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中編
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ーーもう終わりかな。
諦めるしかない……
屋敷にトボトボと帰ってきてから、わたしはベッドで毛布を被り、ずっと泣いていた。
セザンとの出会いは………
セザンのお父様は平民だけど、バーリン商会をしている。
かなり裕福な家庭。
お母様がバーリン商会を贔屓にしていて、子供の頃からセザンのお父様は屋敷に顔を出しているからわたしも仲良しなの。
子どもの頃のわたしは体が弱くていつも屋敷に閉じこもっていた。
そんなわたしの遊び相手にとおじ様が同じ歳の息子のセザンをたまに連れてきてくれた。
セザンは、いつも優しくて一緒に勉強したりカードゲームをしたりして過ごした。
本当は男の子だから外で遊びたいだろう、なのにわたしが外に出られないからわたしに付き合って遊んでくれた。
人から見ると無愛想でぶっきらぼうに見えるけど、わたしが咳をちょっとするとさりげなく一枚服をかけてくれたり、勉強のわからないところも馬鹿にすることなく
「何処がわからないの?はあー」なんて言いながらも
「ここはね、」
と気長にわかるまで優しく教えてくれた。
セザンが学園に通うようになってからはあまり会えなかったけど、お休みの日は時間を作って会いにきてくれた。
わたしも体調が良くなりセザンと同じ学園に通えるようになった。
セザンが12歳で通うようになった一年後だった。
勉強は家でみんなに追いつくように頑張っていたけど、わたしには根本的な問題があった。
そう、友達がいなかった。
唯一友達はセザンだけ。
セザンは優秀で成績も良くAクラス、わたしは途中入学でなんとか頑張ったけどBクラスだった。
初めは誰とも馴染めずに話せなかった。
いつもポツンといるわたしに話しかけてくれたのがエリーだった。
「ダリア様って一人が好きなのかしら?」
「え?」
「いつも無愛想にお一人でいらっしゃるから……」
エリーはわたしが気になって仕方がなかったと仲良くなってから教えてくれた。
いつも一人でポツンと座り、誰とも話さない。
なのにいつも廊下を見ているわたしが気になったらしい。
わたしは唯一の友達のセザンの姿をいつも探していた。
「あ……あ、わたし、ずっと屋敷で過ごしていたから……話しかけ方がわからないのです」
「話しかけ方?」
「はい、同じ年頃の方とあまり話したことがなくて」
エリーはわたしの話を聞いてわたしに興味を持ったらしくそれからはよく話しかけてくるようになった。
そしてエリーのおかげでクラスに馴染むことができて今ではみんなと話すことができるようになった。
クラスの友人曰く
「ダリアって話しかけにくい雰囲気だった」
「氷姫って言われていたのよ」
「暗い子かと思っていたわ」
などなどわたしってかなり評判が悪かったらしい。
でも今では
「ダリアって病気でお友達がいなかったのね」
「こんな面白い子だと思わなかったわ」
「ダリア、セザンとの恋応援しているわ!」
と、みんなわたしのことを何とも言えない温かな目で見てくれている。
学園でみんなとなんとか打ち解けたある日、いつもの馬車のお迎えが少し遅くなってわたしが馬車乗り場で待っている時だった。
どこからともなく野良犬が学園の敷地に入ってきていたようだった。
その野良犬を、先輩達男子学生達が棒で叩いて虐めていた。
まだ小さな子犬は抵抗できずに動けないでいた。
「や、やめてください」
わたしは何も考えずに思わず先輩達に向かって叫んでいた。
「はあ?何チビちゃん、お前も一緒に叩いてやろうか?」
「へえ、君さ、確かパウンダー侯爵の娘だよね?」
「この子?婚約の申し込みを全て断っているって噂の子?」
段々先輩達の目が意地悪さを増している気がする。
野良犬もまだ叩かれている。
