88 / 110
86話 ユシリス様との再会編
しおりを挟む
南の領地での生活は静かに過ぎていった。
ユンとミリアと三人で散歩をしたり森の湖へピクニックに行ったりした。
海はレンス殿下が連れていってくれた。
私たち三人は海の水を指につけて舐めて、あまりの塩っ辛さに驚いた。
本当に塩の味がした。
そして、「貝」を初めて見た。
砂浜を歩くのも初めて。
普通に歩いているのに、なぜか足取りが重く感じた。
はしたないけど裸足で歩いてみた。
不思議な感覚だった。
砂浜を歩いていると暑いのに気持ちいい風が吹く。
その風が心地よくて裸足で歩く砂浜が楽しくて、また行きたいとお強請りして約束を取り付けた。
帰る前にもう一度行ってみたい。
ブラッドはちなみに海に何度も来たことがあるらしくわたしたちの感動を分かち合うことはなかった。
「ブラッド、でもまた海に一緒に行きましょうね」
「エリーゼ様の行くところには着いて行きます」
「ふふ、ありがとう、今度は一緒に貝殻拾いをしましょうね」
ブラッドは顔色を変えることなく了承してくれたが、こっそりと溜息を吐いていたのを知っていた。
ブラッドはあまり海が好きではないみたいだ。彼は南の領地から1時間ほど行った漁師の街で育ったらしい。
男爵家の三男だった。
温かい家庭とは言えず、苦労して自分の才能だけで生きてきた人だ。
だから、本当はこの南の領地に対してあまり良い感情がないみたいだ。
でももうしばらくはここで過ごさなければいけない。
彼の事情をわたしは何も知らない、と言うことになっている。
だからわたしは彼の前では普通に過ごしている。
でも、彼の実家の近くには行かないようにしている。
気を使って用事を入れて接待してくれるレンス殿下には悪いのだが、近くの場所は全てお断りしている。
「美味しい海鮮を食べられるんだ」
「素敵な景色が見られる場所があるんだ」
ちょっと惹かれてしまうお誘いも全てお断りしているので、貝殻拾いくらいはブラッドにも付き合って貰おうと意地悪なことを思っている。
そんな日々を過ごしていると、レンス殿下から
「今日、母上の体調が珍しく落ち着いているんだ。よかったらエリーゼ様会いにいきませんか?」
ユンとミリアと刺繍を刺していた時のことだった。
「もちろんよ、やっとユシリス様にお会いできるのね」
わたしは急いで支度をした。
ユンとミリアには待っていてもらって、ブラッドと二人でユシリス様のところへ向かった。
別荘からユシリス様が入院していると言う病院までは馬車で20分ほどの距離だった。
そこは病院というより、森の近くにある可愛いお屋敷だった。
真っ白な壁と赤い屋根。
2階建で横に長さがあり、庭は丁寧に手入れされたであろう花々が綺麗に咲き誇っていた。
外に出ている人たちはお年寄りの方も多く、車椅子に座り花をじっと見つめている人、ゆっくりと散歩をしている人、それを介護している人たち。
とても穏やかな時間がここでは過ぎているのだろう。
みんなとても優しそうな顔をしている。
ただ、屋敷の周りは、高い塀で囲まれてしっかりとした門があり、怖そうな門番が守っていて出入りはかなり厳重だった。
外からは人を拒んでいるように見えて重苦しく感じたが、中に入るとおとぎの国に入ったかのような場所だった。
わたしはレンス殿下とブラッドと三人で、ユシリス様の部屋へ向かった。
ブラッドは部屋の外で待つことになった。
先に入ったレンス殿下。
しばらくして「どうぞ入ってください」と声が掛かった。
わたしはあの幼い頃のユシリス様と、今回の前のあの意地悪で怖い記憶しかない。
今回の今のユシリス様はとても穏やかで優しい方だったらしい。
精神を病まれ今はどんな感じなのだろう。
噂ではただ寝込まれているとしか言われていない。
真実は隠されている。
わたしは、ゴクっと唾を飲み込み、久しぶりのユシリス様とお会いする。
ユンとミリアと三人で散歩をしたり森の湖へピクニックに行ったりした。
海はレンス殿下が連れていってくれた。
私たち三人は海の水を指につけて舐めて、あまりの塩っ辛さに驚いた。
本当に塩の味がした。
そして、「貝」を初めて見た。
砂浜を歩くのも初めて。
普通に歩いているのに、なぜか足取りが重く感じた。
はしたないけど裸足で歩いてみた。
不思議な感覚だった。
砂浜を歩いていると暑いのに気持ちいい風が吹く。
その風が心地よくて裸足で歩く砂浜が楽しくて、また行きたいとお強請りして約束を取り付けた。
帰る前にもう一度行ってみたい。
ブラッドはちなみに海に何度も来たことがあるらしくわたしたちの感動を分かち合うことはなかった。
「ブラッド、でもまた海に一緒に行きましょうね」
「エリーゼ様の行くところには着いて行きます」
