【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ

文字の大きさ
上 下
56 / 110

54話  レンス編

しおりを挟む

どこを探しても、いくら待ってもお母様は帰って来なかった。

お母様が何故いなくなったのかわからなかった。

そんな時お兄様が僕に会いに来てくれた。

「レンス、母上は病気が酷くなって遠くの病院に入院したんだ。いつ退院出来るかわからない。
僕と父上と暮らそう」

そう言って南宮から兄上の住んでいる東宮へ移った。

「お母様は体調が悪いのですか?それなら僕はお母様のそばにずっといてあげたいです」

「レンス、母上は人にうつる病気なんだ。誰とも会う事は出来ない。一緒に手紙を書こうね。返事を書けるかわからないけど、読んではくれると思うんだ」

兄上の言葉を信じて僕はお母様に沢山手紙を書いた。

「会いたいけど我慢していい子で待っています」

「僕は一人で寝ても怖くなくなったよ」

「お兄様の言うことを聞いて良い子にしています」

「お父様は、陛下でした。お母様は知らなかったんだね。いつか会えたら陛下のこと教えてあげるね」

「お母様、僕のこと覚えてくれていますか?」

でも一度も手紙の返事が返ってくる事はなかった。


ある日、お父様が、お母様のことを話してくれた。

「まだ難しい話はレンスが大人になってからするからね」
と言って、話せることだけでもと教えてくれた。


お祖父様に虐待されてお父様に冷たくあたられて、お母様はしてはいけないことをしてしまった。

そして心が壊れてずっと病院に入院していると聞いた。
まだ、僕に会っても分からないかもしれないと言われた


そして僕が12歳になった時、お父様は国王を辞めた。
南の領地に、引っ越すことになったが、
「クロードとレンスは王宮の東宮でずっと暮らしてもいいよ」
と、お父様に言われたが、でも僕はお父様と一緒にいたかった。



そこでお母様に会えることになるとは思わなかった。

お父様は、お母様の本当の病気と罪を教えてくれた。

二人にはショックな事かもしれないが、実はこの屋敷の離れにある診療所に、ユシリスが入院しているんだ」

「母上が?」
お兄様が驚いていた。

「お母様は今どうしているのですか?」
僕は不安だった。

ずっと何処にいるか教えてくれなかった。


お父様が二人にお母様の今の状況を隠さずに教えてくれた。

「ユシリスは、心の病気になっているんだ。だが辛かった記憶は全て忘れていた。今は人形をレンスだと思い込み、人形を世話しながら過ごしているらしい。以前と違ってずっと穏やかで優しい顔をしている」

僕はそれを聞いて、手をギュッと握りしめていた。

「お母様はいつも僕に優しかった。でも本当は兄上のことを凄く気にしていたんだ」

「え?母上が僕のことを?」

二人は驚いていた。

「うん、お母様が窓の外を見ていることがあるんだ。こっそりお母様が見ている目線を探ると、そこには兄上がいるんだ。その時のお母様はとても大切な宝物を見つけた時みたいに嬉しそうなんだ。だから僕はその時の優しい顔のお母様が今も大好きなんだ」

「母上が、僕を見ていた?」
兄上は信じられない顔をしていたが、その目には涙が出ていた。


僕たちはいつかお母様に会いに行こうと誓い合った。

すぐそばにいるのに会いにいけないもどかしさ。

でも、今は会いにいけない。

だって本当は僕は全ての事実を知っているから。

お母様がお父様にしたこと。

お父様がお母様にしたこと。

お祖父様がお母様にしたこと。

兄上がやり直しの人生を今過ごしていること。

そう、僕も最近記憶が蘇ったんだ。

だから、兄上を見ていたらこの人も僕と同じ記憶があるんだとわかった。


前回、お父様が病死、兄上が自殺、そして僕は国王になり宰相になったお祖父様の傀儡として……生きた。

お祖父様はこの国を好き勝手に自分の都合の良い玩具のように扱った。

そして国民は疲弊して、反乱が起きた。

お母様は、お父様が亡くなってからおかしくなった。

突然笑い出したり泣き叫んだりした。

そして気がつけば父に似た男達を愛人にして離宮で好き勝手に暮らし始めた。

国のことに興味がなく、僕やお祖父様のことなどどうでもよかったみたいだ。


僕は何も出来ずただお祖父様の言うことを聞くしかなかった。

力も能力も何もない、ただのお飾りの国王。

そして反乱の時に命を落とした。

もう、あの時のような事は今回は起きない。

お祖父様達は処刑された。

みんなはまだ死んでいない。

お母様はおかしくなったけど、穏やかに生きている。

もう僕はそれだけで十分だった。

今回の人生は、お父様や兄上とも過ごすことができた。

お母様は、今幸せなのだと思う。

嫌な記憶を全て忘れて夢の中で僕を育てている。

多分本当は兄上のことも育てているんだと思う。

小さい頃、お母様と寝ていると、「クロード…」と言って僕の頭を撫でていた時があった。

寝ぼけていたけど、何度かそう言うことがあったので、お母様は兄上のことも、頭を撫でて話しかけたかったんだと今の僕ならわかる。

僕は記憶のことを誰にも話さずこのまま、何も知らないレンスとして生きていこうと思う。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした

かんな
恋愛
カトリーヌ・エルノーはレオナルド・オルコットと婚約者だ。 二人の間には愛などなく、婚約者なのに挨拶もなく、冷え切った生活を送る日々。そんなある日、殿下に婚約破棄を言い渡され――?

処理中です...