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7話

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少しずつわたしの生活は変わってきた。

騎士団での鍛錬も楽しい。

市井で子供達と接するのも楽しい。
孤児院の慰問だけではなくて、いくつかの家を作業場として借りて子供達はそこで仕事を覚えている。

わたしは時間を作りそこに顔を出している。

刺繍なら一緒に教えてあげられるし、算術や字ならもちろん教えてあげられる。
子どもの頃読んだ本をたくさんこの作業所に置いて自由に読んでもらうことにした。
子供達は本に触れることが少ないのでとても興味があり、みんな字を覚えるのもとても早い。

でもここに来ると、働いてお金を稼げない。
だから、きちんと管理する者を置いて、ここでした勉強や作業を一定の基準を設け、給金として支払う。
花を売ったりして稼ぐのと今は変わらないくらいしか貰えないが、自分のために技術を身につけながら稼げるのでここに来る子どもも増えてきた。

でもまだまだこの作業所は赤字で売り上げなどない。

わたしの懐からお金が出ている。

最近はこの動きに賛同してくれる貴族の人たちも出資してくれるようになった。

わたしが発案したのだが、マチルダの兄であるアンドラが中心で動いてくれている。
アンドラも公爵家の使用人で、お兄様にお願いして彼に助けてもらっている。

軌道に乗れば、ただのボランティアではなくてきちんとした利益の上がる仕事として公爵家で取り入れてくれる確約もとった。

先は長いけど、わたしは王太子妃として過ごすよりも市井で子供達と楽しく過ごす方が向いている気がする。

「オリエ様、ここはどうしたらいい?」
図案を写し刺繍を刺していくのだが、やはりステッチの仕方が色々あって、糸の色や縫い方の組み合わせは難しい。
器用な子もいれば不器用な子もいる。
女の子でも刺繍が苦手な子は、アクセサリー作りをする子もいるし、算術が向いている子もいる。

逆に男の子でも、細かい作業が得意な子はアクセサリー作りの方に行く子もいる。

ただここで働き技術を教えてあげる代わりに、条件を一つだけ作っている。

来たら必ず算術と字の勉強を30分はして帰ること。
これをしない子供は受け入れない。

勉強が得意な子供は、さらに難しい算術を覚えてもらい字も完璧に書けるようになれば、お店で雇ってもらえるように知識をつけていく。

これは時間がかかりすぐに成果は出ないけど、いずれは本人達の糧になるはず。

そしていくつかの作業をそれぞれ自分に合うものをみつけて覚えていくことになる。

いずれはもっと作業の種類も増やしていきたいと、アンドラ達がわたしの手を離れて、動き始めてくれた。



『オリエ様、わたし達の力ではまだまだ出来ることは少ないです。それでも一緒に出来ることはないか考えていきませんか?』

マチルダに言われた言葉は、今少しずつだけどみんなで前に進み始めた。

細く長く、ゆっくりと。



◇ ◇ ◇


「ジーナ殿、君にはバルセルナ辺境伯の元へ嫁いで貰うことになった。公爵令嬢がまだ嫁に行っていないことを陛下がとても心配されて決められたそうだ、よかったな」

「な、な、何故?」

「何故って陛下のお優しい気持ちからに決まっているだろう?」

俺はジョセフィーヌを隣に座らせて仲睦まじい姿を見せながら話す予定だったのに、突然の訪問で出来なかった。
だからいきなり来た二人に対して、真っ先に意地の悪いことで切り返した。

恐々とお茶を飲む二人に追い打ちをかけて言った。

陛下にバルセルナ辺境伯との婚姻を結ぶように勧めたのはもちろん俺だ。

辺境伯は少しクセのある男で、なかなか嫁の来手がない。

令嬢達からは敬遠されている変わり者だ。
ジーナとの話を持っていくとすぐに向こうは了承した。
公爵がいくら嫌な顔をしても、陛下からの勧め、それは王命と同じだ。
婚約者のいない行き遅れのジーナに断る術はない。

だから俺はニヤッと笑った。

「俺はオリエと離縁する予定はない。アレはお飾りとは言えいずれ王妃となるだけの才と気品を持っている。彼女ほど俺に相応しい王太子妃はいない。
それにあの見事なブロンドの髪は、俺の後継を産むのに相応しい、なぁ、公爵もそう思うだろう?」

ーージーナには王妃としての品格も才能もない。
お前は相応しくないのだ。
オリエは優秀なのだ。

ジーナは俺の言葉の意味がわかったのか、物凄い形相で俺を見つめていた。

「しかし、愛のない妻など……」
公爵は、なんとかジーナの婚姻をやめさせようとした。

「わたしにはジョセフィーヌがいる。正妃は子さえ産めば良いのだ。
何故かジーナ殿は俺とオリエのことを心配してくれているみたいだが、俺は離縁をする気は一切ない。
例え誰かが何かをしようとも。
だから安心してバルセルナ辺境伯の元へ嫁げばいい」

ーー邪魔なジーナはとにかくしばらく辺境伯のところへでも行ってもらう。
お前など何があっても娶ることなどない!

ジーナは下唇を強く噛み締めて俺を睨んできた。

公爵は、まだ何か言おうと何度も口を開きかけて閉じていた。

「ジーナ嬢、君にはバルセルナ辺境伯と幸せに暮らして欲しい」

「………っな、わたし……「君に拒否権はない」

ーージーナには一切文句を言わせはしない。
俺の大事なオリエに毒を盛ろうとしたんだ。
俺の目の前からいずれは消し去ってやる。

あと少しで証拠が全て揃う。

公爵にも一言。

「あ、この綺麗な瓶、気になっているみたいだからやるよ、今夜はゆっくり休んでくれ」

お前達は逃しはしない。
周りの奴らも纏めて排除してやる。

俺は柔かに笑った。








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