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8話
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久しぶりにお茶会に招待されて、数少ない友人のマリイ様のお屋敷へ向かうことになった。
マチルダ達にギュウギュウにコルセットの紐を締められて重たいドレスを着て、髪の毛もがっちりとセットされて久しぶりのお洒落は窮屈で苦しいだけ。
「ふう」
大きなため息を吐くと、マチルダがすかさず
「最近お洒落をサボっていたからですよ」
と一言。
ーーうっ、わたし最近扱いが雑。
「ふふ、確かに。でももうすぐ王太子妃ではなくなるのよ?平民になるの」
わたしはマチルダ達に笑みを浮かべた。
「はいはい、オリエ様、平民になるならギルと一緒に三人で暮らしますのでいつでも言ってください」
「あら?なんだか適当な返事?」
「そんなことはございません。オリエ様を一人にしたら何をしでかすか分からないので、いつまでもおそばにいますよ」
「マチルダったら子供じゃないのよ?」
ーーもう!本気にしてくれないのね。
ーーーーー
マリイ様は侯爵家で、わたしの幼い頃からの数少ない友人。
お飾りの王太子妃になってからは、公爵令嬢で王太子の婚約者のわたしに今まで媚を売ってきた人達がどんどんいなくなっていく中で、残ってくれた心を許せる大切な友人。
「オリエ妃殿下にご挨拶申し上げます。ようこそいらっしゃいました」
「マリイ様、お招き頂きありがとうございます」
わたしは柔かに微笑んで挨拶をする。
そして目を合わせるとお互いクスッと笑い合いすぐに砕けた口調になった。
「オリエ様、実家に帰ったと聞いていますが離縁を?微力ながら我が家もいつでもお手伝い致しますわ」
「ふふふ、ありがとう。たぶんもうそろそろ向こうから言ってくるのではと思っているの。わたしも市井で暮らす準備を着々と進めているわ」
「……どうして離縁したら市井で暮らすことになるのです?」
「だって、離縁されれば醜聞になるからお父様はわたしを切り捨てるでしょう?」
「それは公爵に言われたのですか?」
「え?違うわ。巷の小説では捨てられた正妃は実家に帰ることが出来ずに平民になるのが定番なのよ?お父様はわたしに興味すらないわ、今も屋敷に帰ってもわたしとは会おうともしないのよ。
たぶん呆れて怒っているのでしょうね、イアン殿下の心を繋ぎ止めることもできない娘に」
「あのイアン殿下がオリエ様を捨てるわけないでしょう?!」
「イアン殿下はジョセフィーヌ様を愛しているのよ?ご存知でしょう?」
わたしはマリイ様の言葉にキョトンとした。
「あのイアン殿下のことだから、また何か拗らせて莫迦な動きをしているだけでしょう……」
マリイ様はわたしに聞こえないように何か一人でブツブツと呟いて怒っていた。
「ねえ、マリイ様何をブツブツ言ってるのかしら?」
「オリエ様はイアン殿下のことをどう思っているのですか?」
「え?どうって?」
マリイ様の問いにわたしは思わず戸惑ってしまった。
ーージーナ様と仲睦まじい姿を見て、イアン様を好きだと気づいた……そしてその瞬間に失恋した。
だけど、政略結婚を拒否することはできなかった。
それでも愛されなくても良い関係を築いていこうと思っていた。
でも、イアン様はわたしを妻としてみてくれなかった。
そして側妃を娶られてジョセフィーヌ様を愛してしまった。
わたしにはもう居場所はない。
「ジョセフィーヌ様と幸せになって欲しいと思っています。邪魔者は消えるべきだと思うわ」
「……オリエ様はそれでいいのですか?」
「だってわたしは二人の愛の邪魔でしかないのよ?」
◇ ◇ ◇
「この書類は?」
ブライスが持ってきた書類や手紙の中から気になるものが出てきた。
「はい、こちら金額がかなり捏造されています」
「こんなに税金を長年誤魔化していたのか……」
ブルーゼ公爵は、領地の収入をかなり低く報告して脱税をしていることがわかった。
国に報告をしている税率が、領民に課している税率と違っている。
さらに自身の商売で得た利益もかなり低く報告をしている。
税務官に賄賂を渡して監査報告も誤魔化してもらい、長年見逃してもらっていたようだ。
かなり悪質だ。
公爵だけではなくて、公爵が親しくしている貴族達もそれに倣っているようだ。
これはまだまだ調べないといけないことが増えてきたようだ。
陛下に報告をして調査員を増やすことにした。
またこれでオリエに会いにいくことができなくなる。
俺は忙しく動き回り、オリエの報告を聞くだけの毎日を仕方なく過ごした。
「あー、オリエが離縁の準備を始めたらしい」
俺は陰から報告を聞いて、頭を抱えているとブライスが呆れていた。
「殿下、だから言ったでしょう!貴方がジーナ様なんかと付き合うから!あんな権力好きの女と付き合った貴方が悪いんですよ、それもまだ13歳だったオリエ様の前でイチャイチャして、オリエ様がどれだけ悲しそうな顔をしていたか……さらにジョセフィーヌ様ともベッタリで。捨てられて当たり前ですよ、俺ならもっと早くに捨てますね」
「……どうしてもオリエの前では素直に好きだと愛していると言えないんだ、あいつの前では平然としていられない、他の女の前ならどうでもいいからいくらでも笑顔になれるのに」
「完全に拗れて歪んでますね、捨てられるしかないですよ」
「お前、それでも側近か?」
「俺しかここまで言ってあげられる人はいないでしょう?」
「……手放すしかないのか?オリエの幸せのために……」
ーー俺以外の横で、他の男とオリエが微笑んでいるなんて……