「ふふ、ありがとう、今度は一緒に貝殻拾いをしましょうね」
ブラッドは顔色を変えることなく了承してくれたが、こっそりと溜息を吐いていたのを知っていた。
ブラッドはあまり海が好きではないみたいだ。彼は南の領地から1時間ほど行った漁師の街で育ったらしい。
男爵家の三男だった。
温かい家庭とは言えず、苦労して自分の才能だけで生きてきた人だ。
だから、本当はこの南の領地に対してあまり良い感情がないみたいだ。
でももうしばらくはここで過ごさなければいけない。
彼の事情をわたしは何も知らない、と言うことになっている。
だからわたしは彼の前では普通に過ごしている。
でも、彼の実家の近くには行かないようにしている。
気を使って用事を入れて接待してくれるレンス殿下には悪いのだが、近くの場所は全てお断りしている。
「美味しい海鮮を食べられるんだ」
「素敵な景色が見られる場所があるんだ」
ちょっと惹かれてしまうお誘いも全てお断りしているので、貝殻拾いくらいはブラッドにも付き合って貰おうと意地悪なことを思っている。
そんな日々を過ごしていると、レンス殿下から
「今日、母上の体調が珍しく落ち着いているんだ。よかったらエリーゼ様会いにいきませんか?」
ユンとミリアと刺繍を刺していた時のことだった。
「もちろんよ、やっとユシリス様にお会いできるのね」
わたしは急いで支度をした。
ユンとミリアには待っていてもらって、ブラッドと二人でユシリス様のところへ向かった。
別荘からユシリス様が入院していると言う病院までは馬車で20分ほどの距離だった。
そこは病院というより、森の近くにある可愛いお屋敷だった。
真っ白な壁と赤い屋根。
2階建で横に長さがあり、庭は丁寧に手入れされたであろう花々が綺麗に咲き誇っていた。
外に出ている人たちはお年寄りの方も多く、車椅子に座り花をじっと見つめている人、ゆっくりと散歩をしている人、それを介護している人たち。
とても穏やかな時間がここでは過ぎているのだろう。
みんなとても優しそうな顔をしている。
ただ、屋敷の周りは、高い塀で囲まれてしっかりとした門があり、怖そうな門番が守っていて出入りはかなり厳重だった。
外からは人を拒んでいるように見えて重苦しく感じたが、中に入るとおとぎの国に入ったかのような場所だった。
わたしはレンス殿下とブラッドと三人で、ユシリス様の部屋へ向かった。
ブラッドは部屋の外で待つことになった。
先に入ったレンス殿下。
しばらくして「どうぞ入ってください」と声が掛かった。
わたしはあの幼い頃のユシリス様と、今回の前のあの意地悪で怖い記憶しかない。
今回の今のユシリス様はとても穏やかで優しい方だったらしい。
精神を病まれ今はどんな感じなのだろう。
噂ではただ寝込まれているとしか言われていない。
真実は隠されている。
わたしは、ゴクっと唾を飲み込み、久しぶりのユシリス様とお会いする。
107
お気に入りに追加
4,844
あなたにおすすめの小説

愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する
ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。
その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。
シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。
皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。
やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。
愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。
今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。
シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す―
一部タイトルを変更しました。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした
かんな
恋愛
カトリーヌ・エルノーはレオナルド・オルコットと婚約者だ。
二人の間には愛などなく、婚約者なのに挨拶もなく、冷え切った生活を送る日々。そんなある日、殿下に婚約破棄を言い渡され――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる