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23話
しおりを挟む殺し屋さんの名前を教えてもらった。
「カイ」さんだそうだ。
本当かどうかはわからないけど、呼び名がわかったので少し話しやすくなった。
カイさんは、夜中にたまに顔を出すようになった。
黒い服に黒い頭巾、真っ黒なので夜中にベッドの脇に立たれるとかなりびっくりするけど最近は慣れてしまい、
「おはようございます、今日はどうしました?」
と聞く余裕ができた。
「君を殺すように依頼した奴を捕まえるのはいいんだけど、どこまでやっておく?」
「やっておくとは?」
「うん?半殺し?手足落とす?舌は話せないと困るからいるよね?目ん玉はなくてもいいかな?」
「いやいや、全て綺麗なままでお願いします。出来れば傷ひとつない状態がよろしいかと思うのですが?」
「えーー、それじゃあ面白くないだろう?せめて指だけでも全て切り落とそうか?」
「いえ!全て綺麗な体がいいです!」
「はあー、仕方ないな。で、どこに連れてきたらいい?この部屋に明日連れて来る?」
「え?嫌ですよ。わたしを殺そうとした人なんかわたしの部屋に入れて欲しくはありません」
「じゃあ、どこがいい?」
「うーん、お父様の部屋?かな……」
ーーお父様にはまだ何も伝えていない。
突然お父様の部屋に、わたしを殺そうとした依頼者がやってきたらお父様はどんな顔をするのだろう。
ちょっと楽しいかも。
「わかった、明日君の父上の部屋に連れて来るね」
そう言うと帰って行った。
ーーえ?そんな軽い感じでわたしを殺そうとした人を捕まえて連れてこれるのかしら?
わたしは時計をチラッと見るともう夜中の12時。
あと少しだけ寝て早起きしてお父様を捕まえて早く事情を説明しなければ、大騒ぎになるかも……
そう思いながらぐっすりと寝てしまって目覚めたのは陽がしっかり登った昼前だった。
部屋の外のうるさい声で目覚めたわたしは、誰も部屋に来ないことに気がついてとりあえず寝間着から私服に着替えた。
公爵令嬢とはいえ、市井での生活を視野に入れているわたしは服の着替えや簡単な掃除などは出来るようになった。
だから自分で身支度を整えて廊下に出てみると、騎士や使用人が騒いでいたので、一人を捕まえて聞いてみた。
「ねえ、この騒ぎはどうしたの?何かあったのかしら?」
「あ、お嬢様。旦那様の部屋にヴァンサン侯爵様とその家の執事、それから娘婿にあたるトムソン伯爵が突然部屋に現れたのです!」
「え?忘れてたわ!」
「忘れてた?」
「そうなの、わたしを殺す依頼をした人達を捕まえてお父様の部屋へ連れてきてくれることになっていたの。お父様に伝えるの忘れてぐっすり寝ていたわ」
わたしが慌ててお父様の部屋へ向かおうとすると、我が家の騎士服を着た、カイさんが笑いながら言った。
「クククッ、お嬢ちゃんは俺が今日連れて来ること忘れて寝てたのか?」
「あ!カイさん、いつもと違う格好なので気が付かなかったわ。わたしの依頼をこなして下さってありがとうございます。良かったらお父様にお会いしてもらってもいいかしら?」
「俺を普通に当主に会わせようとするなんて……」
「でもまだ報酬が足りないでしょう?」
「いやいや、十分もらったよ。こんな面白い依頼はあまりないからね。楽しかったよ」
「あ!みんな綺麗な体のまま捕まえてくれたかしら?」
「ぶはっ!!くくっ!うん、見てきたら?」
「説明しなくっちゃ!カイさんありがとうこれでぐっすり眠れます」
「あー、やっぱり本当は眠れなかったんだ」
わたしは肩をすくめてカイさんを見て、「へへ」っと笑った。
本当はずっと怖くて眠れなかった。
カイさんが明日連れて来るからと言われて、安心した途端眠りにつくことができた。
おかげで屋敷は大騒ぎになってしまったけど。
カイさんはいつの間にか姿を消していた。
神出鬼没なカイさん。
また会えるかしら?
◇ ◇ ◇
俺はヴァンサン侯爵の領地の視察に来ていた。
なかなか尻尾を出さない侯爵。
突然の視察で侯爵達が不在の中、領地を回った。
街は賑わっていて豊かな民たちにみえた。
なのに街を離れていくと貧しい農民達や力なく座り込む人々を沢山見かけるようになった。
ここまで極端な領地は少ない。
俺は視察に同行した侯爵の部下に聞いた。
「何故こんなにみんな痩せ細っているんだ?」
「……あっ、いや、あ、最近不作が続いていまして……」
「ブライス、そんな報告は聞いていないぞ。お前俺に報告書を見せていなかったのか?」
あえてブライスを責めた。
「…いえ、そんな報告は上がっていません」
ブライスはムスッとして答えた。
「あ、いや、間違っていました。ちょっと問題がありましてこの辺は税金を納められないので厳しく取り立てたんです……だから、あの、その……」
「もういい、お前達はそこから動くな!」
俺は侯爵の関係者は動かないように命令して、自ら人々に話しかけた。
俺が王族だとは気付いていない。
市井の者達と同じ服を今は着ている。
なので今はただの使用人が農地を回っているだけだと思われている。
「大変ですね、疲れているんですか?」
「あんたは何者だ?」
「あー、俺は農地を回っている雇われの商売人です」
「ここには売れるものなんか何もないよ」
「どうしてこんなに農地が荒れているんですか?」
「税金が払えない家の男達を無理やり連れて行ってしまったんだ。だからこの辺は作物を作りたくても人手が足らない。さらに税金は払えないし、ろくに食べるものもない。
俺たちは飢えて死ぬのを待っているんだ」
「無理やり連れて行ってどうするんだ?」
「あんた知らないのか?ここの領主様は、鉱山から鉄鉱石が取れるからと人手が足りなくて俺たち農民達を無理やり連れて行って働かせているんだ」
「そんな報告は?」
俺はブライスを睨みつけた。
ブライスは首を横に振った。
俺はそれを確認して「この村の一番偉い人はいますか?」
「キーぜ様は寝込まれております。自分の財産を全て我々の食べ物に変えて与えてくださった。でも無理をして今は寝込まれています」
俺は聞いているだけで、自分は今まで何をみてきたのだろうと思った。
表面の良いところだけ見せられてそれでみんな幸せに暮らしているんだと思わされいた。
ブライスに頼んで、とりあえず食べ物を手配するように言ってから、俺はその報告すら上がっていない鉱山へと向かった。
「殿下、数人だけで行くのは危険です。せめて体勢を整えてからでお願いします」
ブライスが言っていることは確かだ。だが今いかなければまた証拠を隠されてしまうかもしれない。
いきなり行かなければ汚いものは全て隠されて綺麗なことしか見せてもらえない。
俺は数人の護衛騎士達と共に鉱山へ向かった。
鉱山は劣悪な環境で働かされている人々で溢れかえっていた。
正気のない顔、フラフラしながらなんとか重たい荷物を運ぶ男達。
その中には女性もいた。
汚い服を着て足を引き摺りながらもなんとか荷物を運んでいる。
俺はその姿を見て怒鳴りつけた!
「何をここでしているんだ!みんな動くな!働かなくていい!」
「おい!あんたは何をいきなり来て言い出すんだ!」
人相の悪い大柄の男達が数人俺を囲んだ。
「お前達は誰の許可を得てここで鉱山の発掘をしているんだ?国からの許可をもらってないだろう?」
「国の許可?なんだそれ?」
「国の許可なく鉱山で採掘は出来ないはずだ!」
「俺たちにはそんなこと関係ないね」
ニヤニヤと笑う男達。
「あんた誰だ?偉そうに。国の役人か何かか?そんな少ない人数で視察したって怖くなんかないね。みんなこの鉱山の中で事故で死んで貰えばいいだけだ」
俺たちを捕まえようと屈強な男達が俺たちを叩きのめそうと襲いかかってきた。
俺はその手を払いのけて、剣で切りつけた。
「ぐあっ!イッテェな!血、血が!」
「何しやがるんだ!テメェ殺してやる!」
少ない護衛騎士達だがその中でも精鋭の近衛騎士ばかりがついて来てくれた。
みんな剣を握ると、鉱山の男達をどんどん打ち負かしていった。