わたしは野良犬に抱きついた。
「や、や、やめてください。犬が可哀想です!」
「君も叩かれたいの?」
「おい、やめとけ。侯爵令嬢を怪我でもさせたらうちの家なんて簡単に潰されてしまう」
一人の先輩が言い出したのを聞いて、
「俺もやめとこう、ヤバいって。絶対!」
「ったく、高位貴族ってだけでいい気なもんだ」
と、犬をいじめるのをやめてさっさと帰って行った。
わたしはホッとした。でも一人だけ帰らずに私を意地悪く見つめる。
「俺、平民だから関係ないし、なんで貴族だからってだけで、助かると思ってるの?」
この人の目、怖い。
わたしは野良犬と抱き合いながら、腰が抜けて立つことができなかった。
男の先輩が手を振り上げた。
ーーあ、わたしも棒で叩かれる。
覚悟をしていたのに、痛くない。
目を開けると、セザンが代わりに叩かれていた。
「おい、お前なんなんだよ、どけよ!」
「嫌です、どうして女の子にこんなことしようとするんですか?」
「はあ?生意気だからイラつくんだよ!」
先輩はまたセザンを棒で殴った。
「や、やめてください」
セザンがこれ以上叩かれるなんて嫌だった。
野良犬が「ウー」っと唸り威嚇し始めた。
「ダリア、危ないから来ないで!」
「だってだって、セザンが怪我しちゃう」
「ったく、ダリア来ないで!」
セザンは黙って叩かれていたのに、突然先輩に襲いかかった。
セザンより大きい体の先輩なのに、突然襲い掛かられて無様に転んだ。
恥ずかしかったのか真っ赤な顔をして立ち上がりセザンを殴りつけてきた。
セザンも殴り返して二人が揉み合いになった。
わたしは喧嘩なんて見たこともなかった。
怖くて、でも、セザンが殴られるところなんか見たくなくて
「やめて!」
と叫んでいた。
わたしの声を聞いた人たちがこちらにやってきた。
「おい、お前達何やっているんだ!」
馬車乗り場に来た他の生徒達が二人を止めてくれた。
「チッ、お前クソ生意気なんだよ」
男子学生はセザンを睨みつけて、止めに入った学生の手を振り払い
「帰る!」
と言ってどこかに行ってしまった。
「セザン、大丈夫?」
セザンは顔を殴られて口の中を切ったのか血が滲んでいた。
慌ててハンカチを出して口元を拭いた。
「ダリアこそ、無茶するな!あいつお前のこと棒で叩こうとしていただろう!」
「うん、怖かった」
私たちの会話を聞いて
「あいつそんなことしたのか」
他の学生達が驚いた。
「高等部の一年のガルトだったな、先生に伝えよう」
何人かが急ぎ去って行った。
わたしとセザンは助けてくれた人たちにお礼を言ってから、待っていたわたしの迎えの馬車が来たのでセザンを無理矢理連れて馬車に乗った。
屋敷に帰ってすぐに傷の手当てをした。
制服は土埃で汚れて、口の中が切れていて頬も赤く腫れていた。
体も打ち身で青くなっていた。
お医者様に診てもらったら
「今夜熱が出るかもしれない」
と言われたので、客室に泊まってもらうことにした。
お父様もお母様もセザンに何度もお礼を言った。
「娘を助けてくれてありがとう」
それから三日間、セザンはやはり熱を出して寝込んだ。
わたしはその間学校から帰るとセザンの寝ている部屋に行き、そばにいた。
看病なんてできないけど、そばにいたかった。
わたしのせいでこんなに苦しんでいる。
セザンは、「大したことない」と言ってくれたけど、わたしを庇って助けてくれた。
本当は痛かったと思うと傷を見て胸がズキンとした。
そう、セザンはわたしの大好きな人。
助けてくれてからはもっともっと大好きな人になった。
なのにセザンはだんだんとわたしと目を合わさないようになった。
屋敷に遊びにくることも無くなった。
クラスも違い友人も別。
話しかけなければ、会うことも会話もない。
だから会いに行っては話しかけていた。
でも、「うん」とか「ああ」しか返事が返ってこなくなった。
どうにかしなきゃと思って、セザンの家に遊びに行くようになった。
