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3話

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離宮に来て3ヶ月。

王太子妃としての仕事もなくなって今は孤児院に通ったり街に出歩くくらいしかすることがない。

王宮ではなかなか本宮には行きにくいので、図書室にはもう行けない。
まあ、その代わりイアン様にお会いすることもないのでジョセフィーヌ様との仲の良い姿を見ないですむのは助かるのだけど。

最近はすることがなさすぎて退屈だ。

「ねえわたししばらく実家に帰りたいと思うの」
マチルダが渋い顔をした。

「オリエ様、さすがにそれは殿下の許可を頂かないと……」

「そう?ではブルダ、お願いしてもいいかしら?」

「理由はなんと言えばいいのでしょう?」

「…うーん、里帰り?お父様がご病気?でもこれは王宮に毎日顔を出しているお父様だからバレてしまうわね、やはり里帰りでいいんじゃないかしら?」

「……わかりました、とりあえずお伺いを立ててみます」

「よろしくね、ではマチルダ、帰る用意をしてちょうだい」

「え?許可はまだ下りていません」

「馬鹿ね、本気で待ってても下りるわけないのはわかっているでしょう?」

「……まあ、確かに」

「だからさっさと帰ってしまえばもう何も言えなくなると思うのよ」

「オリエ様……それは、ちょっと……」

「もう何も考えないでさっさと支度をして!向こうにもわたしの持ち物はまだ残っているはずだから、大して必要なものはないと思うの、ふふ、楽しみだわ。久しぶりにお父様達にお会いできるのね」

もうこの王宮でわたしがすることは何もないのよ、側妃のジョセフィーヌ様がお子もお産みになるだろうし、お仕事もほぼ彼女が行っている。
わたしが出来ることは静かに離宮で過ごすことだけ……でも、それも次第に虚しくなってきた。

数人の使用人と静かに過ごす毎日。
それなりに幸せではあるけど、物足りなくなってしまったの。
愛されない王太子妃が惨めに離宮で暮らし続ける……わたしはそこまで強くなかったみたい。

そろそろ彼の意識からわたしの存在を消し去ろうと思う。
まずは実家に里帰りをしてお父様とお話をしてみよう。
わたしの方から離縁は難しいかもしれない、でもお父様ならなんとかしてくださるはず。

もちろんわたしのことを少しでも思ってくださっていれば……お父様が公爵家のことを大事にされるならわたしの離縁などお認めにはならないだろう、でも……ほんの少しでもわたしを可哀想だと思うなら……

わたしは少しだけ期待をしながら実家へと向かった。

ーーーー

馬車に乗って実家に向かう途中、外を見ていると気になることがあった。

「ねえ、あそこにいる花を持って立っている子たちは何をしているのかしら?」

マチルダも窓から外を覗いた。
「あれは花売りですね」

「花売り?」

「はい、子供達も生活のために花を売って稼いでいるのです」

「止まってちょうだい」

「オリエ様、いけません。今施しをしたところでこの子達がすぐに生活が豊かになるわけではありません」

「そうね、でも今だけでもあのお花を買ってあげれば今日だけでも楽になるのではないかしら?」

「一瞬の幸せはその後の苦労を考えるといいとは思えません、期待させてその後何もしないのなら、何もしない方があの子たちのためです」

「わたしには何の力もないのね」

ーーわたしは今まで周りに恵まれて幸せに生きてきた。みんなも同じようにものに恵まれて幸せなのだと思っていた。
もちろん王太子妃としての教育は受けてきたし、紙面上では知っていたし理解していた。
でも、現実は頭で理解していた以上に残酷で、市井では貧富の差が思った以上に酷かった。

わたしのしようとしていることはお金持ちの道楽で施しでしかない。

マチルダは、わたしの甘い考えを嗜めてくれた。

ではわたしができることは?

「オリエ様、わたし達の力ではまだまだ出来ることは少ないです。それでも一緒に出来ることはないか考えていきませんか?」

マチルダだって意地悪であの子達を助けようとしないわけではない。そこにいる一人を助けても、周りにはもっとたくさんの子供達が必死で何かの仕事をしている。
その全員を助けることはできない。一人を助ければその子だけが恨まれる。それは、その子供達の世界で一人だけ外されてしまう。生きていけなくなるかもしれない。

わたしは助けたつもりでも、その子の世界を壊してしまうことになるのかもしれなかったのだ。

ーー根本を解決することはできるのかしら?
ううん、少しずつでもできることを探さなきゃ

イアン様に放置されて傷ついて実家に帰るわたしに、この子達を救うことは出来るのか……自分の甘さを恥じながらわたしは気持ちを引き締めた。




◇ ◇ ◇

「オリエが実家に帰った?」
おれは頭を抱えた。

ーー捨てられた。

「ブルダ、何故止めなかったのか?」

俺はブルダを睨んだ。

「申し訳ございません、お止めしたのですが自分はもうここでは何もする事がない用無しだと思われたみたいです」

「……オリエに王太子妃としての仕事を任せるのをやめたからか……表立って仕事をさせればまたいつ命を狙われるかわからないからと思い、彼女への仕事をやめさせたのが仇になったんだな」

「オリエ様に本当のことをお伝えすることをお勧めいたします。そうしなければ本当に離縁されてしまいますよ」

「わかってる、だが……浮気した女がお前の命を狙っていると言えるか?」

「自業自得だと思います」

「俺は……オリエを愛しているんだ」

「ですがオリエ様は愛していないと思いますよ」

「お前、はっきり言うな!わかってるよ」

「殿下、早くブルーゼ公爵とジーナ様を始末しましょう、害しかありませんよ」

「わかっている」

証拠を集めているところなんだ。
あいつらの息のかかった使用人はみんな一度捕まえて脅しをかけている。
今は俺たちの駒として動いている。

もし俺を裏切れば使用人の家族も纏めて牢屋にぶち込むと伝えてある。
協力すれば多少の罪なら目を瞑ってもいいと言ったらみんな俺の方についた。

ブルーゼ公爵家に入り込んだ俺の駒が、今こっそり不正をした証拠の書類を盗み出している。
毒の入手先も調べがついた。
毒を盛った使用人は捕まってすぐに自害したので口を割ることが出来なかった。
だが珍しい無味無臭の毒で少量ならほとんど症状が出ない。だが少しずつ体を蝕んでいく、わかりにくい毒だった。

どうしてマチルダがわかったのか。
それは怪しい動きをしていた使用人に気がつき、マチルダとブルダが数日見張って、何かあやしいものをお茶に入れているところを見つけて、取り押さえたのだ。

もしマチルダが気が付かなければオリエは病弱になって徐々に衰弱して死んでいただろうと医師に言われた。

なのにその使用人は自害してしまい、ジーナ達が命令したという証拠がなかった。
公爵家の手の者が紛れ込んでいることもわかっていたし、その一人だと思うのだがそれもはっきりとした証拠がなく、確定できないでいる。

今はオリエを数人の影に見張らせているので、命の危険は少しは減ったと思うが、いつどこでオリエを狙うかわからない。
そう考えると、オリエの実家ならしっかりした公爵家の騎士団があの屋敷にたくさんいるので、簡単にはオリエに危害を加えることはできない。
その意味では安全だろう。

だが俺のオリエは、どんどん離れていく。
婚約者がいながら浮気した俺が悪いんだ。

オリエの愛はさらに遠のいた。















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