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90話
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そして久しぶりの再会は、院長先生からのハグだった。
「エリーゼ、元気になってよかったわ、何度もお見舞いに行ったのよ、なかなか意識が戻らないのだもの」
「先生ありがとうございました。そしてご心配をおかけしました、会いに来れなくてすみませんでした」
「何を言ってるの、元の生活に戻るのも大変だったでしょう?それに、いつも子供達に寄付をありがとう」
「いえ、来れなくて気になっていたのですが、みんなは元気にしているみたいでわたしも嬉しいです、あとで会いに行ってもいいですか?」
「もちろんよ、ユンとミリアはもう先に行ってるみたいね」
「はい、二人はみんなに捕まって一緒に遊んでいます」
「エリーゼ!久しぶりだな!」
お兄様と同じ歳のウィリアン様らしき人が声をかけてきた。
わたしはどう反応していいのかわからず戸惑っていると
「エリーゼ様は意識が戻られてから少し記憶がまばらになっています。ここでの生活も半分ほどの記憶しかございません、院長先生のことは覚えていますがそれ以外の方のことは覚えていたりいなかったりでご無礼をするかもしれません」
わたしの後ろにいたブラッドが、院長先生達に説明をしてくれた。
「少しだけ話は伺っているわ……わたし以外の三人の記憶がないのね?」
「はい、何故か先生の旦那様とウィリアン様とナタリーア様の記憶がないのです。ここでどんな風に過ごしたのか少しくらいは覚えていると思うのですが……」
「エリーゼは、わたしのことを忘れたのね?」
わたしを寂しそうに見るナタリーア様。
わたしは、その後先生の旦那様にもお会いしたのだが、三人のこともここで今のときをどんな風に過ごしたのかも、全くわからなかった。
新しい今のときの記憶はわたしには何も頭の中に入ってこない。
ここに来ればみんなのように新しい記憶が入ってきて三つの記憶持ちになるのではないかと思ったけど、何も起きなかった。
ナタリーア様はわたしが覚えていなくても、怒ることもせず接してくれた。
ここでわたしはみんなと一緒に過ごしたこと。
ナタリーア様に引っ付いて回って離れなかったこと。
ウィリアン様が大好きでいつも本を読んで欲しいとおねだりしていたこと。
先生の旦那様のことを「おと様」と呼んで、小さい頃はいつも腕に掴まって遊んでいたらしい。
わたしがそんな事するわけがない!
と思うのに、わたしの知らないわたしはここでは、お父様達から逃げて伸び伸びと楽しく暮らしていたようだ。
その頃のわたしは、前回の記憶がそこまで深く影響していなかったのだろうか?
聞いていると、お父様や殿下を避けていたけど、わたしのように嫌い、恨み、避けてはいないようだ。
今の記憶があればわたしはもっと素直な女の子として生きているのだろうか?
前回の記憶と前の記憶の二つしかないわたしは、頑なで意固地で可愛げがない。
わたしがシュンとしていたのを見て、ナタリーア様は言った。
「エリーゼは生真面目すぎるのよ、肩の力を抜いて。貴女は貴女らしく生きなさい。私達のことを忘れたのなら今から私達と一緒に新しい記憶を作って行きましょう。私達がエリーゼを大好きなのはずっと変わらないわ」
何故なんだろう。初めて会った人達なのにとても懐かしく感じる。
この人達の優しい笑顔が、声が、わたしの心の中が何故か温かくなって穏やかな気持ちになる。
「エリーゼ?どうしたの?」
「えっ?」
ナタリーア様がわたしを見て焦っていた。
「泣かないで……」
わたしはその言葉を聞いて、自分の顔を触った。
頬が濡れていた。
「わたし、どうしたのかしら?」
自分でもよくわからない。
泣いている理由が……
悲しいわけでも辛いわけでもない。
なのに涙は止まらなかった。
そして、しばらくみんなで話した後、また再会の約束をして家路についた。
みんなが手を振る姿を振り返ると、そこには思い出すはずがないのに懐かしさを感じた。
わたしの中に、「今」の記憶がどこかにあるのかもしれない。
