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2章 ある騎士の物語
第5話
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アンナが襲われるまであと1週間。
未だに犯人の目星がつかない。
このままではアンナを囮にする以外ない。
俺はとにかく焦っていた。イライラしてアンナについ当たっていた。
「アンナ、分かったから今は黙っていてくれ」
せっかくのアンナとのデートなのに食事をしていてもちっとも話しが入って来ない。
今日は二人とも仕事が休みで劇を見た帰りに食事をしていた。
アンナが犯される。死んでしまう。
それだけで気が狂いそうになる。実情を知らないアンナは俺のイライラの理由なんか分かる訳もなく、驚いて落ち込んでいる。
「ごめん、アンナ。君が悪いわけではないんだ。今仕事が立て込んでいてつい当たってしまったんだ。すまなかった」
俺はアンナに頭を下げた。
「ウィル、最近の貴方は怖いわ。わたしが何かしたのなら教えて。王女様のことで大変なのでしょう?
貴方と王女様の噂は王宮内では知らない人はいないわ。
『二人は愛し合っていて夜はセシリア様の部屋で過ごしている』
これが真実でないのは分かっているの。だって仕事がない日はわたしと過ごしているのだもの。
それにわたしにはいつも護衛の方がついてくれているのも分かっているわ。誰にも気づかれないように自然な形で色んな所に居るのよね。
庭で掃除をしている人や文官に化けている人。わたしと同じ女官をしている人もいるわ」
「わかるのか?」
俺は驚いた。あの女にバレないように護衛は男女共に変装をして護衛をしている。
「だって、目つきが普通ではないもの。わたしは特に護衛が付いていると聞いているからか意識しているから気づいてしまうわ」
「そうか……あの女は何をするか分からない。絶対に一人になるな。頼むから無事でいてくれ。何とかあの女を排除するから」
「排除なんて怖いこと言わないで」
アンナは何も知らないからクスクス笑っている。
前回の話をもししたらアンナは正気ではいられないだろう。この笑顔を何とか守りたい。出来ればあんな拉致をされる前に拉致の犯人と王女の証拠を見つけ出してこの国から追い出してやる。
「ごめん、ごめん、もう少しの辛抱だ。そしたら結婚しよう」
「ふふ。貴方のご機嫌が治って良かったわ、幸せになりましょうね」
ああ、絶対に幸せにしてやる。全ての悪から守ってあげたい。あの女を何とか排除するんだ。
俺はアンナの笑顔を見て心に誓った。
「ねえ、あの人貴方と同じ近衛騎士ではないかしら?」
アンナが指す方向に目を向けると、ハックがハレルソン公爵と食事をしていた。
ハックは男爵家の次男坊だ。公爵閣下と仲良く食事をするなんてあまりないことだ。
俺は向こうに気づかれないように急いで二人に見えない場所に席を替わった。
そしてアンナに指で静かにするように合図をするとアンナはコクッと頷いた。
俺は二人が話している口の動きを見ていた。
ハックが「準備は整っている」と言っていた。
公爵は見にくいがたぶん「セシリア様の思いを叶えよう」と言った気がする。
嫌な予感しかしない。
これが俺が探していた主犯達かもしれない。
俺はアンナに帰るように言った。
影に合図を送る。
合図は天井を3回続けて見ることだ。
緊急事態の時の合図だ。これでアンナが一人になっても影は見守るのではなく何があっても助けてくれる。自らの命に替えても守り抜くのが影だ。
俺はアンナの安全を確保出来たのでハックをこっそり追うことにした。
もう一人の影が今頃団長と殿下に伝えてくれているはずだ。
ハックと公爵の裏を取ってくれる。
ハックはかなり酔って楽しそうにフラフラしながら歩いていた。
俺には全く気づいていない。
「これで俺にもチャンスが出来た。見ていろ、ウィル。お前の泣き顔を見てやる」
と独り言を言って笑っている。
俺の泣き顔?やはりコイツはあの事件に関わっているのか?
ハックが街中を過ぎて王宮内の寮に向かって歩いていた。俺と同じ寮だ。
独身騎士のほとんどが何棟かある領に住んでいる。俺とハックは別々の寮だった。
隠れてついて行っていると、柄の悪い男達がハックに話しかけて来た。
「お前達準備は大丈夫か?」
ハックが男達に聞いた。
「はい、指示通り薬は飲んでいます」
「あれは何の薬ですか?」
「あれかぁ?あれはなぁ、妊娠させないように飲む避妊薬だよ。ハハハ、俺も飲んでる、一緒に女を犯すんだからな、楽しもうぜ」
「もちろんです、美人だと聞いています」
「俺も今から楽しみです」
「俺一回じゃ満足出来ないかもしれない」
「ハハハ、いくらでもしていいと言ってたからな」
俺は隠れて聞いていたが本当はここから出て全員を切ってしまいたい衝動に駆られた。
コイツらだ。
俺のアンナを死なせた原因だ。
絶対に今回は見逃さない。ハックの野郎、前回俺が牢に入れられていた時同情して色々してくれたよな、あれは陰で笑っていたのか?
ハックは小物だ。あの公爵と繋がっているのか?
