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アルク国に来てからは、また騎士団の寮で暮らすことになった。
騎士達からは「お帰り」と普通に受け入れられてしまった。
とりあえず、ここで騎士として働かせてもらう。
「オリエ、行くぞ!」
副団長自らがわたしと組んで一緒に護衛の仕事をする。演習で半年間過ごしたおかげで顔見知りもいたし、仕事の内容もある程度わかるのでなんとかやっていけそうだ。
いつまでいることになるのだろう。
早くイアン様に会ってさっさと気持ちにけじめをつけてオリソン国へ戻ろう。
そう思ってやっとイアン様の姿を見つけることができた。
でもいつも隣には綺麗な女性がいて、仲良く話している姿を何度も見かけた。今回はわたしがこの国に来ていることを彼は知らない。手紙を書く前にここに強制的に連れてこられた。
だから自分で話に行かなければいけない。わかっているのに彼の前に姿を表せないでいた。
自分だって恋人ができたんだから、彼にだって恋人ができて当たり前だ。なのにジーナ様の時やジョセフィーヌ様の時を思い出して心が痛くなる。
彼が楽しそうに笑っている顔、優しく語りかけている姿。
「……帰りたい」
わたしは思わず弱音を吐いて呟いた。
それを副団長さんはしっかり聞いていた。
「オリエの話は、聞いている。だから家族のいる俺が君の相方になったんだ。独身だと君に惚れてしまいかねないからね」
「え?」
「君は前回演習に来た時、高嶺の花と言われていたんだ。今回も君を狙っている奴らはいっぱいいるからね、まぁ前回は陛下と妃殿下がしっかりオリエを守っていたから手を出さないでいたけど、今回はオリエは自分の力でここで過ごすことになった。でも流石に何かあったら困るからね、職場では俺が守っているんだ」
その話を聞いてわたしは頭を下げるしかなかった。いくら騎士として努力しても女でしかないわたしは数人の男に囲まれれば抵抗できなくなる。
まだこの国では全員の騎士とは信頼関係がない。もし男性と揉めても助けてもらえるとしてもどうなるのかわからない。
副団長達の気配りに感謝するしかなかった。
ーーーーー
イアン様の隣にいた女性に話しかけられてしまった。
「よくわたし達のことを見ていますよね?」
「すみません、そんなにみていましたか?」
わたしはどう答えていいのかわからずに下を向いてしまった。
「ええ、何か御用でもあるのかと気になって」
わたしがジロジロと見ていたのにこうやって嫌味でもなく聞いてくるのに驚きながらも、やはり答えることができなかった。
「すみませんがお答えできません」
イアン様のことを見ていたとは言えなくて頭を下げて立ち去ろうとした。
「イアン様のことが気になるのですか?」
「………え?」
「イアン様のファンが多くて。わたしも何度か呼び出されたりして困っているんです」
「あ……なたは……」
ーー彼女ですか?と聞きたかったのにそれ以上の言葉が出なかった。だって目の前に……
「オリエ?どうしてまたこの国に来ているんだ?」
イアン様がわたしの顔を見て驚いて立っていた。
「あ、あの、またこの国に行くようにと王妃様から飛ばされてしまいました」
ーー嘘ではない。ただしイアン様と話すように言われたけど。
「君のところの妃殿下とうちの国の妃殿下は仲良くしているらしいが、君はその間を行き交う繋ぎ役なのかい?」
「そうではないと思うのですが」
ーーイアン様の彼女がわたしを睨んでいる。
「ごめんなさい、わたし、イアン様と貴女のお邪魔をするつもりはなかったのです。ただ、イアン様に用事があって話さないといけなくて、でもどうしようか悩んでいて…」
「俺に用事が?別に邪魔ではないよ。今は彼女に用事があるから夕方でも君のいる寮にでも迎えに行くよ。それでいい?」
「あ……いや、そこまでしなくても……」
「気にしないで、じゃあ後で」
そう言ってイアン様は彼女とどこかへ行ってしまった。
ーー自分の気持ちに踏ん切りをつけるために来たはずなのに…何も言えなくて、目の前で彼女との仲の良い姿を見てしまうだけの結果か。
もう何も言わずに気持ちのけりをつけてもいいのかもしれない。だって彼女だと言ったもの。
その後の仕事はあまり手がつかなかった。
