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92話
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わたしは黙ったままのブラッドを見つめ続けた。
「もう誤魔化せませんね……わたしも執事になって気が緩んでいました……わたしにも三つの記憶があります。黙っていて申し訳ありません」
「貴方は今回の前と今では、確かに深く関わっているわ。でも前回貴方と関わった記憶はないわ」
「わたしは前回、クロード殿下の婚約者である貴方を守る影でした。なのに冤罪で牢屋に入れられた。わたしはそれでも見守っていたのですが、あの時は殿下からの指示を仰ぐため貴女から目を離しました。まさかマリーナ様とハウエル公爵がいきなり貴女を処刑するなんて思いもしませんでした。わたしはすぐに時戻しの魔石で貴女の時間を巻き戻しました。
でも、それだけでは貴女が幸せになれないと思いクロード殿下と貴女の父上、スコット様も巻き戻しました。
わたしに記憶があるのは当たり前ですが、レンス殿下やマリーナさま、貴女のご友人が記憶が蘇ったのはよくわかりません」
「時戻しの魔石……そんなものがあるの?」
「王宮内のある隠された場所に眠っていました。私達影はそういう場所を見つけ出すのは得意です。そこに侵入して盗み出しました。王族すら忘れ去られた場所です。なのでレンス殿下や貴女がどんなに探しても見つかることはないと思います。影の中で知っているのはわたしだけですから」
「そんな大切な話をわたしにしても大丈夫なの?」
頭が追いつかなくてどう答えていいのかわからなかった。
「貴女はわたしが認めた主です。貴女はそのことを気軽に話す方ではありません。でも出来ればこれはレンス殿下にも伝えて欲しくはありません。忘れられた宝庫の場所が分かればまたどんな悪用をされるか分かりません。
いつか必要な時に必要だと思う者が見つけ出すのだと思います」
「…………そうね、不必要に暴き出さないほうがいいのかもしれないわね、でも、ユシリス様のことはどうしてなのかしら?」
「そこはわたしもあまりよく覚えていないのです。わたし自身も毒に侵されてしまいましたので……ただ貴女はあのままではまた死んでしまうことはわかっていました。だからわたしは自分の意識がなくなる前に時戻りの魔石を握りしめました。わたしも貴女と同じでペンダントとして持ち歩いていましたので」
「では、ユシリス様の過去へ行ったのはその魔石のおかげなのね?理由はよくわからないけど……」
「わたしはユシリス様のこともとても哀れでお可哀想だと思っていました。ただ、あの方を巻き戻してもあの父親をユシリス様お一人の力ではどうすることも出来ません。
そんなことを何度か考えていたことはありました。巻き戻しの魔石はそんなわたしの考えに反応したのかもしれません。
レンス殿下が三つの記憶があるのはわたしにとってもイレギュラーなので分かりませんが、彼は魔石が選んだ主の一人なのかも知れませんね。
魔石は主を選びます。
今はわたしが持っていますが、彼が近くにいると魔石が微かに反応します」
「まだ頭が追いつかないけど、言っている事はわかったわ……貴方がわたしを助けてくれたこと。そしてずっと守ってくれていること………ありがとうブラッド、わたしは貴方のおかげで今こうして新しい人生を生きていけているのね」
「わたしは貴女に感謝されることなどしておりません、貴女を死なせてしまいました、申し訳ありませんでした」
ブラッドは深く頭を下げた。
「違うわ、わたしはもし前回あのまま生きていても不幸な人生を歩んでいたわ。今のように幸せだと思えることはなかった。処刑されたことは確かに痛かったし恐怖でしかなかった。苦しみと恨みしかないわ、でもだからと言って生きていて幸せだったかと聞かれれば不幸でしかなかったわ、わたし自身も自分でなんとかしようとか思いもせず、ただ人を恨んで人の所為にして生きていたわ。今やっと自分の力で生きていこうと思うようになったの、貴方にはありがとうと感謝しかないわ」
わたしはブラッドに感謝の気持ちを必死で伝えた。
前回のことは全く覚えていないけど、今回はこの人を知らない時もいつも感じていた。
わたしを優しく見守る視線を。
