
「あー、五月蝿い蝿がブンブン言っているわね、中に入ってきたら困るからドアを閉めるわよ!」
セスティ・アイバーンはハッとして、上を向いた。
「イリーンさん……」
「ほんと、女の嫉妬って怖いわね。
有る事無い事言って!
言いたいことがあるなら本人の前ではっきり言えばいいのよ!
大体セスティに色々言うのはわたしの役目なの!
退いてちょうだい!」
そう言うと乱暴にドアをピシャッと閉めた。
「セスティ・アイバーン、貴女も言われっぱなしで悔しくないの?
わたしに何言われてもヘラヘラしているくせに、あんな奴ら笑ってバカにしてやりなさい!」
セスティ・アイバーンはわたしの言葉に思わず大泣きしてしまった。
「…ぐっしゅっ…うっ…う、うわーん……」
「ど、どうしたの?そんなキツイ事言ったかしら?いつものほうがよっぽどキツく言っているわよね?」
わたしさんはセスティ・アイバーンが泣き出して慌てた。
どんなに仕事で厳しいことを言っても泣き言一つ言わないし嫌な顔せずにいつもしているセスティ・アイバーンなのに。
「だ、だって、イリーンさんが、イリー…ンさんが、助けてくれたから」
わたしが助けたことが意外だった?
少しムッとしたがそれは違った。この子は見た目で可愛がられていても、本当に見た目だけでチヤホヤされていただけで、この子をきちんとみて助ける者はいなかったのだ。
婚約者ですらさっさと解消したのだ。
それも聞けば、その頃流行りだった王子と貧乏な男爵令嬢の恋愛小説に出てくる男爵令嬢にただ似ていたから、それだけの理由でしてもいない王子との恋を噂され、学園で一人孤立させられたのだ。
考えるとだんだん腹が立って来た。
だって王太子殿下に婚約者の令嬢、男爵の地位では何も言い返すことが出来ない。
ただじっと我慢するしかない。
その後も調べてみると彼女はあの有名な女流画家の女だった。
なのに母親が亡くなってから父親は碌に働きもせず全てセスティ・アイバーンに任せていたらしい。
まだ13歳の少女は5年間もずっと一人で頑張って来たのだ。
わたしは自分が彼女にしたことを恥じた。
別に同情なんてしていない。
でも、この小さな体でずっと一人で耐えて来たのかと思うと、もう、認めるしかない。
わたしはこの子をとてもいい子だと思っている、そして何か助けてあげたいと。
それからももちろん仕事は厳しく指導した。
それがこの子にとって必ず得るものが多いから。
それでもお昼を一緒に食べるようになると、仔犬のようについて回る。
そんなセスティ・アイバーンが倒れた。
栄養失調と過労。
過労はわたしの所為でもある。
うん、かなり反省している。
でも栄養失調?
最近は一緒に食事をしているけど、確かに少ししか食べない子だと思っていた。
食が細いのだと。
まさか自分の食べる分を道で父親が拾って来た二人の子供に分け与えていたとは知らなかった。
最近やっと父親も働き出して、画家である母親の絵を売ったことで少し余裕が出来たらしいが、食事をあまりとっていなかったセスティ・アイバーンはもう胃が食べ物を受け付けない状態になっていたらしい。
何故近くにいたわたしは気づかなかったのか……
そして今もセスティ・アイバーンは意識を取り戻すことなく眠ったまま。
わたしはセスティ・アイバーンの父親が倒れてから数時間後に会いに来た時に、彼を面会禁止にした。
「何があってもウエル・アイバーンはこの病室には入れないで!」
わたしの言葉に医師も賛同してくれて、看護師達ももちろん納得して、彼は毎日病室を訪れるも、中には入れないでいる。
セスティ・アイバーンが目覚めて、父親が入ることを許可するまで会わせるつもりはない。
この父親がしっかりしていればこの子は一人で5年間も苦しまなくて済んだんだから!
しばらくは辛い思いをすればいいのよ!