考えただけで気が狂いそうだ。
マチルダ達にギュウギュウにコルセットの紐を締められて重たいドレスを着て、髪の毛もがっちりとセットされて久しぶりのお洒落は窮屈で苦しいだけ。
「ふう」
大きなため息を吐くと、マチルダがすかさず
「最近お洒落をサボっていたからですよ」
と一言。
ーーうっ、わたし最近扱いが雑。
「ふふ、確かに。でももうすぐ王太子妃ではなくなるのよ?平民になるの」
わたしはマチルダ達に笑みを浮かべた。
「はいはい、オリエ様、平民になるならギルと一緒に三人で暮らしますのでいつでも言ってください」
「あら?なんだか適当な返事?」
「そんなことはございません。オリエ様を一人にしたら何をしでかすか分からないので、いつまでもおそばにいますよ」
「マチルダったら子供じゃないのよ?」
ーーもう!本気にしてくれないのね。
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マリイ様は侯爵家で、わたしの幼い頃からの数少ない友人。
お飾りの王太子妃になってからは、公爵令嬢で王太子の婚約者のわたしに今まで媚を売ってきた人達がどんどんいなくなっていく中で、残ってくれた心を許せる大切な友人。
「オリエ妃殿下にご挨拶申し上げます。ようこそいらっしゃいました」
「マリイ様、お招き頂きありがとうございます」
わたしは柔かに微笑んで挨拶をする。
そして目を合わせるとお互いクスッと笑い合いすぐに砕けた口調になった。
「オリエ様、実家に帰ったと聞いていますが離縁を?微力ながら我が家もいつでもお手伝い致しますわ」
「ふふふ、ありがとう。たぶんもうそろそろ向こうから言ってくるのではと思っているの。わたしも市井で暮らす準備を着々と進めているわ」
「……どうして離縁したら市井で暮らすことになるのです?」
「だって、離縁されれば醜聞になるからお父様はわたしを切り捨てるでしょう?」
「それは公爵に言われたのですか?」
「え?違うわ。巷の小説では捨てられた正妃は実家に帰ることが出来ずに平民になるのが定番なのよ?お父様はわたしに興味すらないわ、今も屋敷に帰ってもわたしとは会おうともしないのよ。
たぶん呆れて怒っているのでしょうね、イアン殿下の心を繋ぎ止めることもできない娘に」
「あのイアン殿下がオリエ様を捨てるわけないでしょう?!」
「イアン殿下はジョセフィーヌ様を愛しているのよ?ご存知でしょう?」
わたしはマリイ様の言葉にキョトンとした。
「あのイアン殿下のことだから、また何か拗らせて莫迦な動きをしているだけでしょう……」
マリイ様はわたしに聞こえないように何か一人でブツブツと呟いて怒っていた。
「ねえ、マリイ様何をブツブツ言ってるのかしら?」
「オリエ様はイアン殿下のことをどう思っているのですか?」
「え?どうって?」
マリイ様の問いにわたしは思わず戸惑ってしまった。
ーージーナ様と仲睦まじい姿を見て、イアン様を好きだと気づいた……そしてその瞬間に失恋した。
だけど、政略結婚を拒否することはできなかった。
それでも愛されなくても良い関係を築いていこうと思っていた。
でも、イアン様はわたしを妻としてみてくれなかった。
そして側妃を娶られてジョセフィーヌ様を愛してしまった。
わたしにはもう居場所はない。
「ジョセフィーヌ様と幸せになって欲しいと思っています。邪魔者は消えるべきだと思うわ」
「……オリエ様はそれでいいのですか?」
「だってわたしは二人の愛の邪魔でしかないのよ?」
◇ ◇ ◇
「この書類は?」
ブライスが持ってきた書類や手紙の中から気になるものが出てきた。
「はい、こちら金額がかなり捏造されています」
「こんなに税金を長年誤魔化していたのか……」
ブルーゼ公爵は、領地の収入をかなり低く報告して脱税をしていることがわかった。
国に報告をしている税率が、領民に課している税率と違っている。
さらに自身の商売で得た利益もかなり低く報告をしている。
税務官に賄賂を渡して監査報告も誤魔化してもらい、長年見逃してもらっていたようだ。
かなり悪質だ。
公爵だけではなくて、公爵が親しくしている貴族達もそれに倣っているようだ。
これはまだまだ調べないといけないことが増えてきたようだ。
陛下に報告をして調査員を増やすことにした。
またこれでオリエに会いにいくことができなくなる。
俺は忙しく動き回り、オリエの報告を聞くだけの毎日を仕方なく過ごした。
「あー、オリエが離縁の準備を始めたらしい」
俺は陰から報告を聞いて、頭を抱えているとブライスが呆れていた。
「殿下、だから言ったでしょう!貴方がジーナ様なんかと付き合うから!あんな権力好きの女と付き合った貴方が悪いんですよ、それもまだ13歳だったオリエ様の前でイチャイチャして、オリエ様がどれだけ悲しそうな顔をしていたか……さらにジョセフィーヌ様ともベッタリで。捨てられて当たり前ですよ、俺ならもっと早くに捨てますね」
「……どうしてもオリエの前では素直に好きだと愛していると言えないんだ、あいつの前では平然としていられない、他の女の前ならどうでもいいからいくらでも笑顔になれるのに」
「完全に拗れて歪んでますね、捨てられるしかないですよ」
「お前、それでも側近か?」
「俺しかここまで言ってあげられる人はいないでしょう?」
「……手放すしかないのか?オリエの幸せのために……」
ーー俺以外の横で、他の男とオリエが微笑んでいるなんて……
考えただけで気が狂いそうだ。
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