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19話
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リハビリのおかげでゆっくりだけど歩けるようになってきた。
「ギル、そろそろ約束の街へ行こう。あ!そう言えばギルがお見舞いに来てくれた時の話、全部聞こえていたのよ」
わたしはにっこりとギルに微笑んだ。
「え?ええ?」
ギルは焦った顔をしてあたふたとしている。
「ふふ、マチルダにもブルダにも話してないから大丈夫だよ、で、好きな女の子とはどうなったの?」
「………恥ずかしくて話せないんだ、つい意地悪しちゃうんだ」
ギルは肩を落としてシュンとなっていた。
「ギルは素直に好きだって言えないのね。せめて優しくしてあげないと勘違いされちゃうわよ」
「わかってるんだ、でも目の前に居ると思うと緊張してパニックになるんだ。ついツンとして無視してしまって他の子と仲良くしてしまうんだ」
「あー、わたしにはよくわからないけどそれって一番ダメなやつだよね?」
「………ぐぅっ、やっぱり?」
「わたしだったら嫌だな、好きな人がそんなことしたら」
「だから、殿下はダメダメなんだね?」
「え?イアン様が?何?」
「知らない!」
ギルは「用意してくる!」と言ってわたしの前から去っていった。
ーーイアン様……わたしもイアン様の姿をいつも追いかけていた。
愛してもらった記憶はないけど、優しくしてもらった思い出はたくさんある。
物心がやっとついた3歳の時にイアン様の婚約者になった。
ずっとわたしにとっては将来結婚するお方。
優しい笑顔でわたしの手を繋ぎ王宮の庭を散歩したり一緒にお茶を飲む時間は、いつもドキドキしていた。
わたしを妹のようにしか思っていないことはわかっていた。
どんなにイアン様に恋していても妹としかみてもらえない。
彼のそばにいる人たちは、わたしなんかより綺麗で大人。どんなに努力をしても勉強を頑張っても、年の差を縮めることだけは出来ない。
イアン様が13歳になると8歳のわたしは相手にすらされなくなった。
困った顔をして笑ってくれるけど会話もなかなか噛み合わなくなっていった。
会う時間も減っていき、わたしが中等部に入学した時に、その理由を現実を突き付けられた。
ジーナ様と仲良くする姿、楽しそうに笑い合う姿、わたしはその姿をみても、声をかけることもなく遠くで見つめるだけだった。
彼らの目に映らないように隠れるように姿を隠した。
悲しくて惨めだった。
王太子妃教育で忙しくて友人もあまり出来ない。一人でいることが多いわたしに比べていつもたくさんの人に囲まれて好きな人と一緒にいるイアン様を見るたびに心が少しずつ壊れていくようだった。
わたしが15歳になるまでは何度かお父様にイアン様との婚約を解消してもらえるようにお願いしたけど聞いてはもらえなかった。
もちろん王族に婚約解消を願うなど以ての外だとは分かっていた。
でもイアン様には愛する人と幸せになって欲しかった。妹としかみれないわたしと結婚するよりもジーナ様と結婚する方が幸せだと思った。
二人が卒業と同時に別れたと知ったのは私との結婚が正式に決まった頃だった。
友人の少ないわたしの耳には噂すら入ってこなかった。だからイアン様が卒業と同時にジーナ様とお別れしたことを知らないままだった。わたしはそれを知らずにお父様になんとか婚約解消を願ったのだった。
結局はイアン様と結婚した。
そう最初からわかっていた。
お飾りの妻として。
でも優しくしてくれた。