それは子どもの時から、ずっと。
今やっとわたしが探し続けた真実に辿り着いた。
「もう誤魔化せませんね……わたしも執事になって気が緩んでいました……わたしにも三つの記憶があります。黙っていて申し訳ありません」
「貴方は今回の前と今では、確かに深く関わっているわ。でも前回貴方と関わった記憶はないわ」
「わたしは前回、クロード殿下の婚約者である貴方を守る影でした。なのに冤罪で牢屋に入れられた。わたしはそれでも見守っていたのですが、あの時は殿下からの指示を仰ぐため貴女から目を離しました。まさかマリーナ様とハウエル公爵がいきなり貴女を処刑するなんて思いもしませんでした。わたしはすぐに時戻しの魔石で貴女の時間を巻き戻しました。
でも、それだけでは貴女が幸せになれないと思いクロード殿下と貴女の父上、スコット様も巻き戻しました。
わたしに記憶があるのは当たり前ですが、レンス殿下やマリーナさま、貴女のご友人が記憶が蘇ったのはよくわかりません」
「時戻しの魔石……そんなものがあるの?」
「王宮内のある隠された場所に眠っていました。私達影はそういう場所を見つけ出すのは得意です。そこに侵入して盗み出しました。王族すら忘れ去られた場所です。なのでレンス殿下や貴女がどんなに探しても見つかることはないと思います。影の中で知っているのはわたしだけですから」
「そんな大切な話をわたしにしても大丈夫なの?」
頭が追いつかなくてどう答えていいのかわからなかった。
「貴女はわたしが認めた主です。貴女はそのことを気軽に話す方ではありません。でも出来ればこれはレンス殿下にも伝えて欲しくはありません。忘れられた宝庫の場所が分かればまたどんな悪用をされるか分かりません。
いつか必要な時に必要だと思う者が見つけ出すのだと思います」
「…………そうね、不必要に暴き出さないほうがいいのかもしれないわね、でも、ユシリス様のことはどうしてなのかしら?」
「そこはわたしもあまりよく覚えていないのです。わたし自身も毒に侵されてしまいましたので……ただ貴女はあのままではまた死んでしまうことはわかっていました。だからわたしは自分の意識がなくなる前に時戻りの魔石を握りしめました。わたしも貴女と同じでペンダントとして持ち歩いていましたので」
「では、ユシリス様の過去へ行ったのはその魔石のおかげなのね?理由はよくわからないけど……」
「わたしはユシリス様のこともとても哀れでお可哀想だと思っていました。ただ、あの方を巻き戻してもあの父親をユシリス様お一人の力ではどうすることも出来ません。
そんなことを何度か考えていたことはありました。巻き戻しの魔石はそんなわたしの考えに反応したのかもしれません。
レンス殿下が三つの記憶があるのはわたしにとってもイレギュラーなので分かりませんが、彼は魔石が選んだ主の一人なのかも知れませんね。
魔石は主を選びます。
今はわたしが持っていますが、彼が近くにいると魔石が微かに反応します」
「まだ頭が追いつかないけど、言っている事はわかったわ……貴方がわたしを助けてくれたこと。そしてずっと守ってくれていること………ありがとうブラッド、わたしは貴方のおかげで今こうして新しい人生を生きていけているのね」
「わたしは貴女に感謝されることなどしておりません、貴女を死なせてしまいました、申し訳ありませんでした」
ブラッドは深く頭を下げた。
「違うわ、わたしはもし前回あのまま生きていても不幸な人生を歩んでいたわ。今のように幸せだと思えることはなかった。処刑されたことは確かに痛かったし恐怖でしかなかった。苦しみと恨みしかないわ、でもだからと言って生きていて幸せだったかと聞かれれば不幸でしかなかったわ、わたし自身も自分でなんとかしようとか思いもせず、ただ人を恨んで人の所為にして生きていたわ。今やっと自分の力で生きていこうと思うようになったの、貴方にはありがとうと感謝しかないわ」
わたしはブラッドに感謝の気持ちを必死で伝えた。
前回のことは全く覚えていないけど、今回はこの人を知らない時もいつも感じていた。
わたしを優しく見守る視線を。
それは子どもの時から、ずっと。
今やっとわたしが探し続けた真実に辿り着いた。
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