【完結】浮気などしません、愛しているのは貴方だけです

たろ

文字の大きさ
上 下
12 / 21
2章  ある騎士の物語

第1話

しおりを挟む
俺は確かに死んだはずだった。
なのに俺は今愛する彼女と朝を迎えていた。
アンナの家のベッドの横には幸せそうに寝ているアンナが居る。

震える手でアンナの頬を触る。
温かい温度が伝わってくる。
俺は彼女を抱きしめて離さなかった。

「ウィル、どうしたの?苦しいわ」
アンナは驚いて目を覚ました。

「何でもない。……ところで今は…何日だったかな?」

「何を言っているの。今日はわたしの家に挨拶に行く日でしょう?」

「あ….7月14日だったか」

(アンナがあの女に無理矢理拉致されて乱暴されるまで後1ヶ月ないのか)

俺は「ごめん、ごめん」と笑って誤魔化した。

彼女の両親に挨拶をして今日は彼女と別れて自分が住んでいる寮へ戻った。

俺一人ではその日アンナを助けても、別の日にアンナがまた襲われたら助けることは難しい。
予測できるのはその日だけだ。

あの女はアンナが襲われているところを見ていたと言っていた。

ギリギリだが、アンナが拉致されるまでは手出しできない。
あの女の証拠を掴まなければ安心してアンナと過ごすことは出来ない。

俺は団長の元へ一か八か行って話すことにした。

団長は難しい顔をして聞いていた。
俺はひたすらアンナがされたこと、これから起こることを全て話した。
信じてもらえるためにいくつかのこれから起こる事件や災害のことも話した。

俺の頭がおかしいと信じて貰えないかもしれない。牢屋に入れられるか解雇されるかわからない。

俺が騎士を辞めたとしてもあの女の執拗さを考えるとアンナへの仕打ちは辞めないはずだ。
俺が彼女の傀儡になればいいのだ。わかっている。アンナを助けられないならばアンナと別れて俺はあの女の傀儡になる。
本当は殺したいが俺があの女を殺せば男爵家でしかない実家は一瞬で握りつぶされ王族殺しとして親戚一同が処刑される。
だから、アンナを助けるには団長の力がなければ無理だ。団長の協力を得られなければ俺はアンナと別れる決心をしていた。

最後まで話し終えて団長の顔を見つめた。

団長は何も話そうとしない。じっと考え込んでいるようだった。
俺は死刑宣告を受ける前の気分でじっと待ち続けた。

どれだけ待ったのだろう。

「……最近よく夢を見るんだ……ウィルが牢に入っている夢……そしてセシリアが……隣の国へ嫁に行くんだ……」
団長は長い溜息を吐いた。

ハァーー……

「その夢と今お前が話したことがほとんど同じなんだ。全部の話しを夢で見たわけではない。でもみた夢をつなぎ合わせるとお前の話に全てかち合うんだ……これはいったいどう言うことだ。確かにセシリアがお前を気に入っていて無理矢理自分の護衛にした。そしてお前を常にそばに置きたがっている、でもまさかあの娘がそんなことまでするのか?いや、でも夢でも確かにしていた。俺は見過ごしたせいで後悔しかなかった。夢の中では……いや、待て……どうすればいいのか……すまん、まだ頭がついていかない」

団長は考え込んでいるのかひとりぶつぶつと呟いていた。

団長はベルを鳴らして
「アンディ・フォーテを呼んでくれ」
と、部下に頼んだ。

その間も団長は独り言をずっと言っては紙に何かを書いてまたしばらく考え込んでまた紙に書くと言う作業を繰り返していた。

俺はそれを黙って立ってみていた。
アンディは前回俺の次にあの女から狙われた男だった。俺と同じ部隊で後輩でもあるが自分とはそこまで親しくはなかった。

アンディなら話せば協力してもらえるかもしれない。次に狙われることを信じてもらえればだが。



★ ★ ★

『ある騎士』の死んだその後を書いてみました。

もしよろしければ読んでみてくださいね。

一日一話の更新で……何話になるのかはまだわかりませんが、書き始めたばかりなので……すみません、よろしくお願いします








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

私の名前を呼ぶ貴方

豆狸
恋愛
婚約解消を申し出たら、セパラシオン様は最後に私の名前を呼んで別れを告げてくださるでしょうか。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

処理中です...