抱いてはくださらなかったけど、邪険に扱われたことなどない。妻としての役割はいただけなかったけど、王太子妃としての仕事はさせてもらえた。
政務もこなしたし、孤児院や病院の慰問なども行った。
両陛下には「子は出来ないのか?」と聞かれると、笑って誤魔化してやり過ごすたびに、心が疲弊していた。
イアン様と向き合って話すことが中々出来ない忙しい日々。それでも夜会で隣に立っていられることが幸せだった。手を取りダンスを踊る時いつも緊張して手が震えていたことをイアン様に悟られないように必死で平然とした顔をした。
イアン様に相手にされなくてもわたしは王太子妃として誇りを持って王宮で過ごした。
それがわたしのお飾りとしての矜持だった。
ジョセフィーヌ様が側室となる日までは………
イアン様の彼女を見る目はジーナ様の時と同じ。
わたしを見つめる目とは違っていた。
ジョセフィーヌ様といる時のイアン様は、彼女を優しく見つめわたしの前でも仲睦まじく過ごしていた。
わたしはまた二人の目に映らないように隠れて過ごすことを選んだ。
離宮での暮らしは、彼らを見なくて済むから快適のはずだった。
市井へ赴くことが増えて、それなりに忙しく過ごしたけど、王太子妃としての仕事もなくなりわたしが王宮内にとどまることの必要性すらなくなってしまった。
そしてわたしは里帰りをした。
そして今は離縁をしてこうして自由に暮らしている。
イアン様のことを考えると今もまだ辛い。
でも前を向いて進もうと決めた。
「………様……オリエ様!用意できました。行きましょう!」
ギルの声で現実に引き戻された。
「ごめんなさい、行きましょう」
わたしはギルと街に出かけた。
最近は護衛の人達はわたしから少し離れてついて来てくれるようになった。
ピッタリと張り付いての護衛はなくなり、少しだけ自由に動くことが出来る。
ギルと約束の屋台を回った。
屋敷では食べたことのない串に刺した焼いたお肉を食べたり、詰め放題の焼き菓子を買ったりした。
食べながら歩くなんて絶対にしてはいけないし、そんなことをするなんて考えられなかったけど、ギルと二人で楽しんだ。
そのあと雑貨屋さんに寄ったり本屋さんに行った。
花屋さん、洋服屋さん、時計屋さん、見るもの全てが新鮮で珍しくて楽しい。
「オリエ様、疲れちゃった。少し座りたい!」
「わたしも流石に歩き疲れたわ。ね、あそこのカフェに行かない?」
「うわあ、女子が好きそうなお店だね」
「ギルもいつか女の子をエスコートして来るかもしれないわ、わたしをその前の練習台としてエスコートしてくれるかしら?」
「はい、オリエ様、お手をどうぞ」
ギルはわたしの手を取り、わたしの歩幅に合わせて歩いてくれた。
わたしよりも小さな体でしっかりエスコートしてくれる。赤ちゃんの時から知っているギルの頼もしい姿にわたしはギルにバレないようににんまりと笑ってしまった。
完全に姉の気分になってしまう。
そして案内された席に座ると、カッコよく頑張っていたはずのギルが子どもに戻った。
「うわぁ俺これが食べたい!オリエ様は何を食べますか?」
「ギルはフルーツタルトと苺のショートケーキがいいのね?わたしはチャコレートムースにしようかしら」
注文をして待っている間、ギルの学校の話を聞いて楽しく過ごしていた。
そんな時、後ろから聞こえてくる話にわたしは固まってしまった。
「………イアン殿下の再婚の話が出ているって知ってる?」
「オリエ様とジョセフィーヌ様と離縁して今は独身だもの。新しい妃を娶るのは当たり前だけどあんなにオリエ様を愛していたのに簡単に次とはいかないと思うわ」
ーーえ?ジョセフィーヌ様と離縁?
ーーわたしを愛していた?ジョセフィーヌ様の間違いじゃないのかしら?