本日は内勤で、事務仕事を中心にする予定だったのに、いつもの半分しかできなかった。
「いいよいいよ、いつも人の倍働くオリエ嬢が珍しく人と同じ量の仕事をしたんだ。これが普通なんだよ?」
夕方イアン様が迎えに来る前に一度着替えをしようと寮に戻り着替えた。
平民のわたしの服には豪華なドレスも高級な服もない。わたしはいつもの着やすくて動きやすいワンピースに着替えた。
長い髪は……いつも結んでいるのでほどいて、櫛で解いて下すことにした。
「ふう、まるで今から告白でもするみたい」
自分の姿を鏡に写した。
令嬢の時のオリエはもういない。今のわたしは騎士のオリエ。
そしてイアン様の妻だった頃とも愛して苦しんでいた頃とも違う。
わたしは、ただ自分の気持ちの整理をしたかっただけ、前に進むために。
そしてイアン様が迎えに来てくれたと連絡が入った。
イアン様と並んで歩いた。
「手紙の返事が返ってこないと思ったらこっちに来ていたんだね」
「突然だったので伝えそびれてしまいました」
「俺に話があったんだろう?」
「はい、でも、もう大丈夫になりました」
「え?」
「わたしイアン様ときちんとお別れをしようと思ったんです。もう友人として連絡を取ることもやめようと思っています」
「何故?」
「前に進みたいのです、わたしは……イアン様への気持ちから解放されたいのです」
「俺から解放?」
「大袈裟ですみません、でも本当の気持ちです。今までありがとうございました。もうお会いすることも連絡することもありません」
わたしは頭を下げて、グッと涙を堪えて頭を上げると笑顔で「さよなら」と言った。
◇ ◇ ◇
オリエから「さよなら」と言われた。
ーー当たり前だよな、文通しようなんて友人でいようなんてずるいことを言って未だに彼女との関係を続けようとした。
彼女に恋人ができたことを手紙に書かれた時には一週間深酒をしてフラフラしながら仕事をした。
現実を突きつけられた。
ならば俺も誰かと…とは思えなかった。
オリエはこんな気持ちで婚約の間も結婚してからも辛い日々を過ごしたのだ。
なんて残酷なことをしたんだろう、わかってはいても現実は思った以上にキツイものがあった。
オリエが他の男に触れられる。
そう思うだけで、心が抉られてどうしようもなくなった。
たぶんいつも一緒にいる仕事仲間の彼女のことも恋人だと勘違いされている。
でもオリエに彼女なんていない、と言ってなんになるのだろう?
前に進むために俺に「さよなら」を言いに来た彼女に。
それでも、俺は……
俺も前に進むために彼女に言おうと思う。
「オリエ俺は今も君を愛しています、彼女は恋人ではない、ただの仕事仲間だ」
たとえオリエが俺を振っても仕方がない、それでも俺は最後に言わずにいられなかった。
「どうして今更そんなことを言うの?」
「忘れられないから、ずっとずっと愛しているから俺は君だけなんだこれからもずっと。貴女しか愛せない」
「わたしは…………」
俺は彼女の返事を待った。
◆ ◆ ◆
読んでいただきありがとうございました。
オリエの返事は……
番外編はありません。
でも違う作品で二人のその後がいつか出てくる予定です。
その時は、別々の道を行っているのか、恋人になっているのか……
今回は元々ハピエンではなく、この終わり方をする予定でいました。
はっきりとわかる終わり方がいいのかと悩みましたが、最初の予定通りにしました。
スッキリしないでしょうが、どちらになっても二人は好きな道を進んで幸せだと思います。
恋愛よりもお互い生涯したいことを見つけたので。
その中で、二人の気持ちが一つになれるかはこれからの二人次第です。
でもオリエは前に進むことがやっとできました。
いつも誰かに守られて生きるのではなく、自分の力で前に進める大人の女性になれたのではないかと思います。
オリエとイアンをどこかの作品でみつけてください。
ありがとうございました。
そして、短編で10話前後のお話を明日から投稿予定です。
『わたしを愛していない貴方はわたしに愛人の子どもを育てろと言った』
今書いている
『氷の騎士は忘れられた愛を取り戻したい~愛しています~令嬢はそれぞれの愛に気づかない』と同じ、
悲しみのあまり記憶を失くした人のお話です。
もしよければ読んでみてくださいね、どちらも悲しいお話ではありません。
たろ
