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28話  ジョセフィーヌ編

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わたしは自分の今の幸せに浮かれて周りをしっかり見ていなかった。ううん、見ようとしなかった。
早くジーナ様とのことが解決してしまえばわたしは離縁して恋人と幸せに暮らせる。
自分勝手な事しか考えていなかった。

オリエ様がご実家に帰られてからはイアン様はいつもイライラしていた。
仲の良い夫婦を演じるのも疲れてしまうほど……
それでも、わたしの心は少しずつ変化していった。

そう、イアン様への想いが……

「ねえ、わたし達の関係はそろそろ難しいかもしれないわ」
恋人の名前はアンドレイと言う。

「ジョセフィーヌ様……わたしは貴女を愛しています。何があっても貴女を守り抜きます」

「ありがとう、私もあなただけよ。でも……オリエ様が正妃をやめればわたしが正妃になるかもしれないわ」
ーーイアン様の正妃になれるかもしれない。
アンドレイは愛人としてそばに置こう。

「……それは有り得ないと聞きました」

「ほんと?何故かしら?」
ーーどうしてよ?

「この国の正妃は皆ブロンドの髪という決まりがあるそうです……」

「そうなのね?ではわたしは茶色の髪だから選ばれることはないのね」
わたしは自分の髪を触りながら鏡に写した。
柔らかいウェーブの明るい茶色の髪、薄いグレーがかった瞳、美しいと言われてきた。

オリエ様のブロンドの髪、整った美しい顔立ち、人を惹きつけてやまない彼女の愛らしさがわたしは憎かった。
何をされたわけでもない。
わたしに優しく微笑む姿に、女の醜い嫉妬心が湧いてくるのを感じた。
ただそれだけ。

ーーあの人を不幸にしたい、惨めに離縁されイアン様に愛される姿を見せつけたい。

アンドレイとの隠れた秘密の恋に溺れながら、イアン様に愛されているフリをするのは優越感があった。

わたしは、少しずつイアン様に惹かれていたのだ。

どんなに彼に媚びても彼はわたしを抱いてくれない。
キスすらしてくれない。
抱きしめてくれない。

そんなイライラをアンドレイで慰めてもらう。
アンドレイに愛される悦びを感じながら、イアン様に抱かれたいと、本気で愛されてみたいと思うようになった。

彼に抱かれる時、どんな顔をするの?
彼はどんな風に愛を囁くのかしら?

アンドレイに抱かれながらイアン様のことをつい考える。

……オリエ様との離縁が成立した。

オリエ様が倒れる前に離縁を望んでいて、それを陛下が了承したのだ。

ブロンドの髪でなくてもわたしを望んでくれるかもしれない。
そう思ったのにイアン様はわたしとも離縁すると言った。

わたしは、アンドレイと共に王家が持っている王都から遠く離れた田舎街で静かに暮らすことになった。

「イアン様、わたしのせいですみませんでした。ご迷惑をおかけいたしました」

イアン様に謝りながらも「行くな!」と言ってくれるのではないかと浅はかな思いを消すことはできなかった。

なのにイアン様は「ジョセフィーヌの所為ではない、恋人と幸せになれ」と言って送り出されてしまった。

ーーイアン様……お慕いしております。
その一言が言えずに、わたしはアンドレイと田舎街で暮らすことになった。

田舎とはいえ街は賑わい、人々も活気に溢れている。

そこそこの広さの屋敷に使用人も沢山いて、生活に困ることはない。

王都ほどの賑わいはなくても、それなりの社交も出来るしそれなりの贅沢もできる。
でも物足りない。

側妃として周りから注目されることもなくなり、静かに過ごす日々に満足できなくなっていた。
そんなある日、月のものが最近きていないことに気がついた。

ーーもしかして妊娠?
もちろん相手はアンドレイしかいない。
一度もわたしを抱いてくれなかったイアン様の子ではない。
一度でも体の関係を持っていれば彼の元に戻れたのに……悔しい。