わたしは思わず後ろを振り向いて、
「それはオリエではなくてジョセフィーヌ様を愛していたの間違いではないのかしら?」
と、知らない二人の女性に話しかけてしまった。
驚いた二人はわたしをキョトンと見つめてから、少し考えながらもわたしに話してくれた。
「わたしの友人が王宮の騎士として勤めているのですが、殿下はオリエ様が好きすぎて拗らせているらしいと聞きました」
「……拗らせて?好きすぎて?」
「はい、ただオリエ様には全く伝わっていないらしいと言っておりました」
「教えてくれてありがとう」
「あ、あの、これはあくまで噂ですので……処分はあるのでしょうか?」
「ただの世間話でしょう?」
彼女達はわたしが噂のオリエだとは気づいていなかった。
平民の人達は肖像画でしかわたしを知らない、
だから貴族のドレスを着たわたしの姿を見ても、オリエとは思わずにどこかの貴族令嬢くらいしか思っていなかった。
わたしには輝く人を惹きつけるオーラすらないから気付かれることすらないわよね。
◆ ◆ ◆
遅くなりました。
すみません。
「ギル、そろそろ約束の街へ行こう。あ!そう言えばギルがお見舞いに来てくれた時の話、全部聞こえていたのよ」
わたしはにっこりとギルに微笑んだ。
「え?ええ?」
ギルは焦った顔をしてあたふたとしている。
「ふふ、マチルダにもブルダにも話してないから大丈夫だよ、で、好きな女の子とはどうなったの?」
「………恥ずかしくて話せないんだ、つい意地悪しちゃうんだ」
ギルは肩を落としてシュンとなっていた。
「ギルは素直に好きだって言えないのね。せめて優しくしてあげないと勘違いされちゃうわよ」
「わかってるんだ、でも目の前に居ると思うと緊張してパニックになるんだ。ついツンとして無視してしまって他の子と仲良くしてしまうんだ」
「あー、わたしにはよくわからないけどそれって一番ダメなやつだよね?」
「………ぐぅっ、やっぱり?」
「わたしだったら嫌だな、好きな人がそんなことしたら」
「だから、殿下はダメダメなんだね?」
「え?イアン様が?何?」
「知らない!」
ギルは「用意してくる!」と言ってわたしの前から去っていった。
ーーイアン様……わたしもイアン様の姿をいつも追いかけていた。
愛してもらった記憶はないけど、優しくしてもらった思い出はたくさんある。
物心がやっとついた3歳の時にイアン様の婚約者になった。
ずっとわたしにとっては将来結婚するお方。
優しい笑顔でわたしの手を繋ぎ王宮の庭を散歩したり一緒にお茶を飲む時間は、いつもドキドキしていた。
わたしを妹のようにしか思っていないことはわかっていた。
どんなにイアン様に恋していても妹としかみてもらえない。
彼のそばにいる人たちは、わたしなんかより綺麗で大人。どんなに努力をしても勉強を頑張っても、年の差を縮めることだけは出来ない。
イアン様が13歳になると8歳のわたしは相手にすらされなくなった。
困った顔をして笑ってくれるけど会話もなかなか噛み合わなくなっていった。
会う時間も減っていき、わたしが中等部に入学した時に、その理由を現実を突き付けられた。
ジーナ様と仲良くする姿、楽しそうに笑い合う姿、わたしはその姿をみても、声をかけることもなく遠くで見つめるだけだった。
彼らの目に映らないように隠れるように姿を隠した。
悲しくて惨めだった。
王太子妃教育で忙しくて友人もあまり出来ない。一人でいることが多いわたしに比べていつもたくさんの人に囲まれて好きな人と一緒にいるイアン様を見るたびに心が少しずつ壊れていくようだった。
わたしが15歳になるまでは何度かお父様にイアン様との婚約を解消してもらえるようにお願いしたけど聞いてはもらえなかった。
もちろん王族に婚約解消を願うなど以ての外だとは分かっていた。
でもイアン様には愛する人と幸せになって欲しかった。妹としかみれないわたしと結婚するよりもジーナ様と結婚する方が幸せだと思った。
二人が卒業と同時に別れたと知ったのは私との結婚が正式に決まった頃だった。
友人の少ないわたしの耳には噂すら入ってこなかった。だからイアン様が卒業と同時にジーナ様とお別れしたことを知らないままだった。わたしはそれを知らずにお父様になんとか婚約解消を願ったのだった。
結局はイアン様と結婚した。
そう最初からわかっていた。
お飾りの妻として。
でも優しくしてくれた。
抱いてはくださらなかったけど、邪険に扱われたことなどない。妻としての役割はいただけなかったけど、王太子妃としての仕事はさせてもらえた。
政務もこなしたし、孤児院や病院の慰問なども行った。