セザンの家族はわたしを受け入れてくれた。
お父様もセザンをもともと気に入っていたし、成績も優秀、さらにわたしを助けてくれて、わたしがセザンが大好きなのも知っているので、婚約の申し込みをしてくれた。
ご両親からは承諾してもらったのにセザンは拒否した。
少しはわたしのこと気に入ってくれていると思っていたけど、それは勘違いだったみたい。
そして、わたしとセザンの関係は中の良い友人からただの知り合いになった。
◇ ◇ ◇
「バッド!行こう!」
バッドはわたしが助けた野良犬。
あの事件の時、叩かれて怖かったと思う。なのに最後は一生懸命わたしを助けようとしてくれた。
だからわたしに甘いお父様に飼ってもらえるように頼み込んだ。
今日は暇なので屋敷の庭をお散歩。
バッドはわたしのそばから離れずずっと隣を歩く。
飼い始めた時は痩せていて汚れてボロボロだったけど、今はしっかり食べて大きくなった。
散歩をしながら考えるのはやっぱりセザンのこと。
セザンに毎日「好きです」と言うようになったのはこの半年ほど。
セザンが外交官の試験に受かりこの国からいなくなるかもしれない。
卒業したらこの国にいたとしてもなかなか会えなくなる。
だから捨て身で強硬手段に出てみた。
周りに笑われたって馬鹿にされたっていい。
だってずっと好きだったんだもの。
最後は当たって砕けたかった。
まあ、毎日砕けているけど。
卒業まであと2週間。
もう無理かな……
セザンが他の子と仲良くしている姿を見てしまってわたしの心はポキっと、いや、バキッと折れた。
明日の朝の突撃はさすがにできない。
だって顔を見たら泣いちゃうもん。
あー、心の中にそっとしまい込んだ片思いのままで終わらせてしまえばよかった。
そしたら、こんなに落ち込まなくてもよかったのに……
いつかは知らない人と結婚させられる。
ならばやはり修道院へ行こう!
セザン以外の人に触られるなんて絶対に嫌!
散歩から部屋に戻ると、わたしはそっと部屋の片付けを始めた。
セザンとの思い出の物を箱に詰めた。
諦めるしかない……
屋敷にトボトボと帰ってきてから、わたしはベッドで毛布を被り、ずっと泣いていた。
セザンとの出会いは………
セザンのお父様は平民だけど、バーリン商会をしている。
かなり裕福な家庭。
お母様がバーリン商会を贔屓にしていて、子供の頃からセザンのお父様は屋敷に顔を出しているからわたしも仲良しなの。
子どもの頃のわたしは体が弱くていつも屋敷に閉じこもっていた。
そんなわたしの遊び相手にとおじ様が同じ歳の息子のセザンをたまに連れてきてくれた。
セザンは、いつも優しくて一緒に勉強したりカードゲームをしたりして過ごした。
本当は男の子だから外で遊びたいだろう、なのにわたしが外に出られないからわたしに付き合って遊んでくれた。
人から見ると無愛想でぶっきらぼうに見えるけど、わたしが咳をちょっとするとさりげなく一枚服をかけてくれたり、勉強のわからないところも馬鹿にすることなく
「何処がわからないの?はあー」なんて言いながらも
「ここはね、」
と気長にわかるまで優しく教えてくれた。
セザンが学園に通うようになってからはあまり会えなかったけど、お休みの日は時間を作って会いにきてくれた。
わたしも体調が良くなりセザンと同じ学園に通えるようになった。
セザンが12歳で通うようになった一年後だった。
勉強は家でみんなに追いつくように頑張っていたけど、わたしには根本的な問題があった。
そう、友達がいなかった。
唯一友達はセザンだけ。
セザンは優秀で成績も良くAクラス、わたしは途中入学でなんとか頑張ったけどBクラスだった。
初めは誰とも馴染めずに話せなかった。
いつもポツンといるわたしに話しかけてくれたのがエリーだった。
「ダリア様って一人が好きなのかしら?」
「え?」
「いつも無愛想にお一人でいらっしゃるから……」
エリーはわたしが気になって仕方がなかったと仲良くなってから教えてくれた。