騎士達からは「お帰り」と普通に受け入れられてしまった。
とりあえず、ここで騎士として働かせてもらう。
「オリエ、行くぞ!」
副団長自らがわたしと組んで一緒に護衛の仕事をする。演習で半年間過ごしたおかげで顔見知りもいたし、仕事の内容もある程度わかるのでなんとかやっていけそうだ。
いつまでいることになるのだろう。
早くイアン様に会ってさっさと気持ちにけじめをつけてオリソン国へ戻ろう。
そう思ってやっとイアン様の姿を見つけることができた。
でもいつも隣には綺麗な女性がいて、仲良く話している姿を何度も見かけた。今回はわたしがこの国に来ていることを彼は知らない。手紙を書く前にここに強制的に連れてこられた。
だから自分で話に行かなければいけない。わかっているのに彼の前に姿を表せないでいた。
自分だって恋人ができたんだから、彼にだって恋人ができて当たり前だ。なのにジーナ様の時やジョセフィーヌ様の時を思い出して心が痛くなる。
彼が楽しそうに笑っている顔、優しく語りかけている姿。
「……帰りたい」
わたしは思わず弱音を吐いて呟いた。
それを副団長さんはしっかり聞いていた。
「オリエの話は、聞いている。だから家族のいる俺が君の相方になったんだ。独身だと君に惚れてしまいかねないからね」
「え?」
「君は前回演習に来た時、高嶺の花と言われていたんだ。今回も君を狙っている奴らはいっぱいいるからね、まぁ前回は陛下と妃殿下がしっかりオリエを守っていたから手を出さないでいたけど、今回はオリエは自分の力でここで過ごすことになった。でも流石に何かあったら困るからね、職場では俺が守っているんだ」
その話を聞いてわたしは頭を下げるしかなかった。いくら騎士として努力しても女でしかないわたしは数人の男に囲まれれば抵抗できなくなる。
まだこの国では全員の騎士とは信頼関係がない。もし男性と揉めても助けてもらえるとしてもどうなるのかわからない。
副団長達の気配りに感謝するしかなかった。
ーーーーー
イアン様の隣にいた女性に話しかけられてしまった。
「よくわたし達のことを見ていますよね?」
「すみません、そんなにみていましたか?」
わたしはどう答えていいのかわからずに下を向いてしまった。
「ええ、何か御用でもあるのかと気になって」
わたしがジロジロと見ていたのにこうやって嫌味でもなく聞いてくるのに驚きながらも、やはり答えることができなかった。
「すみませんがお答えできません」
イアン様のことを見ていたとは言えなくて頭を下げて立ち去ろうとした。
「イアン様のことが気になるのですか?」
「………え?」
「イアン様のファンが多くて。わたしも何度か呼び出されたりして困っているんです」
「あ……なたは……」
ーー彼女ですか?と聞きたかったのにそれ以上の言葉が出なかった。だって目の前に……
「オリエ?どうしてまたこの国に来ているんだ?」
イアン様がわたしの顔を見て驚いて立っていた。
「あ、あの、またこの国に行くようにと王妃様から飛ばされてしまいました」
ーー嘘ではない。ただしイアン様と話すように言われたけど。
「君のところの妃殿下とうちの国の妃殿下は仲良くしているらしいが、君はその間を行き交う繋ぎ役なのかい?」
「そうではないと思うのですが」
ーーイアン様の彼女がわたしを睨んでいる。
「ごめんなさい、わたし、イアン様と貴女のお邪魔をするつもりはなかったのです。ただ、イアン様に用事があって話さないといけなくて、でもどうしようか悩んでいて…」
「俺に用事が?別に邪魔ではないよ。今は彼女に用事があるから夕方でも君のいる寮にでも迎えに行くよ。それでいい?」
「あ……いや、そこまでしなくても……」
「気にしないで、じゃあ後で」
そう言ってイアン様は彼女とどこかへ行ってしまった。
ーー自分の気持ちに踏ん切りをつけるために来たはずなのに…何も言えなくて、目の前で彼女との仲の良い姿を見てしまうだけの結果か。
もう何も言わずに気持ちのけりをつけてもいいのかもしれない。だって彼女だと言ったもの。
その後の仕事はあまり手がつかなかった。
本日は内勤で、事務仕事を中心にする予定だったのに、いつもの半分しかできなかった。
「いいよいいよ、いつも人の倍働くオリエ嬢が珍しく人と同じ量の仕事をしたんだ。これが普通なんだよ?」