ま、わたしにその権限はないのだけど、わたしはイリーンだから許される……はず。
わたしが昼食を終えて、部屋へ入ろうとした時、聞こえて来た嫌な会話。
「ほらあの子よ。今、噂の男爵令嬢!あの子が男性に媚びていろんな人と遊んでいるらしいの」
「え?あのピンクゴールドの髪の子?どこが可愛いのかしら?」
「あの子でしょう?あざといと言われているわよね?」
「たしか、執務室のジェニーの彼氏を奪ったらしいわ」
「え?わたしは近衛騎士といい関係になっていると聞いたわ」
「ほんと、尻軽女って嫌ねぇ」
「男爵の娘よね?教養もないから出来るのよ」
「とても貧乏で男に媚びて色々買ってもらっているんじゃないの?」
この人達聞こえるようにセスティ・アイバーンに向かって態とに大きな声で噂をしている。
セスティ・アイバーンは聞こえないフリをして、デスクに座り帳簿を見続けていた。
でも本当は辛いのだろう、後ろ姿が少し小刻みに震えていた。
わたしはセスティ・アイバーンを助ける気なんてないのに、何故か勝手に口が動いてしまった。
「あー、五月蝿い蝿がブンブン言っているわね、中に入ってきたら困るからドアを閉めるわよ!」
セスティ・アイバーンはハッとして、上を向いた。
「イリーンさん……」
「ほんと、女の嫉妬って怖いわね。
有る事無い事言って!
言いたいことがあるなら本人の前ではっきり言えばいいのよ!
大体セスティに色々言うのはわたしの役目なの!
退いてちょうだい!」
そう言うと乱暴にドアをピシャッと閉めた。
「セスティ・アイバーン、貴女も言われっぱなしで悔しくないの?
わたしに何言われてもヘラヘラしているくせに、あんな奴ら笑ってバカにしてやりなさい!」
セスティ・アイバーンはわたしの言葉に思わず大泣きしてしまった。
「…ぐっしゅっ…うっ…う、うわーん……」
「ど、どうしたの?そんなキツイ事言ったかしら?いつものほうがよっぽどキツく言っているわよね?」
わたしさんはセスティ・アイバーンが泣き出して慌てた。
どんなに仕事で厳しいことを言っても泣き言一つ言わないし嫌な顔せずにいつもしているセスティ・アイバーンなのに。
「だ、だって、イリーンさんが、イリー…ンさんが、助けてくれたから」
わたしが助けたことが意外だった?
少しムッとしたがそれは違った。この子は見た目で可愛がられていても、本当に見た目だけでチヤホヤされていただけで、この子をきちんとみて助ける者はいなかったのだ。
婚約者ですらさっさと解消したのだ。
それも聞けば、その頃流行りだった王子と貧乏な男爵令嬢の恋愛小説に出てくる男爵令嬢にただ似ていたから、それだけの理由でしてもいない王子との恋を噂され、学園で一人孤立させられたのだ。
考えるとだんだん腹が立って来た。
だって王太子殿下に婚約者の令嬢、男爵の地位では何も言い返すことが出来ない。
ただじっと我慢するしかない。
その後も調べてみると彼女はあの有名な女流画家の女だった。
なのに母親が亡くなってから父親は碌に働きもせず全てセスティ・アイバーンに任せていたらしい。
まだ13歳の少女は5年間もずっと一人で頑張って来たのだ。
わたしは自分が彼女にしたことを恥じた。
別に同情なんてしていない。
でも、この小さな体でずっと一人で耐えて来たのかと思うと、もう、認めるしかない。
わたしはこの子をとてもいい子だと思っている、そして何か助けてあげたいと。
それからももちろん仕事は厳しく指導した。
それがこの子にとって必ず得るものが多いから。
それでもお昼を一緒に食べるようになると、仔犬のようについて回る。
そんなセスティ・アイバーンが倒れた。
栄養失調と過労。
過労はわたしの所為でもある。
うん、かなり反省している。
でも栄養失調?
最近は一緒に食事をしているけど、確かに少ししか食べない子だと思っていた。
食が細いのだと。
まさか自分の食べる分を道で父親が拾って来た二人の子供に分け与えていたとは知らなかった。
最近やっと父親も働き出して、画家である母親の絵を売ったことで少し余裕が出来たらしいが、食事をあまりとっていなかったセスティ・アイバーンはもう胃が食べ物を受け付けない状態になっていたらしい。
何故近くにいたわたしは気づかなかったのか……
そして今もセスティ・アイバーンは意識を取り戻すことなく眠ったまま。
わたしはセスティ・アイバーンの父親が倒れてから数時間後に会いに来た時に、彼を面会禁止にした。
「何があってもウエル・アイバーンはこの病室には入れないで!」
わたしの言葉に医師も賛同してくれて、看護師達ももちろん納得して、彼は毎日病室を訪れるも、中には入れないでいる。
セスティ・アイバーンが目覚めて、父親が入ることを許可するまで会わせるつもりはない。
この父親がしっかりしていればこの子は一人で5年間も苦しまなくて済んだんだから!
しばらくは辛い思いをすればいいのよ!
ま、わたしにその権限はないのだけど、わたしはイリーンだから許される……はず。
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