いつも一人でポツンと座り、誰とも話さない。
なのにいつも廊下を見ているわたしが気になったらしい。
わたしは唯一の友達のセザンの姿をいつも探していた。
「あ……あ、わたし、ずっと屋敷で過ごしていたから……話しかけ方がわからないのです」
「話しかけ方?」
「はい、同じ年頃の方とあまり話したことがなくて」
エリーはわたしの話を聞いてわたしに興味を持ったらしくそれからはよく話しかけてくるようになった。
そしてエリーのおかげでクラスに馴染むことができて今ではみんなと話すことができるようになった。
クラスの友人曰く
「ダリアって話しかけにくい雰囲気だった」
「氷姫って言われていたのよ」
「暗い子かと思っていたわ」
などなどわたしってかなり評判が悪かったらしい。
でも今では
「ダリアって病気でお友達がいなかったのね」
「こんな面白い子だと思わなかったわ」
「ダリア、セザンとの恋応援しているわ!」
と、みんなわたしのことを何とも言えない温かな目で見てくれている。
学園でみんなとなんとか打ち解けたある日、いつもの馬車のお迎えが少し遅くなってわたしが馬車乗り場で待っている時だった。
どこからともなく野良犬が学園の敷地に入ってきていたようだった。
その野良犬を、先輩達男子学生達が棒で叩いて虐めていた。
まだ小さな子犬は抵抗できずに動けないでいた。
「や、やめてください」
わたしは何も考えずに思わず先輩達に向かって叫んでいた。
「はあ?何チビちゃん、お前も一緒に叩いてやろうか?」
「へえ、君さ、確かパウンダー侯爵の娘だよね?」
「この子?婚約の申し込みを全て断っているって噂の子?」
段々先輩達の目が意地悪さを増している気がする。
野良犬もまだ叩かれている。
わたしは野良犬に抱きついた。
「や、や、やめてください。犬が可哀想です!」
「君も叩かれたいの?」
「おい、やめとけ。侯爵令嬢を怪我でもさせたらうちの家なんて簡単に潰されてしまう」
一人の先輩が言い出したのを聞いて、
「俺もやめとこう、ヤバいって。絶対!」
「ったく、高位貴族ってだけでいい気なもんだ」
と、犬をいじめるのをやめてさっさと帰って行った。
わたしはホッとした。でも一人だけ帰らずに私を意地悪く見つめる。
「俺、平民だから関係ないし、なんで貴族だからってだけで、助かると思ってるの?」
この人の目、怖い。
わたしは野良犬と抱き合いながら、腰が抜けて立つことができなかった。
男の先輩が手を振り上げた。
ーーあ、わたしも棒で叩かれる。
覚悟をしていたのに、痛くない。
目を開けると、セザンが代わりに叩かれていた。
「おい、お前なんなんだよ、どけよ!」
「嫌です、どうして女の子にこんなことしようとするんですか?」
「はあ?生意気だからイラつくんだよ!」
先輩はまたセザンを棒で殴った。
「や、やめてください」
セザンがこれ以上叩かれるなんて嫌だった。
野良犬が「ウー」っと唸り威嚇し始めた。
「ダリア、危ないから来ないで!」
「だってだって、セザンが怪我しちゃう」
「ったく、ダリア来ないで!」
セザンは黙って叩かれていたのに、突然先輩に襲いかかった。
セザンより大きい体の先輩なのに、突然襲い掛かられて無様に転んだ。
恥ずかしかったのか真っ赤な顔をして立ち上がりセザンを殴りつけてきた。
セザンも殴り返して二人が揉み合いになった。
わたしは喧嘩なんて見たこともなかった。
怖くて、でも、セザンが殴られるところなんか見たくなくて
「やめて!」
と叫んでいた。
わたしの声を聞いた人たちがこちらにやってきた。
「おい、お前達何やっているんだ!」
馬車乗り場に来た他の生徒達が二人を止めてくれた。
「チッ、お前クソ生意気なんだよ」
男子学生はセザンを睨みつけて、止めに入った学生の手を振り払い
「帰る!」
と言ってどこかに行ってしまった。
「セザン、大丈夫?」
セザンは顔を殴られて口の中を切ったのか血が滲んでいた。
