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10話

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最近お兄様の様子がおかしい。

わたしに話しかけて何か言おうとするのだが、躊躇ってやめてしまう。
お父様はあからさまにわたしを避けている。

そんな二人を見てお母様は呆れた顔をしている。

「ほんと男どもはどいつもこいつも当てにならないのよね」

お母様の汚い言葉に思わず呆気に取られた。

「オリエ、貴女は思っている以上にみんなに大切にされているのよ。ただね、本当にみんな不器用なのよ」

大切?どこがだろう?

お兄様はたしかにわたしに優しい。

でもお父様はわたしに会うと顰めっ面になって怖い顔をする。
実家に帰ってきていることをよく思っていないのだろう。
本当はお飾りの妻として王宮に居て欲しいのだと思う。

イアン様の噂をこの前のお茶会でみんなが話していた。もちろんわたしには聞こえないように……わざとらしく!
そんなの聞こえているわよね!
分かっていてチラチラわたしを見て笑っていたもの。


ジョセフィーヌ様との仲はとても良くいつお世継ぎが生まれるかと王宮ではみんな期待しているそうだ。

やはり……わたしは早めに身を引こう。



わたしは決心して一番頼りになるお母様と話をした。

「お母様、わたしはイアン様と離縁をして市井で暮らすつもりです」

「……オリエ?離縁は反対はしないわ。でもね、市井で暮らすことは賛成しかねるわ。貴女は離縁しても元王太子妃と言う立場が消えることはないの。
それに公爵令嬢でもある貴女が市井で生活すれば、犯罪に巻き込まれる可能性が高いのよ」

「やはり修道院でしょうか?」

わたしとしては修道院に行くよりも、孤児院や今立ち上げている子供達への支援の仕事をしたいと思っていた。

「…どうして貴女が始めた支援をアンドラに手伝わせたと思っているの?
利益が上がるようにしたのも、オリエが離縁した時に、この公爵家で貴女が気兼ねすることなく過ごせるようにとお父様が影で動いてくださったのよ」

「え?」

「他の貴族の方達からの支援なんて簡単に受けられるわけがないじゃない。お父様がみなさんに話をしてお願いをして回ったのよ。
もちろんオリエがきちんとした考えを元に始めたことだからお父様もお願いしやすかったみたいよ」

「………わたしはお父様の顔を潰してしまって、お飾りの妻になってここに戻って来てしまいました。だからお父様は怒っているのだと思っていました」

「お父様も後悔しているのよ、あんな殿下に嫁にやったこと。貴女を大事にしてくれると思っていたのに……本当に情けないわ」

「……わたしが離縁するとお父様のお立場が悪くなると思うのですが……」

「陛下とあの人は、昔からの友人よ。彼は陛下に対して怒っているのよ、側妃を娶らせるなんてオリエのことを馬鹿にしているわ」

「……イアン様の愛しているお方です。わたしは彼に一度も愛されることはありませんでしたが、わたしが好きになった人です、幸せになって欲しいと思っております」

「オリエ、本当に離縁を進めてしまってもいいの?」

「はい、お願い致します」

「分かったわ、ただし、離縁してもこの屋敷に住むこと。いいわね?」

「ありがとうございます」



◇ ◇ ◇

「父上、ブルーゼ公爵の脱税及び王太子妃への殺人未遂の証拠と承認を全て揃えました」

俺は父上に対峙した。

「ほお、時間がかかったな」

「ジーナは辺境伯の元へ急遽嫁がせましたが、あそこも人身売買に手を出していたので、ついでに纏めて捕えることにしました」

「辺境伯は幼児愛好家だ。わたしの勧めたジーナを嫁として娶ったのもわたしからの疑いの目を逸らすためのものだろう」

「たぶん、王家が疑いの目を向けていることにいち早く気づき、この国では大人しくしていましたからね。その代わり辺境の隣の国の子ども達を売買していましたからね。なかなか尻尾を出しませんでしたが、今回影がピッタリと張り付いて全ての証拠を抑えました。売買するところを見つけることができたのは、あのジーナが嫁いで、辺境伯のところで我儘し放題で暴れ回ったおかげですかね。
辺境伯もジーナには手を焼いていましたからね、おかげで隙が出来てこちらとしては助かりました。
ジーナも処刑される前にいい仕事をしてくれました」