わたしはよくわからないけどそんなことを考えながら屋敷に帰った。
「エリーゼ、元気になってよかったわ、何度もお見舞いに行ったのよ、なかなか意識が戻らないのだもの」
「先生ありがとうございました。そしてご心配をおかけしました、会いに来れなくてすみませんでした」
「何を言ってるの、元の生活に戻るのも大変だったでしょう?それに、いつも子供達に寄付をありがとう」
「いえ、来れなくて気になっていたのですが、みんなは元気にしているみたいでわたしも嬉しいです、あとで会いに行ってもいいですか?」
「もちろんよ、ユンとミリアはもう先に行ってるみたいね」
「はい、二人はみんなに捕まって一緒に遊んでいます」
「エリーゼ!久しぶりだな!」
お兄様と同じ歳のウィリアン様らしき人が声をかけてきた。
わたしはどう反応していいのかわからず戸惑っていると
「エリーゼ様は意識が戻られてから少し記憶がまばらになっています。ここでの生活も半分ほどの記憶しかございません、院長先生のことは覚えていますがそれ以外の方のことは覚えていたりいなかったりでご無礼をするかもしれません」
わたしの後ろにいたブラッドが、院長先生達に説明をしてくれた。
「少しだけ話は伺っているわ……わたし以外の三人の記憶がないのね?」
「はい、何故か先生の旦那様とウィリアン様とナタリーア様の記憶がないのです。ここでどんな風に過ごしたのか少しくらいは覚えていると思うのですが……」
「エリーゼは、わたしのことを忘れたのね?」
わたしを寂しそうに見るナタリーア様。
わたしは、その後先生の旦那様にもお会いしたのだが、三人のこともここで今のときをどんな風に過ごしたのかも、全くわからなかった。
新しい今のときの記憶はわたしには何も頭の中に入ってこない。
ここに来ればみんなのように新しい記憶が入ってきて三つの記憶持ちになるのではないかと思ったけど、何も起きなかった。
ナタリーア様はわたしが覚えていなくても、怒ることもせず接してくれた。
ここでわたしはみんなと一緒に過ごしたこと。
ナタリーア様に引っ付いて回って離れなかったこと。
ウィリアン様が大好きでいつも本を読んで欲しいとおねだりしていたこと。
先生の旦那様のことを「おと様」と呼んで、小さい頃はいつも腕に掴まって遊んでいたらしい。
わたしがそんな事するわけがない!
と思うのに、わたしの知らないわたしはここでは、お父様達から逃げて伸び伸びと楽しく暮らしていたようだ。
その頃のわたしは、前回の記憶がそこまで深く影響していなかったのだろうか?
聞いていると、お父様や殿下を避けていたけど、わたしのように嫌い、恨み、避けてはいないようだ。
今の記憶があればわたしはもっと素直な女の子として生きているのだろうか?
前回の記憶と前の記憶の二つしかないわたしは、頑なで意固地で可愛げがない。
わたしがシュンとしていたのを見て、ナタリーア様は言った。
「エリーゼは生真面目すぎるのよ、肩の力を抜いて。貴女は貴女らしく生きなさい。私達のことを忘れたのなら今から私達と一緒に新しい記憶を作って行きましょう。私達がエリーゼを大好きなのはずっと変わらないわ」
何故なんだろう。初めて会った人達なのにとても懐かしく感じる。
この人達の優しい笑顔が、声が、わたしの心の中が何故か温かくなって穏やかな気持ちになる。
「エリーゼ?どうしたの?」
「えっ?」
ナタリーア様がわたしを見て焦っていた。
「泣かないで……」
わたしはその言葉を聞いて、自分の顔を触った。
頬が濡れていた。
「わたし、どうしたのかしら?」
自分でもよくわからない。
泣いている理由が……
悲しいわけでも辛いわけでもない。
なのに涙は止まらなかった。
そして、しばらくみんなで話した後、また再会の約束をして家路についた。
みんなが手を振る姿を振り返ると、そこには思い出すはずがないのに懐かしさを感じた。
わたしの中に、「今」の記憶がどこかにあるのかもしれない。
わたしはよくわからないけどそんなことを考えながら屋敷に帰った。
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