それでもわたしは賭けに出た。

わたしが妊娠したことを陛下に伝えた。

そぐに陛下から反応があった。

確認に来て、それから……わたしは隔離された。

イアン様がわたしと体の関係がなかったことは影により証明されていたのだ。
でもわたしの妊娠した時期は離縁の前なので、イアン様の子であると世間では思われる。
なのであまり話が広まらないように外出を禁止されて屋敷に篭るように言われた。
強制ではない。と言われても実際は強制としか思えなかった。

そんな時、ヴァンサン侯爵様から誘いがあった。

ヴァンサン侯爵様からの手紙を彼に雇われている「影」が持ってきたのだ。


どこで嗅ぎつけたのか、わたしの妊娠のことを知り、この監視から救い出してイアン様に会わせてくれると言われた。

わたしはイアン様にお会いしたい一心でヴァンサン侯爵様の誘いに乗って、真夜中「影」に連れ出してもらい屋敷について行った。
もちろんアンドレイも一緒に。
アンドレイはわたしがイアン様に心を移していることに気がついている。それでも彼はわたしから離れはしない。

彼はわたしを愛しているから、そしてこのお腹には彼の子どもがいるから。

わたしもアンドレイのことは愛している。ただイアン様のことも欲しい……彼に愛されるオリエ様が憎い、わたしだけを愛して欲しい。

だからイアン様の子だと世間に思わせてわたしは彼を自分のものにしようと考えた。
まさか陛下に始末されるなんて考えていなかった。

わたしは陛下の姪でもあるし、お腹に子どももいるのだから……でも陛下はわたしの浅ましい考えを見抜いていた。

ヴァンサン侯爵様の屋敷からわたしとアンドレイは連れ出された。
陛下はわたしとアンドレイに言った。

「我が国でこれ以上好き勝手にさせることは出来ない。静かにこの国を去るかお腹の子どもと共に消えてなくなるか選べ」
冷たい言葉と冷たい眼差し。

どこにも優しさなど残っていない。
わたしは死を覚悟した。
それでも……この子を守れるなら……

「お願いです、この子の命だけは助けてください。もうイアン様に縋ろうとは思いません。諦めます」


姉のマリエッタは隣国の侯爵家に嫁いでいて、妹のわたしを心配して密かに自分の元へ連れ出し、妊娠7ヶ月になったわたしは、姉のところで静かに子供を産みたいと願った……ということにしてもらって姉のところへ向かった。

イアン様には手紙を出した。
「イアン殿下の子供ではないことは生まれてきてから証明出来るのでそれまでは身を隠して過ごさせてください。ご迷惑をかけて申し訳ありません」

ヴァンサン侯爵様達が捕まって、犯罪を犯していた貴族達は次はいつ自分の家が断罪されるかと戦々恐々としているらしい。
だから、わたしの妊娠の噂どころではなくなっているので噂があまり広がらずに済んでいた。

おかげでわたしは殺されずに済んだ。

イアン様への気持ちはまだ残っているけど、殺されるよりはマシだ。
アンドレイは何があってもわたしを捨てない……はず。


そして子どもが生まれた。
アンドレイに似た可愛い女の子だった。

産んだ次の日、わたしはアンドレイに薬を盛られた。
そして声が出せなくなり、徐々に弱り産後の肥立ちが悪くなったとみんなに思われた。

ーー違う!アンドレイがわたしを殺そうとしているの!

そう言いたいのに声が出ない。

そして……2週間後わたしはこの世を去った。
娘を抱くことも出来ずに……

アンドレイはわたしが死んでいく時に、耳元で囁いた。

「俺の愛はずっと貴女だけのものです。愛していますジョセフィーヌ様……娘が成長し終わったら貴女の元へ行きますので少しだけ待っていてください」

ーー嫌!!死にたくない!

何が悪かったの?わたしはアンドレイからもイアン様からも愛されたかっただけなのに……

そしてわたしは暗い闇へと堕ちて行った。


◆ ◆ ◆

次からはオリエとイアンに戻ります。
そして、オリエがこれからどうするのか……









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