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62話  過去戻り編

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どうするかなんてわからない!

でもユシリス様をこの屋敷に置いておくことは出来ない。

わたしとユシリス様は今は姿が消えて見えない。

とりあえず屋敷を出る前に、屋敷の中にある宝石を持てるだけユシリス様に持ってもらった。

手を離せばユシリス様は物を掴むことが出来る。

袋に入るだけの宝石と金貨を入れて、わたしとユシリス様は屋敷を出た。

ニューベル公爵に宝石が盗まれたことはわからない筈だ。

だってこれユシリス様にと亡くなったお母様が渡した物らしい。
だから大丈夫。
盗んだのではなくて本人のものを持って行っただけ。

わたしはこの世界にいないはずの人だから生きていける。
でもユシリス様はこの世界でなんとか生きていかないといけない。
あの糞気持ち悪いニューベル公爵の魔の手から逃げる方法はないだろうか。

遠くに行って平民になる?

このお嬢様が?無理だよね

孤児院に逃げ込む?

すぐにバレるよね、わたしの時みたいに。

何かないか……わたしはユシリス様の手をギュッと握り、考えた。

「ねえ?貴女にはお母様のほうのお祖父様やお祖母様はいらっしゃらないの?」

「お祖父様は、隣国のデュラヌ侯爵です。お母様が亡くなったので今はこちらの王都に滞在しています」

「どこ?何処にいるの?」

「プリアーナホテルです」

「それはどこ?わたし知らないわそんなホテル!」

わたしが生まれるかなり前のホテルの存在なんて知らない!

「ここからならいっぱい歩くと思います」

「わたしと手を繋いでいる間はたぶん疲れない。でも時間がかかるわね」

わたし達は街に向かう乗合馬車に勝手に乗った。

だって見えないんだもの。

誰にも咎められない。

そして馬車を降りて、ユシリス様と歩いた。

「場所はわかる?」

「うーんよくわからない」

「手を離すわ、その袋は今ならわたしが預かれるわ、貴女は銀貨3枚だけ持ってそれをポケットに入れて置いて。そして大人の優しそうなおばさんに場所を聞いて!わかった?ずっとそばにいるわ」


わたしは、建物の後ろに行くとユシリス様が頷くと手を離した。

ユシリス様は姿が見えるようになった。

わたしの姿はユシリス様には見えているみたい。

「お姉ちゃん、わたし怖いよ。一人で街にいるの初めてなの」
目を潤ませて怖がっていた。

「お姉ちゃんがそばに居るから怖がらないで!ホテルの場所を聞くの!」

わたしは街を歩く人を見回した。


「ほら!あそこに子供を連れた優しそうな夫人が歩いているわ、行って!」

わたしがユシリス様の背中をポンっと押すと、ユシリス様は急いでその夫人の所へ行った。

ユシリス様は可愛いドレスに着替えさせている。鞭の後は見えないところにあるので誰にも気づかれない。

迷子のフリをして

「あのすみません、プリアーナホテルの場所ご存知ありませんか?従者と逸れてしまって帰れなくなって困っているのです」

(よし!よく言った!)

わたしが手を離した所為で、ユシリス様の傷はかなり痛んでいる。

不思議とわたしと手を繋いでいる間は痛みもなかったのに手を離すと元に全て戻ってしまう。

どうせなら傷も治せる力が欲しかった。

それでもユシリス様は痛みを堪えて頑張っていた。

わたしはそれを見て泣きそうになった。

ユシリス様はこんな辛い目に遭って性的虐待までされて陛下にも見捨てられて精神を病んだんだ。

この世界では必ずユシリス様を助ける!

わたしはグッと我慢してユシリス様を見守った。

「プリアーナホテル?少し離れたところにあるのよ。お嬢さん、体調が悪いみたいだわ。私の馬車で送ってあげるわ」

親切な夫人は、ユシリス様を自分の子供と一緒に馬車に乗せてくれた。
わたしはユシリス様について行って馬車に乗り込んだ。

「お嬢さんのお名前は?」

わたしはユシリス様の耳元で、
「貴女のお祖父様の名前を言って!」
と言うと

「わたしの名前はユシリス・デュラヌです」

「まぁ!デュラヌ侯爵のお孫さんかしら?」

「お祖父様をご存知ですか?」

「そうよ、わたしはデュラヌ侯爵の娘のセリーヌの友人だったの……貴女はもしかしてセリーヌの娘?」

ユシリス様は逃げていることがバレてしまうことを恐れて真っ青になっていた。

「大丈夫、この人は悪い人ではないわ。だから本当のことを言って!」
わたしがユシリス様に言うと頷いて


「わたしの名前はユシリス・ニューベル、セリーヌは亡くなった母の名前です、嘘を吐いてすみません」
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