俺も一応剣は使える。
自分に襲いかかって来る奴らは、容赦なく剣で切り捨てた。ただし、後で取り調べしないといけないので死なない程度にしておいた。
そして見張り役の男達10数人を全員捕えてロープで縛り上げた。
「みんな辛い思いをさせた。すまなかった」
俺は領民達に頭をさげることしかできなかった。
「カイ」さんだそうだ。
本当かどうかはわからないけど、呼び名がわかったので少し話しやすくなった。
カイさんは、夜中にたまに顔を出すようになった。
黒い服に黒い頭巾、真っ黒なので夜中にベッドの脇に立たれるとかなりびっくりするけど最近は慣れてしまい、
「おはようございます、今日はどうしました?」
と聞く余裕ができた。
「君を殺すように依頼した奴を捕まえるのはいいんだけど、どこまでやっておく?」
「やっておくとは?」
「うん?半殺し?手足落とす?舌は話せないと困るからいるよね?目ん玉はなくてもいいかな?」
「いやいや、全て綺麗なままでお願いします。出来れば傷ひとつない状態がよろしいかと思うのですが?」
「えーー、それじゃあ面白くないだろう?せめて指だけでも全て切り落とそうか?」
「いえ!全て綺麗な体がいいです!」
「はあー、仕方ないな。で、どこに連れてきたらいい?この部屋に明日連れて来る?」
「え?嫌ですよ。わたしを殺そうとした人なんかわたしの部屋に入れて欲しくはありません」
「じゃあ、どこがいい?」
「うーん、お父様の部屋?かな……」
ーーお父様にはまだ何も伝えていない。
突然お父様の部屋に、わたしを殺そうとした依頼者がやってきたらお父様はどんな顔をするのだろう。
ちょっと楽しいかも。
「わかった、明日君の父上の部屋に連れて来るね」
そう言うと帰って行った。
ーーえ?そんな軽い感じでわたしを殺そうとした人を捕まえて連れてこれるのかしら?
わたしは時計をチラッと見るともう夜中の12時。
あと少しだけ寝て早起きしてお父様を捕まえて早く事情を説明しなければ、大騒ぎになるかも……
そう思いながらぐっすりと寝てしまって目覚めたのは陽がしっかり登った昼前だった。
部屋の外のうるさい声で目覚めたわたしは、誰も部屋に来ないことに気がついてとりあえず寝間着から私服に着替えた。
公爵令嬢とはいえ、市井での生活を視野に入れているわたしは服の着替えや簡単な掃除などは出来るようになった。
だから自分で身支度を整えて廊下に出てみると、騎士や使用人が騒いでいたので、一人を捕まえて聞いてみた。
「ねえ、この騒ぎはどうしたの?何かあったのかしら?」
「あ、お嬢様。旦那様の部屋にヴァンサン侯爵様とその家の執事、それから娘婿にあたるトムソン伯爵が突然部屋に現れたのです!」
「え?忘れてたわ!」
「忘れてた?」
「そうなの、わたしを殺す依頼をした人達を捕まえてお父様の部屋へ連れてきてくれることになっていたの。お父様に伝えるの忘れてぐっすり寝ていたわ」
わたしが慌ててお父様の部屋へ向かおうとすると、我が家の騎士服を着た、カイさんが笑いながら言った。
「クククッ、お嬢ちゃんは俺が今日連れて来ること忘れて寝てたのか?」
「あ!カイさん、いつもと違う格好なので気が付かなかったわ。わたしの依頼をこなして下さってありがとうございます。良かったらお父様にお会いしてもらってもいいかしら?」
「俺を普通に当主に会わせようとするなんて……」
「でもまだ報酬が足りないでしょう?」
「いやいや、十分もらったよ。こんな面白い依頼はあまりないからね。楽しかったよ」
「あ!みんな綺麗な体のまま捕まえてくれたかしら?」
「ぶはっ!!くくっ!うん、見てきたら?」
「説明しなくっちゃ!カイさんありがとうこれでぐっすり眠れます」
「あー、やっぱり本当は眠れなかったんだ」
わたしは肩をすくめてカイさんを見て、「へへ」っと笑った。
本当はずっと怖くて眠れなかった。
カイさんが明日連れて来るからと言われて、安心した途端眠りにつくことができた。
おかげで屋敷は大騒ぎになってしまったけど。
カイさんはいつの間にか姿を消していた。
神出鬼没なカイさん。
また会えるかしら?