慌ててハンカチを出して口元を拭いた。
「ダリアこそ、無茶するな!あいつお前のこと棒で叩こうとしていただろう!」
「うん、怖かった」
私たちの会話を聞いて
「あいつそんなことしたのか」
他の学生達が驚いた。
「高等部の一年のガルトだったな、先生に伝えよう」
何人かが急ぎ去って行った。
わたしとセザンは助けてくれた人たちにお礼を言ってから、待っていたわたしの迎えの馬車が来たのでセザンを無理矢理連れて馬車に乗った。
屋敷に帰ってすぐに傷の手当てをした。
制服は土埃で汚れて、口の中が切れていて頬も赤く腫れていた。
体も打ち身で青くなっていた。
お医者様に診てもらったら
「今夜熱が出るかもしれない」
と言われたので、客室に泊まってもらうことにした。
お父様もお母様もセザンに何度もお礼を言った。
「娘を助けてくれてありがとう」
それから三日間、セザンはやはり熱を出して寝込んだ。
わたしはその間学校から帰るとセザンの寝ている部屋に行き、そばにいた。
看病なんてできないけど、そばにいたかった。
わたしのせいでこんなに苦しんでいる。
セザンは、「大したことない」と言ってくれたけど、わたしを庇って助けてくれた。
本当は痛かったと思うと傷を見て胸がズキンとした。
そう、セザンはわたしの大好きな人。
助けてくれてからはもっともっと大好きな人になった。
なのにセザンはだんだんとわたしと目を合わさないようになった。
屋敷に遊びにくることも無くなった。
クラスも違い友人も別。
話しかけなければ、会うことも会話もない。
だから会いに行っては話しかけていた。
でも、「うん」とか「ああ」しか返事が返ってこなくなった。
どうにかしなきゃと思って、セザンの家に遊びに行くようになった。
セザンの家族はわたしを受け入れてくれた。
お父様もセザンをもともと気に入っていたし、成績も優秀、さらにわたしを助けてくれて、わたしがセザンが大好きなのも知っているので、婚約の申し込みをしてくれた。
ご両親からは承諾してもらったのにセザンは拒否した。
少しはわたしのこと気に入ってくれていると思っていたけど、それは勘違いだったみたい。
そして、わたしとセザンの関係は中の良い友人からただの知り合いになった。
◇ ◇ ◇
「バッド!行こう!」
バッドはわたしが助けた野良犬。
あの事件の時、叩かれて怖かったと思う。なのに最後は一生懸命わたしを助けようとしてくれた。
だからわたしに甘いお父様に飼ってもらえるように頼み込んだ。
今日は暇なので屋敷の庭をお散歩。
バッドはわたしのそばから離れずずっと隣を歩く。
飼い始めた時は痩せていて汚れてボロボロだったけど、今はしっかり食べて大きくなった。
散歩をしながら考えるのはやっぱりセザンのこと。
セザンに毎日「好きです」と言うようになったのはこの半年ほど。
セザンが外交官の試験に受かりこの国からいなくなるかもしれない。
卒業したらこの国にいたとしてもなかなか会えなくなる。
だから捨て身で強硬手段に出てみた。
周りに笑われたって馬鹿にされたっていい。
だってずっと好きだったんだもの。
最後は当たって砕けたかった。
まあ、毎日砕けているけど。
卒業まであと2週間。
もう無理かな……
セザンが他の子と仲良くしている姿を見てしまってわたしの心はポキっと、いや、バキッと折れた。
明日の朝の突撃はさすがにできない。
だって顔を見たら泣いちゃうもん。
あー、心の中にそっとしまい込んだ片思いのままで終わらせてしまえばよかった。
そしたら、こんなに落ち込まなくてもよかったのに……
いつかは知らない人と結婚させられる。
ならばやはり修道院へ行こう!
セザン以外の人に触られるなんて絶対に嫌!
散歩から部屋に戻ると、わたしはそっと部屋の片付けを始めた。
セザンとの思い出の物を箱に詰めた。
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