「……ではブルーゼ公爵のことは全てお前に任せることにしよう。………ところでバーグル公爵からオリエのことで話したいと先触れが来ているのだが……さて、どうするかの?」

「……オリエとは離縁はしません。ジョセフィーヌと離縁します。
父上は俺がオリエを愛しているのを分かっていて無理矢理ジョセフィーヌを側妃として娶らせましたよね?俺がジョセフィーヌに手を出さないと分かっていましたよね?
父上はジョセフィーヌとあの騎士のことを知っていたのですか?」

「ジョセフィーヌの母親はわたしの義妹なんだ。アレがわたしに最初で最後の願いとしてジョセフィーヌを助けて欲しいと願ったんだ」

「ジョセフィーヌの母親は俺に嫁いですぐに亡くなりましたよね?
ジョセフィーヌはしばらく泣き暮らしておりました」

「義妹は父の庶子だったんだ。侍女に手を出して孕ませて義妹は親子で市井で平民として暮らした。
わたしが義妹だと知ったのは父上が病床に伏せた時だった。父上が義妹がいることをわたしに話したんだ。死ぬ前に会いたくなったのだろう、住んでいる場所も知ってはいたみたいですぐに父上に会わせることが出来た。
本人は王族として暮らすことに興味すら示さなかった。
だが父上は、隣国の侯爵家に義妹を嫁がせるように手筈を整えていたんだ。義妹は嫌がったが抵抗することも出来ずに嫁ぐことになった。
父上なりの娘への愛情だったのだろう、本人にとっては迷惑な話なのだが。
でも義妹は夫に大事にされて幸せに暮らしていたんだ。ただ、ジョセフィーヌが騎士と結婚したいと言い出して義妹は自分が死ぬ前になんとかしてやりたいと思ったんだ。
自分は無理矢理嫁がされたから、ジョセフィーヌには好きな人に嫁がせてやりたかったんだ」

「なるほど、俺ならたしかにオリエしか見ていないからいくら側妃としてジョセフィーヌを娶っても手を出すことはないと思ったのですね?」

「まあ手を出したところで、ジョセフィーヌのそばには彼女の愛する騎士がいるからお前の方がやられていただろう?」

「ジョセフィーヌの父上の侯爵は、反対しなかったのですか?」

「義妹の亡くなる前の頼みだったから、了承するしかなかったのだろう。身分違いの恋は自国では暮らすには無理があったのだ、あそこの国は身分による差別がかなり酷い国だから平民と貴族令嬢が結婚するなどあり得ないのだ」

「だから俺の側妃?」

「まぁ、一年くらいで離縁させるつもりだった。お前がオリエに対してきちんと妻として接してやらないからこんなことになったんだ」

「どうして俺とオリエに教えてくれなかったんですか?そうすればここまで拗れなかったのに」

「ならばお前はどうしてオリエに愛していることを伝えない?ジーナがお前に執着していることも、ジーナやブルーゼ公爵がオリエの命、そして王太子妃の座を狙っていることも話そうとはしなかっただろう?
それにジョセフィーヌと仲良くしてオリエを傷つけたのはお前自身だ」


「………俺は……オリエを愛しています。でもオリエの前ではどうしても素直になれない。自分に非があるからまともに顔を見ることが出来ませんでした。ジョセフィーヌと仲良くしたのはジーナのこともありましたがヤキモチを妬いて欲しいと言う莫迦な考えがあったこともたしかです」

「わたしはオリエとお前を結婚させたことを後悔しているんだ、だからオリエには離縁させてやりたいと思っている。だからお前に無理矢理側妃を娶らせたんだ」

「ジョセフィーヌを守り、オリエを解放するためにですか?」

「お前がしてきた結果だろう?」

「……………」

俺はオリエを諦めるしかないのか?


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