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18話

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ブルダとマチルダ、それにギルもついてきて子供達のところへ久しぶりに向かった。

まだ一人で歩くことが出来ないわたしは、車椅子に乗る。車椅子が使えない場所ではブルダが抱き抱えてくれることになった。
もちろん他の騎士達も護衛についてくることになっている。

作業場に着くと、驚いたのはみんなの仕事っぷりだった。
始めた頃はぎこちなくて上手く作れなかった小物も、手際良く作っている。
刺繍を刺すのもわたしよりも上手になっている。
通い始めた子達のために、年上の子達が教育当番を決めて、何人かが指導している姿があった。



「オリエ様、車椅子の乗り心地はどうですか?」

「とても安定していて座りやすいわよ」
乗り心地を聞かれて少しキョトンとした。

するとアンドラがわたしのそばに来て説明をしてくれた。

「オリエ様が寝込まれている間に子供達がもし目覚めたら車椅子が必要になるかもしれないと、言い出したんですよ」

「どうしてそんな風に思ったのかしら?」

「自分の母親が倒れて、寝込んで目が覚めたらやはり動けなくて車椅子生活をしている経験をした子がいたんですよ」

「まあ、それは大変ね」

「それで車椅子の調子が悪いと自分で修理をしたりするらしくて、自分で作れればいいのに……と言い出したんです。
市井ではまだ病院に行く余裕がなくて身体を壊す人やそれで働けなくなる人も多いのです。
歩くのが不自由になる人もいます。
車椅子をなんとか手に入れても壊れたらもう買い直す余裕なんてありません。
ベッドで一生を過ごすしかない人も多いです。
それで、安価で作れるようになればと車椅子を作る職人に何人か弟子入りしたんです。オリエ様の車椅子はその職人が作ったんですよ。もちろん子供達はまだ作れませんがほんの少しだけでも作業の手伝いをして心を込めて作ったんです」

「わたしのこの車椅子はみんなの気持ちが込められていたのね。それにみんなからお手紙もたくさんもらったわ。
本当にありがとう」

子供達にお礼を言った。

「オリエ様が元気になったらまた一緒にお話したり勉強を教えて欲しいです」

よく一緒に刺繍を刺した女の子に声をかけられた。

「ありがとう、早く元気になって以前のようにみんなに会いに来たいわ」

それから何ヶ所かの作業場を回った。
わたしが顔を出していない三ヶ月くらいの間に子供達は成長していた。
新しいことを教わるとそれをどんどん吸収して、もう自立出来そうな子もいた。
歩みの遅い子もゆっくりと前へ進んでいっている。
みんなの頑張る姿にわたしも勇気をもらった。

お医者様から歩けるようになりますが辛いリハビリが続くと言われている。
でも甘えていないで歩けるようになってまたここに来たい。

「今度は歩いて会いに来るから」

わたしは子供達と笑顔で再会の約束をした。

「マチルダ、わたし頑張るわ。歩けるようになりたい」

「オリエ様、一緒に頑張りましょう」

わたしはそれからは少しずつ立つ練習をした。

歩行に使用する筋肉を取り戻すようストレッチをして、マチルダがマッサージをしてくれる。
マチルダもマッサージの仕方を習って
「この仕事はわたしが行います。他の方にオリエ様を触らせるわけにはいきませんので」
と言って毎日してくれた。

リハビリ生活はキツかったけど何も考えずに過ごせた穏やかな日々でもあった。


◇ ◇ ◇

何度も公爵家にオリエとの面会の申し込みをしたが、まだ歩くことが儘ならない娘に会わせるわけにはいかないと断られ続けた。

陛下には
「オリエとは離縁しましたが、最後に彼女と話をするまでは再婚は考えられないので話を進めないで欲しい」
と話した。


「お前はオリエに会っていい訳でもするのか?あの子は不自由な体でも明るく前を向いて頑張っているんだ。もうお前が関わるのはやめなさい」

「陛下……いえ父上。俺はまだオリエに謝っていないのです。自己満足かもしれませんが謝りたい、許してもらえなくても謝りたい」

「………わたしからは何も口添えするつもりはない。誠意をみせれば会えるかもしれない。あとはお前次第だ」

いつもは俺に絶対的で口答えさせてもらえない。
なのに父上が珍しく許してくれた。

俺は執務室に戻りまた机に上に置いてある大量の紙を見て大きな溜息を吐きながら、

「さあ今日も頑張ろう」
と呟いた。




◆ ◆ ◆

いつも読んでいただきありがとうございます。

最近忙しくてなかなかお話を書く暇がありませんでした。
今日は夕方にこの続きを更新したいと思っています。

なかなか前に進まず、どうなるの?と思っている皆様。
イアンは、オリエを諦めるのか?

オリエはイアンと再会したらどんな反応を示すのか。

もう少しお待ちくださいね。












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