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45話

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わたしを牢から出してくれたのは、お兄様だった。

影の人について来て、わたしを地下牢から助け出してくれた。

見張りは全員眠らせてそのまま連行され、王宮にある地下牢に入れられた。

そしてお兄様は地下牢にいるわたしを見て泣きながら
抱きしめて

「すまない、やっぱり囮になんかさせるんじゃなかった」とずっとわたしに謝っていたらしい。

囮になると決めたのはわたし。

お兄様が傷つく必要はないし自分を責めないで欲しい。
その話は、もちろん数日後に聞いたのだが。



わたしが攫われたのが昼間。
助け出されたのが次の日の夜中だった。

そして意識が戻ったのが、次の日の夜。
丸一日寝ていたらしい。

「リゼ大丈夫?」
わたしのそばにいたのは、ユンとミリアだった。

「…え?……ここは…何処?」

「リゼのお家だよ。孤児院のみんなここに連れてこられたの」

「そうしたらリゼが真っ青な顔で倒れているから、わたしとユンがずっとそばにいたの」

わたしはまだ状況がよくわからなくてぼんやりと周りをキョロキョロと見ていた。

「………あ、みんな、大丈夫?」

「だからぁ!全員でここに何故か連れてこられたの。大丈夫に決まっているじゃない」

「そうだよ、リゼの方が体調が悪いのに、わたし達の心配なんてしてどうするの?」

「……良かった、みんな死ななかったんだ」

わたしは、ホッとして涙がぽろぽろ流れて止まらなかった。
二人はわたしが泣いている意味がわからないから、仕方なくわたしの頭をよしよしと撫でてくれた。

「ユン、喉が渇いた」

泣き過ぎて、水分不足で体中の水分が不足している。

喉の渇きを潤すのに何杯もの水を飲んだ。

「胃がびっくりしないように、スープを持ってくるから少し食べるでしょう?」

「うん、ミリアのスープなら飲む」

わたしの言葉に、ミリアが笑いながら

「そう言ってくれると思って作っておいたんだ。いつでも飲めるようにと思ってね」
と言って、急いでスープを取りに行ってくれた。

ユンはわたしの顔を優しく冷たいタオルで拭いてくれた。

「リゼが意識を失ってぐったりして屋敷に運ばれて来て、死んじゃうかと思ったわ。ここの屋敷の人に止められたけど、一番偉そうなおじさんが、「君たちがユンとミリアだね、エリーゼのそばにいてあげてくれるか?」と言って部屋に入れてくれたの」

「そっかあ……」

「あの偉そうなおじさんが、リゼのお父さん?リゼのことを抱き抱えて泣いていたよ」

「……お父様が?」

お父様がわたしのことで泣くなんて思ってもいなかった。
前回のお父様は、わたしが死のうと生きようと全く興味を示さなかった。

あの冷たい目を思い出す。

わたしが死んだあと、後悔したと聞いてはいるが信じられない。

でも、確かに今回はお父様は違っていた。
わたしを冷たい目で見ることはなかった。

それでもわたしは拒絶してあまりお父様のことを見ようとはしなかった。

だから、見えていなかったのかもしれない。

「リゼ、会えていなかった間に何があったの?辛いことばかりだったの?こんなに痩せて青い顔をして!あの偉そうなおじさんに、わたし、文句言ってあげる!だから泣かないで!」

(え?わたしが泣いているの?)

わたしは自分が泣いていることに気が付かなかった。

顔に手をやると……確かに濡れていた。

(なぜ?何故泣いているの)

前回の時はどんなに放っておかれても、冷たい目で見られても泣くことなんかなかった。お父様がキツく叱っても言われて当然。
わたしが出来ていないから、努力が足りないから。
認めてもらえない事を当たり前だと思っていた。


なのに今回は、どんなにお父様に反発しても、嫌な事をいっぱい言ってもお父様は………どうして?

わたしは、理解できないお父様の行動と、理解したくない心の葛藤で頭が変になって、心がぐちゃぐちゃになっていた。

「リゼ、スープを持って来たわ」
ミリアは泣いているわたしの口元に、そっとスプーンを近づけて、「はい、あーんして」と、スープを飲ませてくれた。

「自分で飲めるわ!」
恥ずかしくて、慌ててスプーンを貰おうとしたら、
「駄目よ、こんな弱った妹を今まで放っていたんだから!わたしが飲ませてあげるの!」

ミリアも泣きながら、
「リゼ、わたし達頼りにならないけどそばにいるからね。泣かないで」
と言ってくれた。

「ふふ。ミリアも泣いてるよ」
わたしは照れ隠しにミリアを見てクスクス笑った。
そしてミリアに甘えることにした。



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