公爵の狙いは何だ。
俺は必死で殺意を抑えながら後をつけた。
未だに犯人の目星がつかない。
このままではアンナを囮にする以外ない。
俺はとにかく焦っていた。イライラしてアンナについ当たっていた。
「アンナ、分かったから今は黙っていてくれ」
せっかくのアンナとのデートなのに食事をしていてもちっとも話しが入って来ない。
今日は二人とも仕事が休みで劇を見た帰りに食事をしていた。
アンナが犯される。死んでしまう。
それだけで気が狂いそうになる。実情を知らないアンナは俺のイライラの理由なんか分かる訳もなく、驚いて落ち込んでいる。
「ごめん、アンナ。君が悪いわけではないんだ。今仕事が立て込んでいてつい当たってしまったんだ。すまなかった」
俺はアンナに頭を下げた。
「ウィル、最近の貴方は怖いわ。わたしが何かしたのなら教えて。王女様のことで大変なのでしょう?
貴方と王女様の噂は王宮内では知らない人はいないわ。
『二人は愛し合っていて夜はセシリア様の部屋で過ごしている』
これが真実でないのは分かっているの。だって仕事がない日はわたしと過ごしているのだもの。
それにわたしにはいつも護衛の方がついてくれているのも分かっているわ。誰にも気づかれないように自然な形で色んな所に居るのよね。
庭で掃除をしている人や文官に化けている人。わたしと同じ女官をしている人もいるわ」
「わかるのか?」
俺は驚いた。あの女にバレないように護衛は男女共に変装をして護衛をしている。
「だって、目つきが普通ではないもの。わたしは特に護衛が付いていると聞いているからか意識しているから気づいてしまうわ」
「そうか……あの女は何をするか分からない。絶対に一人になるな。頼むから無事でいてくれ。何とかあの女を排除するから」
「排除なんて怖いこと言わないで」
アンナは何も知らないからクスクス笑っている。
前回の話をもししたらアンナは正気ではいられないだろう。この笑顔を何とか守りたい。出来ればあんな拉致をされる前に拉致の犯人と王女の証拠を見つけ出してこの国から追い出してやる。
「ごめん、ごめん、もう少しの辛抱だ。そしたら結婚しよう」
「ふふ。貴方のご機嫌が治って良かったわ、幸せになりましょうね」
ああ、絶対に幸せにしてやる。全ての悪から守ってあげたい。あの女を何とか排除するんだ。
俺はアンナの笑顔を見て心に誓った。
「ねえ、あの人貴方と同じ近衛騎士ではないかしら?」
アンナが指す方向に目を向けると、ハックがハレルソン公爵と食事をしていた。
ハックは男爵家の次男坊だ。公爵閣下と仲良く食事をするなんてあまりないことだ。
俺は向こうに気づかれないように急いで二人に見えない場所に席を替わった。
そしてアンナに指で静かにするように合図をするとアンナはコクッと頷いた。
俺は二人が話している口の動きを見ていた。
ハックが「準備は整っている」と言っていた。
公爵は見にくいがたぶん「セシリア様の思いを叶えよう」と言った気がする。
嫌な予感しかしない。
これが俺が探していた主犯達かもしれない。
俺はアンナに帰るように言った。
影に合図を送る。
合図は天井を3回続けて見ることだ。
緊急事態の時の合図だ。これでアンナが一人になっても影は見守るのではなく何があっても助けてくれる。自らの命に替えても守り抜くのが影だ。
俺はアンナの安全を確保出来たのでハックをこっそり追うことにした。
もう一人の影が今頃団長と殿下に伝えてくれているはずだ。
ハックと公爵の裏を取ってくれる。
ハックはかなり酔って楽しそうにフラフラしながら歩いていた。
俺には全く気づいていない。
「これで俺にもチャンスが出来た。見ていろ、ウィル。お前の泣き顔を見てやる」
と独り言を言って笑っている。
俺の泣き顔?やはりコイツはあの事件に関わっているのか?
ハックが街中を過ぎて王宮内の寮に向かって歩いていた。俺と同じ寮だ。
独身騎士のほとんどが何棟かある領に住んでいる。俺とハックは別々の寮だった。
隠れてついて行っていると、柄の悪い男達がハックに話しかけて来た。
「お前達準備は大丈夫か?」
ハックが男達に聞いた。
「はい、指示通り薬は飲んでいます」
「あれは何の薬ですか?」
「あれかぁ?あれはなぁ、妊娠させないように飲む避妊薬だよ。ハハハ、俺も飲んでる、一緒に女を犯すんだからな、楽しもうぜ」
「もちろんです、美人だと聞いています」
「俺も今から楽しみです」
「俺一回じゃ満足出来ないかもしれない」
「ハハハ、いくらでもしていいと言ってたからな」
俺は隠れて聞いていたが本当はここから出て全員を切ってしまいたい衝動に駆られた。
コイツらだ。
俺のアンナを死なせた原因だ。
絶対に今回は見逃さない。ハックの野郎、前回俺が牢に入れられていた時同情して色々してくれたよな、あれは陰で笑っていたのか?
ハックは小物だ。あの公爵と繋がっているのか?
公爵の狙いは何だ。
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