夕方イアン様が迎えに来る前に一度着替えをしようと寮に戻り着替えた。
平民のわたしの服には豪華なドレスも高級な服もない。わたしはいつもの着やすくて動きやすいワンピースに着替えた。
長い髪は……いつも結んでいるのでほどいて、櫛で解いて下すことにした。
「ふう、まるで今から告白でもするみたい」
自分の姿を鏡に写した。
令嬢の時のオリエはもういない。今のわたしは騎士のオリエ。
そしてイアン様の妻だった頃とも愛して苦しんでいた頃とも違う。
わたしは、ただ自分の気持ちの整理をしたかっただけ、前に進むために。
そしてイアン様が迎えに来てくれたと連絡が入った。
イアン様と並んで歩いた。
「手紙の返事が返ってこないと思ったらこっちに来ていたんだね」
「突然だったので伝えそびれてしまいました」
「俺に話があったんだろう?」
「はい、でも、もう大丈夫になりました」
「え?」
「わたしイアン様ときちんとお別れをしようと思ったんです。もう友人として連絡を取ることもやめようと思っています」
「何故?」
「前に進みたいのです、わたしは……イアン様への気持ちから解放されたいのです」
「俺から解放?」
「大袈裟ですみません、でも本当の気持ちです。今までありがとうございました。もうお会いすることも連絡することもありません」
わたしは頭を下げて、グッと涙を堪えて頭を上げると笑顔で「さよなら」と言った。
◇ ◇ ◇
オリエから「さよなら」と言われた。
ーー当たり前だよな、文通しようなんて友人でいようなんてずるいことを言って未だに彼女との関係を続けようとした。
彼女に恋人ができたことを手紙に書かれた時には一週間深酒をしてフラフラしながら仕事をした。
現実を突きつけられた。
ならば俺も誰かと…とは思えなかった。
オリエはこんな気持ちで婚約の間も結婚してからも辛い日々を過ごしたのだ。
なんて残酷なことをしたんだろう、わかってはいても現実は思った以上にキツイものがあった。
オリエが他の男に触れられる。
そう思うだけで、心が抉られてどうしようもなくなった。
たぶんいつも一緒にいる仕事仲間の彼女のことも恋人だと勘違いされている。
でもオリエに彼女なんていない、と言ってなんになるのだろう?
前に進むために俺に「さよなら」を言いに来た彼女に。
それでも、俺は……
俺も前に進むために彼女に言おうと思う。
「オリエ俺は今も君を愛しています、彼女は恋人ではない、ただの仕事仲間だ」
たとえオリエが俺を振っても仕方がない、それでも俺は最後に言わずにいられなかった。
「どうして今更そんなことを言うの?」
「忘れられないから、ずっとずっと愛しているから俺は君だけなんだこれからもずっと。貴女しか愛せない」
「わたしは…………」
俺は彼女の返事を待った。
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読んでいただきありがとうございました。
オリエの返事は……
番外編はありません。
でも違う作品で二人のその後がいつか出てくる予定です。
その時は、別々の道を行っているのか、恋人になっているのか……
今回は元々ハピエンではなく、この終わり方をする予定でいました。
はっきりとわかる終わり方がいいのかと悩みましたが、最初の予定通りにしました。
スッキリしないでしょうが、どちらになっても二人は好きな道を進んで幸せだと思います。
恋愛よりもお互い生涯したいことを見つけたので。
その中で、二人の気持ちが一つになれるかはこれからの二人次第です。
でもオリエは前に進むことがやっとできました。
いつも誰かに守られて生きるのではなく、自分の力で前に進める大人の女性になれたのではないかと思います。
オリエとイアンをどこかの作品でみつけてください。
ありがとうございました。
そして、短編で10話前後のお話を明日から投稿予定です。
『わたしを愛していない貴方はわたしに愛人の子どもを育てろと言った』
今書いている
『氷の騎士は忘れられた愛を取り戻したい~愛しています~令嬢はそれぞれの愛に気づかない』と同じ、
悲しみのあまり記憶を失くした人のお話です。
もしよければ読んでみてくださいね、どちらも悲しいお話ではありません。
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