両陛下には「子は出来ないのか?」と聞かれると、笑って誤魔化してやり過ごすたびに、心が疲弊していた。
イアン様と向き合って話すことが中々出来ない忙しい日々。それでも夜会で隣に立っていられることが幸せだった。手を取りダンスを踊る時いつも緊張して手が震えていたことをイアン様に悟られないように必死で平然とした顔をした。
イアン様に相手にされなくてもわたしは王太子妃として誇りを持って王宮で過ごした。
それがわたしのお飾りとしての矜持だった。
ジョセフィーヌ様が側室となる日までは………
イアン様の彼女を見る目はジーナ様の時と同じ。
わたしを見つめる目とは違っていた。
ジョセフィーヌ様といる時のイアン様は、彼女を優しく見つめわたしの前でも仲睦まじく過ごしていた。
わたしはまた二人の目に映らないように隠れて過ごすことを選んだ。
離宮での暮らしは、彼らを見なくて済むから快適のはずだった。
市井へ赴くことが増えて、それなりに忙しく過ごしたけど、王太子妃としての仕事もなくなりわたしが王宮内にとどまることの必要性すらなくなってしまった。
そしてわたしは里帰りをした。
そして今は離縁をしてこうして自由に暮らしている。
イアン様のことを考えると今もまだ辛い。
でも前を向いて進もうと決めた。
「………様……オリエ様!用意できました。行きましょう!」
ギルの声で現実に引き戻された。
「ごめんなさい、行きましょう」
わたしはギルと街に出かけた。
最近は護衛の人達はわたしから少し離れてついて来てくれるようになった。
ピッタリと張り付いての護衛はなくなり、少しだけ自由に動くことが出来る。
ギルと約束の屋台を回った。
屋敷では食べたことのない串に刺した焼いたお肉を食べたり、詰め放題の焼き菓子を買ったりした。
食べながら歩くなんて絶対にしてはいけないし、そんなことをするなんて考えられなかったけど、ギルと二人で楽しんだ。
そのあと雑貨屋さんに寄ったり本屋さんに行った。
花屋さん、洋服屋さん、時計屋さん、見るもの全てが新鮮で珍しくて楽しい。
「オリエ様、疲れちゃった。少し座りたい!」
「わたしも流石に歩き疲れたわ。ね、あそこのカフェに行かない?」
「うわあ、女子が好きそうなお店だね」
「ギルもいつか女の子をエスコートして来るかもしれないわ、わたしをその前の練習台としてエスコートしてくれるかしら?」
「はい、オリエ様、お手をどうぞ」
ギルはわたしの手を取り、わたしの歩幅に合わせて歩いてくれた。
わたしよりも小さな体でしっかりエスコートしてくれる。赤ちゃんの時から知っているギルの頼もしい姿にわたしはギルにバレないようににんまりと笑ってしまった。
完全に姉の気分になってしまう。
そして案内された席に座ると、カッコよく頑張っていたはずのギルが子どもに戻った。
「うわぁ俺これが食べたい!オリエ様は何を食べますか?」
「ギルはフルーツタルトと苺のショートケーキがいいのね?わたしはチャコレートムースにしようかしら」
注文をして待っている間、ギルの学校の話を聞いて楽しく過ごしていた。
そんな時、後ろから聞こえてくる話にわたしは固まってしまった。
「………イアン殿下の再婚の話が出ているって知ってる?」
「オリエ様とジョセフィーヌ様と離縁して今は独身だもの。新しい妃を娶るのは当たり前だけどあんなにオリエ様を愛していたのに簡単に次とはいかないと思うわ」
ーーえ?ジョセフィーヌ様と離縁?
ーーわたしを愛していた?ジョセフィーヌ様の間違いじゃないのかしら?
わたしは思わず後ろを振り向いて、
「それはオリエではなくてジョセフィーヌ様を愛していたの間違いではないのかしら?」
と、知らない二人の女性に話しかけてしまった。
驚いた二人はわたしをキョトンと見つめてから、少し考えながらもわたしに話してくれた。
「わたしの友人が王宮の騎士として勤めているのですが、殿下はオリエ様が好きすぎて拗らせているらしいと聞きました」
「……拗らせて?好きすぎて?」
「はい、ただオリエ様には全く伝わっていないらしいと言っておりました」
「教えてくれてありがとう」
「あ、あの、これはあくまで噂ですので……処分はあるのでしょうか?」
「ただの世間話でしょう?」
彼女達はわたしが噂のオリエだとは気づいていなかった。
平民の人達は肖像画でしかわたしを知らない、
だから貴族のドレスを着たわたしの姿を見ても、オリエとは思わずにどこかの貴族令嬢くらいしか思っていなかった。
わたしには輝く人を惹きつけるオーラすらないから気付かれることすらないわよね。
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