◇ ◇ ◇
俺はヴァンサン侯爵の領地の視察に来ていた。
なかなか尻尾を出さない侯爵。
突然の視察で侯爵達が不在の中、領地を回った。
街は賑わっていて豊かな民たちにみえた。
なのに街を離れていくと貧しい農民達や力なく座り込む人々を沢山見かけるようになった。
ここまで極端な領地は少ない。
俺は視察に同行した侯爵の部下に聞いた。
「何故こんなにみんな痩せ細っているんだ?」
「……あっ、いや、あ、最近不作が続いていまして……」
「ブライス、そんな報告は聞いていないぞ。お前俺に報告書を見せていなかったのか?」
あえてブライスを責めた。
「…いえ、そんな報告は上がっていません」
ブライスはムスッとして答えた。
「あ、いや、間違っていました。ちょっと問題がありましてこの辺は税金を納められないので厳しく取り立てたんです……だから、あの、その……」
「もういい、お前達はそこから動くな!」
俺は侯爵の関係者は動かないように命令して、自ら人々に話しかけた。
俺が王族だとは気付いていない。
市井の者達と同じ服を今は着ている。
なので今はただの使用人が農地を回っているだけだと思われている。
「大変ですね、疲れているんですか?」
「あんたは何者だ?」
「あー、俺は農地を回っている雇われの商売人です」
「ここには売れるものなんか何もないよ」
「どうしてこんなに農地が荒れているんですか?」
「税金が払えない家の男達を無理やり連れて行ってしまったんだ。だからこの辺は作物を作りたくても人手が足らない。さらに税金は払えないし、ろくに食べるものもない。
俺たちは飢えて死ぬのを待っているんだ」
「無理やり連れて行ってどうするんだ?」
「あんた知らないのか?ここの領主様は、鉱山から鉄鉱石が取れるからと人手が足りなくて俺たち農民達を無理やり連れて行って働かせているんだ」
「そんな報告は?」
俺はブライスを睨みつけた。
ブライスは首を横に振った。
俺はそれを確認して「この村の一番偉い人はいますか?」
「キーぜ様は寝込まれております。自分の財産を全て我々の食べ物に変えて与えてくださった。でも無理をして今は寝込まれています」
俺は聞いているだけで、自分は今まで何をみてきたのだろうと思った。
表面の良いところだけ見せられてそれでみんな幸せに暮らしているんだと思わされいた。
ブライスに頼んで、とりあえず食べ物を手配するように言ってから、俺はその報告すら上がっていない鉱山へと向かった。
「殿下、数人だけで行くのは危険です。せめて体勢を整えてからでお願いします」
ブライスが言っていることは確かだ。だが今いかなければまた証拠を隠されてしまうかもしれない。
いきなり行かなければ汚いものは全て隠されて綺麗なことしか見せてもらえない。
俺は数人の護衛騎士達と共に鉱山へ向かった。
鉱山は劣悪な環境で働かされている人々で溢れかえっていた。
正気のない顔、フラフラしながらなんとか重たい荷物を運ぶ男達。
その中には女性もいた。
汚い服を着て足を引き摺りながらもなんとか荷物を運んでいる。
俺はその姿を見て怒鳴りつけた!
「何をここでしているんだ!みんな動くな!働かなくていい!」
「おい!あんたは何をいきなり来て言い出すんだ!」
人相の悪い大柄の男達が数人俺を囲んだ。
「お前達は誰の許可を得てここで鉱山の発掘をしているんだ?国からの許可をもらってないだろう?」
「国の許可?なんだそれ?」
「国の許可なく鉱山で採掘は出来ないはずだ!」
「俺たちにはそんなこと関係ないね」
ニヤニヤと笑う男達。
「あんた誰だ?偉そうに。国の役人か何かか?そんな少ない人数で視察したって怖くなんかないね。みんなこの鉱山の中で事故で死んで貰えばいいだけだ」
俺たちを捕まえようと屈強な男達が俺たちを叩きのめそうと襲いかかってきた。
俺はその手を払いのけて、剣で切りつけた。
「ぐあっ!イッテェな!血、血が!」
「何しやがるんだ!テメェ殺してやる!」
少ない護衛騎士達だがその中でも精鋭の近衛騎士ばかりがついて来てくれた。
みんな剣を握ると、鉱山の男達をどんどん打ち負かしていった。
俺も一応剣は使える。
自分に襲いかかって来る奴らは、容赦なく剣で切り捨てた。ただし、後で取り調べしないといけないので死なない程度にしておいた。
そして見張り役の男達10数人を全員捕えてロープで縛り上げた。
「みんな辛い思いをさせた。すまなかった」
俺は領民達に頭をさげることしかできなかった。
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