【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ

文字の大きさ
上 下
90 / 110

88話  ユシリス様との再会編

しおりを挟む
ユシリス様はわたしの肩を両手で掴んで、小刻みに震え、泣きながら謝り続けた。

その間レンス殿下はユシリス様をただじっと見ていた。
彼はどう思ったのだろう。

同じように三つの記憶を持ってしまいそれに耐えきれなくなって彼女は壊れていたのだ。

「ユシリス様、会いに来るのが遅くなりました。貴女が幸せになった姿を見に来たのです、貴女の大人になった姿とお会いしたかったのです。もう苦しまないでください。約束したでしょう?」

わたしはユシリス様の手に手をそっと乗せて優しく握った。

「『ユシリス様、ずっと先の未来で会える事を楽しみにしています』
わたしはユシリス様にお会いできるのを楽しみにしていました。『幸せになる』と約束したのをお忘れですか?前回のことも今回の前のことももう終わった過去なんです。貴女はあの嫌な過去から抜け出したんです。
忘れて欲しい。でも忘れられないなら、その過去を踏み潰して新しい今を生きてはもらえませんか?
わたしも過去の記憶を捨てられないけど、今の新しい世界で頑張って生きていくつもりです」

「踏み潰す?」

「そう、あの糞気持ち悪い公爵から逃げ回った私達なんです。嫌な記憶のほとんどがあの糞気持ち悪い公爵の所為なんです。だから踏み潰してぐちゃぐちゃにしてその辺に置いてしまいませんか?」

「……糞気持ち悪い……」
ユシリス様は突然泣くのをやめてキョトンとした。
そして笑い出した。

「ふふふ、お姉ちゃんが何度もわたしを励ます時にいつも言ってくれた。糞気持ち悪いニューベル公爵……その言葉のおかげでわたし、お父様が怖かったのに少しだけ勇気が出たの。お姉ちゃんの魔法の言葉。
あの後もわたしが辛い時や落ち込んだ時、よく『あの糞気持ち悪い奴なんかよりまだマシなんだから!』って思いながら頑張ったの」

「ユシリス様、覚えていたんですね?そうです、あの糞気持ち悪い奴の所為で負けないでください。わたしもいっぱい恨んでいっぱいクロード殿下とお父様を傷つけました。もちろんされたことを考えると恨みしかありません。それはあのマリーナ様にもものすごくあります。
でもマリーナ様は復讐する前に死んじゃいました。もうこれ以上、恨みだけで生きていたくない。
新しい人生を歩みだしたのだからわたしは絶対に幸せになります。
まだ見たことはないし、出来るかわからないけど、将来旦那様と幸せになります。
ですので、ユシリス様もこれ以上、みんなに迷惑と心配をかけないでください!」

「みんなに迷惑?心配?」

「お母様、僕がわかりますか?」

「……レンス?」

「お母様、やっと僕のことをわかってくれた」

レンス殿下はユシリス様が自分のことを思い出してくれたことが嬉しくて目に涙をためていた。

「お母様、やっとやっと僕を見てくれた……」

それからわたしはそっと部屋を出た。



ユシリス様はまだ心が安定していない。

後からレンス殿下に聞くと、良くなったり悪くなったりをまだ繰り返しているそうだ。

でも心を閉ざして生きているのか死んでいるのかわからない状態からは脱出したようだ。
突然暴れ出したり訳のわからないことを言い出すことも徐々に少なくなったそうだ。

わたしとの再会がこれからのユシリス様にどこまで影響を与えたのか、まだもう少し時間が経たなければわからない。
良い方に行けば良いのだが、悪い方へ向かう事も考えられた。
わたしを見て悪い記憶を思い出して、精神を病まれたのがきっかけだ。
わたしとの出会いが次はどう変わるのか……賭けでもある。

それでも今だけでも、以前より容態が落ち着いたことにホッとした。

わたし達は目的を終えて王都へ帰ることになった。

帰り道、海へ行きもう一度素足で砂浜を歩いた。

そして約束の貝殻拾いをユンとミリアとブラッドとして、楽しんだ。

ブラッドは大の男が何故こんなことを?
と、不服な顔をしていたが、そこは無視して気づかないフリをしていた。

たくさんの貝殻を集めることが出来た。

わたしは、クロード殿下に会うことは一度もなく南の領地を離れることになった。

ブラッドはわたしに何か一言、言いたい事があるみたいだったが、わたしは気づかないフリをしてユンとミリアと楽しそうに過ごした。

わたしの夏休みはユシリス様に会うという目的を果たしてなんとか終わる事が出来た。

そして王都に帰ると、次は久しぶりの院長先生とお会いする約束をしている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした

かんな
恋愛
カトリーヌ・エルノーはレオナルド・オルコットと婚約者だ。 二人の間には愛などなく、婚約者なのに挨拶もなく、冷え切った生活を送る日々。そんなある日、殿下に婚約破棄を言い渡され――?

処理中です...